ジャンクヤードの友人へ   作:生姜

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 あらすじ

 イッキ達はちまたを騒がせている「ゆうれい事件」の調査のため、おみくじ町の北側にあるおどろ沼へと向かっていた。

 セレクト隊の詰め所で休憩をしていたイッキ、アリカ、カリン。
 ひとしきり沼周辺の調査を終えて、姿の見えないコウジを探しに行こうという話になった。


◆ メダロット・アナザー
◆1 支流


 

 イッキ達の暮らすおみくじ町の北側、おどろ沼。

 人気に乏しいおどろ沼の休憩所、兼、セレクト隊の詰所の中。

 イッキと幽霊捜索という勝負を挑んだその癖勝手にはぐれてた(というか暴走していると言うか)コウジを捜索するため、若干名を別行動として捜索しようと言う流れになっていた。

 ……の、だが。

 

 

「それじゃあコウジを探しに行くのは……わたしと、アリカで良いです?」

 

 

 ユウダチが指定した人員は、ユウダチ自身とアリカだった。

 その覆い隠された無表情の奥に、どろりと笑う少女の違和感を垣間見た……様な気がして、イッキは少々考えを回す。

 ……少しだけ違和感を覚えるのは、気のせいだろうか?

 例えば、ここでユウダチとアリカに任せるのは簡単だ。ユウダチはロボトルはうまいし、そこらの野良メダロットに負けないだけの実力は持っている。しかしコウジの捜索は、幼なじみであるアリカの得意な案件ではない。だからこれは消去法による人選なのだろう。

 それは、と思うと同時。決定という流れになる前に割り込んで、イッキは素早く手を挙げていた。別たれた支流が、ここから流れ出す音がした。

 

 

「ねぇ、ユウダチ。コウジを探すなら僕も行くよ」

 

「? でも……です」

 

「ちょっと待ってて」

 

 

 ユウダチが口を開こうとするのを、イッキは手で制した。

 捜索のための人選の理由は明らかだ。主にそれは、隣にいる幼馴染の好奇心に由来する。この番記者幼馴染は好奇心が溢れ漏れ出していて、一つ所に留まっていられないのである。

 ただしかしその場合、結局はユウダチ1人でコウジを探す羽目になるだろう。アリカがフリーダムだから。

 ……それは何と言うか、イッキとしてはユウダチに迷惑をかけすぎている気がしてならない。なにより、コウジと勝負をしているのは他ならぬイッキ自身なのである。

 少しだけ前に進み出て、説得のために件の幼馴染に向き直る。アリカはちょっと頬を染めている。それはそれとして、イッキはいやに真面目な顔で説得を試みる。

 

 

「……あのさアリカ。スクープを探したいのは判るけど、今はここでカリンちゃんを見ていてくれないかな。じっとしてられないのは判るけど、どうせコウジを探して戻ってくるだけだよ? 自由には動けないじゃないか」

 

「む……まぁ、そうね。イッキがそう言うなら、今日取った写真の整理でもしながら一緒に休んでる事にするわ。それじゃあ宜しくね、カリンちゃん」

 

「えっと、はい。お願いしますわ、アリカさん」

 

「うんうん。ほら、あっちの座敷のほうに行ってましょう」

 

 

 説得を受諾したアリカは、カリンを引き連れて休憩所の奥の方へと移動していった。

 明朗な幼馴染故に、何を中心として動いているかが判りやすい。この性分に引っ張られて助けられた事も、助けた事も、今まで幾度となくあった。幼馴染と言うのはそういうものである。

 手馴れた風味にアリカを宥めたイッキが戻ってくると、ユウダチは小さな手を叩いて拍手をしていた。

 

 

「おーぉ。イッキ、見事なお手並みです!」

 

「まぁ、アリカとは長いからね……。それよりほら、アリカが写真を整理し終える前に、さっさとコウジを探してこよう」

 

「はいです!!」

 

 

 兎に角、これで心配は無用だろう。

 元気良く飛び跳ねるユウダチに先導されて、イッキは休憩所を後にした。

 

 

 

 ◇⊆

 

 

 

 子ども2人で山を探索すると言う事態に思うところが無いでもないが、今はコウジを探すのが優先である。

 山に入って最も注意するべきは、「野良メダロット」と呼ばれるマスターを持たないメダロットの存在だ。

 かつて在ったメダロットの暴走事件「魔の10日間」の後、メダロットの所持にはマスター登録が義務付けられた。その過程で捨てられたメダロット達が山などに追い立てられ、いつの間にか自生し始める。それが「野良メダロット」という名の由来である。

