進撃! 犬耳機動部隊   作:神谷萌

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Chapter-03

 ── 何だ、何が起きている?

 アメリカ合衆国海軍、TF16(第16任務部隊)、旗艦・航空母艦『エンタープライズ』。

 指揮官のレイモンド・エイムズ・スプルーアンス少将は、軽い困惑状態にあった。彼の幕僚達の数人も同じだった。

 きっかけは、VB-6(エンタープライズ爆撃隊)VS-6(エンタープライズ索敵爆撃隊)の33機に対し、空中指揮官のクラレンス・ウェイド・マクラスキーJr少佐が攻撃開始を下令した時だった。

 ほぼ同時に、MF(中波)からVHF(超短波)までの複数の周波数で、奇っ怪な無線電話の発信があった。その殆どは、言語である事は理解できたが、それがどのような内容かは理解することができなかった。だが、そのうちの一度だけ、彼らが聞き取ることのできる言語のひとつで、

『接近中の航空機へ、そちらの敵対的行為と判断できる段階にある。当方に敵対の意志なければ応答せよ、さもなくば撃墜も辞さない』

 と、呼びかけられた。

 これがおかしい。今は戦争中のはずだ。この内容はまるで、交戦している相手国がいない平時においての緊急事態の呼びかけに思える。

 現在中立の国で、大型の空母を持っている、持つ能力がある国はいないはずだ。イギリス軍、あるいはソ連が極秘裏に空母を建造していた可能性もあるが、いずれにせよ英語による呼びかけができないということはないだろう。

 それに、呼びかけの際の一部のチャンネルや、現在、TF17(第17任務部隊)の上空に出現した索敵機と思しき航空機の交信は、周(F)(M)調を使用していた。FMは技術的な高度さが求められ、彼らの敵 ──── 日本軍はまだ、少なくとも本格的には運用を開始していないはずだ。

空中警戒(CAP)機から連絡、『接近機は機種不詳だが主翼に(ミー)(トボ)(ール)、撃墜する』」

「ま、待て!」

 

 

「!」

 アイリが、先にそれに気がついた。

「後方から機体接近!」

 アイリの言葉に対し、アサギリはフットバーを蹴飛ばすようにしつつ操縦桿も倒し、機体をスライドさせるようにして回避機動をとる。

 ダダダダダダ……

 アサギリ機の想定進路上を、自軍の14mm機銃と同クラスと思しき火線が通過していく。さらに緩降下で加速している相手の戦闘機が通過していくのを、アイリは観察していた。

「爆撃機と同じ、星のマークです!」

「本格的に敵確定ってことか!」

 アイリの言葉に、アサギリは視線をずらすことなくそう言って、増速するためにスロットルレバーを()()()戦闘出力に入れる、ものの ────

「増槽落とさないんですか!?」

「今落とすと、攻撃隊の到着まで保たないよ!」

 驚いた様子で問い質すアイリに、アサギリは荒い声でそう答えた。

 偵察装備のSe9は、主翼下に280l入り増加タンク2つを搭載している。これは、この内部の燃料を使い切るか、戦闘機動に移る際には切り離して落下させる。使い捨てのため、木材で構成され、内部に薄く錫を塗ったものが使われている。

 航続距離を伸ばすのには有用だったが、レシプロ機にとっては重量増と空気抵抗増により、飛行性能を低下させる。その為、本来、戦闘機動に入る際は切り離す。

 だが、アサギリ機は攻撃隊の誘導を行っているため、今増槽を切り離してしまうと、この上空に留まっていられる時間が不足してしまう。

 司令分からは、巡洋艦搭載の水上偵察機を接敵機に出すかと問われたが、アサギリはこれを断った。相手が複数の大型空母を持っている以上、鈍足の水上偵察機では自殺行為だ。

 本来、Se9は主力艦上戦闘機として計画されていたが、XF-199-Seとして初飛行した際の飛行性能は海軍を落胆させるものだった。

 その為、その翌年にXF-201として単座艦上戦闘機の要求が示され、これが後にIe9となるのだが、XF-199-Seは中止せず、夜間戦闘、強行偵察用として開発が続行された。

 ただ、LV12エンジンで計画されていたところが、XF-201、それに陸軍が要求していた重爆撃機XHB-202にLV12が採用される予定だったため、XF-199-SeはS5への変更を要求された。

