ジャンクヤードの友人へ   作:生姜

21 / 73
7話 おどろ沼と幽霊④

 

 さて。

 カンちゃんの家を意気揚々と飛び出し、上流へと登る手管を探していたイッキであったが、現在、その目の前に ――

 

 

「フハハハハハ! 彩りましょう食卓を! 皆で防ごうつまみ食い!」

 

 

 贔屓目に見ても彼は変態であった。

 スーツとシルクハット。背にマント。顔には表情の読めないデフォルメの道化仮面を身に纏った人物。

 

 

「常温保存で愛を包み込むカレーなるメダロッター! 怪盗レトルト、只今参上!!」

 

 

 翻す。その言質の通り、彼こそが世を騒がす怪盗レトルトその人であった。

 怪盗、という呼び名がついたのには理由がある。彼は盗っ人でありながら、その盗みの対象はロボロボ団に限定されているのである。

 世間からしてみれば近世の義賊といった所か。ただ盗みは盗み。彼はセレクト隊からしてみれば捕縛の対象であって、日夜追いかけっこが繰り広げられているというのは周知の事実である。

 そんな怪盗レトルトは、見たとおりの変態ではあるのだが、しかし。

 

 

「……! かっこいいぃ!!」

 

「こいつ、大丈夫ロボか?」

 

「昨今の子供の感性はよく判らないロボ」

 

 

 そんな怪盗レトルトは、イッキの感覚からすればカッコいい以外の何物でもなかったので。

 イッキが眼を光らせているうちに、イッキを囲んでいたロボロボ団の団員達はさっさと逃げ出してゆく。レトルトはそれを追いかけず、イッキのそばに落ちていた一通の手紙を拾い上げて。

 

 

「ふっ……ロボロボ団め、逃げ去ったか。……これが必要だろう、イッキ君」

 

「あっ、これはカンちゃんの手紙!!」

 

 

 差し出された手紙こそ、イッキの探し物であった。

 あれからカンちゃんの家を出たイッキはおどろ沼潜水タクシーを行っているメダロットを発見。知り合いだという飛行型メダロットの落とした手紙を探し出すという条件で、おどろ沼の上流へと連れて行ってもらえる算段となっていたのである。

 手紙を見つけたは良いものの、何故かロボロボ団に囲まれてしまい。そこへ颯爽とレトルトが駆けつけたのだ。(ただしロボロボ団は勝手に逃げ出したが)

 イッキがレトルトから手紙を受け取ると、

 

 

「見えているものだけが真実だとは限らない。ふははは! 精進したまえ、少年!」

 

「あっ、レトルトさん!!」

 

 

 イッキが手紙を握り締めているうちに、レトルトは飛行型メダロットに掴まって何処へと飛び去ってしまった。

 

 

「お礼、言いたかったんだけどなあ」

 

「まあまたその内にあうだろ。それより上流に向かおうぜ、イッキ」

 

「そうだね。……着替えたいけど、元の服はまだ乾いてないんだよなぁ……」

 

「なんだイッキ、着物はお気に入りじゃなかったのか?」

 

「違うよ!? どうしてそうなった!?」

 

 

 荒げた声を聞き届けたのかロボロボ団の逃走を見届けたのか、手紙を無くした郵便メダロットがイッキの隣に降りてきて。

 

 

「―― あ、それもしかしてカンちゃんの手紙ぃ?」

 

「うん、そうだよ。ハイこれ」

 

「うわぁ、ホントにアリガトぉ。これで配達できるヨォ」

 

 

 手紙を受け取って、郵便メダロットが空へと戻ってゆく。

 よし。レトルトの出現は予想外の出来事ではあったものの、ロボロボ団の姿も確認できた。

 行こう、と気を引き締めてイッキは上流へと向かう事にした。

 

 

 

 ◇◇

 

 

 

