決着は着いた。イッキとメタビーの勝利である。
あんぐりと口を開いたままのヘベレケ博士。後ろで顔をほころばせているカリン。気絶中のミスターうるち。
煙が晴れて、地面に寝転ぶ半壊のラストの首が、ぎぎと軋みをたてる。
「……オマエ、hあ、ワタシtお同じメダルのハズ、ダ。……ナゼ射撃ダケデナク、カクトウも、ジュクタツしてiる?」
「へっ。近付いてきたのを殴ってたら、上手くなってたんだ。ってかロボトルの最中には、んなこといってられねえぜ? 出来ることがあんなら、どっちもやれば良いんだよ!」
ラストはふんぞり返るメタビーに向けてカメラアイをフォーカスする。
そしてそのまま、溜息にも取れる声を発し、力を抜いた。
「……フン。ワタシノ負ケ、kあ」
四肢を脱力し、それ以上動く事はない。
静寂の中、ラストの後ろで、ようやくと復活したヘベレケ博士が唸り声を上げた。
「まさか、本当に、勝ちうるとはの。甘く見ておったか」
顎に手をあて考えにふける博士の前に、イッキとメタビーが歩み寄る。
元から目的はこれだ。頭の中でまとめながら。
「博士。僕もあなたに聞きたいことがあります。……あなたはなぜ、メダロット博士にそこまで対立しようとするんですか?」
「……ふん。少し待て」
いつもの様に鼻を鳴らし、博士は足元に屈みこんだ。
ラストのパーツとメダルとを「ケイタイ」に回収し、再び腰を上げる。
「お主は疑問に思わぬのか、イッキよ? メダロットが果して、どこからもたらされたのかを」
「何処から?」
問い掛けに、イッキは知識を思い返す。幼い頃からメダロット博士の研究所に通っていただけあって、歴史的な部分もしっかりと記憶に残っている。
骨格となるティンペットは古くから研究を重ねていた博士達が開発したと聞いた。特にマッスルチューブという筋肉として活動をするパーツは、メダロット博士……アキハバラ・アトムの代表的な発明だ。人のように2脚で歩行をする骨格の再現は困難を極めていたため、一時は獣的なデザインが先行していたらしいが、今では2つの腕をフリーに出来る2脚は主となるデザインとなっている。
パーツに関する素材は、メダロット社とは別口の外受け企業が尽力したと聞いている。名前までは覚えていないが、遺跡の発掘を行っていた会社だ。それらについてはナエが詳しかったはず。パーツの装甲重量を軽減するサイプラシウムの含有。人の肌知覚を再現するニューロン・ファイバー・ポリエステル……通称NFP素材も、その名前さえ知らない企業から出向した人物との共同開発で。
骨格、パーツ、そして。
「メダルじゃよ」
ヘベレケ博士の言葉に、イッキは顔を上げる。
「メダロットの中核。メダルに関する情報は、ニモウサクの家……メダロット社を取り締まる一族が独占しておる。どこから来ていると公表されているか……」
「―― それは、『遺跡』から出土していると聞いておりますわ」
声の主……後ろから追いついたカリンがイッキの隣に並び、手をぎゅっと握りながら声を振り絞った。カリンはメダロット博士の姪である。内事情にも多少ではあるが知識があるのだろう。
答えを受けて、博士は再び鼻を鳴らす。
「確かにの。お主であれば、ムラサメの娘であるあ奴から聞いておるかも知れん……が、ならば」
義手を意味も無くぎちぎちと動かして、こちらに指を突きつける。
「その『遺跡』が結局の所、
イッキがそれは……と頭を回すが、当然、答えはでない。それはカリンも同様のようだ。隣で疑問符を浮かべ、お嬢さま然に首をかしげている。
遺跡が何なのか。それは未だ調査中だ。古代の事情を調べるに等しい、教科書にも載っていない。答えの無い疑問……その、筈である。
悩むイッキらの向かいで、ヘベレケ博士は不敵な笑みを浮かべている。イッキにとっては知る術のないその疑問に、彼は答えることが出来るのだろうか。
「博士はそれを、知っているんですか?」
「ワシから聞いてどうするんじゃ、バカモノ。お主が知りたいと思うのならば、隣にいるそのメダロットらと共に、そのまま進んで見せるが良い」
「……オレか?」
イッキの手の、片方はカリンと。
そしてもう片方。メタビーがぼろぼろのまま、イッキと手を繋いでいる。
更にカリンの逆の手には、メタビーの修復を行っているクイックシルバの手が握られていた。2人と2機。その様子を眺めていたヘベレケ博士は、観念したとばかりに両手を振るった。
「ワシの技術の結晶であるラストが負けたのならば、この場はワシにとっての敗北でもある。やはり年には敵わん。……この基地は暫くして自爆するぞ。ムラサメの娘……ふん、ユウダチには、ロボロボ共を避難させるための扇動を任せておった。向こうの怪盗らと共に、おぬし等も、さっさと脱出するんじゃな」
そう言って、ヘベレケ博士は壁の穴の向こう、暗闇の中へと消えていった。
