進撃! 犬耳機動部隊   作:神谷萌

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Chapter-34

 チハーキュ帝国海軍第72任務部隊。

 旗艦 空母『レムリアス』、戦闘艦橋。

「マニング海峡でRe4が単発戦闘機に襲撃され、不時着……」

 報告を受けて、アリーネはエミリアや自分の参謀達とともに、海図を覗き込む。

「これは……空母がいるのは間違いないけど……」

 サンタイザベル島とチョイスル島、それに周辺の島々にも連合軍の航空基地はない。B-17のような大型機ではないのだとしたら、空母搭載機であることは間違いない。

 だが、そこでアリーネは眉間にシワをよせた。

「これは……」

 いいかけて、はっと我に返る。

「南東方面、ソロモン諸島への索敵線の準備はできてる?」

「はい!」

「じゃあ、今すぐ飛ばして!」

「了解しました」

 航空参謀の言葉に、アリーネが指示をすると、それに作戦参謀か(こた)え、艦のクルーの方へと小走りに向かっていく。

「これは、目標はガダルカナルじゃないわね」

 アリーネがそう言ったときには、S5エンジンの爆音とともに、セレスSe9複座艦上戦闘機を装備した偵察戦闘隊が、レムリアスのカタパルトから射出され、発進していった。

「私もそう思います」

 日本海軍の参謀長的立場の司令官補として、エミリアが同意の声を出した。

 その上で、ソロモン諸島付近で空母搭載機が発見された。攻撃を受けたRe4の搭乗員の報告だと、戦闘機は北へ逃れて行ったと言う。ということは、ソロモン諸島の北側に母艦があるということになる。

 だが、中部太平洋の島嶼は日本軍が進出しているため、オーストラリアへ向かう連合軍の艦艇や船舶は南太平洋東部を大きく迂回しているはずだ。

 と、なると ────

「ラバウル攻撃……」

 アリーネが呟き、それから表情を更に、しかしわざとらしく苦いものにした。

「逃げられたかな」

 ラバウル~ガダルカナル間航路は、ガダルカナル島の枢軸軍への物資輸送のため、日(チハーキュ)の哨戒機がウロウロしているし、輸送隊には空母『ホワイトアロー』がくっついている。

 ソロモン諸島の北側に米海軍の空母部隊が存在するとなると、それは、哨戒網が綿密な南側の航路を避けて西進している、という可能性が高い、というより、それしか考えられなかった。

 だが、アリーネが「逃げられたか?」と呟いたのは、Re4を迎撃したことでその意図がこちらの知るところとなって、その為に一度退避してしまったのではないか、と、考えたのである。

「どうしますか?」

 エミリアが、アリーネに指示を促す。

「警戒は続行。作戦通り戦闘哨戒を続ける。ただし、接敵は早まると思って。今日中もありうる」

「了解です。戦闘哨戒続行、警戒を強めます」

「うん」

 アリーネが険しい表情で指示を出すと、エミリアはまずは指示の内容を復唱し、アリーネの返事を待ってから、

「第五航空戦隊にも伝えますか?」

 と、問いかけた。

「あー……」

 問われた方のアリーネは、ニターッと底意地の悪そうな笑顔になる。

「うちの通信員は同乗させてあるのよね?」

「はい。それに、日本軍の乗員にもカムイガルド語とユーエンビー古代語の翻訳辞典も一応は渡してあります」

「じゃあ、例の方法で」

「了解しました」

 アリーネが言うと、エミリアも意地悪そうな表情になって返した。

 

 

 大日本帝国海軍第五航空戦隊。

 旗艦 空母『翔鶴』。戦闘艦橋。

「チハーキュ第72任務部隊より入電です」

「うむ」

 指揮官の角田(かくた)覚治(かくじ)中将の下に、2人の通信士が現れ、電文を角田に渡す。

 1人は日本海軍ではなく、いや、そもそも日本人ではなく、チハーキュ海軍の海軍制服を着たヴォルクスの()()だった。

 角田は、渡された電文に目を通す。

『予定が早まる見込み。私達は蜂の巣を見つけて蹴飛ばす。蜂の巣の処理をお願いする』

「了承したと伝えてくれ」

「ハッ!」

 電文を読んだ角田がそう告げると、日千それぞれの通信士は持ち場に小走りに向かっていく。

 

