イッキが再び昇降機に乗り込み管制室に着くと、そこに先ほどまでは無かった人物が増えていた。
「コウジ! どうやってここに!?」
「お前ばっかり良い顔をさせてはおけないからな。メダロット博士に『風の翼』を借りて、発着場から突入したんだよ」
飛行型メダロット達が大勢乗り降りをする浮遊要塞である。確かに、十分な広さを持つ発着場があるのが筋だろう。ただ、そこへ単身突入するというコウジの思い切りの良さは流石だなと、イッキは感心しつつ。
「それより、そっちのロボロボ幹部とウォッカから聞いたぜ」
「あ……ウォッカ!」
「―― ご迷惑をお掛けしました、イッキさん」
レバーの前に座ったコウジが後ろ指に。その先に蜂型メダロットプロポリス ―― ウォッカが座っていた。すっかり普段の丁寧な様子を取り戻したウォッカは、近寄ってきたイッキに一礼しつつレバーを握る。
サイレンによって正気を失っていたのでは……というイッキの疑問に答えるべく、斜め後ろで、コウジが解説を加える。
「この管制室に来る途中で何とかロボトルで決着をつけられた。一応、正気には戻ってくれたみたいだぜ?」
「ううん、それより無事で良かったよ!」
「ええ、あわわわ……」
腕を取って喜びを示すイッキと、がたがたと上下に揺れるウォッカ。
……そんな様子を暫くは眺めていたが。
「あー、話を続けても良いか?」
「あ、ごめんねコウジ」
「まあ良いけどよ。時間がないんだろ」
「うん。不時着、だね」
ヘベレケ博士が去って尚残された問題……燃料切れによるフユーンの不時着である。
2人は顔を見合わせ、ウォッカに視線を。ウォッカから視線を受け取った水晶玉が、遠くのコンソールからマイクを通して返答する。
『……人数はこれで足りた。説明するよ。この浮遊要塞は、サイプラシウム結晶の縮小と共に段々と高度を下げていき、閾値を越えた所でセーフティを残した全ての機能を停止する』
「……いきち? せーふてぃ?」
「……こいつにも判りやすく説明してくれ」
首を傾げたイッキに、やや呆れつつコウジが促す。
コクリと頷き。
『要するに、燃料が切れた時点で一気に落ちる。残してあったエネルギーは、艦内の衝撃緩和にだけ使われる』
「つまり、少しずつ落ちて行ってる今の状況でも油断できないって事だな」
付け加えたコウジの言葉に、イッキも事態の深刻さを改めて実感する。不時着という言葉が現実味を帯びてきているのだ。
ごくりと唾を飲み込むと、マイクの向こうで腰を上げる音が聞こえた。シュコウが立ち上がったらしい。
「シュコウはどこかへ行くの?」
『外部から援護する必要がある。詳しい操作の説明はカリンから聞いて。……じゃ』
説明は終わりだと通信が切れる。
外部から……? と疑問を浮べたところで、イッキの隣にカリンがやってきた。
「始めましょうイッキ君、コウジ君」
「おう!」
「うん。宜しくねカリンちゃん」
時間はない。2人の同意を受けて、カリンがシュコウから教わった操作をコウジとイッキにレクチャーする。計測機器の数字に応じてレバーを動かすだけのため、小学生でも何とか可能な範囲だった。
必要な部分にはウォッカが補足を挟み……がくん、と船体が揺れた。
「……! もう、限界が近いみたいです! 皆さんレバーを!」
ウォッカがやや焦った様子で声をあげた。コウジとカリンが元の席に着いた所で、イッキも操縦席に腰を下ろす。隣には増援としてメタビーが座った。各自、ベルトを袈裟懸けに。
ぐぐぐ、という唸りを上げ ―― 窓の外の景色が、移り変わる。
「イッキさん、コウジさん!!」
「やってる!」
「お願いだっ……!」
安全装置用のエネルギーを外部推進剤の燃焼に回し、船体を3点で安定させる。
レバーを引くたび船体がどちらかに傾き、少しずつ地面が近付く感覚。
―― ズ、ズゥン。