体よく逃げられた気もしないでもない。が、自爆と言う言葉は聞き逃せなかった。別の部屋へと向かったレトルト達の事もある。とりあえずはこの場を捨て置いて、外に出るというのも間違いではないだろう。
「それじゃあ行こうか、カリンちゃん」
「ですわね。……お疲れ様でした、イッキ君」
薄暗い地下から、イッキはカリンを引き連れて上へと向かう。
道中、向こうの部屋での騒動を治めたレトルトやレトルトレディと合流。ロボロボ団員達を食い止めてくれていたコウジやアリカを引き連れて、イッキはメダロッ島の外へと脱出した。
◆
薄暗い地下の、その奥。
壁の向こうへと戻ってきたヘベレケ博士は、うごめく機械の中央で、自らの研究データをまとめてあるパーソナルコンピュータの前に立ち止まる。
暫くして、壁の穴からもう1人の人物が姿を現した。
「やはりここに居ましたか、ヘベレケじいさま」
「ユウダチか。何故戻ってきた?」
現れた少女を視界に止め、ヘベレケ博士は尋ねた。
目の前のパソコンから火を入れるだけで、この基地は自爆する。なら地下の奥の奥、この場に留まっているのは得策ではない筈だ。
そんな問い掛けに、ユウダチはこてりと首を傾げた。
「一応言っておくと、自爆はしませんですよ?」
「……ん?」
何を言っているという風なユウダチの表情に、ヘベレケ博士も疑問で返す。
ユウダチはぴっと指をたて、得意げな顔を浮べた。
「おじさまが仕掛けさせた自爆のための炸薬は、わたしがこっそり、全て爆竹に変えさせていただきましたです!!」
「爆竹っ……じゃと!?」
ヘベレケ博士が思わず冷や汗を流す。
何せ、だ。あのまま格好をつけてイッキらの前で自爆装置をさせていた場合、つまり、爆竹によって飛び回る自分を晒す事になっていたのである。それは何と言うか、あまりにも格好悪い結末だ。
「随分と勝手をしてくれたの、ユウダチ」
「あっはは。危ないものは流石に、許容できないです。あ、そうそう。ベビーも同様に沈静化させてもらったです。メダルはあの人の所に返してもらいますです、ヒカル兄さまから」
そう言って、ユウダチは笑みを浮かべた。
完全なる決着に、ヘベレケはどこか安堵も感じながら……顔を逸らす。
「ふん。……しかし……ワシはもう、やるべき事を失っておる。このまま生き長らえて何とする?」
袂を別ったアキハバラアトムとの決着については、ヘベレケの敗北に終わったのだ。
だからこそ思わずついて出た言葉だったのだが、対して、ユウダチは苦も無く返答した。
「やることなんて、幾らでもあると思うですよ?」
「……ん?」
「ヘブンズゲートへの本社遷都と共に、じいさまがかつて籍を置いていた軍出身の開発者……ビーストキングさんの動きが最近怪しくなってるです。同時に、社におけるアラクネ一族の排斥も見過ごせないですね。月面開発に伴う『現地メダロット』達の抵抗も激しくなるですし……その辺りには必ずヘベレケじいさまの力が必要になるでしょう、です!」
ユウダチが挙げた話題、その1つ1つを思い返す。
ヘブンズゲートとは、メダロット社が出資をする人工の天空街である。同時に、機動ステーションや月へのトランスポーターとしての活躍もされている。近々、メダロット本社はそこへ移設されるのだという。
ビーストキングとは、ヘベレケ博士がビーストマスターの原型を製図した時に共同で研究をした開発者のコードネームである。息子が生まれてからは隠遁し、資金を元手に街の構想と学園の建設に精を出していると聞いてはいるが……動きが怪しいとなると、何かを企んでいるに違いない。あれはそういう男である。
アラクネの一族は、ムラサメ家と同じくメダロット社の一部門を担っていた家系である。才気に溢れた娘が居るという話ではあったが、昨今、懇意にしている男が社への出資を離れて政界に乗り出すのだという。マイペースなその男に引き摺られ、家が地位を失ったのだそうだ。その部分を肩代わりしているのは、他でもないムラサメの家である。
―― そして最後、現地メダロットの抵抗。
ヘベレケが主導をした今回の一連の事件はその点について、十分な警告にはなったに違いない。
ならば十分に評価は出来る。確かな満足感と共に、ヘベレケは続けた。
「ワシはやるべき事をやった。成し遂げた。じゃが、お主はまだだ。……行くのじゃろう? カザンバイ教授の所へ」
「はいです。もう少し……もう少しで、
最後に出た名称を聞いて、ヘベレケ博士は不快な顔を隠そうともしなかった。
「馬鹿な娘め。お主はやはり、その才覚を活かせる場所に居るべきなのだと、何度も忠告をしたんじゃがな」
「あはは。知ってるです。でも、ですが、だからこそ、わたしは逃げたくはないのです!」
瞳の奥で汚泥をかき混ぜ、もがきながら、ユウダチはいつもと変わらずどろりと苦笑する。
相手を威圧するその目を閉じ、少しだけ俯いて。
「……わたしの家族が大変な事をしでかそうとしています。危険は忠告したのですが、やはり、外来メダロットなどという荒唐無稽な単語は受け入れられなかったです」
