ムラサメ製作所 ―― 現ロボトルリサーチ社による新基軸のメダロット開発は、難航を極めた。勢力が拡大するにつれて、いよいよメダロット社の利権とぶつかり始めたのである。
ムラサメの家としてロボトルリサーチ社を牛耳るのは実際には兄たるムラサメシデンではあるのだが、開発陣に属するユウダチにとってもメダロット社との軋轢は例外ではなかった。唯一のストレス発散としてヘブンズゲートに在るニモウサク邸で代表であるユウキ氏と愚痴を言い合ったのも、1度や2度ではない。
不和の種は、月面の開発が進むに連れて圧力を増していった。
折り悪く、兄であるシデンの中に幼少の頃から降り積もった炸薬が、そんな最中に暴発した。兄は突然、とある別の中学の学生達をテーマパーク「クラスター」の試運転に招待すると言い始めたのである。
何があったのか、理由は定かではない。ただ、誰かに対抗心を燃やしている様子だ、というのはユウダチにも判ったが。
当然止めるよう進言はしたが、部門としての権力しかもたず、幼少の頃の身勝手な振る舞いもたたってか、ユウダチの発言力は少ないもの。試運転のため人件費は押さえ、全てをシステム管理とするという兄の慢心には、ユウダチがスタッフとしてクラスターに同乗する……という意見を差し込むのが精一杯だった。
幸いにして、計画が動き出す直前にイッキ達とは再会することが出来ていた。メダリンピックをある意味では予定調和のように勝ち進んできたイッキ達と、ヘブンズゲートで顔を合わせたのである。
残念ながらユウダチが多忙であったため、メダリンピック出場者としてのロボトルは叶わなかった。とはいえイッキがヘブンズゲートのジャンクヤード……「ヘルズゲート」に落とされた際、いつもの様にジャンクを漁っていた中での再会であったため、その場にて約束のロボトルをする事は出来ていたりする。
ロボトルの勝敗については、ここでは語らずにいて置きたい。
そのまま優勝したイッキ達は、宇宙ステーションに招待される。活動を再開していたロボロボ団の騒動に巻き込まれながら、スピリッツ達との争いの最中に月のマザーと遭遇。「ブラックデビル」と呼称される個体との接触には、ユウダチも同行出来ていた。歴史的な瞬間だった、という一事に尽きる。
メダリンピックが終わって、さらに翌年。小学校の最高学年となったユウダチは、相変わらず学校には顔も出さず、研究に没頭していた。
研究の種は「メダルの演算処理能力の限界値」について。ヘベレケ博士が提出しようとしていた論文「メダロットの魂について」を引き継ぎ、学会でのインパクトをまろやかにするために改題したものだ。
ヘベレケ博士の論文はそういった、ロマンのあるものが数多い。世間からの奇人という評価もその点から来ているものだ。他にもヘベレケ博士の発案という技術は、世に知れぬまま浸透している。彼自身は隠遁したまま研究を続けているらしいが、社会に追われる立場となった彼との再会は叶うものなのだろうか。ユウダチとしては、尋ねたい事は幾らでも。再会を祈るばかりである。
新学年。おかしな教師によるメダロッチ内の強制削除を、イッキが辛うじて逃れたという連絡の後。
ユウダチは妹分であった少女と共に、遂に、宇宙テーマパーク・クラスターへと乗り込んだ。
「いよいよ、これから始まるです……メダロットという存在、その命運をも左右しかねない一大事が」
ツナギを着た少女は、いつかよりも随分と大人びた顔でクラスターの一室に潜んでいた。
外は真っ黒な星の海。ヘブンスゲートからのトランスポート距離を既に離れ、地球の周回軌道を遊泳している。
……しかし、それもこれまで。これからこの「クラスター」は地球の周回軌道を離れる事になる。彼女が今属している集団、「スペースロボロボ団」による計画の一環だ。
彼らはクラスターを乗っ取り、自分たちの船として使いたいらしい。勿論、彼女個人としての思惑はそれらロボロボ団らしい目的とは遥か遠い場所にある。
「―― シデンあにぃが憧れたもの。木星メダロットの使途。必ず、この船の中にいるはずなのです」
既に事件は起こっている。それはいい。彼女が忠言しながらも、ムラサメが家として選んだ選択だ。因果が応報してくるのも、結果としては当然である。
ただ、それによって「メダロット」という存在そのものが迫害されることだけはあってはいけないと、少女は使命感を燃やしていた。
地球のメダロットは決して侵略を好む気性ではないと、ヘベレケ博士は身を持って証明してくれた。アキハバラアトムも、メダロット博士としての地位を持って保障をしてくれるだろう。確信はある。
事態解決の見通しは、やはりたっていない。それでもあの失意の底にあった時と同じく、少女は動かずにはいられない質なのである。
「―― ユウダチ。運命の時間が来た」
「おっと……もうそんな時間です?」