縦に僅か揺れて、フユーンは着地した。辺りの木々から鳥達が一斉に飛び立ち……しかしそれ以上なにかが起こる気配も無い。不時着が成功したのだ。
イッキは安堵の息をもらし……しかし。
「……なんだ!?」
隣で操縦桿を握っていたメタビーがぶるりと震え、モニターの眼を丸くしていた。
「どうした、メタビー?」
「……いや」
イッキからの問い掛けに、メタビーは暫し悩む。
船内と、いつの間にか外にも集まっていた飛行メダロット達が歓喜の声を上げる。不時着に成功したのだ。喜ぶのは当然の流れ。
「……何でもない、のか?」
その歓喜の環の中でメタビーの疑問はかき消され、他の耳に届くことは無かった。
◇◆
おみくじ町の南、開墾半ばの空き地を大きな影が覆った。
影……浮遊要塞フユーンは見た目穏やかに北上してゆく。止まる気配はみられない。
飛行メダロット達が周囲を無数に取り囲み、しかしサイレンも無く既に正気を取り戻している彼らは、何をするでもなく飛び続けていた。
すると、円盤状の要塞の外壁の一部がかぱりと開き、中から水晶とマントの人物が這い出してくる。
「―― 飛行メダロット達も、こっちの邪魔をしないのならば、それだけでもありがたいです」
這い出した人物はそう言って空を仰ぐと、梯子を掴み、フユーンの上へと登り出た。
上に立ち、メダロッチを掲げる。
「ふぅ。風が強いですが……行きますです、ヨウハク!」
転送。
しかし、現れたメダロットはすぐさま、カミキリムシからパーツが組み替えられる。
「さあさ、改修したパーツのお出ましなのですっ!!」
ティンペットに光が灯る。
バラバラになった部品が一点に収束してゆく。
頭に、胴に、両腕に、足に。
ヨウハクと呼ばれたメダロットは、全身にパーツを纏って、強風の中に降り立った。
「―― この状況。正しく要事だな」
白を基調としたボディ。
関節と装甲、アサルトアーマーと割り切った大胆なフォルム。
コミュニケーションモニターを覆うバイザー。右の剣、左の拳戟。
バランスのとれた格闘攻撃を得意とするのが伝統である、クワガタムシを模した「ヘッドシザース」の後継機。
ムラサメ社謹製のKWG型メダロット ―― ソニッグスタッグは、膝をつきながらフユーンの情景を見回した。
「あの子どもらに管制室を任せ、ここでわたし達が成すべき役目は、縦ではなく横の押し合い。垂直に落ちるための、推進力の減算だな」
「はいです。全力全開ですっ!」
「ふむ。だが確かに、この力を争いではなく救う為に使い得るのならば、遠慮も必要ないか」
ヨウハクがそのまま外壁から飛び降り、空中で身体が「組み替えられて」ゆく。
ロボトルリサーチ社という分室に力を割かれ、今ではメダロット社傘下の一部門に押し止められているムラサメの家が、それでも率先して研究していた、メダロット社に対抗する為の技術 ―― 「
「変形完了だ。……参る!」
二脚歩行から戦闘機の様な姿に変形を行ったヨウハクは、後方からブースターを噴かし、フユーンの前へと回り込む。
ここでフユーンのエネルギー残量が閾値を下回る。がくりと、目に見えて高度が低下……未だおみくじ町南、400メートルの高さ。推進速も60キロを保ってしまっている。フユーン程の大質量が推進力を残したまま落下した場合、おみくじ町が巻き込まれるのは確実だった。
猶予は無い。せめても声をとシュコウは水晶を取り外し、どろりとした眼を見開いた。
大口、叫ぶ。
「っ、心のままに! お願いしますっ、わたしの友達!!」
「心得ている、我が友」
強風の中で聞こえないはずの声は、メダロッチを通して交わされる。
フユーンの鼻先に取り付いたヨウハクが、応えるように叫ぶ。
「 ―― オオオオオオッ!!」
ブースターで燃やされた推進剤が青く、青く光る。
ソニックスタッグとフユーンが押し合う。互いに轟音をあげながら、まずは、べこっという音と共にフユーンの
空間の歪みは拒絶するように波うち、暫くの均衡。
が。
バキッ。
