ジャンクヤードの友人へ   作:生姜

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   そして境目

 

 ヨウハクとは、先ほどオーバーホール中と話していた機体ではないのか。そんな事を考えながらも、ロボトルは開始されている。まずはそちらに集中すべきだろう。

 リーダー機をメタビーに任せたかと思うと、ユウダチのメダロットであるヨウハクは一目散に敵陣へと切り込んでゆく。

 狙いは援護機体、ダッシュボタン。

 

 

「―― ツェア!」

 

「ぶっふぁ!?」

 

 

 装甲の厚い戦車型の脚部であることを利用して、速度に勝るヨウハクは怒濤の連撃を仕掛けた。

 左の「殴る」攻撃、ハンマー。右の「がむしゃら」攻撃、ソード。

 反撃できない防御機体を狙っているのもあり、容赦が無い。ダッシュボタンの右腕が弾け、胴体が切り裂かれ、なんと、一撃で両腕のパーツまでも切り裂いて見せた。

 凄まじいまでの速度に、しかし、イッキも見とれてばかり居るわけにはいかない。

 

 

「メタビー、僕達はクラゲ型を狙うぞっ」

 

「判った! ……おらっ、こっち向きやがれっ!!」

 

「も^しー・も^しー」

 

 

 メタビーがガトリングの雨を浴びせかけると、プルルンゼリーも(リアクションは変わりないが)たまらないという風にメタビーの側を向いて防御を始めた。

 プルルンゼリーも重装甲、タンク型の脚部をもつ純正一式。格闘型の回避能力を無視できる「ミサイル」攻撃持ちを引きつけておくのは、メタビーの役目だろう。

 自分の身体で射線を切りながら、メタビーはミサイルの充填を始める。

 

 

「くらいやがれっ ―― 反応、弾っ!!」

 

 

 プルルンゼリーの充填より早く、メタビーの攻撃。

 2つのミサイルが頭上の砲塔から飛び出して、しかし。

 

 

「ぬん。隙だらけ ―― である!」

 

「んなっ!?」

 

 

 それらは、アビスグレーターが射出したミサイルによって対迎撃を受けていた。

 ぼぼんっ、と誘爆を果たした煙の中から、今度はプルルンゼリーのミサイルが飛び出してゆく。

 

 

「も^し^」

 

 

 両腕に遊園地の乗り物のようにぶら下がったミサイル全てが、射出。

 弾頭の雨は、驚くメタビーの横を抜け。

 

 

「む ―― くっ」

 

 

 狙われたヨウハクは、それら全てを回避できる針の穴を通すような位置で身体をちぢ込めるも。

 

 

 ―― ボボボボ、ボウンっ!!

 

「ちぃっ……爆風かっ」

 

 

 それでも、着弾したミサイルの爆風によってパーツに熱傷を負っていた。

 ヨウハクはすぐさまその場を飛び退いたが、爆発の衝撃でまくれた泥が全身に付着し、ぶすぶすと焦げたパーツスキンが凄まじかった爆発の余韻を残している。

 

 

 

「いけるですかっ、ヨウハク」

 

「慣れていないパーツだが、まだ何とかなるだろう ―― カブトムシ!」

 

 

 屈んだまま、ヨウハクは声を荒げた。メタビーをご指名である。

 メタビーはコミュニケーションモニターに、きょとんとした顔を浮かべた。

 

 

「オレか?」

 

「ああ。クラゲ型を押さえるのを任す」

 

「そりゃ良いが、あのイカはどうすんだよ」

 

「元より私が2機分をこなす積もりだ。その分は……」

 

「あーくそ、わぁったよ。オレがクラゲをやっちまえばいいんだな?」

 

「……倒せとは言っていないが」

 

「やれるっての。そうだよな、イッキ!!」

 

 

 わざわざメダロット同士を指定しての会話から、矛先はイッキへ。

 やれると語ったメタビーの言葉の意味は伝った。先日、ギンジョウ小学校がコウジらの襲撃を受ける前、スクリューズを撃破して見せたメタビーの謎の技……「メダフォース」を使うと言うのだろう。