暗い研究室に入口からユウダチに声を掛けたのは、肩をはだけた少女。
ユウダチと同年のこの少女は、スペースロボロボ団を主導(という形で利用している)カザンバイ教授と縁があることから、実働部隊の幹部として引き入れられた人物である。
幹部としての名前は「街角のキリカ」。ユウダチにとっては長年来の知人であり、ヘブンスゲートに移住してからは、新たな友人でもある少女だった。
呼びかけに応えたユウダチが入口を潜り、キリカの隣に並ぶ。キリカはどこか遠くを見るような目で虚空を見つめ、いつもの通り、小さく笑った。
「そう。ふふ……運命の人、見付かるかな」
キリカは何かと運命という言葉を使いたがる。ただの口癖のようなものだが、彼女の神秘的な雰囲気や不思議ちゃん具合と相まっていると、どうにも不気味に感じてしまうのは仕様がないだろう。
他愛ないいつものやりとりに、ユウダチはふと思い返す。
運命という言葉は好きではない。敷かれたレールを歩くのはキライだと突っぱねたこともある。痛い目にあいながら、今度は自ら選び、再びレールの上を歩いている。この今を、運命という言葉1つで片付けられたくはないからだった。
しかしやはり、ユウダチが「ムラサメの家」という括りに固執しているのは間違いない。幼少の頃に心配をかけた実兄や両親に、少しでも力添えをしたいという気持ちも存在している。
生まれた以上は仕方が無い。キリカの言う運命とやらが本当にあるならば、ヒカルやナエ、カリンやイッキ達と出会えたことは、少女にとって輝かしい幸運であったのだろう。
クラスターの内部を移動する。移動するに連れて、雰囲気が変わってきていた。
「ヨウハク、それにエトピリカとケイランも。備えておいてくれると嬉しいです。そろそろ木星のメダロットたちが現れる区画かも、です」
『心得ておこう、御主人』
『照準は外さねえでおくさ』
『了解ッピヨ!』
メダロッチの中から、ヨウハク達が返答する。
ここクラスターの内では、メダロッチの機能が著しく制限される。
ロボトルもメダロット社の
ユウダチ以外で、クラスターの内に潜む第三の勢力について知っている数少ない人員が、隣にいるキリカだ。一時の油断も許されない状況であると緊張を巡らせてはいるが、キリカはどうも危なっかしい様子。
「ふふ……ふふふ……運命……」
「ほら、キリカももう少し気をつけて下さいです……」
そう言って、ユウダチは前も見ず(見えず)に歩いているキリカに注意を促そうとする。
手を伸ばす。
そして。
「ふふ……ふ?」
「―― うわっ!?」
「―― ちょっとカスミ!?」
キリカが通路の角に差し掛かった瞬間、そこから飛び出してきた誰かとぶつかって尻餅をついた。
元気な少女と、眼鏡をかけた気弱そうな……それでいてどこか芯の強さを感じる少年だった。
その組み合わせにユウダチが懐かしさを覚える間もなく、眼鏡の少年は立ち上がる。立ち上がると、すぐさま、座ったままのキリカに向けて手を伸ばした。
「―― 大丈夫? というか、君たちはどこから?」
「……」
「どうしたカスミ。敵か」
「心配しないでグランビートル。ただの女の子だ。……えと……怪我とかはない……よね?」
「……」
砲身が目を惹くRR社開発のKBT型メダロットとやり取りをしながら……カスミ少年の手は空を切る。少年に目を奪われたまま、キリカが頑として動こうとしないからだ。
「はいです。此方はだいじょぶです。ほら、立ち上がってください」
しょうがないと、ユウダチはキリカの腰を抱いて持ち上げる。小声に「運命……」と呟いたのは、聞かなかったことにする。それは流石に、運命の安売りであろう。
キリカを立たせると、ユウダチは向き直る。
……さて、これは、同時に困った事になったぞと。
「えっと……初対面、だよね。君の名前は?」
「わたしの名前はユウダチと言うです。この子は友人ですね。……貴方たちはもしかして、招待されていた中学生さん達です?」
「そうよ。わたしはヒヨリ。こっちがカスミね」
「と、いう事だね。宜しく、ユウダチ」
優しげな笑みで、カスミ少年が手を伸ばす。ユウダチが握手を受け取ると、すぐに少年は考え込んだ。
「君たちは、年下……? だとすると、ロボトルリサーチ社の社員じゃあないよね……」
「いいえ、です。わたし達はこう見えてロボトルリサーチ社の社員なのです。ほら、これです!」
証拠としてユウダチが自身の社員証を見せると、カスミとヒヨリの眼は驚きに染まる。実際にはキリカは違うものの、この場はこれで凌げるはずだ。
「わたし達は今、もう少し区画を解放しようと動いているんです。時は金なり。それではまた、機会があればお目見えしましょうです!」
「……」
どろりとした人を引かせる笑顔を楯に、ばーっと捲くし立てると、カスミ達が止める間もなく、ユウダチ達は通路の奥へと身を翻した。
