ドゴォ!! ドゴォ!!
夜中、砲声が響く。
9月12日、未明。
ガダルカナル島、マタニカウ川の下流沿岸は、悲惨、凄惨な状況になっていた。
この川は枢軸軍(チハーキュ軍、日本軍)が防衛線として利用している。
連合軍(主にアメリカ軍、オーストラリア軍)は、
ハワイのニミッツ、それにキングは、ニューギニア方面の枢軸海軍がいまだ優勢であり、ガダルカナル島の維持について海軍は責任を取れない、と南西太平洋軍司令部、マッカーサーに通告していた。
これは、戦力的に妥当なものだったが、同時に、政治的、内部戦略的な物が絡んでいた。サラトガが喪失、ワスプが大破で戦線離脱を余儀なくされている今、唯一となった空母『レンジャー』を、マッカーサーの支配下に置きたくないというものだ。
その意図が、返ってマッカーサーにソロモン方面での連合軍反攻の意図を強めさせる事になった。
マッカーサーも、キングとニミッツも、太平洋方面での連合軍の作戦系統を、1本化することを求めていた。もちろん、自分達が主導権を握ることを前提としてである。
この為、マッカーサーは “勝利” を求めていた。政治的にワシントンD.C.での発言力を高めるためである。
それに、疲弊した状況にあるとは言え、ガダルカナル島には1万以上の連合軍兵力が存在していた。一方、枢軸軍はそれなりの兵力とかなりの物資を揚陸させていることがわかってはいるものの、マタニカウ川以西に立て籠もるばかりで、ヘンダーソン飛行場の奪還を目指してこない。
この時、マッカーサーは、枢軸軍が、ガダルカナル島、ひいてはソロモン諸島全体を “キルゾーン” に設定している事に、まだ気付いていなかった。
枢軸軍の消極性を「兵力の不充分」と理解したマッカーサーは、ガダルカナル島の連合軍陸上部隊に、枢軸軍への総攻撃を命令した。
9月10日 ──── 枢軸軍のカレンダーでは11日夜、“スピンナー” 作戦を発動した。
「…………それで私は言ったんですよ、『御婦人、それはザリガニですよ』、と」
チハーキュ陸軍の制服、軍服を着たヴォルクス男性が、そんな噺をしていると、もう1人のチハーキュ陸軍の男性兵士、それに数人の、カーキ色の制服を着た日本軍兵士が、ゲラゲラと笑い出した。
日没から小一時間。彼らは、マタニカウ川がほぼ直角に曲がっている場所の西岸側で、見張りの任務を与えられながら、夕食を摂っていた。
軍用飯盒から、後方で炊き上げられた白飯をよそい、チハーキュの缶詰中心の軍用糧秣をおかずに食事しながら、談笑していた。
若干警戒が緩んでいたが、対岸には米軍はいない ──── はずだった。枢軸軍の野戦砲の射撃統制範囲は、近づけたものではないからだ。
だが ────
「それから……────、!」
噺をしていたヴォルクス兵が、突然言葉を途切れさせ、犬耳をピンっと立てた。
「敵か!?」
チハーキュ兵が身体ごと川の方を向くと、日本軍の班長が、声量を抑えつつ、険しい表情になって問いかける。
「多分……──── 足音、かなりの人数いる」
ヴォルクス兵が呟くように言ったその言葉を聞いて、班長は、チハーキュはレングリス電気工業株式会社製軍用携帯型無線機のマイクに手を伸ばす。
「本部、応答願います」
「多数の足音……対岸にそれなりの人数が集結しつつある。これは敵の総攻撃であると思うが、お2人の意見はどうか?」
ガダルカナル島、枢軸軍陸上部隊司令部の天幕の中で、大日本帝国陸軍川口清健少将は、同海軍の門前
この場の階級で最高であるうえ、陸戦のプロフェッショナルである川口が絶対的であってもいいのだが、一応別組織である事を考慮してのことだ。
「私も同感です。海軍の艦隊が再編の為に退いたのを好機と見てのことでしょう」
門前は、険しい表情でそう言った。
「自分もそう思いますが、総攻撃であるのなら、できるだけ引き付けて逆に削れるだけ削ってはどうでしょうか?」
カイルは、机の上に広げられた、マタニカウ川周辺の地図に視線を落として言い、言い終えてそれを川口に戻した。
「定番の戦い方だが、それがいいようだな」
川口はそう言い、
「支隊全隊、戦闘準備せよ。ただし射撃は敵がこちら側に上がるのを待て」
と、下令した。
その直後に、
ドォン……ドドォン……!!