 おどろ沼の支流を遡ると、洞窟に行き当たった。

 事前に幽霊騒ぎで盗まれたパーツを(自分たちの物にするために)取り返しに行く、と話していたスクリューズの3人を別個にロボトルで撃破しつつ、イッキは更に上を目指す。

 すると、そろそろ上流かという頃合、中途にぽっかりと開いた洞窟があった。

 イッキが足を止めると。

 

 

「―― ばぁ!!」

 

「うぅわっ!?」

 

「こわいだろー、おそろしいだろー。パーツを、置いてけー!」

 

 

 その中からメダロットが飛び出してきた。

 イッキの周りをぐるぐると動き、パーツを置いていけと脅している。が、メダロットだと判れば実態のあるものだ。恐怖はあまり無い。

 むしろ、イッキの視線は違う所にあった。そのメダロットのボロボロになったボディである。

 ……恐らくこの子がカンちゃんの話していたヤナギというメダロットだ、と、イッキが語りかけようと。

 

 

「ねえ、君 ―― 」

 

「置いてけー! ……置いていってよう。置いていかないとー、カンちゃんの所に帰って……こな……いぃいぃ」

 

「!? 大丈夫っ!?」

 

 

 した所で、ヤナギと思われる幽霊型メダロットが地に落ちて動かなくなっていた。

 慌ててその身体を抱きかかえれば、関節もスキンも傷だらけ。動きは鈍く、脊髄を担うパーツは今にも折れそうになっていた。

 

 

「一体、誰がこんな事を……」

 

「―― ふむ? 誰が来たかと思えば、こわっぱ1人か」

 

「!?」

 

 

 洞窟の中から続いて表れた大男に、イッキは思わず身構える。

 しかし身構えたのは正解であった。大男は全身に黒のタイツ、サングラス。頭には2本角と、レトルトの事を言えないような姿をしていた。変態という意味で。

 大男はイッキの前の前に立つと、

 

 

「せっかく集めたパーツを持ち帰る所だというのに、邪魔を入れさせるわけにはいかないのう」

 

「! な、何を!!」

 

 

 こちらの言う事には全く耳を貸さず、間を開けた。

 それは丁度、ロボトルが出来るくらいの間隔。

 ロボロボ団幹部、シオカラの身体から威圧の意が発せられ、圧されたイッキがたじろぐ。

 

 

「―― どれ、わしが相手をしてやろう」

 

「やるぞっ、イッキ!!」

 

「……うん!」

 

 

 おどろ沼の事件を締めるためのロボトルが、始まった。

 

 

 

 ◇◇

 

 

 

「ったく、どこに行ったんだよイッキのやつ……」

 

 

 その頃カラクチコウジは勝負を中断し、その相手であるイッキの捜索に走っていた。

 アリカやカリンから連絡を受け、ユウダチも探しに行ったという。流石に人命は大切だ、と、下流へと向かう。

 コウジは上流にロボロボ団が居ると睨み、随分と上まで登っていた。そのため下流を目指していると、中流にまで差し掛かる。

 角を曲がり、見下ろすと、そこには。

 

 

「……イッキ!! と、ロボロボ団か!?」

 

 

 眼下に広がる岩場の真ん中で、イッキとメタビーがロボロボ団と思われる大男と対峙していた。

 コウジが救援にそちらへ、急いで駆け寄ろうとする……のだが、その前に。

 

 

「……。……」

 

「っ、誰だ!?」

 

 

 誰かが無言のまま、道を遮るように立っていた。

 金魚鉢……いや、雑魚の団員達が被っているものとはまた違う。水晶玉の様に丸く、しかし素顔は見えず、その周囲を惑星が持つ円環のような線がぐるりと取り囲んでいる。

 ただし、全身タイツではなくゆるりとしたマントの様な外套を羽織っているが……

 

 

「そこを退いてくれないか? オレのライバルが向こうで戦ってるんだ」

 

「……来て欲しくは無かった」

 

 