 ──────── 日米開戦の少し前、第五航空戦隊が編成されて以来、指揮官は(はら)忠一(ちゅういち)中将だったが、ミッドウェイ沖海戦後、原が

「空母戦隊の指揮官は、自分には荷が重い」

 と、言い出し、要望してその職から一度地上に移った。

 そのきっかけは、ミッドウェイ沖海戦から日本海軍聯合艦隊の主力が引き上げてきた後、日本の横須賀鎮守府で行われた合同の作戦講評会の時の事だった。

「今回の作戦では、日本海軍は攻略部隊として戦艦のほとんどを動かしたと聞いています。ですが、そうだとすると納得ができないことがあります」

 ()()()()・グレイス・ローレンス少将は、忌憚なくその意見を、兵棋盤を使って表した。

 それは、戦艦『大和』『長門』『陸奥』を主体とする第一艦隊を空母部隊の前方に配置する編成だった。

 ただ、この配置にはチハーキュ帝国海軍と大日本帝国海軍の性格の差もある。

 大日本帝国海軍は、基本的に近海防衛艦隊だ。日本海とそれに接続する海域が時化やすいという自然環境の為、高い凌波性を確保しなければならない余録で、航行時の安定から航続距離は長い傾向にあるが、原則として日本本土に向かってくる敵艦隊を撃破するというのが、昭和16年12月7日以前の日本海軍の基本ドクトリンだった。

 これに対し、チハーキュ帝国海軍は外征軍の性格が、少なくとも日本海軍に比べると強い。科学同盟国の安全保障のため、積極的に敵艦隊に突進し、これを撃破、可能であれば再起できないように撃滅する必要がある。

 この為、どちらにとっても空母戦は艦隊決戦の前哨戦であることに違いはないのだが、その次のフェイズが異なる。日本にとっての戦艦部隊は敵艦隊に最後に立ちはだかる盾であり、チハーキュにとっての戦艦は敵艦隊を確実に撃滅するための矛、というわけである。

 この為 ────

「し、しかしこれでは、戦艦部隊が敵の航空攻撃に晒されることに……」

 と、日本海軍の思考では、「最後の盾」である戦艦を庇おうとしてしまうのだが、

「はい。確かに戦艦は航空機で沈められます。でも、困難です。状況の変化には空母の方が柔軟に対処できますし、戦艦は空母を活かす為に配置し、追撃戦に移行する際には尖兵とします」

 と、チハーキュ海軍の思考だとこうなる。

「それに」

 続けざまに、マデリンはにやりと笑って付け加える。

「我が国も、航空攻撃()()()では、そうそう沈まない戦艦を建造していますので」

 その後、『ユリン』とレムリアス級が到着したことで、マデリンの言い方が大言壮語ではないことを思い知った事で、日本海軍の指揮官に少なからずショックを与えてしまった。

 その点、第一航空艦隊に任せきりで、自ら動こうとしない第一艦隊のことを “(はしら)(じま)艦隊” などと陰口を叩いていた、南雲(なぐも)忠一(ちゅういち)中将ら第一航空艦隊司令部の面々などは、「自分達が言いたいことを言ってくれた」と留飲を下げた。だが、原は逆に、マデリンが、日本海軍の「見敵必戦」を体現したような大胆な空母の動かし方をし、実際ミッドウェイでは ──── 皇太女ヒカルの激昂があったとは言え ──── 即座に反撃して『ホーネット』を仕留めている。という事実を踏まえて、自身の珊瑚海海戦での自身の采配の消極さとの対比してしまい、自身の解任を求めたわけである。

 原が異動した後、公認として、こちらも再編成のために一度解隊となった旧第四航空戦隊の指揮官だった、角田が第五航空戦隊の指揮官に据えられた。

 

 正直な話をしてしまうと、地球では男性社会が当たり前の、それも20世紀前半の軍隊である日本海軍の軍人に、女性主体のチハーキュ海軍に対して戸惑いがあったのは事実だし、平均年齢が日本海軍より若いこともあって「女ごときが」という思いが少なからずあった。

 実を言うと、角田もその1人だった。今も完全に払拭できているとは、自身でも思っていない。

 ただ、ラバウルの司令部を訪れた時、士官食堂でお互い酒を入れながらゲラゲラ話している夜戦キ◯ガイ ()()()()・グレイス・ローレンス少将と早川幹夫大佐・『鳥海』艦長の姿を見て、割とどうでも良くなった

 ちなみに、ミドルネームと姓が同じであることで解る通り、アリシアとマデリンは双子の姉妹である。 ──── あるのだが、二卵性で特に体格に違いがある。妹のマデリンは身長170cm超えの豊満美女で、姉のアリシアはヴォルクス女性としてはちんちくりんの部類だったりする(と言っても身長160cmは超えているのだが)。