 その事もあって、制式化されたSe9は、その初期型で水平最高速度は505km/hと当初の要求をさら下回っている。

 その生い立ちは不遇だったが、それでも水偵に、見る限りこちらと同世代の戦闘機の相手をさせるよりは遥かにマシだ。

 アサギリは敵戦闘機の追尾から逃れるため、一度、自機を手近な白い雲に飛び込ませた。

 

 

『フジタ、聞こえてるか?』

 攻撃隊の先頭に立つかたちのフジタに対し、無線で呼びかけがあった。

「感度良好、どうしました? ルーピェン少佐」

 トヨカムネア飛行隊長で、CB2(トヨカムネア降爆隊)の長を兼任する、ハンセリア・ルーデリア・ルーピェン少佐に対し、フジタは問い返す。

 飛行隊内での交信に使う空中通信用の無線電話機は、FMが使われており、明瞭な通話が可能になっていた。

『済まないが、ここからは全体の指揮を頼んでもいいか?』

 ハンセリアの言葉を聞いて、フジタは苦笑する。

「御自身は急降下爆撃に専念したいってことですね」

『そう言うことだ』

「了解です」

『各隊各機、聞いていたな? 攻撃隊の総指揮はフジタ大尉に委任する。それと、帰投までは母艦に黙っているよーに』

「これ自体、聞かれてると思うけどなぁ」

 フジタは、無線のPTTスイッチは押さず、面白そうに苦笑しながら呟いた。

 ハンセリアは急降下爆撃の名手だが、それにのめり込むあまり、上位の指揮官になることを回避しがちと、その事実は海軍航空隊内では広く知られていた。

 あまりに成績が良すぎて、少佐という階級にまで昇進してしまったが、それは本人には疎ましいようで、空中指揮官に選出された場合は、出撃してから他の隊長格の人間に委任という(てい)で押し付けることが多かった。

 上層部としても問題視はしているのだが、かと言ってその技量が卓越していて、周囲に神聖視している者も多いので、軽々に処分もできない、とジレンマを抱えていた。もっとも、本人は、

「尉官に戻してくれんかなー」

 が、口癖になっていたりするが。

 

 

「下! います!」

「敵!?」

「── かどうかは解りませんがぶつかります!!」

 アサギリが、下の艦隊を一度視認しようとして、雲の中から出た時、その後下方に、別の航空機がいた。

 アサギリは咄嗟に機体を横転降下させ、ギリギリのところでその機体との衝突を交わした。

「あっぶなぁ……」

 アサギリは、胸を撫で下ろすかのように、息を吐き出しながら言った。

「あ、あれ?」

 アイリが、どこか間の抜けた声を出してしまう。

「味方機です、(こう)(ぎん)星章(せいしょう)です!」

 アイリは、離れていく水上機の翼と胴体に、主星の一方であるアマテを示す紅い円が描かれているのを見て、そう声を上げた。

「でも、あんな機種見たことないよ」

 アサギリは、一瞬だけその水偵を振り返って、声を上げた。

 チハーキュ海軍の運用している水上偵察機はほとんどが、胴体下に主フロート、主翼下に補助フロートを持つ単フロート型だ。

 艦隊の巡洋艦に搭載されているセレスSe6水上偵察機もこの形態だったはずだ。しかも、Se6は複葉機だ。

 しかし、アサギリ達の視界に入ってきたその単発水上機は、双フロートの単葉機だった。

 チハーキュにも単葉の双フロート水上機はあるにはあるが、制式化されてまとまった数で運用している双フロートの水上機は、いずれも双発以上だった。

 だが、その疑問を口にする間もなく、アサギリは機体をスライドさせるように機動させ、その水上機の後ろ側に滑り込ませた。

「この!」

 すでに開かれた銃座風防から突き出した、連装の8mm旋回機銃が、アイリの操作で、接近してくる2機の戦闘機に撃ちかける。

「紅銀星章じゃない!」

「え!?」

 自身の目前に捉えた水上機を見て、アサギリが声を上げた。

 紅銀星章であれば、アマテを示す紅い円の向かって右下に、ラスを示す、抽象化された白い百合が添えられる。だが、目の前の水上機のそれは、紅い円だけしか描かれていない。

「でも()()()()が撃ってきたってことは!」

「解ってる! 増槽落とすよ! ずっと留まっていられるか解らないって司令部に伝えて!」

「りょ、了解!」

 アサギリの言葉に、アイリは、アサギリが急機動を取らせる中で、Gがかかる中で無線のマイクを手に取る。

 2つの落下増槽を投棄したSe9は、アサギリ機の妨害とアイリの射撃で一度離脱した戦闘機の1機の後ろに回り込ませる。

 光像照準器のリングの中で、戦闘機をその両翼がはみ出すほどに捉え、操縦桿の発射ボタンを一瞬だけ押し込む。

 Se9の両翼に装備されている、20mm、14mm各2丁の機銃からの火線が、その戦闘機に吸い込まれ、戦闘機は一瞬遅れて金属片を撒き散らしながら黒い煙を吐き、高度を一気に落としていく ──── その時は既に、アサギリ機は、もう1機の攻撃を回避するために急機動をかけている。

