晴れ渡る青空。
メダロットの暴走事件「魔の10日間」は、とある少年少女の活躍によって終幕を見た。
くらげ海岸に向けて、寄せては返す波。しかしそこに人影はない。かつてあったセレクト隊のビルは残骸と化し、跡形もなく消え去っていた。
逮捕されたセレクト隊の隊長の言葉を聞くに、宇宙人が出たらしい。
確かにあれだけの大質量が消え去る様だ。尋常ではない事態だというのは判るが、人類とメダロットとの初遭遇以来、宇宙人との遭遇は未だ確認されていない。
……と、普通の人ならば思うところであろう。が。
「白チャイナの嬢ちゃんなら見かけたんだけどなぁ……やるだけやって逃げやがったな宇宙人のやろう。消すなら消すで、事後処理まできっちり片付けろよな。……まぁ、残してくれたおかげでこうして残飯にありつけるんだが」
麦藁帽子をかぶり腹巻を巻いた中年の男が1人、かつてビルの存在した場所を歩いていた。
「KEEP OUT」のテープを潜り、目当ての場所へと立ち入る。
丁度中心あたりで立ち止まると、(麦わら帽子があるのにも関わらず)手で庇を作りながら瓦礫を1つづつ退けて行き。
1時間ほどかけてついに、目的のものを掘り当てる。
「おっ、あったあった。大きな魚だ。逃がしちまったら大変だ」
ぼろぼろになったそれは、2つの機体 ―― ブラックメイル、およびビーストマスターのメダルが入っていた部位である。
男・ひよこ売り……に扮した特殊捜査官である……はそれらを引っ張り上げ、工具を取り出すと、メダルの周囲をほじくり始めた。
じきに狙い通りにセーフティが稼動し、ぴぃんという音と共にメダルがはじき出される。男はそれを溢すことなく2枚ともキャッチ。
摘み上げて、太陽にかざす。
その1枚はウサギメダル。だがもう一方は、その絵柄が擦り切れて判別できない「?」のメダルと化していた。
男はまるで、メダルそのものに届いていることを知っているかの様に話しかける。
「貴重なサンプルだ。ちょっくら付き合ってくれよな」
にやりと笑う。
―― 不意に、影が差したように思えた。あるいは空を行くカモメのものだったのかも知れないが。
「……何か不満そうだなぁ、おい」
男はため息を吐き出し、タバコを口にくわえる。
目的は達した。男はそのまま、留めてある船に向けて戻っていった。
「心配すんなよ。終わったらきっちり、お前らの主人のトコに返してやるさ。これは他でもない、その主人からの捜索願いなんでな。まあ色々と利権は絡んじゃあいるが……ん? ああ、お前らの主人な。今、牢屋の中なんだけど」
◇
「ヒカルー? ヒカルー、起きなさい! 今日は学年初めの始業式でしょう? それに、ユウダチちゃんが迎えに来てるわよー!」
「……はっ!! そうだった!!」
いつもの朝だった。
朝に響く母親の言葉に、ヒカルはベッドから跳ね起きる。
急いで着替えを済ませ、ボナパルトを撫でながら、ばたばたと階下に下りてゆく。
「お早うございますです、ヒカル兄さま!」
「お早うユウダチ。うん。小学校の制服、似合ってるね」
「ありがとうございますです!」
下の階では、いつものツナギではなく、ぴりっとした制服に袖を通したユウダチが食卓について待っていた。
ヒカル達が世間を騒がせた暴走事件を解決したあの夏から、既に半年近くが過ぎようとしていた。
ヒカルは学年を1つ上がり、5歳だったユウダチもあの夏の後に誕生日を迎え、今年中には7歳。小学校へ通う年となっている。
その進学先は、お嬢様お坊ちゃまが多く通う金持ちの学園らしい。孫娘(ナエである)で悔しい思い(ヒカルの件である)をしたメダロット博士や、事件の顛末を聞いたムラサメ家の両親が、その反動でかユウダチに過保護になりかけているのも関係したのだろうか。
「本来ならばヒカル兄さまと一緒の学校に行きたかったのですが、折角両親が選んでくれた学校ですので」
「ユウダチちゃんは頭が良いんだから、ヒカルなんかと一緒の学校に行くのはもったいないわよー」
「? そんなことはないと思うのですけど」
ぐてりと傾ぐユウダチを見て、ヒカルの両親は笑い合う。
ムラサメの家が空く際、こうしてユウダチがヒカルの家に泊まる事が多くなっていた。
挨拶に来た際にヒカルも会ったのだが、ムラサメの両親は実にまじめな人柄で、大会社の社長とその婦人だというのを全く気にせず、ヒカルや両親に土下座を繰り出してきたものだから驚いた。
ヒカル自身も、ユウダチを頼むとまで言われている。ただしその兄には、付き合っている恋人がいるという旨の発言をするまではやや白い目で見られていたものだが。
あれはシスコンだな……いや、ユウダチもブラコンの気があるためどっちもか。
と考えながら、ヒカルが席に着くと、向かいで新聞を広げた父が大口を開けて笑っていた。
「あっはっは! 母さんは辛らつだなぁ。……おはようヒカル。疲れは取れたか?」
「うん。ばっちりだよ父さん」
