おみくじ町。
花園学園のあるメダロポリスと呼ばれる都市から少し離れた位置にある、長閑な町だ。
その町の中央部に建てられている小学校、その校門の前に少年と少女が走りついていた。
「ここがおみくじ町だな」
「ですね。看板にそう書いてあります」
「まったく。お前がコンビニになんて寄らなきゃあ、もっと早くこれたんだけど……」
「ヒカル兄さまに会えて、わたしはご満悦ですが!」
「あのコンビニ店員か? でも苗字がムラサメじゃあなかったぞ?」
「まぁ色々とあるのです」
「お前なら確かに、色々あってもおかしくはないけどな」
コウジは何とも言えないユウダチの反応に、頭をがりがりとかいた。
その腕に巻かれている携帯式の端末、「メダロッチ」をみてユウダチはわざとらしく声をあげる。
「あ、最新型のメダロッチです!」
「……これか? これはこの間、メダロット社からメダリンク上位のメダロッターにお試しで配布されたんだ。お前の家も協賛してるんだろ?」
「ケイタイはムラサメの家も協力したですから。わたしも改良を手伝わせていただいたです。が、最新型となるとわくわくするです!!」
「お前は確かに、似合いそうだなぁ」
コウジが機械を弄繰り回しているユウダチの姿を想像して笑う。
暫くして、2人は目の前にある学校へと向き直った。
「それより行くぞ、ユウダチ!」
「うーん……それにしても本当にこの中にいるんです? スカート捲りの犯人なんて」
「あれから隠れやがって、メダロットを使って犯行を続けてるからな。……でも、いるかどうかは行って見なきゃわからない!」
「あー……コウジ、行っちゃいましたです。暴走ですね。引止めの時間稼ぎは失敗、と。カリンに申し訳ないです……。カリンに連絡はしてありますし、私はとりあえずコウジを追いますか」
◇◇
テンリョウ・イッキ少年はトレードマークのちょんまげを揺らし、頭を悩ませていた。
昨日は父から念願のメダロットをもらったかと思えば、幼馴染のアマザケ・アリカに引き連れられて町をうろうろ。かと思えば今日はジュンマイ・カリンと名乗る美少女と出会ったり……まあこれは役得な気がするが。
そうして今日は、ギンジョウ小学校に謎の2人組が突撃したという噂が流れ、校庭でロボトルが始められていた。
アリカと共に校庭を見れば、手始めにスクリューズと(本人達が勝手に)言う3人組が蹴散らされていた。しかも3対1だというのにだ。
「なってないな。チーム全員でオレのスミロドナットに攻撃を仕掛けてきてどうするんだ? リーダー機も突撃してくるし」
「う、うるさいよ! ……退散だ!!」
「あ、あねご~」
「どろんこだ」
悪ガキ3人組は最後にお決まりの台詞を言い捨て、逃げ散っていってしまった。
2人、突撃してきた少年と少女がぽつんと校庭に取り残されている。
イッキはその2名の姿を改めて観察する。道場破りかというような威勢の少年と、何やらどろりと首を傾げる少女だ。
「あっ! くそっ、聞き損ねた……」
突撃してきた少年がきょろきょろと辺りを見回し、
「お前達に聞くぞ!」
今度はアリカとイッキめがけて指差した。
イッキがびくりと身を引き、アリカはシャッターチャンスとシャッターを切る。
両者とも、正直なんの事だかは分からないのだが。
「ほら、行くわよイッキ! 取材よ取材!」
「やっぱり行くのかぁ」
アリカが乗り気に過ぎた。
観念したイッキは、校内に乗り込まれても困るかと、アリカに連れられ少年と少女の近くに歩いてゆく。
「……? この人達にも聞くのです?」
「ああ。……お前たち、この学校に、スカート捲り事件の犯人が居るんだろう!」
突如、少年が声を張り上げる。
イッキとアリカは顔を見合わせ、
「ちょっと、言い掛かりはよしてよね!」
「そ、そうだよ。そもそもスカート捲りって犯罪じゃないか?」
当然の如く反論する。あらぬ冤罪を黙って懸けられているほど、2人も聖人じみた人間ではない。
すると隣にいた少女がジト目。
「ほーらー、コウジ。こう言ってるですよ?」
「いや、まだだ。……おいそこのお前!」
「ぼ、ぼく!?」
「オレの名前はカラクチコウジ。オレとロボトルだ! オレが勝ったら、学校の中を案内して犯人を捜す手伝いをするんだ!」
「な、なんでー!」
流れがわからない! とイッキが抗議する。
ここでまたもアリカだ。イッキの耳元でこそこそとつぶやく。
(イッキ! カラクチコウジといえば隣町にある花園学園でも一番のメダロッターよ!)
(……判ったよ。ぼくにロボトルしろって言うんだろ?)
(そうそう! あたしは写真を撮らなくちゃいけないものね!)