 とはいえ実の所「魔の10日間」は転機となった事件というだけで、山間や海など、野良のメダロットは元から自生していた(メダロットは食物を必要とはしないため、この表現は微妙だが)……と、ユウダチは語る。

 

 

「あくまで社会問題として浮き上がったのが、あの事件の後だというだけなのですね」

 

「へぇ……」

 

 

 隣を歩くユウダチの解説を聞きながら、2人はおどろ沼を遡って中流へと歩を進める。

 情勢にいやに詳しいが、ムラサメ・ユウダチという少女は件の「魔の10日間」を解決した人物の片割れであるという。その前後の事情にも詳しいのは当然といえば当然だ。

 加えて彼女はメダロット社に籍を置き、メダロットのパーツに関する研究をしているのだそうだ。現在の開発内容については社外秘らしいが、メダロットという界隈について知識は並以上に持っているに違いない。

 そんな風に解説を受けつつ、納得しながら進んでいくと、徐々に足場が悪くなってきていた。川が枝分かれし始め、ぬかるみも増してくる。

 

 

「ここから先は、ちょっと危ないかもね……」

 

「うーん……ですが今回の事件は恐らくメダロットによるものでしょうから、いずれにせよこの先にも入りたい所です」

 

「……えっと、メダロットによる事件?」

 

 

 ユウダチの突然の推理に、イッキとしては驚かざるを得ない。

 発言にある「今回の事件」というのは、おどろ沼における幽霊事件で間違いないだろう。イッキがコウジとの(半ば無理矢理な)勝負の対象としていたそれである。

 その黒幕がメダロットによるものだと、ユウダチは言ったのだ。メダロットの仕業だと見当が付きながら、これまではセレクト隊などの公的機関に話すことなく、事態を見守っていたという事になる。驚くのは当然だろう。

 説明が欲しい、と顔に出していたに違いない。泥濘の中に足を突っ込みながら、ユウダチは「メダロットの仕業である」という考えについての順序立てた説明を始めてくれた。

 

 

「えーっと、まず、イッキは幽霊を信じてるです?」

 

「うーん……見たことはないけれどね」

 

「あははー。それはそうですね。ですが、メダロットならば色々と納得できるですよ? 浮遊脚部を使えば宙に浮かぶ、隠ぺいパーツを使えば姿も消せる、索敵パーツどころか内蔵のセンサーがあれば夜道もなんのそのです」

 

 

 言われてみれば、とイッキはこれまでに聞いた幽霊騒動の内容を思い返していた。

 ただの幽霊騒ぎであれば、それは噂に過ぎず、すぐに話題が治まっていてもおかしくはない。

 だのに、騒動が一介の噂を飛び越えて世間に広がっているのには理由がある。実際に起きた事件として、「メダロットのパーツが奪われているから」だ。

 ……そう考えると、この流れから思い当たる点が1つ。

 

 

「あのさ、ユウダチ。もしかして……」

 

「はい。わたしはこれ、野良メダロットの仕業だと考えてるです」

 

 

 パーツを集めている理由については詮索しづらいですけれど、とユウダチは付け加える。

 ぬかるみから跳ねた泥をツナギで拭いながら、そのまま、顔を苦笑に変えて。

 

 

「だから、実は、あまり公にはしたくなかったのですよ……」

 

「ええと、だから僕たちにも黙っていたってことかな?」

 

「はいです。コウジに付き合わされてしまったイッキ達には、申し訳なく思うですが……本当は1人でどうにかしようと思ってたです。どうやらイッキには勘づかれてしまったようですので、こうして手伝って貰ってるですが」

 

 

 ユウダチはそういって頭を下げた。イッキとしては自分から頭を突っ込んだ形なので、気にしないでと手を振ってみせる。

 公にしたくないという気持ちは、イッキにもわからないでもない。野良メダロットが事件を起こしたとなると、大ごとになる……世間的に騒がれてしまうのが目に見えているからだ。

 もう何年も昔の事件ではあるが、魔の10日間という事件が世間にもたらした衝撃というのはとても大きなものだった。今でも報道番組などで名前を頻繁に聞くほどである。一般的にはそうでもないが、社会から見たメダロットの立場というのは、とても窮屈な位置にある。