「この! この! どっかいけ!!」

 報告を終えたアイリが、迫ってくる戦闘機に対して8mm連装機銃で撃ちかける。

「!」

 アサギリがその戦闘機に対処しようとした瞬間、他にも同型に見える戦闘機がこちらへ向かってきている事に気がつく。

「ちょっと無茶するよ!」

「慣れてます!!」

 水上機に向かおうとしている戦闘機の射線を妨害する位置に、機体を滑り込ませる。

 アイリが、覚悟を決めた険しい顔で、舌なめずりしつつ、自機に向かってくる戦闘機を狙いすまそうとして ────

「!」

 アイリの視界内にいた2機の戦闘機が、2機とも金属片と煙を撒き散らしながら狂ったような機動を描きつつ、高度を落としていく。

『ホワイトアロー戦闘隊、只今参上!』

 無線のレシーバーに、男性かと思わせるような気障な言葉が届いてきた。

 2機の戦闘機が、アサギリ機の上を追い抜いていく。

 エルード航空機技術製造、艦上戦闘機 El11『ケツァルコトル』。XF-201-Ar、つまり後のIe9が有望視される一方で、その野心的な設計から問題の発生から生産隘路などを危惧した海軍が、チハーキュの航空機メーカーとして老舗にあたるエルードに、空冷エンジンとし、より堅実的な設計の戦闘機を発注したものである。 ────…………あるはずなのだが、エルードのカイ・ケリー・ハミルトン技師の頭の中では「XF-201-Ar()()()()()()()()()()()()()()」と理解されてしまい、ずんぐりむっくりの胴体内にS5をブチ込んでしまった。機首付近は液冷機のように冷却風取入口がある尖った形状をしている。胴体内のプロペラシャフトには当然強制通風ファンが取り付けられており、また胴体内風道には油圧モーター駆動の吸気ファンが取り付けられている。

 結果的に武装もIe9と同じとなり、どちらも軸内20mm機銃1丁と、機首搭載の同調装置付14mm機銃2丁になっている。

 こう書くとSe9より武装が弱いように感じられるが、主翼は航空機自身の重量もかかっているため軸が安定せず、機首搭載の方が射撃精度が高いという利点がある。

 Se9も最初は、8mmもしくは14mm2丁は機首に搭載する予定だったのだが、エンジンが液冷のLV2から、投影面積の大きい空冷星型のS5に変更されたため、主翼に移したという経緯があった。 ────閑話休題。

 トヨカムネアのIe9 Mk.III 16機と、ホワイトアローのEl11 Mk.II(2) 8機が、敵戦闘機に襲いかかる。

 当初、戦闘機は寡数になると懸念されていたが、実際に攻撃隊が戦闘空域に侵入した時点で、その数は大差がないように見えた。

 

 

『こっ、こいつら! サッチウィーブを使()()()()()()()!!』

 謎の攻撃隊を迎撃するために発艦した、戦闘機隊から、悲鳴のような声が発される。

 謎……──── そう、謎だった。

 日本軍の空母搭載機は、零式艦上戦(Zero)闘機、九七式艦上(Kate)攻撃機、九九式艦上(Val)爆撃機、全て空冷の単発機のはずだ。

 だが、この攻撃隊は、()()()をつけてはいるが、それらとはその特徴すら明らかに違う。

 ──── 「サッチウィーブ」は、この海戦にも参加しているジョン・スミス・サッチ少佐が考案した戦闘機の相互支援戦術だ。その基本的な動きが、機織り(ウィーブ)に似ている事から、発案者の名前とあわせてこう呼ばれている。

 今は、自軍の戦闘機が、敵の戦闘機にその機動で弄ばれていた。敵の機体は高速での旋回能力も高く、グラマンF4F『ワイルドキャット』が描くウィーブを、さらに小さなウィーブで追い込んでいく。一度サッチウィーブ同士の戦いに入ると、速度と旋回性能に有利な敵戦闘機のウィーブによって2機とも撃墜されたりもしていた。

