進撃! 犬耳機動部隊   作:神谷萌

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Chapter-04

 ── 何だ、何が起きている?

 愛知D3A 九九式艦上爆撃機に乗り、攻撃隊を率いて米艦隊に向かっていた小林道雄大尉は、目の前で起きている事に困惑していた。

 朝、現地時間7時 (日本時間翌日4時) 頃から、ミッドウェイ島から発進した米軍の攻撃機が、日本機動部隊の上空に表れ始めた。

 当初、表れた攻撃隊が陸上機ばかりだった事、索敵線に敵艦隊が発見されなかった事から、南雲忠一中将指揮下の機動部隊司令部は、ミッドウェイ島の飛行場を完全に無力化するため、待機中の攻撃機に対地用の爆装をするよう下令した。

 しかし、それから30分も経たずに、索敵に出ていた水偵から敵艦隊発見の報が入った。南雲司令部麾下の第二航空戦隊指揮官・山口多聞少将は「敵機動部隊出現の算あり」と意見具申したものの、南雲司令部は水偵に対して艦種確認の指示を出した。

 その間も、陸上機の攻撃は五月雨式に続き、それに対応するため、搭載されている零式艦上戦闘機は発艦と着艦を繰り返し、徐々に混乱が発生し始めていた。

 8時30分頃、空母らしきものを伴う10隻程度の艦隊、と水偵から続報が入り、一気に司令部の緊張が高まった。ここでも山口は陸用爆弾のまま敵艦隊に向けて攻撃隊を発進させるべきと意見具申したが、南雲らは、急降下爆撃機はともかく、雷撃機による陸用爆弾での水平爆撃は命中が期待できないこと、戦闘機の多くが防空出撃により、現状では空母を含む艦隊に対して充分な護衛機を着けられないこと、それに、水偵の誤報告により実際より距離が離れていると認識していたことから、再度対艦攻撃への換装が命じられた。

 さらに、ミッドウェイ島攻撃に向かった攻撃隊が帰投し始め、対空戦闘が一段落した隙を縫って、この攻撃隊の収容が始まった。

 その収容が終わろうとしていた9時30分頃から、敵空母部隊からと思しき雷撃隊が飛来するようになった。この雷撃に対しては零戦が優勢だったこともあり、護衛の戦闘機を排除して、そのほとんどを撃墜した。

 しかし、この雷撃隊も10~20分程度ずつ間をおいて五月雨式にやってきたことから、邀撃にあたった零戦、それに対空兵装も、低高度からの侵入機に対して集中してしまっていて、見張りの注意すら低空に向かってしまっていた。

 10時25分、奇襲になるかたちで、航空母艦『蒼龍』に対し、13~14機 (実際には17機) の敵艦爆機が急降下爆撃を行った。蒼龍は3発の命中弾を受けた。この時、邀撃機の発艦・着艦の繰り返しと、兵装転換によって、蒼龍に限らず、飛行甲板、格納甲板に弾薬類が雑然と放置されていた。この弾薬類により誘爆を繰り返し、蒼龍は小規模な爆発を繰り返しながら、手のつけられないほどの大火災に包まれた。

 だが、そこまでだった。それ以降は、米軍の攻撃機は途絶えた。

 そして、そこから更に、日本機動部隊司令部を混乱させる事態が発生した。

『機種不詳ノ単発機ト敵戦闘機ガ交戦中。日ノ丸ラシキ表記アルモ該当機種確認デキズ。我ト交戦ノ意図見セズ。我ヲ庇ウ様子アリ』

 最初に米空母部隊を発見した水偵と交代した、重巡洋艦『筑摩』搭載の水上偵察機から、その内容の報せが飛び込んできた。

「これは……どういうことだ?」

 南雲司令以下、全員がこの不可解な状況に、微妙な憔悴に包まれた。

 自分達以外、日本の空母は存在していないはずだ。その場所に自分達の把握していない日本の航空機が飛んでいるはずがない。

 機種不詳というのも奇妙だ。友軍機なら見間違えないだろう。海軍の機体は忘れようとしても忘れられない程に頭にこびりついているだろう。

 陸軍の試作機の可能性を考えたが、単発機だとすると航続距離からして艦載機以外考えられない場所だ。

 それとも、このひと月ほど前に発生した珊瑚海海戦から帰投した後、損傷修理の必要な空母『翔鶴』とともに、表向き作戦不参加となっていた『瑞鶴』が、遊撃部隊として別行動をとっているのか? だが、それでもこの事態になったところで、自分達にそれを隠しておく理由が解らない。