「―― ッ!! 流石の質量だっ」
均衡に耐え切れず、変形したソニッグスタッグの右翼が僅かに凹んでいた。
少しずつ歪みが圧され始める。ゴムの張力を振り切る様に、歪みが潰され始めている。
それでも。終わらない。
「大変だネー?」
「協力するヨー!」
「そーレッ!」
初めは一機。
だがしかし、一機、また一機とフユーンの横に正気を取り戻した飛行メダロット達が取り付いて、フユーンの推進力を減らしてゆく。
ブースターの光が無数に集まり ―― 遂に直上、フユーンはその前進を止めた。
管制室の操作に応じて、時折フユーンの非常用推進剤がばしゅばしゅと噴出すが……船体は安定していない。
状況を読み取り、少女がメダロッチを通じて指示を出す。素早く。ごうっとブースターを噴かして、ソニッグスタッグが今度は下へと回り込む。
「―― 今こそッッ」
全力を。
ソニックスタッグを中心に、浮遊要塞の下方を支えるように、その背部から。
びりりと、空間が大きく歪む。
透き通った電気色の薄羽が、開いた。
不思議な力に支えられるようにゆっくりと、ゆっくりと、円盤は空き地へと降りてゆく。
外壁を削る事無く。大地を滑る事無く。考える限り穏やかに、浮遊要塞は不時着した。
その上方で、少女がぴょんぴょんと跳ねた。所々の外装を凹ませたソニッグスタッグは着地の寸前に転換し、主のもとへと帰ってくる。
「―― よくやってくれましたです、ヨウハク!」
「私だけの力ではなく、飛行型メダロット達にも助けられたがな」
「結果よければ全てよし、です!」
自らのメダロットの両腕を掴みぐるぐると回る。
ひとしきり飛び回っていたが、そこで、おみくじ町の側から大勢の人々が駆けて来るのが見えた。
少女は掌を目の上に当て。
「おー……人だかり。さて。セレクト隊が来る前に退散です」
「……ふむ。だが決戦はいずれにせよ避けられまい」
「ですです。ヘベレケおじさまのアトムに対する執着心は予想以上でしたからねー。せめて和解とは言わずとも、力技にさえならなければ良かったですが……」
「あの様子では土台無理な話だな」
「ええ。聞く耳持たぬとはあの事です。……ま、そのために私が居たんです。招待しましょうです、イッキ達を……メダロッ島の地下に」
「良いのか? 折角出来た友人たちなのだろう」
「寂しくは思うです。でも、ですが、今はヨウハク達も居てくれますです」
シュコウは被っていた水晶とマントを外すと、黒髪を風にさらす。
それら変装の為のグッズを掲げ。
「この事件が終わったらこれはレイニーたちにでもあげましょうかね、です」
「レイニー……ああ、妹君の名だったか」
「はいです。まぁわたしはあまり家に近寄りませんので、ヨウハクもあまり馴染みはないですよね。あの娘たちなら喜んでくれるかもしれないですし!」
「一先ずはこの事態を収束させてからの話だがな」
「あははー、それはヨウハクの言う通りです! ……では、行きます、です!」
変形したソニッグスタッグの腕に掴まり、少女は、そのまま円盤の天井から姿を消した。
恐らく1日1話ペースくらいになりますが、更新を再開させていただきます。
・レイニー
原作におけるムラサメシデンの設定上の妹。扱いようがないので未だ出演せず。
因みに今作におけるムラサメ家兄弟は、シデン>ユウダチ>レイニーの順番となっています。
・ソニックスタッグ
ちょい役出演。本番は別ルートにて。
メダロットNAVIにおける主人公の愛機の1体。いわゆる藤岡(先生)デザインメダロット。
その辺り(デザイナーの違い)を都合よく取り込んでおりまして。可変型メダロットの扱いについては後々に説明しますが、NAVIメダおよび可変機がムラサメ家の発案技術であるとの独自設定をしています。NAVIの時間軸という扱い的に。
・初めは一機。だがしかし、一機、また一機と
「たかが
「KWGは伊達じゃないのか……?」