ジャンクヤードの友人へ   作:生姜

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19話 魔物とブルーハワイ

 

 予想通りというか、海の上に延々と続く木箱を歩いてゆくと、その所々(主に箱の中)にロボロボ団員が隠れていた。

 しかし彼または彼女らは、上司にあたるシュコウが声をかけるとむしろ喜んで檻の中へと戻ってくれる。諍いにならないのは幸いといえた。

 因みに名誉のために言っておくが、ロボロボ団員彼等が被虐的趣味をしている訳ではない。コーダイン王国に投げ出されたロボロボ団員たちは漏れなく魔物の餌食となり酷い目に合わされていたらしい。

 こんな所には居たくない、帰れるのであれば大人しくしているロボ……という流れなのであった。

 

 

「それで、どこまで行けば良いんだろ?」

 

 

 都合50分は海の上に浮かんだ箱の道を歩いてきているのだ。イッキの当然の問いに、隣に居たシュコウがすうっと腕を上げた。指をさす。前方。

 

 

「……あれ」

 

「あれ……って、何だ!?」

 

 

 イッキは思わず大声を上げた。が、それも仕方の無い事。

 指差された先には、デフォルメされた巨大なクジラが浮かんでいたのである。

 事前情報から察するに、プース・カフェというメダロットによる幻影なのだろうという察しはつくものの、それでも不安になることこの上ない姿であった。

 しかも。

 

 

「助けてロボ~!?」

 

 

 そんなクジラの髭の並んだ口の中へ、海に浮かんでいたロボロボ団員が次々と飲み込まれて行くのだから堪ったものではない。クジラという生物の概念を覆す肉食ぶりである。

 

 

「あの中……行くんだよね、やっぱり。何だかなぁ」

 

「……見られてる。多分、ナイトメアメダロットも中に居る。……お願い」

 

「―― 呼んだか、御主人」

 

「あの島まで」

 

「また私に珍妙な格好をさせたかと思えば、この為か」

 

 

 言うが早いか、シュコウはマントのまま海へとざぶり。ブルーサブマリンという潜水移動が得意なメダロットを呼び出し、その手に掴まった。

 イッキも慌てて海へと飛び降り、

 

 

「……掴まって」

 

「う、うん」

 

「行くぞ」

 

 

 その手を掴み、海面を掻き分け、イッキ達は夢見るクジラへと突撃を慣行した。

 

 

 

 ◇

 

 

 

 クジラの口の中へ能動的に潜入。

 見立ての通り中は小島となっており、所々にロボロボ団の団員が倒れ臥していた。戦後という雰囲気ではないが、誰も彼もが悪夢によってうなされているのは十分に不気味である。

 そして、その奥に。

 

 

「―― キミも、遊ブ?」

 

「ブランドのバッグがぁ……!?」

 

 

 プース・カフェというペットネームを付けられたナイトメアメダロット……ユートピアンが紫の身体を揺らして宙に浮かんでいた。

 その前には頭を抱えた全身黒タイツの女幹部……スルメとか言ったか……が、プース・カフェを守るようにして立っていて。状況から察するに、ブランドのバッグが目の前から逃げていく夢でも見ているに違いない。

 

 

「……多分、混乱してる」

 

「うーん。遊ぶ……って、もしかしなくても、ロボトルだよなぁ」

 

「ウン、ソウ。遊ブ?」

 

 

 プース・カフェの問い掛けに、イッキはシュコウを見た。遊び(ロボトル)を挑まれているのはイッキとシュコウの2人。確認のための視線だ。

 

 

「いいよ。ロボトル。換装する」

 

 

 シュコウが表情の見えない水晶玉の頭でこくりと頷く。ブルーサブマリンをケイタイの中へと戻し、パーツを弄り出す。

 すると。

 

 

「オオット、オモシロソウなパーツだネ!」

 

 

 その様を見ていたプース・カフェが嬉しそうに表情(モニター)を変化させた。

 ……シュコウを見つめ。

 

 

「ウン! ……ヨーシ、全力ダヨッ」

 

 

 突如、モザイクの様なもやに包まれる。

 ……再び姿を現した時、プース・カフェの姿はカラーリングを残して別の機体へと変貌を遂げていた。

 シュコウの水晶玉の内から声が響く。

 

 

「……!? 何で貴方が?」

 

「アハハ。キミにとっての悪夢、ダヨ?」

 

 