「しかし……」

 角田は、艦橋の外を見る。

 赤道近い場所だが、明らかに()は傾いていた。

「お互い、最初の索敵線に引っかからなければ、勝負は明日以降になるだろうな」

 果たして、角田の言う通り、チハーキュとアメリカ、双方の索敵線は相手艦隊を発見する事ができず、日没を迎えようとしていた。この当時、空母搭載機のレーダーは搭載され始めたばかりで、能力も限定されていたため、夜間、洋上の艦隊を発見し攻擊することは困難だった。

 だが ────

 

 

「!」

 ディスプレイを覗き込んでいたオペレーターが、それを凝視する。

 ラバウル基地、Re4の運用のためにチハーキュ帝国陸軍が建設した第5飛行場に、DKR-205移動式電波警戒器が据え付けられていた。艦載用のDKR-203と同じ35cm波(860~890Mc/s)使用で、電源付牽引車、アンテナトレーラー、小型バス改造の送受波・管制車で構成され、事のついでに送受波・管制車がトレーラー燃料車を牽いている事が多い。

 DKR-203に対して、可能な範囲で小型化するための試みとして、受波アンテナはパラボラ、送波アンテナにホーンアンテナが使われている。こりは必ずしも最適の組み合わせではなかったが、改設計を待たずに制式化されていた。

 また、牽引車は225psの72°水平対向5気筒ユニフロー2ストロークディーゼルエンジンを搭載し、走行用と72.5kVA・30c/s発電機の駆動とを兼ねる。ただし、農作業用トラクターや後年の油圧式PTOのように、走行中に発電機を駆動することは出来ない。走り装置は、ここにきているものは転輪4つのハーフトラック(半装軌式)だが、タイヤ式のT(Tous)R(Roues)D(Drive)(総輪駆動車)も存在する。

 送受波・管制車は同じく、降雪のあるチハーキュ帝都・レングードで通年使用できる送迎車として開発された、4RD小型バスをベースにしている。

 枢軸側の感覚では日付が変わるまで4時間もないという頃、旋回するアンテナから発され、反射されてきた電波を捉えた事を示す輝点が、SDD-202旋回捜査式表示器に映し出される。

「班長、磁気方位90°の方位から複数の編隊が接近しています」

「何!」

 オペレーターがそう告げると、背後で何処かぼんやりとしていた、中尉の階級章をつけた班長が、一気にバチッと覚醒したようになり、オペレーターの肩越しに表示器を覗き込んだ。

 日本のそれよりかは「だいぶ」が5個くらいつくように運用が簡素化されているDKR-205だが、まだまだ電波警戒器オペレーターは専門職だ。その為、一般兵科のそれと異なり、電波警戒班の「班」は小隊と中隊の中間的な位置に据えられていて、長は中尉以上となっている。

「警報を出して! 念の為に日本軍に確認! でも多分間違いなく敵よ!」

 班長は即座に判断し、そう指示を出した。

 ラバウル基地のチハーキュ陸軍第902航空団の、爆撃機隊、攻撃機隊の出撃予定はない。念の為で日本海軍の航空隊である可能性を完全には排除しなかったが、今、表示器の輝点の数から想定できるほどのまとまった数は飛ばしていないはずだった。第72任務部隊、第五航空戦隊の存在予定位置からだとしても進入方向が不自然だった。

 ウゥウウゥゥゥゥゥ~

 警報が発され、サイレンが鳴り響き、飛行場がにわかに慌ただしくなる。

「始動!」

 戦闘飛行隊のエルードEl11『ケツァルコトル』、哨戒戦闘飛行隊の同じくEl9のエンジンが始動され、爆音が響き始める。

 エルードEl9は以前も少しだけ触れたが、地球であったのと同様の、多発多座多用途戦闘機構想に沿って開発された、双発3座戦闘機だ。

 ご丁寧に機首は前方警戒手が乗るためのガラス張り銃座で、その頭上に固定機銃が装備されるにも関わらず、旋回銃まで付いているという……正気に戻った時に「なんだコレ?」となったシロモノだった。

 結局、制式化はされたものの、開発中の単発単座戦闘機、XF-201-Ar(→Ie9)、XF-201-El(→El11)はもちろん、XF-201が開発されるきっかけになった単発複座のSe9にもまったく勝てない事がわかり、一時期は失敗作のお決まり、対地攻撃機として最低限の数を生産することになった。

 だが、XHB-202────Re4の制式化が決まると、敵対国がこのクラスの爆撃機を作った想定 ──── 要はアメリカがボーイングB-17を開発した際に抱いた懸念をチハーキュも抱いた。