このアリカという幼馴染はジャーナリストになりたいのだそうだ。
先日、自らのメダロット……過去にあったメダロットの暴走事件を解決した伝説のメダロットと同じ名前である……のメタビーが「謎の技」を発したときにもそうだった。
ロボトル暦は自分より長いというのに……と、イッキは愚痴を言いながらもコウジの前に歩き出る。
「わかったよ。それで君の気が済むならロボトルするよ」
「出番だな、イッキ!」
「……頼むぞ、スミロドナット!!」
「―― お呼びですか、コウジ」
イッキが了承しメダロットを転送すると、コウジも早速と愛機スミロドナットを転送。
その姿をまじまじと観察する。全身黄色を中心としたカラーリング。モデルとなったサーベルタイガーのような模様が各所に入れられ……何よりも目を惹くのはその右腕パーツか。
「でかい爪だな!」
「すごっ!!」
イッキとメタビーが驚声をあげた。
右腕は「フレクサーソード」という、「がむしゃら」「ソード」攻撃を実施するパーツである。青く枝分かれした爪が、握りこぶしの裏手から伸びていて、それを食らえば如何程の傷を受けるのかは想像すらつかない。
メダロッターとして上位の腕前を持っているコウジの威圧感もあるのだろう。イッキはやや及び腰だ。
「―― 相手をしてやろうぜ、イッキ!」
「! メタビー、お前」
「いいじゃんか。1対1でやってくれるっていうなら、勝ち目もあるだろ? やろうぜイッキ。男ならどんと構えてロボトルだぜ!」
イッキは少し溜息をつきつつ、勝利する可能性は……でも、確かに一対一なら初心者であるイッキにも勝ち目はあるのかもしれない。
何よりパーツを奪われるかもしれない当人であるメタビーが乗り気ならば、イッキ自身もやぶさかではない。強いメダロッターとのロボトルにも、怖さは確かにあるものの興味はある。どこかわくわくした気持ちだ。
「……うん、それじゃあ……」
と、心を決めたイッキが合意を口にしようとすると。
「―― 合意と見て宜しいですね!?」
「うわっ、どこから!!」
「流石は数々のロボトルをジャッジしてきた伝説のレフェリー、ミスターうるち……神出鬼没ね」
突如出てきたレフェリーにイッキは吃驚、アリカはシャッターを光らしていた。因みにコウジは半ば無反応。
身体の所々に花片がついていることからして、花壇にでも隠れていたのだろうか。それはそれで不審者である。小学校ですここは。
「それに吃驚していたら身が持たないぜ? さっさと準備しろよ」
「あ、ありがとう」
どうやらイッキに気を使ってくれたらしい。微笑むと、自らの対面に立つよう促してくれた。
「それじゃあ……行くぜ!」
「お相手願います、イッキさま、メタビーさま」
「おうよ!」
「い、行くぞ!!」
「ロボトルゥ、ファイッ!!」
開始と同時。
しゅんっ、という音だけが響いたように、イッキには聞こえた。
レフェリーの振り下ろした腕と同時かそれ以上の速さで地を蹴って、スミロドナットがメタビーへ肉薄する。
「―― む」
「そこだぁっ!!」
が、メタビーはしっかりとそれを捉えていた。
スミロドナットが振り上げる左腕の拳による
「そらっ!」
―― がつっ!
「うぉ!?」
「やりますね……」
コウジもスミロドナットも驚きの声。
あろうことか、メタビーは本来得意でない格闘戦でもって応じてみせたのだ。
打撃を、銃撃を行うための砲身を備えている右腕で弾き ――
「くっ……そのまま切り刻めっ!!」
「はいっ!!」
今度はコウジの指示によって右腕の大爪が振るわれる。
……勝負は最初の接近で、とメタビーは決めていた。
都合よく始めから最大の武器を使ってくるかは賭けであったが、コウジはやはり頭に血が上っているようだった。
突き出される右腕に、
「オラぁっ!!」
「なんとっ!?」
「蹴りで防いだだとっ!?」
こんどは脚部パーツ「オチツカー」を振り上げて相殺して見せる。
射撃攻撃を予測していたコウジと、スミロドナットの表情が再度の驚きに染まり、シャッターチャンスを逃さずアリカがフラッシュを焚く中。
「イッキ!」
「おお! ミサイル、撃てーッ!!」
メタビーの放ったミサイルが、我武者羅な攻撃の後で無防備になったスミロドナットの両腕から頭を爆破、破壊して見せた。
・メダリンク
電脳回線を利用したロボトルを行うことができる端末、およびそのランキングの事。
勝利ポイント制のため、参加数と勝率が重要になる……というのは独自設定。
・メタビー
世界大会で優勝し、メダロットの暴走事件「魔の十日間」を解決した伝説的メダロッターのカブトムシ型メダロットの愛称。
メダロッター自身の名前はあまり知られていなかったり。
・テンリョウ・イッキ
おそらくはメダロットで最も有名な主人公。ナンバリング2、3、4と外伝の主人公、旧世紀Gでは成長した姿で登場。新世紀ナンバリング7のレトルトポジションやデュアルにも出演。加えてアニメ化もした。
ちょんまげがトレードマーク。