進撃! 犬耳機動部隊   作:神谷萌

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Chapter-05

 チハーキュ帝国海軍、練習艦隊旗艦ミネルヴィア。

「攻撃隊、フジタ大尉より報告。いずれも型式不詳ながら、大型空母に爆弾命中多数、魚雷少なくとも6本命中。巡洋艦に爆弾5発命中、巡洋艦は撃沈確実」

「ハンセリア……ま ━━━━ たやったわね……」

 その報告を聞いて、マデリンは表情を引きつらせた。

 攻撃隊の総指揮官としてハンセリアを任命したはずが、フジタが自身の雷撃隊だけではなく、攻撃隊全体の戦果報告をしてくるということは、ハンセリアが撃墜されたわけでもなければ、つまり、また総指揮をフジタに押し付けたということだ。

 指揮官機が撃墜されたのであれば、指揮を引き継いだ旨の報告がある筈だ。

「…………ええと、続いてサンミル中尉からも報告が入っています……」

「あ、ああ、済まない」

 口元は薄笑いを浮かべたような表情で、怒りのオーラを放っていたマデリンは、通信士の声に、我に返る。

「確認されている空母部隊の搭載機とは別に、空母搭載機と思しき不明の編隊が、別群の空母に攻撃。こちらも小型爆弾多数、魚雷少なくとも4本命中」

「不明の編隊?」

 マデリンは、怪訝そうな表情をして、問い返す様に声を出した。

「はい、その編隊の機種は、我が軍にはないものだが、翼と胴体に紅銀星章に酷似した国籍マークを入れているとのこと」

「……──── 少しだけ状況が見えたようね……」

 マデリンが、険しい表情で、顎を手で支えるようなポーズを取りながら、呟くように言う。

「と、言いますと?」

 ゲスト席から立ち上がったヒカルが、マデリンの傍らから問いかける。

「……おそらく、私達を攻撃した白い星の勢力と、サンミル中尉が報告してきた、『紅銀星章に酷似したマーク』の勢力の間で、戦闘が発生していて、その最中(さなか)に我々が居合わせてしまった…………と、現在我々が置かれている状況を、こう説明すれば辻褄が合います」

 マデリンが、ヒカルに、手振りを加えつつそう言った。

「なるほど、それなら確かに説明は付きます」

 聞かされたヒカルは、そう言いつつも、表情は険しいままだった。

「ですが、その、白い星の勢力と、『紅銀星章に酷似したマーク』の勢力、そのどちらも、どこから来た、何者なのでしょうか?」

「それは……今はまだ、解りませんが……」

 ヒカルの真っ当な問いかけに、しかし、マデリンは言葉を詰まらせた。もっとも、その説明ができないことについては、ヒカルも承知の上だった。

「いずれにせよ、白い星の勢力が我が艦隊を攻撃し、損傷を与え、平時態勢の自軍兵士を殺傷したのは事実です」

「はい。それについては小官もその認識です」

 ヒカルの、明らかに憤り混じりの言葉に、マデリンは、賛同する言葉を出す。

「大出力の送信機で呼びかけたわけですから、彼我の距離を考えれば、あちらの母艦でも受信できていたはず。にも関わらず、サンミル中尉機に対して邀撃機を差し向けてきたということは、あくまで敵対するという意思に他なりません」

 空母同士である以上、このまま反復攻撃を実施されれば自軍の被害がさらに拡大する。こちらが反撃して相手空母の能力を奪うのは、正当防衛の範囲に入る、と、ヒカルもマデリンも認識していた。

「そうすると、『紅銀星章に酷似したマーク』の勢力は、私達の味方になってくれる、のでしょうか…………」

「それは一概には言い切れません」

 ヒカルの言葉に、マデリンは、険しい顔のまま、そう答える。

「現状ではあくまで、敵の敵、ということしか……」

 マデリンはそう説明するものの、それを聞いて、ヒカルは不快そうな表情になる。

「サンミル中尉から報告です。敵母艦の攻撃に参加した不明編隊のうち、損傷の著しい数機をこちらに誘導しているとのことです」

「…………そうか、そっちの母艦の方が離れている可能性が高いのか」

 通信士の報告に、マデリンは、呟くようにそう言った。マデリンは空母、と思い込んでしまっているが、空母にしろ陸上基地にしろ、双方の索敵線に相手が引っかからないということは、それだけ離れている可能性が高い。

「サンミル中尉に、それらの機体はホワイトアローに着艦させるように通告せよ」

「了解です」

 “敵”の攻撃に対処する戦力である、トヨカムネアが使用不可能になるリスクは避けなければならない。

 相手がはっきり “味方” とは言えない上、すでに相手の攻撃機の1機 (九九艦爆小林機) の固定脚の片方が脱落しているため、うまく行っても飛行甲板が傷つくことは避けられない。