川のある方角から、砲声が聞こえてきた。
「この砲声は……敵さんか?」
川口が訊ねる。
「はい! 川岸を砲撃しているようであります!」
「我が方に損害は出ているか?」
「出ていますが、今のところ軽微であります!」
川岸ギリギリには、見張りの部隊以外大した人員を置かないようにしていた。連合軍は、そこを砲撃していた。
「応射待て! ただし、敵の火点は記憶しておけよ!」
「了解であります!」
その頃、敵の接近を発見した見張り部隊は、敵の砲撃を避けて茂みに隠れながら、川の観察を続けていた。
「チハーキュさんは夜目が効くと言うが、双眼鏡でも充分見れるかね?」
日本兵の1人が、そう訊ねる。
「流石にこう暗いと……いえ……」
難しい口調で言いかけたヴォルクス兵だったが、双眼鏡の接眼レンズ越しに、黒い物が集まった物が、川に何かを置いているところが見えた。
「浮橋だ! 浮橋を設置して、渡ってくるぞ!」
「本部!」
ヴォルクス兵が声を上げると、日本兵が無線で司令部に報せる。
「砲兵隊、打ち方始め!」
ドゴゴゴォッ!!
チハーキュ軍が持ち込んだ、120ZSH-1、120mm自走榴弾砲、16両が一斉に射撃を始める。
──── 新学暦204年に、北方大陸の同盟国で発生した紛争に介入した際、チハーキュ帝国陸軍は「攻勢において重量化した大口径砲が限定的な働きしかできない」ことと、「戦車自身に敵戦車を排除する能力が求められる」ことを戦訓として学び取った。
そして、前者について、牽引砲から砲そのものを車両に乗せて運んでしまえという自走砲の発想に至った。当初のものはトラックがベースだったが、やがて旧式化した戦車の車体を利用して自走砲に仕立てる事に行き着いた。
バイハイ戦役後、戦車の試行錯誤期と実用期の端境である新学暦193年に制式化された、CB-1 11トン戦車の車体を改造して、ZH-120 mod.199 120mm重榴弾砲を搭載した物が120ZSH-1だ。
ただ、あくまで「牽引を必要としない野戦砲」であるため、砲手室はオープントップである。
また、日本と同じリンクアーム式サスペンションが採用される前の車体であるため、板バネにスポーク転輪の足回りになっている。エンジンは、種車はガソリンだったが、自走砲への改造時にディーゼルエンジンに換装している。
「オルァ! 撃て! 撃て!!」
少ない男性兵士だけを抽出してガダルカナルに送り込んだため、全員が砲兵専門ではなかったが、手早く再装填しては、川から東岸にかけて120mm榴弾を撃ち込む。
砲火の閃光の中に、ちぎれ飛ぶ人間の姿が交じる。
一方 ────
「おかしい、な?」
対岸の着弾の様子を観察していた日本兵が、双眼鏡を覗きつつ、呟く。
── 総攻撃前の支援射撃にしては、敵の砲撃が少なすぎる気がする。
そう考え、彼は怪訝そうに眉を寄せた。
── ひょっとしたら、チハーキュさんと同じ自走砲で、砲兵陣地を移動しながら撃っているからか?
そうは考えた彼は、
「チハーキュさん、済まない、敵の砲兵陣地を見てもらえないか?」
と、傍らにいたヴォルクス兵に声をかけた。
「砲兵は専門外ですが……」
そう言いつつも、ヴォルクス兵は双眼鏡を受け取り、砲兵陣地の存在が予測される方角にレンズを向けた。
「敵の砲兵陣地は、移動してしまっていないか?」
「? いえ、いますよ。牽引式の野戦砲です」
ヴォルクス兵がそう答えると、日本兵は無線のマイクをとった。
「敵陣地移動なし。砲撃開始」
『了解』
ドゴゴゴォッ!!