結局、キリカの視線はカスミ少年から逸れる事はなかったが……この場ではキリカの名前は隠し通した。しかしいずれにせよ対面は避けられまい。なにせカスミは、目下スペースロボロボ団と対決をしている、中学生の筆頭であるからだ。
ユウダチとしては、スペースロボロボ団も第三勢力に対抗するための戦力の1つ。いずれは肩を並べるにしても、今はまだ、時期尚早だと思われた。
「―― ふぅ、です」
溜息を1つ。
通路の窓から見える宇宙の闇は、どこまでも広がって見える。
メダルの本能として侵略という機能はあるが、木星のメダロット達は違うもの。「マスター」がマザーとイコールであるのかは定かでない。そもそも只の自衛である。データを取られるだけならまだしも、中学生達をサンプルとして木星まで連れ去られるのは、人間の基準で言えばやり過ぎだった。
「ユウダチ。これって……運命?」
「貴方がそう思うなら、別に良いのですけどねー……いえ、良いのでしょうか……です?」
再び嘆息しながら首を振る。
完全に恋する乙女と化したキリカの変貌には驚きつつも、こうも人と成りを変えてみせるレンアーイには脅威を覚えたというのが素直な本音である。
「こうしていても仕方がないです ―― 」
そう言うと、ユウダチは思考を取り直す。ケイタイに格納していた水晶型のヘルメットと、マントを取り出して身につけた。なぜか本衣装として採用されてしまった、スペースロボロボ団幹部としての正装である。
ユウダチが変装を終えると、隣のキリカもそれに倣う。未だ近くに居るであろうカスミ達との偶発的な遭遇については、今後十分に注意しようと心に留めておいて。
「今はまだ、カザンバイ教授のご機嫌取りに付き合うですよ。わたしの目的は、まだ先にあるのです」
「……その時は、わたしも」
「はい。宜しくお願いするです、キリカ!」
少女2人は、宇宙に浮かぶ船の中、通路の奥へと歩き去っていった。
後日、宇宙テーマパーク「クラスター」の漂流は地上の人々を揺るがす一大ニュースとして報じられる。
少年少女らを乗せ木星へと進行するクラスターの中。世間の騒ぎは何処吹く風ぞ。
小さく芽吹いた「可能性」を目指し、ユウダチは暗闇の中を歩き続けた。
―― 行く先に光る緑の光。
―― 宇宙の果てから飛来した揺り篭の木々は、少女を、メダロットの意義を問う新たな戦いへと導く事になる。
―― 寸分違わず着地した結末。なんら変わらぬ
―― これは世界の何処にでもありふれた、メダロットと友人達のお話。
どうも打ち切りエンドっぽいですがご心配なく(意味深
これにて「ジャンクヤードの友人へ」、ノーマルエンドは
お付き合いくださりありがとうございました。
3と4は宣言通り、本当に駆け足。とはいえ流れとして、語るべきことは語りました。ナンバリングの3と4は、どちらも触れ辛いのですよね……一貫性がないうえ、NAVIの時間軸と被るもので。ユウダチをリセットする訳にもいけませんし、話題だけを出すという形にさせていただきました。
因みに時間軸は、3~4→NAVI→5&Gの順が確定しています。それを踏まえて今作では、3と4の間にNAVIを位置づけさせてもらいました。イッキの性格がかなりネックで、判断は難しいのですけれどね。4も経験しててNAVIの性格だったら、むしろ何か悲しくありませんかね……? いやそれも、アリカエンドだったらありえるのかも知れませんが……尻に敷かれてそうですし。
以降、時間を置いてアナザールートを投稿します。主に最終決戦で空気化したっぽい女主人公、ユウダチに焦点をあてたものです。
ソコまでが終われば、あとは大仰な追加も無く、投稿分の見直しに入りますでしょう。私の今までの素行から「時間を置いて」という単語に恐怖を覚える方もいるとは思うのですが、なるべく早く投稿したいとは(常々)思っているのです。はい。すいません。
では、では。
再三ながら、お付き合いくださりありがとうございました。
またいずれ、本文の中でお会いできれば嬉しく思いますです。
・強制削除
メダロット4の冒頭より、マジでやめろ。
何かというと、「お前らはメダロットの育成が判っていない(要約)」とかいって新任の女教師にメダロッチの中をデリートされますので。
システムリセットは主人公の常とは言え、これはいけない。普通に犯罪です。私だったらトラウマになります。
いちおうバックアップはあるようで、もしかしたらエンディング後にでも返してもらっていたのかも知れませんが……2、3と来て4でこのリセットの仕方はあんまりですよ……。
・街角のキリカ
スペースロボロボ団の幼女……ではなく幹部。
仲間になると衣装の中身、つまりは素顔がみられるのですが、それが何とも驚かし。
私がNAVI編を描いた場合は恐らく、彼女がユウダチの友人兼メインヒロインを担当しますでしょう。サブヒロイナーですので私。