「そもそも、着艦させて宜しいのですか?」

 マデリンの部下が、怪訝そうな表情で問いかけてくる。

 すると、マデリンが口を開こうとすると、それより早く、

「ちょうど、相手の正体を見極めるにはいいでしょう」

 と、ヒカルがそう言った。

「と、言うわけだ」

 ヒカルの言った言葉に、マデリンがそれを肯定した。

「さて、と。ローレンス提督、内火艇を用意させてくれるかしら?」

 ヒカルは、マデリンを姓で呼びつつ、そう訊ねるように言った。

「どうされるおつもりですか?」

 怪訝そうな表情をして、マデリンはヒカルに問い質す。

「ホワイトアローに移乗します」

 ヒカルは、悪戯っぽそうに笑って、そう言う。

「殿下!!」

 

 

「脱落してない?」

 “不明編隊” の、引込脚の攻撃機 (九七艦攻) 3機、固定脚の攻撃機2機、それに戦闘機と思しき単座機1機を、アサギリ機が先導していた。

「今のところ大丈夫なようです」

 アサギリが振り返って問いかけると、追随してくる機体をずっと観察していたアイリがそう答える。

 アサギリが前を向き直す。

 すると、1機のIe7が、するするといった感じで、アサギリ機の隣に接近してきた。

『よう。カモの親役、ご苦労さん』

 空中通信用の無線を介して、フジタの声が聞こえてくる。

「それを言いに来たんですか、ヒマ人ですか大尉は」

 無線のPTTスイッチを押しながら、アサギリは、睨むような苦笑を浮かべて、そう言った。

『無線で呼びかける事はできないのか?』

 気を取り直した様子で、フジタは再度アサギリに問いかけてくる。

「だめっぽいですね。いくつかの周波数を試してみたんですが」

『事故に繋がらなければいいが』

「ええ、まぁ…………なんとかなるでしょう」

 フジタの声に、アサギリがそう答えている時 ────

「意思疎通ができないのがもどかしいな……」

 小林道雄大尉も、同じ内容を呟いていた。

「そうですね……」

 偵察員が、同意の声を出す。

「アメさんを攻撃していたし、こちらに敵対する意図はないようだが」

 小林は、前方を隣り合って進む複座機と、複葉の機体を見る。

 ── 複葉機は雷撃機だな……引込脚を採用しているが、九六式(九六式艦上攻撃機)と同程度といったところか……

 そう観察している間に、複葉の雷撃機が一度バンクしてから、自分達の小編隊からは離れていく。

「!!」

 降下を始めたその雷撃機が降りていくその先を見ると、洋上に空母を含む艦隊が存在しているのが見えた。

 目前を行く複座機の、後部銃座の風防が開き、その機体の偵察員と思しき者が大きく手を振る。その直後に、その複座機そのものが機体を揺らしてから、降下を始めた。

「ついてこい、と言っているようだ。この場の全機、後に続け」

 小林がそう指示すると、6機の日本機は、“不明の複座機” に続いて、降下を始める。

 艦隊の高角砲が届くだろう高度と距離にまで接近したが、日本機に対して撃ち上げてくる様子はない。もっとも、“不明艦隊” は帰還してきた攻撃隊の収容中でもあるようだったが。

 小林らを先導してきた複座機が、降下を伴って増速しつつ、小林達にも艦隊の内容がはっきりと見える高度まで降りると、再度機体を揺すってから、3隻の空母のうち、小型の1隻の上を通過した。

「あの母艦に降りろということか……」

 他に2隻、蒼龍・飛龍と、翔鶴型の間程度の大きさの空母がいるが、自軍が被害を受ける危険を少なくしたいということか、と、小林は判断した。

「俺の機体は片脚だ、最後に降りる。今並んでいる順で降りさせてもらえ」

 小林がそう指示すると、九九艦爆の1機が、降下しながら小型空母への着艦コースに入る。

「! 日本と同じ形式!?」

 その九九艦爆の操縦士が、一度ゴー・アラウンドするつもりで、着艦誘導設備を確認しようとすると、現状、日本しか使っていないはずの、色灯式着艦誘導灯が設置されているのが見えた。

 細部はいくらか異なるようだったが、おそらくこれで正しいのだろう、と、日本海軍と同じ見え方をする位置と高度から進入する。

 シュパッ、ドスン

「うへぁ、ホワイトアローにイッパツで、それも3番索だよ……」

 空母への着艦は、機体後部下方に設置されたフックを母艦側の制動索に引っ掛け、急減速させつつ甲板上に “落とす” というもので、“制御された墜落” とも呼ばれる。

 その制動索は、飛行甲板に、進行方向に対して横向きに、5乃至6本張られているが、先の方の制動索を使うと減速度が高くなって機体にかかるストレスが大きくなる。かといって手前側の制動索を使うような着艦だと、傾きが大きくて機尾を艦尾に接触させるリスクが大きくなる。