 姿を変えたプース・カフェは、あくまで笑顔でシュコウを見下ろす。

 その身体は、紫主体のカラーリングは変わらず。頭から広がるは大きな布状の耳。浮遊してはいるものの、生えた二脚の後ろから生えた尻尾を有線の槍のように両手に構えた。

 

 

「シュコウ……知ってるメダロットなの?」

 

「……」

 

 

 イッキは反応から、またプース・カフェの言葉から、シュコウの記憶にある機体なのかとイッキは問いかける。

 しかし残念ながら、返答は無い。無言の後、シュコウは淡々とメダロットを転送する。

 

 

「……お願い」

 

「……む、またカミキリムシか。しかし、相手はあれか、御主人」

 

 

 エイシイストがシュコウの前で右腕を構える。

 表れたエイシイストの前には、スルメが立ち塞がり、花園学園でも相対したメダロット……ストンミラーを呼び出した。

 

 

「あ、あああ、宝石~!?」

 

「うねうね」

 

「フフフッ、遊ブ、遊ブ!!」

 

 

 呻くスルメ。飛び回るプース・カフェと、うねうねと頭のケーブルを動かすストンミラー。

 ストンミラーは放熱中のパーツを暴発破壊させられる攻撃、「デストロイ」を扱うメダロットだ。パーツの使用タイミングを選ぶ必要があるため、メダロッターの指示が大切になってくる相手と言える。

 イッキは唾を飲み込む。2vs……あくまで遊びだとすると、勝負の前に相手の機嫌を損ねても良い事は無い。こちらも2体に限定しておくか。となると、やはりメタビーだろう。メタビーを目の前に転送しようと、と。

 

 

「……イッキ、さっきの質問に答える。あれは、フィーラーっていうメダロット」

 

 

 ロボトルに影響すると踏んだのだろう。シュコウが、相手のメダロットについて説明を始めてくれた。

 当然ながら、幾らイッキがメダロット好きとはいえ全てのメダロットを知っている訳ではない。フィーラーという名前には全く心当たりが無かった。

 

 

「フィーラー? それって……」

 

「知らなくて当然。フィーラーは、……もにょもにょ……の家が開発してる新型のNMR(ナイトメア)型メダロット。ユートピアンの後継機に当たる」

 

「後継機!?」

 

 

 時代がおかしい事になっているが、ナイトメアシリーズのユートピアンと言えば現行の最新型メダロットである。その後継機となると、それは未だ実在しないテスト機もしくは販売を見合わせている段階であるはずなのだ。

 イッキとしては、なんでそんなメダロットがと言いたくもなるのだが、それはシュコウにも判っていないのだろう。水晶玉の向こうからは、困惑しているのであろう雰囲気がありありと伝わってくる。

 イッキは落ち着こうと心で繰り返しながら、思い返す。……キミにとっての悪夢、とプース・カフェは言った。だとすればこの機体……ユートピアンの後継機たるフィーラーは、シュコウにとって。

 

 

「……シュコウ、君のメダロットにリーダーをお願いして良い?」

 

「? なんで」

 

「君が知っているメダロットなら、その対策も出来るんじゃないかな。僕とメタビーも君の指示に従うよ。……転送!」

 

「―― へっ。まぁ、今回だけだぜ、イッキ!」

 

 

 即座に組み立てられたメタビーは早速とイッキの前に出て、フレクサーソードをフィーラーに向けてみせた。

 シュコウの前に出ていたエイシイストは、そんなメタビーの様子を見やって。

 

 

「―― やって見せてはどうだ、御主人」

 

「……」

 

「例え相手が家の開発している機体だとて、わたしにとっては関係のない事だ。御主人の前に立ち塞がる障害は ―― 斬って捨てるのみ」

 

「おお、良いこと言うねえカミキリ虫」

 

「ふん。貴様には言っていないぞカブトムシ」

 

「ケンカは売らないでくれないか、メタビー」

 

 

 こんな状況でも小競り合いをしだしたメタビーを宥めつつ。

 改めて、イッキはシュコウの方へと振り向いた。

 

 

「それで、どう?」

 

「……わかった」

 

 

 問われたシュコウは、返答にと腕を差し出していた。

 決まりだ。メタビーとエイシイストが同列に並び、ストンミラーとフィーラー(プース・カフェ)が前後に並ぶ。

 真っ先に動き出したのは、ストンミラー。モチーフである「蛇」……神話にあるメドゥーサを模したケーブルをうねらせながら、砂浜を一歩、踏み出す。

 シュコウはそれを見て、早口に呟く。

 