 最終的に、接触機として向かわせた、空技廠 二式艦上偵察機が誤認された可能性があると結論付けられた。この機体は試作中の十三試艦上爆撃機を偵察機として選考採用したものだ。当然、極少数しか製造されていない。その為、水偵の乗員の記憶から抜け落ちていた、というのが、もっとも合理的、現実的に、説明できる想定だった。

 11時10分過ぎ、小林大尉に率いられて、空母『赤城』、『加賀』、『飛龍』から、零戦12機、艦攻18機、艦爆36機の攻撃隊が発進した。

 ──── そして、今。

 日本の攻撃隊がTF17(第17任務部隊)上空に差し掛かった頃、既に米艦隊は激しく対空砲火を上げており、その黒い爆煙が上空にいくつも出現していた。

「我々より先に、米艦隊が攻撃を受けている……のか?」

 小林が、その疑問を言葉にして発した時、それへの返答であるかのように、自分達から見てやや先の方にある空母 ──── の、すぐ隣を航走していた巡洋艦に向かって、まだ豆粒程度にしか見えない航空機らしきものが急降下をかけたかと思うと、爆発だろう閃光が巡洋艦の艦上で瞬いた。

 

「いい位置だ」

 ハンセリアの視界内で、彼女にとっては外しようがない位置に()空母が捉えられていた。

 声に出して言った後、ハンセリア機が、まるで空母に体当たりを企図しているかのような、急角度の急降下に入る。

 巡洋艦排除の為に先行した1個小隊以外の、11機のSe12が、それに続く。

 Se12の主翼下面からスノコ型のダイブブレーキが展開され、急降下速度を制御しながら、空母へと急速に接近する。

「これはジノプスの無念の分だ、受け取るがいい!」

 ハンセリアがそう声に出すとともに、ハンセリア機の爆弾架から2発の500kg徹甲榴弾が切り離される。

 爆弾は、ダイブブレーキで降下速度を制御している機体を追い抜いて落下する。ハンセリア機が引き起こしをかけて爆弾の軌道から離れていく。

「これは当たった!」

 ハンセリアが思わず口にしながら、海面近くまで降りた段階から、高度を回復するために上昇をかける。

 ハンセリアの放った500kg爆弾2発は、狙い過たず、空母の飛行甲板に突き刺さり、そこで炸裂した。

「前部エレベーター付近と思われる場所に着弾、2発とも命中です!」

 ハンセリア機の偵察・後部機銃手が、興奮したような声を上げる。

 続く機体からも爆弾が投下され、立て続けに空母に命中弾が出る。ハンセリアを含め、12機のSe12から投下された24発の爆弾は、最終的に16発が命中していた。

 飛行甲板は半ば千切れて吹き飛ばされ、空母の上部構造物は火炎に包まれている。パッと見は既に断末魔の状況にも見える。

 それでも、この空母 ──── ホーネットは、まだほとんど速度を落とすこともなく、回避運動を続けていた。

 だが、そのホーネットに致命打を与えるべく、雷装のIe7攻撃機16機が、低空から迫り寄っていた。

「悪いが、夜這いをかけて逃げ出した不届き者を、ハイそうですかと逃がすわけにはいかないようでね……」

 フジタは、いい加減そうな笑顔で、目の前に迫りつつある空母に向かってそう言うと、その直後、表情が一気に引き締まったものに変わる。

 4機ずつ、4重の扇状の線を描くように展開しながら、Ie7の編隊がホーネットへ肉薄する。

「俺の乗艦に攻撃をかけたのが運の尽きだ、観念して往生しろや!!」

 フジタは、その叫ぶような声とともに、150mもない目前にまで迫ったホーネットに向けて、魚雷を投射する。

 荷重が減って浮き上がろうとする機体を抑え、燃え盛るホーネットの艦上を横切る。

「行ったか!?」

 フジタは、戦果確認のために旋回しながら緩上昇しつつ、怒鳴るような声を張り上げて偵察・後部機銃手に問いかける ────

 

「我々は一体、何と戦っているんだ!!」

 ホーネットの艦橋で、艦長マーク・アンドリュー・ミッチャー大佐が、誰もが抱いていた疑問を、ついに叫ぶような声で口に出した。

 この時点で、既にホーネットの飛行甲板は猛火に包まれていた。

 襲撃してきた急降下爆撃機は、確かに主翼と胴体に日の丸(ミートボール)が描かれている。だが、見たことのない機種だった。何より双発だった。双発の艦上機は存在しているが、多数派ではない。日本機にはないはずだ。