 もっともきれいな着艦ができる目安が、その中央の3番索とされている。

 ホワイトアローはサイズも小さく、ただでさえ飛行甲板が手狭なので、大型空母に慣れている搭乗員だと、この “きれいな着艦” が難しい。

 だが、ホワイトアローに慣れているはずがない上、機材も自分達と異なるはずのその攻撃機は、危なげないアプローチかから、お手本のような着艦を披露した。

 万一に備え、消火ホースを手にして待機していたホワイトアローの応急班員が、感心の声を上げる。

 着艦した機体をクラッシュバリアの前方に移動させると、今度は引込脚の攻撃機が着艦態勢に入る。見ている限り、これも理想的なアプローチラインに乗っているように思えた。

 攻撃機4機、戦闘機1機が、いずれも危なげなく着艦したところで、着艦を見ながら感嘆の声を上げていた、甲板応急班員の表情がにわかに険しくなる。

「次が本番だ、すぐ動くぞ!」

「了解!」

 班長が、泡消火液のノズルを両腕で握りながら険しい表情で言うと、班員が力強く答える。

 固定脚の攻撃機 ──── 小林大尉機がアプローチに入る。それは “不明の機体” の中でもっとも理想的な進入に見えた。だが、この固定脚の機体は、すでに片脚がないのだ。

 シュパッ!

 九九艦爆がホワイトアローの3番索を捉えて甲板上に降りる。その瞬間までは教科書に載せたいようなアプローチだったが、そのまま、脚がない方へと崩れるように傾き、そちら側の主翼が飛行甲板に叩きつけられる ──── 時には、すでに応急班が2つの消火ホースを伸ばして、左右の主翼に消火液を噴射する。

 ── 火を出さずに済んだか!?

 自ら、飛行甲板に叩きつけられて損傷した側の翼に消火液を噴射しながら、班長が声に出さずに言う。

 応急班員の1人が、反対側の翼へと、身軽に飛び乗り、キャノピーを開ける。

「降りてください! 早く!!」

 そう叫びながら、2人の乗員を引きずり出すようにして脱出させる。

「………………ふぅ……」

 泡消火液に加え、機体から飛行甲板に滴り落ちたガソリン混じりの液体を、高圧放水で洗い流し始めたのを見て、応急班長は、胸をなでおろすようなため息を()き、少しだけ緊張を緩めた。

「取り敢えず、無用な被害は出さずに済んだようだな……」

 小林は、自身の九九艦爆が、片脚の状態で傾いて崩れ落ち、消火剤まみれになっている姿を見て、やはり軽く息を()く。

「…………軍艦だというのに、乗組員は女性ばかりみたいだな。それに、妙な頭飾りをつけている」

 周囲を見渡し、小林は自分の感じた違和感を言葉にする。

 甲板で作業をすると思しき者、搭載機搭乗員と思しき者、何れもが女性ばかりだった。

 ただ、ここまで小林らを先導してきた複座機の操縦士のような、肌も露わな、悪い言い方をすれば破廉恥な衣装をつけてはいない。航空機搭乗員の服は日本よりも米軍に似ているように見えるが、特別場にそぐわないという感じではなかった。

『ようこそ! チハーキュ帝国海軍航空母艦「ホワイトアロー」へ!』

 1人の、他の乗員とはどこか異質さを感じさせる軍装を着けた少女が、小林らの傍に寄ってくると、声をかけてきた ──── のだが、それは、かろうじて何らかの言語だとは理解できたものの、小林達が知っている、聞き取り、話すことができるものではなかった。

『異国の勇士たち、歓迎いたします!』

 興奮しており、好意的であるということは解るものの、その内容を理解することができない。

「Can you speak English?」

 海軍の士官の端くれとして、小林は英語でそう問いかけてみるものの、少女は困ったような表情になり、首を傾げた。

[これなら解りますか?]

