羽が開くと同時、研究所全体に地鳴りが響き始めた。
一方、イッキ達が戦う地下研究室 ―― の、隣室。機材が詰め込まれた研究室……が、既に半壊した瓦礫の中。
そこで「元凶」とロボトルを繰り広げていたヒカルとナエは、突然の衝撃に身構えた。
「なんだ、これは……?」
「……これは」
ヒカル達が相対するメダロット達も、何故か、動きを鈍らせている。
周囲を見回すも、原因たる何かは特定できなかった。その内に振動は一端の収束を見せる。
正面……メダフォースを操る巨大なメダロット3体から目線を逸らさずに、ヒカルのメタビーが声音管を震わした。
「どうすんだ、ヒカル? 音源はイッキ達の方からだ。助けに行くのか?」
「……でも、ここを任せる訳にもいかないよなぁ」
レトルトの衣装を身に着けたヒカルは、思い直すとメダロッチを構えた。
その様子を見て、隣のナエがヒールエンゼルに指示を出す。
「索敵上昇です、エンゼル! その後は防御機体の回復を随時!」
「ふわわー、了解だよーナエちゃん」
「……相手がまた動き出しますよ、ヒカルさん!」
ナエが注意を促すと同時、ぎ、ぎ、と軋む音をたてながら相手の3体が動き出す。
油断は禁物である。何せその背には何れも、始めから、3者3様の「羽」が開いているのだ。
「やっぱり相手をしなきゃいけないか……メタビー迎え撃つぞ! ナイト、援護に回るんだ!」
「守ります!」
「いくぜっ!! ……こうなったら仕方がねえ! こっちも、全力だ!!」
雄叫びを上げながらメタビーが力を込めると、その背に4枚の薄翅がびしりと開く。
迎え討つ3体。
葉っぱをかき集めた様な羽。
真っ白な幻獣の羽。
6枚の、うす蒼い羽。
「だぁぁぁーーー!!」
「ま゛」「あ゛」「な゛」
メタビーとそれら、大きな力が激突する。
また1つ、研究資材が破壊されつつ……その中を。
「兄さま、ナエ姉さま!」
飛行するツナギ少女が1人。ロボロボ団員を言いくるめて基地から避難させた、ユウダチである。
メダロットに掴まって飛来すると、大きな柱の横へ着地した。
「向こうのロボロボ達には避難を言い渡してきましたです! 加勢するですっ!!」
「ユウダチちゃん!」
「ありがとう、ユウダチ! それよりさっきの振動について心当たりはあるかい?」
ユウダチは着地と同時に目の前にソニッグスタッグ……ヨウハクを転送しながら、ヒカルに返答する。
「恐らくは兄さまの予想と同じかと思われますです。……ベビーの大元のメダルは、向こうのゴッドエンペラーに入れられているのです」
「―― つまりは向こうが『アタリ』だという事だな」
ヨウハクの話した『アタリ』という単語に、ヒカルが唸る。
「やはり……イッキ君らに、任せる形になってしまったか……!」
唇を噛みながらも、ヒカルはロボトルの管制を続ける。
相手は皆、常時メダフォースを発動させている。始めから充填を終えていたのだろう。地の利は完全に向こうにあった。
それでも、ロボトルの経験という意味でヒカルのメタビーは圧倒的である。
「んにゃろ! っと!」
「な゛」
翅は開きながらも、メダフォースとして放つことはせず、両腕の射撃を確実に当てていく。
ミサイルなどの回避できない攻撃だけを援護機体であるナイトに防御してもらいながら、着実に相手の装甲を奪ってゆく。
そこへ、均衡していた戦況へ、ユウダチの機体が割り込んで行く。
「そもそも場所からして貴方達が有利なのです、3対4でも文句は言われたくありませんですよっ……ヨウハク!」
「心得た。……合わせるぞ、カブトムシ!」
「さっさと叩き斬って来いよ、クワガタムシ!」
メタビーの援護射撃を受けながら、ヨウハクはがらくたとなった機材を回り込む。
一旦視界を外れ、その先で。
「あ゛っ゛」
「―― 索敵機体がいないとこうなる。乱戦故に、奇襲は警戒するべきだったな」
ごんっ、という鈍い音。
回りこんだ先で左の拳。防御機体を弾き飛ばした。これと同時に戦局が逆転する。
すぐには援護に回れない位置を転がる援護機体を見届け、ナエが動く。
「此方のチームは装甲値の低下なし。……今なら、全力を出しても大丈夫なはず。攻撃しますよ、エンゼル!!」
「ふわわーっ」
ヒールエンゼルの背中に、今度は天使の羽が広がり。
「―― メダフォース、『テイクオーバー』!」
「ふわわわわーっ」
「な゛」
溶かした相手の熱量を自分の装甲値に還元する、特大の熱線を撃ち放った。