 艦橋の要員がそれに注視している間にも、10発を優に越える爆弾が飛行甲板に叩きつけられた。その数から見て、1機あたり2発の爆弾を抱えていたようだが、その1発あたりも、ヴァル(九九艦爆)のそれよりも大きいように見えた。

 アメリカ合衆国海軍の格納甲板は左右に壁面のない開放式で、爆風は開口部から逃げるようになっているが、その想定を越える攻撃を受けて、飛行甲板は引き千切られながらめくれ上がり、搭載機への給油設備が破壊され、ガソリンへの引火や弾薬への誘爆で、ホーネットの上部は手のつけられない大火災に包まれた。

「右舷側! 雷撃機接近!!」

「取舵いっぱい!」

 まだホーネットの機関にはダメージはない。30ノット以上で驀進しながら、魚雷に対する面積を減らすために左へと方向を変える。

「!」

 ミッチャーは、艦橋の至近距離をすり抜けるように飛び越える、複葉の雷撃機を見た。複葉機だが引込脚、そして ────

「日の丸じゃない…………!!」

 日の丸に似ているが、その右下に花を抽象的にした白のマークが描き添えられている。塗装の剥がれや汚損ではない。確実にそれを意図したデザインだ。

「魚雷、避けきれません!!」

 ホーネット1隻に対して、16本の魚雷が放たれていた。誰の目にも完全に避けきる事は難しいように見えた。

 

 ズズズ……ズズゥゥゥン……

 

 魚雷の炸裂を示す水柱が、ホーネットの右舷に、2本、1本、1本、2本と、間を開けながら合計6本、立ち上った。

「6本です、魚雷6本命中しました!」

「うっしゃ!」

 後部席の偵察・機銃手の弾んだ声に、フジタも拳を振りながらそう言った。

 

 一方 ────────

「もう少し燃料は持ちそうだけど……」

 残燃料ゲージを見ながら、アサギリが呟くように言う。

 アサギリのSe9は、空母部隊からの対空砲火が届かない距離と高度を確保しつつ、まだ戦闘空域に留まっていた。

「…………あれ?」

 アサギリは、再度()艦隊の全体像を把握しようとしていたが、味方の攻撃を受けている空母より南西寄りにいる空母集団が、激しく対空砲火を上げているのを見つけた。

 目を凝らすと、航空機の編隊がその空母に迫りつつあるのが見えた。

「もう第2次攻撃隊!? 早すぎない? っていうか、機数が多すぎない?」

 アヴァロニアは母艦機能を喪失している。現在ここに来ている攻撃隊は、トヨカムネアの艦爆機の全数と、艦攻機の半分、ホワイトアローの艦攻機の全数になる。残されているのは艦攻機8機だけのはずだ。

「様子見てみようか」

「了解です」

 アサギリは問いかける形で言ったが、アイリはそう返答した。

 スロットルを巡航出力に絞ったまま、アサギリはSe9をその空母に上空へと向かわせた。

 大型空母にしては直掩が少なかったと感じていた。その少ない直掩機も、味方の戦闘機が排除している。

 対空砲火を上げているのだから、味方 ──── かどうかは判然としないが、 “敵の敵” だろう編隊が、空母に対して攻撃を開始した。

 スマートな空冷機が3機、アサギリ機に接近する。アサギリは緊急離脱に備えて、スロットルレバーを握り直す。

 だが、おそらく戦闘機だろうそれは、アサギリ機を確認したのか、すれ違いつつ離れていった。

「やっぱり見たこともない機体……ちょっと、無線で呼びかけてみて」

「解りました」

 アサギリもアイリも、多分ムダだろうと思いつつも、アイリは艦隊内通信用の無線機のマイクを手に取った。

「貴隊の所属、目的を明らかにされたし。こちらはチハーキュ海軍空母航空隊、トヨカムネア所属CS2-1、チハ・アサギリ・サンミル中尉機」

 アイリが呼びかけるが、応答はない。アイリはさらに、周波数をずらして何度か呼びかけるが、それに対する応答もなかった。航空非常通信帯にも反応しなかった。

 その最中にも、アサギリの目の前で、これまた見たこともない空冷単葉固定脚の攻撃機が、空母に向かって急降下爆撃を敢行するのが見えた。

 ざっと見て20機以上の機体が、寄って集ってと言う様子で、空母に攻撃を仕掛ける。

「おお……おおっ」

 空母の飛行甲板で、命中した爆弾の、爆発の閃光が何度も発生する。

「数が多いのもありますが……なかなかの()()みたいですね」

 アイリが、空母の様子を観察しながら、その感想を口にする。

「…………」

 アサギリは、既に投弾して、一度は離脱しようとしている艦爆機に視線を向けた。

「あの艦爆機……」

 注視していたアサギリは、小さく呟くように言った後、

「ちょっと無茶するよ!」

「えっ、ぁっ!?」

 と、アサギリの言葉に対し、アイリは今度は用意ができていなかったと声を漏らす。その時は既に、Se9は “敵の敵” の編隊に向かって横転を伴いながら降下、接近していく。