 メダロット大好きなイッキとしては、友人的な立場でもあるメダロット全体の心証を悪くするのもなぁ……という部分において、ユウダチに共感できた。どうせパーツを巻き上げられているのは大人ではなく、殆どが忠告も聞かず肝試しに山奥まで足を踏み入れた子供のものであるのだからして、自業自得といえなくもない。加えて、そんな事件に対して保護責任を怠った大人ばかりが声を荒げて怒っている現状もどうなのだろう。違和感というか、あきれた感がある。

 

 

「そこまで事件を調べているってことは、幽霊メダロットの場所も見当が付いていたり?」

 

「ええ。そうそう、丁度この辺りに……」

 

 

 イッキとユウダチが橋を渡り、足元に流れる勢いの増した川を越え、今度は岩肌に囲まれた狭い道に差し掛かった時だった。

 

 

「―― んばぁっ!!」

 

「うわぁぁーっ!?」

 

「うわはぁ」

 

 

 突如、目の前に白い体の浮遊する何がしかが現れていた。

 驚き声をあげぴょんと跳ねた、イッキ。その横で緊張感のない驚き声をあげる、ユウダチ。

 

 

「ほーら、怖いだろー! パーツを置いてったら……」

 

 

 しかし驚き声の次に、恐怖は伴わなかった。

 目の前に現れ必死な様子でパーツをねだるメダロット自身が、満身創痍……ぼろぼろの状態だったからだ。

 

 

「えーと、その……パーツはあげるよ。でも、君は大丈夫なの?」

 

「うエッ!?」

 

 

 思わず気遣う言葉をかけたイッキに、幽霊メダロットが奇妙な声。

 ほう、とユウダチは何故かイッキの様子を興味深そうに眺めているが。

 

 

「君自身のパーツがぼろぼろじゃないか。浮遊脚部の平衡機能(バランサー)も安定していないみたいだし。油は差してる? ティンペットは見てもらってる? 君のメダロッターは?」

 

「う、え、エト……」

 

 

 続けざまに繰り出されるイッキの怒濤の()撃に、幽霊メダロットもたじたじである。

 

 

「イチオウ、パーツは修理して貰ってルけど……」

 

 

 おびえるように戸惑うように、答えた幽霊メダロットが振り返る。

 

 振り返った先には、洞窟。

 そしてその洞窟の中から、ぬっと、大男が歩み出てきた。

 

 男の格好はとち狂った全身タイツだ。しかも黒い。頭には先の丸まった黄色い2本角。

 

 

「ああ。……コウジを探していたら、元凶に巻き込まれてしまったですか。うーんむ、仕方が無いです。少しだけ茶番に付き合ってくださいです、イッキ」

 

「え?」

 

 

 訳知り顔で頷いたユウダチの方を見るイッキ。しかしその表情はいつものユウダチ。「何も聞くな」の一点張りである。

 ……どういうことなのかは、この後にでも説明してくれると嬉しいのだが、それはともかく。

 イッキにも理解できる。目の前の全身タイツの大男は、どう見ても敵だ。そして恐らくは元凶だ。敵意というものが見えるとしたら、この場一帯ががつりと埋め尽くされていることだろう。大柄の威圧感もあるので、尚更である。

 

 

「―― ふむ。うるさいセレクト隊ではなく、レトルトの(ヘンタイ)でもなく、小童どもか。どれ。ワシらの事を嗅ぎつけた褒美とやらに、相手をしてやろうかの? お前さんは下がっておれ」

 

「う、ウン……」

 

 

 声の聞こえる距離まで近づいて、大男はそう言葉を発した。

 おびえて消えた幽霊メダロットの前で、メダロッチを掲げる。

 反射的に、イッキもメダロッチを掲げ。

 ユウダチだけが何故か銀色の……旧式のメダロット端末である「ケイタイ」を掲げ。

 

 

「メダロット!」

 

「―― 転送ですっ!」

 

 

 同時に、自らのメダロットを呼んだ。 

 

 

「やるぞ、メタビー!」

 

「おう! ぶっ飛ばしてやらあ!!」

 

 

 純正KBT(カブトムシ)型「メタルビートル」のパーツで組み上がったメタビー……ではなく、右腕にだけ。先日コウジのサーベルタイガーを原型(モチーフ)としたスミロドナットから勝ち取った大爪「フレクサーソード」を装備したメタビーがイッキの前で銃口を持ち上げ陽気に叫ぶ。