ヒカルが答えると、父がユウダチと母親がキッチンスペースでわいわいと話を弾ませているのを確認して、こそこそと。
「……ところでナエちゃんとはどうなんだ。昨日も星を見に、2人でデートだったんだろう?」
「港町のほうだけどね……」
「くぅー……。海! 星! 追いかけあう二人! 青春だなぁ!」
何故か悔しそうなのに嬉しそうだ。
確かに昨日、ナエとは星を見に行った。良い感じだとは思う。
……が、ヒカルとしてはそれを両親に一々報告するのもどうかといった次第だ。
「ヒカル兄さま」
「あ、ユウダチ」
気づけば母親が料理をテーブルの上に並べ始めていた。ユウダチがとてとてと駆けてきて、ヒカルの隣に座る。
「ご飯を食べたら、ボナパルトを連れて公園に行きましょうです」
「そうだね」
「わたしは花園学園に行かなければならないですが、今日は始業式だけですし、午前だけで終わると思います。終わったらまた研究所に行って、ナエお姉さんと開発したパーツの調整を手伝ってもらいたいのです。ヒカル兄さまにも!!」
「良いよ。でも、学校も大切だからさ。誰か友達を作ってきてね?」
「はい、ありがとうございますです! 友人の候補についてはあてがあってですね。同学年にアトムの母方の孫娘の方がいらっしゃるようなので、勇気を出して声をかけてみようと思っています、です!」
あの一連の事件を乗り越えて、ユウダチは何事にも積極的になったようだ。
実の兄であるシデンに言われても渋々だった友人作りという課題を、今はこうして自ら、前向きになって試行錯誤している。
パーツの開発はぱぱっと行って見せるのに、友人作り一つに頭を悩ませる。これもユウダチにとっては大きな成長といえるだろう。
……それにしても。
「? 顔を見つめて、どうしましたですかヒカル兄さま。……はっ!? もしや朝にヨウハクを分解調整した時の油がついてますです!? ナエお姉さまに叱られるですっっ」
「あ、いや、大丈夫。何もついてないよ」
ヒカルが慌ててフォローするも、ユウダチは鏡で顔や髪型をチェックして初めて安堵の息を漏らす。
実際の所、ユウダチは美少女だった。
ぼさぼさだった髪はナエによる指導で整えられ、ツナギは制服へと変わり。油塗れだった身体も気にかけるようになっている。暗く薄暗いその瞳も、こうも外見を変えてしまえばミステリアスさという美点とも取れるわけで。……相変わらず、見慣れなければ淀んでいるのは個性だとして。
ガラクタの山に身を埋めて発掘してはほれぼれとする部分は変わっていないが、その後の手入れが入るだけでこんなに違うのだ。
しかも、ヒカルと共に事件解決の英雄となったユウダチは有名人である。
兎も角、女の子は別にしろ男子など友達になってくれと(視線をずらしながら)声をかければ一発だろう。
それこそ友達100人も夢物語ではない。確信。
「……ユウダチ。そのメダロット博士の親戚の女の子、絶対に友達にしておけよ」
「? はい。そのつもりですが……そうですね。ヒカル兄さまにも応援されたからには不退転、絶対捕縛の気合を持って友人を目指しますですっ!!」
「ふふふ。それとユウダチちゃん、男子には気軽に近づいちゃだめよ? お嬢様学校では貞節は大切にしなくちゃね」
「男は狼だからなぁ。気をつけるんだ」
「はいです。マイコ母さま、ベイスケ父さま!」
両親からの言葉に、ユウダチがどろりと微笑む。
いただきますと、手を合わせ……
「……おーいヒカルぅ。早く飯食って散歩に行こうぜ」
「御主人たちの食事の邪魔をするな、カブトムシ」
「あん? 何だよクワガタ。公園で決着つけてやろうか?」
「それで御主人の登校を遅らせていては本末転倒だろう。その程度も判らんか、カブトムシ」
「だーっ、喧嘩するなよメタビー!」
「ヨウハクも、無闇に煽らないことです」
アガタ家のいつもの光景。夕食の際にはナエも加わって、一層華やかさを増すだろう。
ヒカルは思う。これからもこんな暖かい日々が続けばいいと。
果たして、その願いは成就するのだが……それはまた、次代の動きが出るまでの、束の間の平和であったりする。
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・セーフティ
新世紀メダロットのあれ。演出として心地良い。
でもティンペットは昔の方がというのは、懐古ですかね。
・花園学園
歴史もある金持ちの御曹司たちが通う学園。
事件の顛末を聞き飛び戻ってきたムラサメ家の両親の他、孫同然であったアキハバラアトムの力もあって編入されたらしい。
次の舞台になることうけ合いである。
・ひよこ売り
特務捜査官。どこの組織に属しているかは秘密である。
ちなみにヒヨコは一匹100円。今の時代の子供たちに通じるネタであるのかは不明。
……昔は夜店に売っていたらしいのです。
・ヒカルの恋人
ナエとめでたくも付き合い始めている。
次の章からはひたすらいちゃいちゃするので胸焼けしそう。