 

「やられたようだな……」

 自身で爆弾を投下した後、引き起こすと、緩く旋回しつつ、戦果確認のために緩上昇を始めた。

 だが、ここまでの往路では感じなかった、操縦系統の偏りと、直ちに致命的とは言えないが、明らかに大きい振動が、小林達にも伝わってきていた。

 僚機に確認させたところ、固定脚の片方が喪失しており、また、燃料の漏洩が発生していた。

 ガソリンに火がつかなかったのは僥倖だが、ズルズル漏らしていたのでは、どれほども飛び続けることができない。

 多くのレシプロ戦闘機・攻撃機は、燃料タンクは主翼や胴体の数ヶ所に分散して搭載されているため、すべての燃料が漏れ出てしまうことはないものの、母艦に帰投するまでの燃料が残っていないと感じられた。

「…………突っ込むか」

「はい」

 小林は、既に火災の煙を幾本もたなびかせながら、雷撃も少なくとも6本以上が命中し、速度を落としつつあった敵空母 ──── 『ヨークタウン』に、体当たりをかけることを決断した。呟くように言った小林の言葉に、偵察員も短く答える。

 小林が、操縦桿を倒し、再度の急降下の姿勢に入る。

「!」

 その小林の視界を、ほとんどぶつかりかける距離で、空冷の単発機が横切った。小林は衝突を回避するため、横転降下をかけてしまい、ヨークタウンへの突入進路から逸れてしまった。

「や、やはり敵かっ!!」

 機種不詳のその単発機は、数百メートル先で別の米空母に攻撃を仕掛けている編隊と同じ勢力なのだろう。だが、それは “敵の敵” ではあるが、 “味方” であるとは限らない。

 紅潮したように気色ばんだ小林だったが、

「い、いえ……不明機の操縦手が、キャノピーを開けて手を振っています!」

 偵察員がそう言った。 その機体は小林機に追従するように後ろから、ゆっくりとした相対速度で追いついてくる。

「なにか、伝えたいことがあるということか?」

 小林が怪訝に思いつつも、機を水平飛行にすると、その単発機が小林機の横に並んで並走する。

 機体の主翼の前縁からは、中口径の機銃の銃身が張り出している。複座だが、戦闘機のように見えた。

 これが敵対的な行動であれば、ここまでで小林機を容易く撃墜できたはずだ。

 国籍表記は、日の丸に酷似しているが、抽象化された白い花が添えられている。

「お、女!?」

 開放されたキャノピーから身を乗り出した操縦手を見て、小林達は驚きの声を出してしまった。

 女性であるだけではない。飛行服のジャケットの部分を着ているが、その下にはまるで、ストリップダンサーのような、肌も露わな服を身に着けている。

 身を乗り出した操縦士は、まず、下の空母を示すかのように指で下を指した後、頭の上で、両腕で(バツ)を作った。かと思うと、今度は自分を指差した後、その指をくるっと回して後ろを指した後、今度は腕で(マル)を作った。

「ついてこい、と言うことか?」

 向こうも小林機の状態は見えているはず。近くに自分達の、おそらくは空母が来ているから、ついてこいと言っているように見えた。

「毒を喰らわば皿まで、か」

 小林は、そう言いつつ、合図するために自機をバンクさせた。

 相手機の女性は、操縦席に座り直すと、笑顔を向けつつ親指をあげる仕種をしてから、キャノピーを閉めた。

「宜しいのですか?」

「なに、捨てる気だった命だ、この攻撃隊の正体を確かめるのも一興だろう」

 相手の機体の、操縦手と偵察員が言い争っている……というか、偵察員がなにかの小言を言っているような様子を見つつ、小林はそう言った。

 相手の機体が僅かに増速して、おそらく自身の軍の攻撃隊の方へと向かっていく。小林はそれに続行し、爆弾、魚雷を投下して引き上げるその編隊に向かった。

 

 





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