 

「気をつけて。フィーラーは『混乱』と『デストロイ』を使う」

 

「となると、相手はどっちも『デストロイ』使いって事か。……アンチエアは?」

 

「効くけど、ここは海岸。海の中に逃げられたら対空弾頭は意味が無いから、オススメ出来ない」

 

 

 ぎりぎりイッキだけに聞こえる程度の声量だった。

 確認を終えるとイッキとシュコウは、メダロット達の後ろでメダロッチを構える。

 プースカフェが喜色を満面に飛び回り。

 

 

「イイかい? ―― イクヨッ! ロボトルぅ、ファイトォーッ!!」

 

「うねり……うねうねー」

 

 

 遂に駆け出したストンミラーによって、ロボトルが始まった。

 正に特攻、待ちかねたと言わんばかりの勢いで突っ込んでくるストンミラー。警戒したエイシイストが横に飛ぶと、ストンミラーはすぐさま近場に居たメタビーに狙いを付けた。

 

 

「うねっ」

 

「うお!? 何で射撃(デストロイ)とか無視して突っ込んでくるんだコイツ!?」

 

「もしかして、メダロッターだけでなくメダロットの方も混乱してる……!? メタビー、出来るだけ距離をとって射撃に徹しろ!」

 

「出来るんならやってんだよ!」

 

「うねーるうねーる」

 

 

 そのまま、メタビーとストンミラーは追いかけっこを始めてしまった。

 しかし僚機がその隙を逃すはずも無い。薄灰色の身体が、ストンミラー目掛けて跳ぶ。

 

 

「うね……」

 

 ―― っがん!

 

「……ruっふう」

 

「―― 余所見をしているからそういう事になるのだ、蛇女」

 

 

 横合からエイシイストが割り込み、ストンミラーを左腕の打撃(ハンマー)で吹飛ばした。

 錐揉み状に吹っ飛んだストンミラーは、フィーラーの前まで転がり……砂塗れになりながらものそりと起き上がる。

 

 

「うね、る」

 

「ウーン……バッグ……」

 

 

 既にスルメからの指示はない。彼女は中空を見て笑っているだけだ。ストンミラーは、本来のメダロッターの手の内を離れて動き出している。

 

 

「ウフフフ!」

 

 

 スルメとはまた違った笑いを浮べるフィーラー(プース・カフェ)の前に、ストンミラーは壁のように立ち塞がり ――

 

 

 ―― ぼんっ!!

 

「!? どうしたカミキリ虫!?」

 

 

 突如響いた爆発音に視線が集まる。

 

 

「いや……知らぬ間に、あのメダロットから攻撃を受けていた様だ」

 

 

 視線の先では、外皮だけをぶら下げ骨格(ティンペット)をむき出しにしたエイシイストが、デストロイによって破壊された左腕をぶらぶらと揺らしていた。

 綺麗に抉られた装甲とマッスルチューブを意に介せず、エイシイストは直ぐに姿勢を低く構え。

 

 

「……大丈夫?」

 

「刃は問題ない、御主人。……しかし、一筋縄ではいかぬか」

 

「―― フフフフ。夢の中で苦しむんダヨ!」

 

 

 主の問いにだけ応じ、悪夢の如く笑うメダロットに向けて、エイシイストが再び走り出す。

 

 




 ひとまずの再開です。
 自分縛りのルールは変えず、今日書いたものだけを上げておこうと思います。



・ストンミラー
 メダロット2の看板メダロットの1体。
 デストロイという新要素の塊を装備し、一見さんを恐怖のどん底に陥れた。
 いや、貫通するとかぅぉぃ(恐怖
 ……実は、漫画版でも重要な役目を担っており……?

・プース・カフェ
 姫様が持つナイトメアメダロット、「ユートピアン」の1体。他にもモッキンバードとかいう個体やらが存在する。
 悪戯にしてはやり過ぎな気もするが、古代なので気にしない方向で。
 そして悪戯に対する行政側の処置も間違っている気がするが、古代なので以下略。

・海の中
 3では深海と思われる場所でコウジがパートナー(二脚)を無造作に走らせていたので、多分飛行型でも大丈夫かと思われます(ぉぃ。
 その際の二脚型の反応からして、一応水圧とかに阻害はされる様子。いえ。もっと色々問題はあると思うのですけれどね。気密とか。
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