 そして、その横。

 ユウダチの目前に、イッキが未だ見たことのない、カミキリムシ型メダロットが剣を構える。

 

 

「―― 呼んだか、御主人」

 

「はいです。ロボトルですよ……ヨウハク!」

 

 

 ヨウハクと呼ばれたメダロットは(彼の言葉を借りて)「ご主人」の前に立ち塞がり、ゆるりと力を抜く迎撃態勢を取った。

 カミキリムシを模したメダロット、エイシイストのパーツは格闘攻撃に秀でている。ヨウハクと呼ばれた個体のメダルは……パーツから察するにクワガタだろうか? 速度を重視した格闘攻撃は得意だったはずだが。

 

 

「出でよ、メダロット!!」

 

 

 相方であるユウダチのメダロットに思考を割くイッキの、その向かい。

 叫んだ大男が転送したメダロットは ―― なんと3体。

 

 

「も^しー・も^しー」

 

 

 クラゲ型メダロット、プルルンゼリー。確か射撃……特に追尾機能に優れた「ミサイル」を得意とする機体。

 何故か壊れた機械音声の様な「もしもし」を繰り返し、かくかくと動いているが。

 

 

「ぶっふぁ。猪突猛進」

 

 

 イノシシ型メダロット、ダッシュボタン。護衛と頭部の「完全防御」がやっかいな援護機体。

 何故か廃熱の度にぶっふぁと音がする辺り、廃熱機構に問題でも抱えているのかも知れないが。

 

 

「―― ぬん。今宵はマリンスノーが美しい」

 

 

 そして水場から顔を出した、ダイオウイカ型メダロットのアビスグレーター。

 何故か水中から出ているのは頭だけ。マリンスノーがどうとか言っているが、おどろ沼にそんな水深はない。

 

 

「ロボロボ団幹部シオカラ! そしてイッキ君とユウダチさん! 両者、合意とみて宜しいですねっっ」

 

 

 どうやら出そろったらしい事を嗅ぎつけ、ざばり。沼の水をかき分けたミスターうるちが現れ、仕切りを始めた。沼だけに、カッパを模した皿と甲羅がポイントだ。

 ……ちなみに。個人名はメダロッチに登録されているため、メダロット社の審判員が知っているのも判る。だけどシオカラという名の男がロボロボ団幹部だと判るのは、どういう仕組みなのだろうか。

 …………審判員なので幹部を実際に見たことがあるのかも知れない。なら納得か。ミスターうるちについては考えるだけ無駄なのだろうと、イッキはそう結論づけておく。シオカラ本人も身バレしたというのに、さして気にした様子もない。気にしたら負けなのかも知れなかった。

 

 さて。

 イッキのメタビーと、ユウダチのヨウハク。

 対するシオカラは3機のメダロット。

 数の差。劣勢。そういった要素を全てぐっと握った拳に込めて突き出し、ユウダチが口を開く。

 

 

「ふっふっふ……行くですよっ! ロボトルっ……ファイトですっっ!!」

 

 

 台詞を取られたミスターうるちが愕然とするのも気にせず。

 それら難敵を目の前にして尚、嬉しそうにどろりと微笑んでいたのが。

 ……自分の笑顔を覆い隠して、視線を逸らしながら微笑んでいたのが、イッキにとっては印象的だったりした。

 





・プルルンゼリー
 「もーしーもーしー」。字面はわざと^。
 僕らのウォーゲーム……の、次の作品で現実世界に増殖する容量削減クラゲ型モンスター……が、集まって出来上がった究極体……の手前の、わらわら増えるくせ左腕のキャノンで一掃される究極体……が、世界を股にかけて遊んでいた場面より。やっぱり場面的にはウォーゲーム内だった。
 こう書いてみると関連性は薄かった気もする。バージョン共通のシオカラの僚機。


・アビスグレーター
 クワガタバージョンにおけるシオカラのメダロット。

・ダッシュボタン
 カブトバージョンにおけるシオカラのメダロット。
 せかいの ほうそくが みだれる。
 つまりはそういうことです(ぉぃ。

・ぬん
 メダロットの個性を振り切ったものにするのは良いですし好きなのですが、そればっかりだと胃もたれする気がします。
 個性はかなり即興で考えているので、作者的なネタ切れなのかも知れませんけれども。




 202200527 書き方変更のため、前書き追加。
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