『畜生! 速い! 追ってくる!!』

 ウィーブの織り合いに負け、敵の追尾から逃れるために急降下した機体を、敵がパワーダイブで追いすがる。降下中に敵の射撃を浴びたそのF4Fは、引き起こす事もできずに海面に叩きつけられた。

 戦闘機隊が沈黙させられつつある中、敵の攻撃隊が、空母『ホーネット』へと向かいつつあった。

 

 

 艦上爆撃機 セレスSe12『ホーネット』。

 急降下爆撃で艦船を精密攻撃する機種だが、急降下爆撃は爆弾を投下した後、その爆弾の方が降下速度が速くなってしまい、単発機で胴体下に搭載した爆弾を投下しようとすると、プロペラにぶつかってしまう。

 初期の急降下爆撃は、複葉の戦闘機に60~250kgの爆弾を左右の主翼下に搭載して行われた。だが、軍艦の装甲が分厚くなってくると、より大型の爆弾を搭載する必要があり、胴体下に搭載する必要がある、と考えられた。

 そこで、どうにかしてプロペラを爆弾が避ける必要があったが、チハーキュでは、

「…………プロペラを機首から退()かせばよくね?」

 という結論になった。

 その手法としては、プロペラを機尾側に向ける推進(プッシャー)配置も考えられたが、艦上機にこれは非現実的だった。

 結局、オーソドックスにエンジンを2基にして双発にすることで、胴体下をプロペラ旋回半径の外に置くことになった。

 Se9はそれに基づいて開発された最新の艦上爆撃機だ……──── が、全金属単葉の機体に1,000hp超級エンジンを搭載し、胴体下搭載重量最大1tを実現できたのはいいものの、爆弾架の強度確保の関係で、急降下爆撃時は500kgまでの爆弾を2発以上というかたちで搭載しなければならない、という、()()()()()()()()()になった。

 しかしながら、その飛行性能は高く、特に速度にあっては急降下速度を制御するダイブブレーキを主翼下面に設けた(くぼ)みに引き込むかたちにした効果もあって、エンジンがLV2のMk.(1)で560km/h、エンジンの供給隘路防止のために準備されたS5搭載(ただし、生産を完全に空冷に限るわけではない)のMk.IAで515km/hと、戦闘機並みの高速を実現した。爆弾を搭載していない状態では、双発機としては小柄で軽快であり、戦闘機の真似事もできた。地上掃射用も兼ねて、機首には20mm機銃1丁と、8mm機銃3丁が搭載されている。他に、複座の後部席に後方防御用として、連装8mm旋回機銃を搭載している。

『攻撃目標、ちょうど正面の航空母艦』

 雷撃隊のフジタが無線で告げたのを聞いてから、ハンセリアは、部下の降爆隊に指示を出す。

「聞いたとおりだ。2小隊、正面の巡洋艦が雷撃隊の邪魔だな。退かしてやれ。後は私についてこいッ!!」

 ハンセリアの指示を受けて、直率の第1小隊4機と、梯形のエシュロン隊形をとっていた左側の第2小隊の4機が、増速しながら、空母の盾になるかのように進路上に割り込んできた巡洋艦に向かって増速する。

 

 

 彼らは、迫りつつある急降下爆撃機のペットネームが、それに襲われようとしている自軍の空母と同じだとは、当然知る由もない。

 ただ、本来であれば空母や戦艦に対し対空砲による防御を提供するはずの、軽巡洋艦『アトランタ』に、命知らずにも双発の小型爆撃機が突出してくるのは見えた。

「敵、アトランタ直上、急降下ァ!!!!」

 悲鳴のような声の直後、撃墜したかと勘違いしそうなほどの鋭い急降下から投下された爆弾が、アトランタに叩きつけられる。

 攻撃したのは4機だったはずだが、大爆発は5回発生した。アトランタを包んだ爆煙が晴れてきた時、その艦上構造物は無惨なスクラップと化し、繰り返される誘爆は彼女の命すらも奪おうとしていた。速度を落とし、回避運動をとるホーネットはそれを追い越し、そこへ複葉の雷撃機が迫りつつあった。

 

 





「空冷でP-39レイアウトとかどういうネタだよ!」と思われるかもしれませんが、実は元ネタがあったりします。イタリアで試作されていたピアッジオP.119です。しかも18気筒エンジンで……
射撃時の異常振動に悩まされたとありますが、エンジンの過熱に関しては言及はあるんだけど、それ以上の問題ではなかった模様。開発中止は断念ではなく、休戦協定に伴うものでした。

具体的な感想をいただけると、続きを描くことが捗ります。

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