「ふん。ワシの研究に協力する替わりに、あれだけの忠告に使えるデータをくれてやったというにの」
「いえいえ。それだけではなくヘベレケおじさまからはもっと、色々なものを頂いたですよ。わたしにとってはそっちの方が大きいですね。獣型ティンペットの技術を流用した
パーツ開発や骨格に詳しい分野での成績。下積みを経ていたからこそ。ムラサメにあってアラクネにはないそれら技術こそが、今は再び家を興すための一助となっている。
ただ、後悔すべき点が1つ。
同時にそれは、あの頃とは違い、今度は、家のジャンクヤードでガラクタを弄っていられるような場所ではなく。ヘベレケの前に立つこの少女をも、家の争いの最前線へと押し出しかねない大事なのである。
「……ふん」
鼻を鳴らす。
だからこそヘベレケにとってユウダチは、その才覚は認めながらも、気に食わない……いや。目を離せない、心配をかける少女であったのだ。魔の10日間を経たユウダチは今、ヘベレケにとっては望まない方向へと開き直っているのだ。
老婆心であろう。セレクト隊が基地に突入してくる前にと、ヘベレケはユウダチに向き直る。
「お主はメダロットの、何だ?」
「わたしは友人です。ですよね、ヨウハク!」
「―― そうだな」
メダロッチから響いたヨウハクの声は、嬉しさを隠しきれていない。
友人という関係で居られる事、それ自体は望ましい。
ただ。願わくば。この少女は家の争いに巻き込まれず、あの少年少女らの傍で。年頃の少女然として居て欲しかったと言うのも、老人にとっての事実ではある。
「……ふん。まぁ、別に牢屋の中からでも研究は出来るであろうな?」
「ですねー。……それじゃあです。ありがとうございました、ヘベレケおじさま!」
この為だけに戻ってきたのだろう。ユウダチはがばっと頭を下げると、独り、今来た穴から外へ、元気に走って出て行った。
訪れた静けさ。暗闇の中に佇むヘベレケの隣に、1体のメダロットが並ぶ。
「うぃうぃ。博士、アースモールやアンダーシェルへの脱出の準備が整いました」
「……コガネか」
丁寧な物腰のそのメダロットと、ヘベレケは視線を合わせる。
コガネと呼ばれたメダロットの装いは、先のゴッドエンペラー……武器を前面に出したものとは大きく違っていた。
両腕にジョウロやスコップ。「園芸にも役立つパーツを」という、今までのロボトルを重視したものとは一線を画すコンセプトからなる緑の身体は、ヘベレケが直々にデザインと設計を成したものだ。
「今更になって逃げるというのか、コガネ。ユウダチに言った様に、牢屋の中でも研究は出来るじゃろうに」
「ですがそれでは、今までのような研究は出来ません。ですから、逃げませんか?」
首をかしげ、しかし「ああ、少し違いますね」と言いなおす。
コガネは口を淀ませながらも博士に向けて拳を握り、懸命に声を出す。
「……わたしは、その、博士に逃げて欲しいです。博士にはまだ、自由に研究をして、いつものように高笑いをしていて欲しいから……。懲罰については勿論存じ上げていますが、わたしはメダロットです。マスターの自由を願う位は……良いですよね」
尻すぼみに小さくなる声と共に、コガネは下を向いた。それでも、握った拳はそのままだ。
機械として正しいとは思っていた。ただ、これは違う。ヘベレケの為の言葉なのである。
ならば、自らも前を向いて見合わねばなるまい。老人はようやく、重い腰を上げた。
「……コガネよ」
「はい! ……じゃなくて、えっと、ういうぃ!」
「その個体識別のための
「あ、え……はい。よろしいのですか?」
「……ふん。逃げている間に前の特徴を残していては、いくら間抜けなセレクト隊だとて気がつくだろうからの」
ヘベレケはこの場を放棄するための最後の一手……パソコンのデータ処理を終えると、コガネの方へと振り向き、歩き出す。
「暫くの資金源のために、ここでやっていた副業……メダルのエネルギー利用の研究を売り込むとしようかの。ラストには研究を、お主にはエネルギーを回す農耕の管理と実働を任せる事になるじゃろう。宜しく頼むぞ」
「はい! お供します、マスター!!」
いつの間にか日を跨いでいたとかいう……。
・エネルギー利用
メダロット3の地下街、アースモール編でメインシナリオとなる題目。
発電元となっているメダロットが驚かし担当である。
・コガネ
独自設定。メダロット3のアースモール編で登場する、農園管理のメダロット。
メダロット8でも類似した型が登場し、癒し系を担当してくれている。
・ムラクモノミコは
彼にはきっとボディガードが似合ってます。
・ミスターうるち
大丈夫です。
この後、無事に意識をとりもどして何事も無かったかのように帰宅しました。そのために尺を割くのも癪なので、脳内補完をお願いします。
最後の最期までこの扱いでした。