日本軍の砲兵陣地から、四一式山砲が火を吹いた。
「あっ! 命中です!」
「効力射! 打ち方続け!!」
ここも含め、日本軍の山砲は、観測で敵の火点になっていた場所に、75mm榴弾を撃ち込んでいた。
日本軍将兵がしょぼい敵の射撃に首を傾げている最中、米豪軍兵士は頭上を敵弾が飛ぶ中、西岸の枢軸軍防衛線のいくつかの場所にたどり着いた。
有刺鉄線が張り巡らせてあったが、味方の砲撃でバリケードが破壊されたところから、突入しようとする。それでも、何人かが切断された有刺鉄線に絡みつかれて転んだ。
「撃てッ!!」
ダダダダダダダッ……ダダダダッ
土嚢を積んだ機関銃陣地に配置された、フェルディナントLKJ-3軽機関銃が、突破してきた米豪兵に向けて掃射を浴びせる。M1ガーランド小銃を手にした兵士が、バタバタと倒れていく。
米豪軍兵士がさらに近づいてくると、土嚢の陣地に隠れ潜んでいた日本兵、チハーキュ兵が、連発式の歩兵銃で敵に射撃を浴びせる。
ADC-3C/8.0自動歩兵銃。何を考えていたのかと言うか、機関部の側面に円盤弾倉を備えるというシロモノである。
いわゆるアサルトライフルが、地球で登場するのは少し後、後にStG-44と呼ばれるドイツの物が最初とされる。
が、エボールグではバイハイ戦役の末期頃から、全自動歩兵銃の投入が始まった。
それというのも、エボールグではボルトアクション銃が開発されなかった。その為、バイハイ戦役で歩兵銃として運用されたのは、レバーアクション銃だった。
レバーアクション銃は塹壕に伏せての射撃が難しい。レバーの支点からの方向を変えることで、多少なりとも改善しようとした反転レバー銃も開発されたが、根本的な解決と言えなかった。
この為、ブローバック銃が開発されると、エボールグの各国は新しい歩兵銃用の機構として飛びついた。
連射可能な、簡易機関銃として使える自動歩兵銃の発想も早かった。その思想のもとに、新学暦171年に開発されたものがADC-3だった。
──── が、まぁ普通に考えて分かる通り、
…………ところが、用兵側でADC-3を求める声が根強かった。最大の理由は、ADC-3をイロモノに貶めたはずの45発入りディスク弾倉だ。
現在のチハーキュ帝国軍は、独立戦争の記憶を引きずって、寡兵で数的優位の軍に立ち向かうことを意識しがちだ。それを考えたとき、装弾数の多さは魅力的だった。
その為、ADC-3も
チハーキュ帝国、ひいてはエボールグの科学同盟圏標準の8×50mm弾が無数の火線を描き、横薙ぎの雨となって迸る。どうにか枢軸軍の防御陣地まで辿り着きかけた米豪軍兵が、湿った地面へと倒れ込んでいく。
「…………」
1人のヴォルクス兵が、弾倉を交換しようとして、はっと視線を上げた。同時に、耳をピクピクとさせる。
右側、方角では南側を向く。もう一度、耳をピクピクとさせた。
「南側だ! 川上を回り込んできているぞ!!」
彼は叫び、自身のADC-3C/8.0の銃口を向けながら、声を張り上げた。
「撃て! 撃て!!」
明らかに人の姿をした集団が、森林の木々の間で揺れるようにしながら、徐々にこちらに向かってくる。
ヴォルクス兵、日本兵が銃口を向け、その、ゆらゆらと向かってくる敵兵に射撃を浴びせた。
「突撃は待て!」
日本軍の小隊長が絶叫する。
シュポッ、シュポン!!
日本兵の数人が、八九式重擲弾筒を使い、回り込んだ敵別働隊に対して擲弾を投射した。
森林の木々の間で炸裂が起き、その爆炎の光で、明らかに人が吹き飛ぶのが見えた。
ガロロッ、ガロッ
自走砲の2両が向きを変え終えた。
「ま、まだ射撃諸元が取得しきれません!」
「構わん! 味方に当たらなければいい! 背後を吹き飛ばして脅かしてやれ!」
砲兵の戸惑った声に、小隊長がそう怒鳴り返す。
「撃てッ!!」
ドドォンッ!!
2門の120mm砲が閃く。
ドバッ、ドバァン!!
敵の別働隊が現れた方角に、砲弾が撃ち込まれた。
「敵、第二波来襲ーッ!!」
最初の米豪軍の突撃が排除されつつある頃、東岸の河原に新たな部隊が集結しつつあった。
「砲火力で黙らせてやる!」
120ZSH-1と四一式山砲が、今度は援護のない第二波に向かって、呵責のない射撃を浴びせた。
チハーキュ兵も、日本兵も、とにかく、撃って撃って撃ちまくった。
夜が明ける。
陽によって周囲が照らされると、夜中に行われた戦いの痕跡が、マタニカウ川下流沿岸に広がっているのが、目に見えるようになった。
軍人でもなければ、一瞬、目を背けたくなるだろう凄惨な光景だった。
無数の屍が、河原に折り重なっていた。
そして、その殆どは米豪軍だった。
日本軍とチハーキュ軍の戦死者はわずかに3、負傷者が16名ほど出た。
一方、二波合計4,000名で突撃を敢行した連合軍は、2,600名以上が戦死、または行方不明となった。
枢軸軍の損失が極めて少なかったのは、ヴォルクスの感覚器によるところが多いだろう。だが、連合軍の夥しい損失は、根本的に砲火力の違いだったと言うしかなかった。
「なぜ…………」
日本兵の1人が、呟く。
「なぜ、こんな突撃を……アメリカ人は日本人ほど命をかけることは多くないと言われていたのに……」
具体的な感想をいただけると、続きを描くことが捗ります。
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チハーキュ帝国海軍軍装、どちらがいい?(絵のリンクは Chapter-12 あとがき)
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