ジャンクヤードの友人へ   作:生姜

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27話 神なる帝

 

 長い長い降りの階段を、イッキはカリンと共に降りていく。

 暗い室内を上から照らすのは、光の量だけを重視された無骨な照明。

 積み上げられたケーブルや資材置き場の中心に、義手を生やした鞄を背負う、小柄な老人が立っている。

 

 

「きおったか、アキハバラの使いの小僧……と、それに、小娘もじゃな」

 

「僕はテンリョウ・イッキですよ、ヘベレケ博士」

 

「わたくしジュンマイ・カリンですわ」

 

 

 小僧小僧と呼ばれるのもしゃくなので自己紹介で返すイッキと、まねをしてほのぼの丁寧に挨拶をしているマイペースのカリン。

 満を持してやってきた2人のその様子を見て、ヘベレケ博士は大声で笑った。

 

 

「がっはっは! 大物じゃのう? ……小娘には、フユーンでの件は謝っておこうかの。手段としては後悔してないにしろ、気分の問題じゃわい」

 

 

 思いもよらなかった返答に、カリンがあらと口元を抑える。

 そんな律儀な謝辞を挟んでおいて、ヘベレケ博士は再び胸を張った。

 

 

「じゃがの、これだけは譲れんのじゃ。アキハバラのやつめとの、決着だけはの」

 

 

 そう言ったヘベレケ博士は、何かのレバーを引いた。

 メダロッチを前に、イッキが身構える。

 どこからか、ケーブルを引き摺るような音がした。

 ばつん、ばつんと弾ける。何かが端から目覚めてゆくような。そんな音だ。

 

 

「これは何の音ですか、博士」

 

「こやつを起動するには多大な電力が必要なんじゃい。以前に気紛れでタイヨーを手伝った時には、セレクトビルを置いている街を丸ごと停電させておってな。どうせだからと余った電力を使ったんじゃが……ふん、所詮は置き土産。獣の王は固定砲台。脚部の機動能力を捨てたに等しい設計じゃった。そもそもメダルへの負荷も、あれっぽっちの電力では足りなかった。覚醒までに、あの少年とムラサメの娘とのロボトルを長々と繰り広げて刺激を加える必要があったのじゃ」

 

 

 おそらくは魔の10日間と呼ばれる事件の事だろう。

 語りながら、博士は後ろを振り返る。

 視線の先には分厚い鉄板の壁が在る。音は、その奥から聞こえていた。

 

 

「じゃが、今は違う。原初のレアメダルの演算能力制御を使用して、柵は取り払った。完全に開放してやったのじゃ。……泣く子には勝てぬ、が、地頭にも勝てはしまい?」

 

 

 腕をバンザイと上にかざし、正に悪の科学者といった様相で、ヘベレケ博士は嗤う。

 

 

「出でい ―― ワシの科学の結晶! 解き放たれた神なる皇! ゴッドエンペラーよ!!」

 

 

 途端、壁を貫いて、轟音が響いた。

 煙に塗れながら姿を現したのは、人間大のメダロット。

 だが、違っていた。

 メダロットというものは元来、ロボットペットである。

 そのためメダロットのデザインには、大なり小なり親しみやすさという物が備わっているのだ。勿論、一大遊戯であるロボトルのための武器を装備してはいるが。

 しかしこのゴッドエンペラーと呼ばれたメダロットは、コンセプトからして違った。

 コミュニケーションモニターを取り払った、機能だけのカメラアイ。

 右腕の弾頭、左腕の銃器は隠そうとすらしない。むしろ見せびらかすかの様に此方を威圧してくる。

 脚部は見たところ、最も効率的に充填ケーブルを繋ぐことが可能な多脚形……いや、タンクと多脚の中間だ。先ほどの音は、ここからケーブルを外していた時のものなのだろう。

 これらはデザインが先立ったのではない。兵器としての側面が、面に立っているのである。

 

 

「ふん。勘違いをしてくれるなよ、小僧? わしが求めたのは兵器としてのゴッドエンペラーではないぞ」

 

 

 ヘベレケ博士が、イッキのあげかけた声を制する。

 兵器然としているのは軍に居た時のデザインを流用したからというだけだ、という前置きを挟んで。

 

 

「わしが言っているのは、メダルじゃ。メダルの力を本来の所まで開放したんじゃよ。忌々しいリミッターを解除したことによっての。……まぁ、フユーンでのあれは、先走ったというか。あの場所でやるべき実験ではなかった……ウオッホン」

 

 

 リミッター。

 メダロット三原則と並んで「人間によってメダルに組み込まれた機能」だと、イッキはメダロット博士から教わった。

 それは本来、メダロットが自身の骨格強度を超えた力を発動しないようにと組み込まれたシステムであるはず。

 だがしかし。

 