 とだけ小声で囁き、ゆらりと手を掲げた。その腕には、最新型のメダロッチ。

 戦意を感じる。コウジは仕方が無いか、と自らのメダロッチを前に突き出し。

 

 

「―― 合意と見てy」

 

「良いから早く始めてくれよ。一刻を争うんだ」

 

「……、……」

 

 

 飛び出してきたレフェリーには微動だにせず、合意。

 自らのメダロットであるスミロドナット1体と、応援による充填・放熱の補助を得意とするネオサクラちゃん1体。

 そして。

 

 

「お前も頼んだ、ブラックメイル(ラムタム)!」

 

「―― だいじょーぉぶ!」

 

 

 ここは負けてはならないと秘蔵っこのブラックメイル、ラムタムを3体目として呼び出した。

 相手のメダロットを確認しようとコウジが面を上げる。

 

 

「……。……来て」

 

 

 微妙にあった気のする間のあと、1体、メダロットを呼び出した。

 呼び出されたメダロットは1体。コウジは油断はせず、しかしその姿を観察する。

 

 

「呼んだのか、御主人」

 

 

 ゆらりと立ち上がり、主人とコウジとの間に立ち塞がる。

 薄灰色の身体に、長いく垂れたアンテナ。釣りあがったカメラアイと、右手から伸びる剣。左手の拳は打撃のためにスパイクが着いている。

 コウジ自らの持つスミロドナットと同様の格闘専門の機体 ―― 確か、カミキリムシ型のメダロット、「エイシイスト」だ。

 

 

「……ん」

 

「心得た ―― それでは開始を、うるち殿」

 

「……はっ!! そうですね!」

 

 

 何故かメダロットに促され、放って置かれたミスターうるちが再起動する。

 コウジとメダロット達が身構える腕を掲げ、

 

 

「それでは! ロボトルぅ、ファイトォ!!」

 

「―― いけっ!」

 

 

 コウジが3体を動かす。

 リーダー機に指定したさくらちゃんにはブラックメイル(ラムタム)の応援を、スミロドナットには比較的充填の早い左腕のハンマーでの攻撃を命じる。

 スミロドナットがエイシイストへと殴りかかり ――

 

 

「遅い」

 

「なっ!?」

 

 

 その打撃を悠々と回避。

 次いで駆け寄ったブラックメイルも、

 

 

「……だいじょぉー、ぶ!」

 

「狙いが甘い。もっと正確に振り下ろせ。……ツェア!」

 

「だいzy……bu?」

 

 

 噛み付いた瞬間に頭部をカウンター気味に弾かれ、次いで放たれた斬撃に機能を停止した。

 信じられない素早さという訳ではない。ただ、熟達された足運びと身の振りようで、異様に隙がない。

 コウジはなんで最近はこうも規格外なメダロットと当たってばかりなんだ! と、悪態をつきたくなるのを押さえ、

 

 

「さくらちゃん、前へ! スミロドナット、放熱の間回避!」

 

「判ったコウジ!」

 

「よーろれいひー♪」

 

「同じ黒山羊でも手応えが違うな……次は、そいつか」

 

「よろれいひー?」

 

 

 またも一撃。

 エイシイストが袈裟掛けに振り下ろした左腕の打撃は、スミロドナットを庇ったさくらちゃんの左腕を殴り壊した。

 今度はたまらずスミロドナットが前に出て、大爪を振り下ろし。

 

 

「喰らえっ」

 

「むっ、放熱が……」

 

 

 と言いつつ、エイシイストがフレクサーソードの前に構え……全体重を掛けた一撃を、身体を逸らし、脚部にだけ掠らせた。

 スミロドナットが顔を上げる。エイシイストは既に放熱を終えていた。

 

 

「――防御にもコツという物がある。……御免!」

 

 

 右腕の刀身を、間近に居たスミロドナットに振り上げる。

 スミロドナットの両腕が吹き飛び、それでも。

 

 

「……ぐぅ……まだまだやれる!」

 

「成る程。仕留めきれないとは、中々にやる」

 