 幸い、Ie9、El11はターボチャージャーを採用した恩恵で高々度性能が高かったが、「これはまずい」となったのが夜間強襲をかけられた想定、だった。

 そこで対空用小型電波警戒器を搭載した要撃機が計画された。この時点では単発機が抱えて行ける大きさと重量ではなかったため、双発高速の重戦闘機とし、XF-203として各社に提示された。だが、これはまだそのものが試験中の2,000hp級エンジン、レイアナーLV13を前提としていて、制式化まではもう暫く掛かる。そこで、それまでのつなぎとして、El9の夜間戦闘機仕様が計画・実行された。

 El9 Mk.IV(4)Nは、見た目には、機首銃座の顎の部分から、Y字型のブームが伸びて、八木アンテナが取付けられているところと、さらに前方警戒手の尻の下より少し後ろに送波用ループアンテナが取付けられていることが、見分けやすい特徴となっている。

「よいしょっと……」

「すぐに出すわよ!」

 El9の前方警戒手のアメリア・ロイネ・クラウフェルト飛行二等曹長が座席に収まると、続いて操縦手兼機長のアーデルハイト・クラリッサ・ライヒェルト中尉が乗り込む。後部銃手兼電波警戒器オペレーターのヴィーラ・ロザリア・ヘルストラム飛行一等曹長もすでに乗り込んでいた。

 チョーク(車止め)が払われる。アーデルハイト機は最初に、第5飛行場の滑走路から飛び上がる。同時に、日本軍の第4飛行場を間借りしているEl11の戦闘飛行隊も離陸を始めていた。

『敵の推定高度4,000、距離、1kmを切っている。方位そのまま』

「了解」

 地上のレーダーオペレーターから、相対位置が知らされてくる。

「本機から11時方向、反応が接近してきます!」

 DKH-204空対空電波警戒器の表示器を覗き込みながら、ヴィーラが言う。

 暗視能力の高さではフィリシスが優位ではあるものの、ヴォルクスも人間族に比べると概ね高い傾向にある。

 アメリアがそちらの方に視線を向けて目を凝らすと、ぼうっと浮かび上がる光が見えた。

「いる! 排気炎確認!」

 自身に与えられた8mm旋回機銃を握りながら、アメリアが声を上げた。

「反航で一撃いれる!」

 アーデルハイトが、無線のマイクにそう告げる。その間も、アメリアはその光を視線で追いかけていた。

「単発機! 単発の小型機です!」

 アーデルハイトがそう声を上げた時は、排気炎だけではなく、機体のシルエット全体が視認できた。

 ドガガガガガ……

「ッ!!」

 アメリアの頭上にある、20mm機銃1門、14mm機銃1丁、8mm機銃2丁が、アメリアの聴覚を揺さぶりながら発射される。

 バッバッ

 何発かの火花が飛び散り、単発機としては異例の重量級の機体 ──── グラマンTBF『アヴェンジャー』が分解しながら、海上に墜ちて行った。

 

 





ユリン級戦艦 主要要目
基準排水量59,400トン
主砲:43.5口径46cm砲 3連装×2(前部) 連装×1(後部)
副砲:44口径16cm砲 連装 前部右寄り・後部左寄り各1基
 45口径12.5cm両用砲 連装×12
 52.5口径45mm前装式ケースレス・リボルバーカノン
  連装銃塔 ×8
 20mm機銃 4連装×10 連装×6
 8mm機銃24丁
 水上機3機 カタパルト2基
機関型式 蒸気レシプロエレクトリック・蒸気タービン併用
ボイラー 海軍省185年式水管式トラップ炎路型
 重油専燃×8 重油・石炭混焼×4
蒸気レシプロユニット レイアナー重工業製複式ユニフロー
 高圧4気筒・低圧2気筒×4
蒸気タービン レイアナー重工業製衝動式タービン
最大軸出力 159,000hp
軸数 4
公称最大速力 27ノット
電気系統 交流30c/s 375V


具体的な感想をいただけると、続きを描くことが捗ります。
Twitter https://twitter.com/kaonohito2
Discord https://discord.gg/WN23qmRnkQ
Discordは「一時メンバー」となりますので、私のオフライン時に来られた方は、「エントランス」及び「⁠一時メンバーの連絡用チャンネル」のアナウンスに従って必要事項を書き残してください。

チハーキュ帝国海軍軍装、どちらがいい?(絵のリンクは Chapter-12 あとがき)

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