 

「勿論、リミッターを解除すれば制御は難しくなるからの。ゴッドエンペラーの各パーツが出力を余剰に搭載しておるのは、単に『メダルの能力が余っているから』に過ぎん。いわば暴走しない為の放熱板じゃな! がっはっは!」

 

 

 そうしている間にも、大笑いするヘベレケ博士の横に、次々と出並ぶゴッドエンペラー。

 

 

「……アー、ウー」

 

「うぃぅぃ。先日ぶりですね、皆さん。今度は全力でお相手しますよ」

 

「何々、またお前ら? ロボトルすんの?」

 

 

 低い駆動音を響かせながら、3体。

 言動から推測するに、中のメダルはフユーンで戦ったものと同様らしい。

 しかし今は3体揃って、ただのメダロットではないために、威圧感も生半可ではない。

 

 

「じゃがこれだけの戦力も、お主()との決戦であれば不公平ではあるまいの。……そうじゃろう、怪盗め?」

 

 

 ヘベレケ博士がちらと視線を外す。

 その言葉に応じるように、階段の上から影が舞い降りた。

 

 

「―― ここは一度、下がっていたまえ、イッキ君」

 

「ごめんなさい。少しだけ、わたし達に見せ場をくださいね?」

 

 

 怪盗レトルト。そして、レトルトレディである。

 彼らはイッキとカリンの前に立ち塞がると、ヘベレケ博士の視線を受け止める。

 

 

「きおったか。その姿のお主と会うのは、何度目じゃろうの? ―― アガタヒカル。そして、アキハバラナエよ」

 

「えぇっ!?」

 

 

 驚きの声をあげたイッキの前で、無言のまま、レトルトは観念したように仮面を外した。

 

 

「―― この姿の時の呼び名は、レトルトで良いんですけれどね」

 

 

 おかっぱ髪の青年。間違いなく、ユウダチの兄様、ヒカルさん。

 ただ、あのコンビニで見かける際の頼りなさは、今はどこにも見当たらない。頼もしさを感じさせる横顔だ。

 隣に居るレディはちょっと身をよじりながらも仮面は外さず。とはいえ確かに(よく見れば)、あの艶のある長黒髪はナエさんのものだ。彼女の普段の雰囲気と白チャイナ羽マントのイメージが違いすぎる為、こうして言われて見るまで関連付けは難しかったが。

 ヒカルは一歩前に出ると、ヘベレケ博士に返答する。

 

 

「……ビーストマスターの時は直接顔を合わせた訳ではないので、レトルトは兎も角、こうして見合うのは初めてでしょう」

 

「ふん。怪盗レトルト……随分と邪魔をしてくれたの」

 

「そりゃあ邪魔もします。貴方の計画は乱暴だ。物にはもう少し順序というものが必要です」

 

「それも結局はお主の意見ではなく、アキハバラアトムの手駒をしているだけじゃろう? メダマスターともあろう者が、嘆かわしい」

 

「いえ。そのメダマスターって言うのも、ロボトルリサーチ社が押し出している企画ですからね。僕が自称している訳では……決して」

 

 

 どうやらレトルトとして活動しているのは、メダロット博士の手伝いであるらしい。

 メダマスターという呼び名については判らないものの、ひょこっと身を乗り出したナエ(白チャイナ)がヘベレケ博士に向かって指をたてる。

 

 

「付け加えさせていただきますと、ヒカルさんは確かにロボトルが強いですけど、たった一事だけではマスターとは呼べません。その点が貴方とは違うと思いますよ、ヘベレケ博士」

 

「ふん。……アキハバラの孫娘が、言う様になりおって。じゃがな」

 

 

 ヘベレケ博士が口を開いた瞬間だった。

 突如、部屋の外から「巨大な金切り声」が鳴り響いた。

 

 

 ―― ギャァァァァァ……ン

 

 

「これは……!?」

 

「小僧との決戦をじゃまさせる積りは、ハナからないわい。この施設に集まっていた研究者どもに、退避する前にとあるメダロットを解放するように命じておったのじゃ。アキハバラナエ。お主ならば、この場で何を開発していたのかも知っておろう?」

 

「……そのメダロットは、まさか」

 

 

 ―― ォ、ギャァァァァン

 

 

「……はて。あのメダルを、メダロットを、時限爆弾を……妹分に任せきりで良いものかのう!」

 

 

 ナエはこの言葉に歯噛みする。

 金切り声。これが何のメダロットによるものなのかは判らない。けれど、「妹分」とやら……恐らくは向こうにいるユウダチに任せて、放っておくわけにも行かない相手ではあるのだろう。