 言葉が通じないと解ったのか、相手も別の言語に切り替えてみたようだが、やはり小林達には聞き取ることができなかった。ドイツ語やロシア語、中国語でもないようだった。

「参ったな、言葉が通じないとは……」

 困惑した小林がそう言うと ──── 眼の前の少女が、目を真ン(まる)くして、小林達を凝視した。

「もしかして、この言葉、通じますか……?」

「!?」

 少女が話すその言葉を聞いて、今度は小林達が驚いて面食らう。

「日本語が話せるんですか!?」

「ニホン語……つまり、貴方がたの母国の名前だと考えて宜しいでしょうか?」

 驚愕の言葉に、少女はまっすぐ小林を見ながら、訊ねるように言う。

「はい!」

 そう声を上げて、小林は、偵察員とともに直立不動の姿勢になり、敬礼する。

「自分は大日本帝国海軍、小林道雄飛行大尉です!」

 それを見て、少女も姿勢を正し、返礼をする。

「私はチハーキュ帝国チイイニ朝皇太子、ヒカル・エヴァンジェリン・ブレイク・チイイニ・チハーキュ・レムゼンです」

「こ、皇女殿下であらせられましたか!」

「最敬礼はお解きください」

 ますます緊張した様子の小林達に、ヒカルは人懐こそうな笑顔でそう言った。

「私達の国では、この言語はユーエンビー古代語と呼ばれています。約200年前に発掘され、蒸気機関の技術再現に至った “舟形遺跡” から復元された、他の言語との共通性がほとんどない、孤独な言語とも呼ばれています ────」

 ヒカルはそれを説明したが、

「──── と、この説明は後にしましょう」

 と、苦笑して、いったんそれを切り上げた。

「あれを見てください」

 そう言って、ヒカルは艦の進行方向を向いて、指を差した。

「あれは……」

 小林が息を呑む。

 ヒカルが指差した先には、艦尾付近が焼け焦げ、飛行甲板が破壊された空母の姿があった

「空母『アヴァロニア』。貴方がたが戦っている、“青い丸に白い星” の空母搭載機からの攻撃を受けました。あの艦はあの程度の損傷で済みましたが、他に練習船が1隻、犠牲になりました」

「…………おそらく」

 ヒカルの説明に、小林は言葉を選ぶ。

「我が軍の『赤城』『加賀』と誤認され、攻撃を受けたのでしょう」

「『アカギ』と『カガ』……貴国の大型空母ですね?」

 小林の推測混じりの説明に、ヒカルは聞き返すように言った。

「はい」

「なるほど……ですが、誤認にせよ、非交戦国の軍艦・船舶への先制攻撃は免責できません。彼の編隊が明らかに攻撃の意図を持って接近していると判明した時点で、私達は複数の周波数、変調方式、そして複数の言語で警告しました。その中には、ユーエンビー古代語……日本語も含まれています。大出力で呼びかけましたので、母艦まで届いたはずです。それに、その時、私達の艦隊は、戦闘航海ではなかったことと、朝方に私達が遭遇した電波障害の直後ということもあって、直掩の戦闘機も飛ばしていませんでした。私達の艦隊がその時点まで、作戦行動中ではなかったことは気付けたはずです」

 日本語でも呼びかけたのなら、日本と戦っている米艦隊も、日本の無線を傍受しているはず。ある程度は聞き取りができる人間がいるはずだ。

「空母搭載機でしたので、反復攻撃を防ぐためにも、私は艦隊指揮官のマデリン・ローレンス提督に反撃の意思を伝え、それは実行に移されました。ただ、アヴァロニアの搭載機は使えないため、『トヨカムネア』とこのホワイトアローの搭載分で実行しなければならず、1隻を無力化する事がやっとでした」

 ヒカルはそこまで説明すると、小林達の方を向き、頭を下げる。

「3隻のうち、もう1隻は貴方がたの攻撃で無力化されたと報告を受けています。練習船の敵を討っていただいたようで、皇帝の名代として、お礼申し上げます」

「あ、頭をお上げください。殿下」

 ヒカルの態度に、小林は、慌てた声を出し、手を振る。

「我が軍としては、貴国の艦隊が敵の一部を引き付けたことで、損害が中型空母1隻で済んだのです……そのうえで、空母1隻を撃破していただいたと。礼を言わなければならないのは我々の方です。後ほど、上級司令部より感謝の意を表させますので」

 小林がそう言うと、ヒカルは、頭を上げ、真剣な視線で小林達を見る。

「貴方がたをこちらへご案内したのは、私達の艦隊の方が、距離が近かったということもありますが、同時に、現状を知りたかったからでもあります」

「現状、ですか」

 問い返す小林に、ヒカルは頷く。

「私達は、ニホンという国も、“青丸に白のマーク”も知りませんでした。前触れもなく、突然戦闘海域に()()、という認識です。そして、おそらくですが、ニホンにとっても我がチハーキュを知らず、突然、私達の艦隊が出現した、というように認識しているのではないでしょうか?」

 

 





ちょっとぶった切りだけど取り敢えずここで一旦区切り。

具体的な感想をいただけると、続きを描くことが捗ります。

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