今まで援護ばかりを行っていた機体からの思わぬ反撃に、3体のうち1体のメダルが弾け飛ぶ。
「続くです、ヨウハク! ―― メダチェンジ!!」
「ツェアアッ!」
「あ゛」
ヨウハクは羽を広げた戦闘機の形に変わると、たった今転ばした相手へと一直線。
防御を許さない高速の一撃で、頭パーツを破壊した。
「これで残りは……って!?」
残りは1体。
そう考えたヒカルが、残る1体を視界に捉えた所で、声を詰まらせる。
「ま゛」
巨大な試験管の前に立つ1体が広げる翼が、鳴動していた。
一際大きな粒子が舞う。研究室一体に充満し、震えている。これでは近付くのも容易ではない。
マントで吹き荒れる暴風を遮っていると、ユウダチが解説を付け加えてくれた。
「ヒカル兄さま! 目的のメダルは向こうに居るとはいえ、ここにあるのも『元凶』です! むしろ、パーツに関してはゴッドエンペラーよりも、マザーを模して造られた此方のベビーの方が適しているくらいで……!」
「つまりメダフォースの制御に長けた機体、という訳か!」
「はいです! これは『全体復活』なのです!」
慌てた様子のユウダチの前で、ヒカルは視線を逸らさず身構える。
彼もこの数年間、ただ漫然と学生生活を送っていたわけではない。メダロット博士の下、レトルトとしての義賊活動に加えて、メダロット本社におけるテスターとしても活動をしていた。
メダリンクという遠隔ロボトル通信システムをたちあげる際には、そのランカーとしての活動も行った。数々の修羅場を潜り抜けてきたヒカルに比肩するほどのメダロッターは少なかったが、ゼロではない。世界を見ればもっと多くの強敵が居るのだという事も実感できていた。
ヒカルが子どもを脱するに連れて、置いて来たものは数多い。イッキ達に自分を重ねてしまうのは仕方のないことだろう。
ユウダチも、彼女は彼女で重いものを抱えている。その決着は未だつけられていない様子ではあるが……それでも。あの事件の際のように、立ち向かう努力を止めるつもりはないらしい。
だからこそ、だ。
自分の元には変わらず、メタビーを始めとしたメダロット達。
星空を眺めたあの日と変わらず、隣にはナエが恋人として居てくれる。
妹分が活躍をするのは、彼にとっても誇らしいもの。助力は惜しまないつもりだ。
「ま゛っ……ハカ、ハカカカ……イ」
「……あ゛」
「…………な゛」
胎児の様な外見のメダロットが翼を鳴らし終えると、機能停止した筈の2体のメダロットが再びのそりと立ち上がる。立ち上がった傍からスラフシステムが最大稼動し、パーツの修復も高速で。
これらの例からして、リーダー機の胎児型メダロットのメダルが、操る術としてのメダフォースを使いこなしているのは間違いないだろう。
メダフォースの制御と管制。
これは通常のメダロットを、玩具としてのメダロットを超える力ではある。
……だからといって、立ち向かう彼らは勿論、当然の事、毛頭、負けるつもりはない。
「来るぞ、メタビー! ここで負けてやるものか!」
「判ってんじゃねえかヒカル! でもってあのビルでの決着、今度こそつけてやるぜ、モグモグフヨード! ……だから引っ付くなよナイト!?」
「守ります守ります!」
「ふわわー。ここ、メダフォースが溜め辛くなってるよナエちゃんー」
「ならもう1度援護に回りましょうか、エンゼル。相手ばかりがメダフォース充填可能、復活も無制限というのは理不尽ですが……」
「だがそれも中核たるリーダー機を倒しさえすれば……だな、御主人」
「はいです! その通りですヨウハク!」
たとえ年月を経ていようとも、幾度となく超えてきた修羅場と同じく、ヒカル達は立ち向かう。
「向こう」とは別の戦場も、これにて佳境を迎える事となる。
・ま゛
メダロット新装版。
ヒカル編、イッキ編、好評発売中!!
……5~Gのコイシマル編の刊行を心より期待しております次第っ!!
・ナイト
頭部/ボディアタック
右腕/ライトシールド
左腕/レフトシールド
脚部/アッシー
テンプレがそもそも暑苦しい。
・テイクオーバー
ナエのエンゼルのメダルは「エンジェル」で、これは本来エンジェルメダルのメダフォースではなく「ユニコーン」メダルのものとなります。
絵的にほしかったというだけですけれどね!
・モグモグフヨード
元ネタは漫画版ヒカルのネーミングセンスより。本作においてはメダロット1編第14話を参照。
仔細はアナザールートにて。
別に、ひよこ売りさんが横流ししたわけじゃあないのです!