 

 吹飛ばしたスミロドナットからやや距離を置いたまま切り払い、エイシイストは放熱を始めた。

 コウジは両腕を破壊されたスミロドナット、左腕を破壊されているネオサクラちゃんという攻撃手段の無いメンバーだけが残った事を確認し、歯噛み。

 

 

「……くっ、このままじゃあ……」

 

 

 時間切れを狙っても勝ち目は無い。しかし、このままイッキとロボロボ団のロボトルに合流されるよりはましか。

 そう考え、コウジは長期戦にする事を決め込んだ。

 しかし、

 

 

「……。……あ」

 

「む? あちらの幹部と少年の決着が着いたか」

 

 

 水晶玉を被った人物が声を発した。コウジもそちらを見れば、

 

 

「……いっけぇ、メタビー! フレクサーソードッ!!」

 

「ミサイルを打ち切ったオレが近接戦を出来ないと思ったら、大間違いだ!! ……どぉぉぉりゃあああ!!!」

 

「むぉっ!?」

 

 

 相手のロボロボ団のリーダー機に向かって、満身創痍の様子のメタビーが……コウジとのロボトルで手に入れた……「フレクサーソード」の大爪を振り下ろしていた。

 両断されたリーダー機。大柄なロボロボ団は喜ぶイッキたちを尻目に、コウジ達の居る側へと恐ろしく早いスピードで逃げ出してきて。

 

 

「……む? シュコウではないか。ふぉっ、ふぉ。敗北だ。パーツの回収は諦めて逃げるぞい!」

 

「……そう」

 

「シオカラ殿。同じ幹部ともあろう物が情けない」

 

「うるさいぞ! 逃げるったら逃げるんじゃ!!」

 

「……」

 

「ふむ。仕方があるまい。承った、御主人」

 

 

 無言で差し出したメダロッチへ、エイシイストが戻ってゆく。

 幹部と呼ばれたシオカラの後ろを、シュコウが追って逃げ出し……

 

 

「……向こう、パーツある」

 

「?」

 

 

 コウジの方を振り返って言い残し、後は一目散に退散して行った。

 気の抜けたまま指し示された方向を見れば、イッキが洞窟へと入っていく所だ。戦力のない今のコウジでは、ロボロボ団を追う事は不可能で。

 

 

「……行くしかねえか」

 

 

 メダロット達を携帯機へと収め、コウジはイッキへ助力をするべく、岩場を駆け下りて行った。

 

 

 

「……あのー……ロボトルは?」

 

 

 

 ミスターうるちはどこか悲しげだった。

 

 

 

 

 

 

 結局パーツ強奪の事件は、ヤナギという幽霊型メダロットの仕業だったと言う事で落ち着いた。ボロボロだったヤナギは再び現れた怪盗レトルトによってメダロット研究所へと送られ修理を受ける事となった。

 集められたパーツも、ロボロボ団が持ち出すのを阻止できたおかげか、全て所有者の元へと戻すことができていた。

 着物を着ていたイッキがまたも隠れてしまったためセレクト隊の手柄とはなったものの、事件さえ解決できていれば文句はないと、イッキとコウジは普段通りにおどろ沼から帰還。コウジからは「お人好し過ぎるぜ」との苦言をいただいている。

 事のあらましをアリカとカリン、最期までイッキを捜索してくれていたユウダチへと報告。こうして一応の収穫を得て、おどろ沼におけるパーツ強奪事件は解決となった。

 





・シュコウ
 本作で追加されたオリジナルのロボロボ団幹部。
 酒肴(シュコウ)
 駄作者私は隠す気が無いことが伝われば幸い。

・エイシイスト
 メダロット2のcmから「パスワード入力」という驚きの手段で入手できるカミキリムシ型メダロット。
 頭部によって攻撃力をブーストされて繰り出される「がむしゃら」「ソード」は超威力。
 ただし装甲が悲しいほど薄い。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。