 レトルトの格好をしたヒカルが、そんなナエの肩に手を置く。

 

 

「仕方が無い。僕たちは向こうを手伝おう、ナエさん」

 

「……ヒカルさん」

 

「イッキ君。この場は、ゴッドエンペラーは任せて良いね? 大丈夫。僕も向こうが終わったら駆けつけるよ」

 

 

 優しくも深い眼差しがこちらへと向けられる。

 元より、博士との決着はイッキが望んでいたものだ。ここで逃げ出す積りはない。……ここで逃げ出す云々というあたりが男の子の思考なのだが、それはさておき。

 イッキがヒカルの問いに頷くと。

 

 

「じゃあ、任せた。行くぞ、メタビー」

 

「おう。『あの時』の決着をつけてやるぜ!」

 

「申し訳ないですがお願いしますね、イッキ君、カリンちゃん。お気をつけて!」

 

 

 ヒカルはナエと共に、階段を駆け上がっていった。

 後に残されるのは、再び、博士とそのメダロット達。

 

 

「―― これで邪魔者は消えたのう。さあ、決着を着けてやろうかの……イッキ!」

 

 

「アー……」

 

「ういぅぃ。さぁ、ロボトルですよ!」

 

「何々、やっぱロボトルすんのな?」

 

 

 ゴッドエンペラー3体が並ぶ。

 各々が、玩具として設計された既存のメダロットとはかけ離れた戦闘能力を有した固体である。

 

 ただ、しかし、この場における唯一の例外。

 少年イッキだけは、見えている光景が違っていた。

 

 

「行くぞ、メタビー! ベアー、スパイダ!」

 

「判ってる、いくぜイッキ!」

 

「くままー!」

 

「くももー!」

 

 

 これは変わらぬロボトルなのだと、少年は勇壮に前へと進み出る。

 そして並ぶ、仲間にして友人たるメダロットが3体。

 同じくメダロッチを構えたカリンには、手をかざしておいて。

 

 

「ここは任せて、カリンちゃん」

 

「イッキ君……」

 

 

 負ける積りはないのだと。そう、言外に発した意思を込める。どうやら伝わったようだ。カリンは数歩、イッキの後ろへと下がってくれた。

 勿論、カリンのセントナース(クイックシルバ)達が不足しているというわけではない。連携や組み合わせを考えれば、自分のメダロットを使うのが1番だというだけの話だ。

 ヘベレケ博士はイッキとの、引いてはメダロット博士との勝負に固執しているように思える。だとすれば自分が相手をするのが良い筈だ。カリンに格好いいところを見せたいという気持ちが(全く)無いという訳ではないが……正面を見ると、ヘベレケ博士はいつもの通り、不敵な笑みを浮べて腕を組んでいる。

 

 

「合意と見てっ ―― 宜しいですねっ!!」

 

 

 (地中なのに)空から、半ば確認に近い問い掛け。

 しゅたっという着地音が資材の山の天辺から聞こえた。ミスターうるちが着地したらしい。誰も其方には視線を向けず。

 メダロット社が管理する審判としての勤め。その枠を超えて、運命を別つ様に、ミスターうるちは手を振り下ろす。

 

 

「それでは ―― ロボトルッ、ファイッ!!」

 

 

 地下深い実験場の底にて。

 同時、6体のメダロットが駆け出した。

 





・ロボトルリサーチ社
 メダリンクが何処の企業によるものなのか、と聞かれると、恐らくはメダロット社(株)なのでしょう。メダロッターズに設置されていますからね。
 ですがあれを1企業だけで請け負うのは無理だと思うので、分業しているという設定。広告を含めたメダリンクの対外向けの部分はロボトルリサーチ社ということにしました。
 いがみ合っていると思っているのは、当人たちだけで、意外と仲良し。イチゴ味。

・ヒカル兄様
 漫画版とゲーム版のイメージを折衷しましたらこんな感じに。
 やられても良かったのですけれどね……なんというか、漫画版のレトルトは本気で強いと思うのです。実質パーツ1つ無い状態でセレクト隊に圧勝し、あげくイッキのメタビーに余裕勝ってますから。兄さまの骨は折られましたけれども。
 ……ただ。本作のイッキのメタビーに格闘で勝てるのかといわれると、大分微妙なのです。

・怪盗レトルト
 BK201ではありません。

・メダマスター
 メダロット4のネタ。
 もの凄い迂遠な作業(間違いなく作業)が必要になる。
 ただ、ダークロボトルは楽しかった……回数がとんでもないだけで。
 テストは飛ぶ奴が鬼門。
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