 

「(うーん、どうやって使うのかは、まだはっきりとは判らないんだけど……)」

 

 目を落とすイッキ。メダロッチを通して表示されるステータスの内に、先日から、謎のゲージが追加されていたのには気づいていた。恐らくはこれがエネルギー源なのだろう。

 このメダロッチは、イッキの父がメタビーと共に持ってきてくれた新型だ。「メダフォース」という名付けは通い詰めている研究所のメダロット博士によるものだが、これも新しい機能なんだろうな、とだけ考えていた。

 いずれにせよゲージはまだ溜まりきっていない。それでもメタビーがやると言ったのだ。幽霊メダロットを酷使していたのは、恐らくはこのロボロボ団。メタビーの声に、ユウダチの考えに、ヨウハクの意思に答えたい。これらは紛う事なきイッキ自身の思いである。

 

 

「……なら決まってる。やるぞ、メタビー!」

 

「おうよ!」

 

 

 メタビーが再び「サブマシンガン」の銃口を持ち上げたことで、じりじりと均衡していた戦局が再び動き始めた。

 陣形を整え終えたシオカラが、メダロッチに向けて叫ぶ。

 

 

「仕掛けい、くらげ(・・・)! ないと(・・・)!」

 

「ぶっふぁ!」

 

「も^しー・も^しー」

 

 

 動き出したのはプルルンゼリー、そしてダッシュボタン。

 ダッシュボタンはプルルンゼリーの斜め前方を位置取り、いつでも援護に入れるよう残った頭パーツを突き出している。前傾姿勢もあって、これはかなりイノシシっぽい。

 その奥で、アビスグレーターが橋の横……水の中に再び身を沈めたのが見えた。

 

 

「だらああーッ!」

 

「ぼっふぁ、ぶっふぁ、ばっふぁ!」

 

 

 迎え撃つ。

 メタビーがプルルンゼリー目掛けて繰り出すガトリングの雨を、防御しながら前へ前へと射線を切ってゆくダッシュボアが「完全防御」してゆく。

 

 

「も^・も^・も^しー・も^しー」

 

「だぁっ、うっとうしいんだよ、コンニャロー!」

 

 

 機械音声と共に降り注ぐ、ミサイルの雨。

 メタビーは蹴り上げた脚部と左腕で防御を行い、頭パーツにもダメージを負いつつ、何とか耐え凌ぐことに集中する。

 爆発の中を、また一歩、前進。

 狙いの通り、ダッシュボタンが目前に迫っていた。

 

 

「―― 食らえやっ!!」

 

 

 待ってましたとばかりに、メタビーが右腕の大爪を振り上げる。

 完全防御は援護の時以外、例えば自分が狙われた場合などには機能できない仕組みの物だ。

 反動などものともしない、高威力の格闘攻撃。振り上げ、振り切った爪と同時にメダルが弾けた音が響く。

 

 

「ぶっふぁ」

 

「ダッシュボタン、戦闘不能!」

 

 

 職務をこなすミスターうるちが腕を振り上げ、戦闘不能を告げる。

 これで2対2 ―― と、勢い勇んでイッキが顔を上げる。

 シオカラは動じていない。サングラスで表情が判らないだけかも知れないが。

 

 

「―― ふむ、やれい」

 

 

 腕を組む全身タイツ、シオカラの視線の先。

 ちょんまげ、イッキの視界の外。

 

 

「ぬん。陰となりて敵を討つ」

 

 

 橋を挟んで向こう側で、ちゃぷんという音と共に潜水型メダロットが顔を出していた。

 アビスグレーターはがむしゃら攻撃によって無防備になったメタビーに頭パーツの銃身を向ける。弾数が少ない代わりにメタビーのそれよりも高い威力を持つ、ミサイル攻撃を。

 イッキがその砲撃に気付いた時、既にメタビーはミサイルを防御できない体勢だった。

 

 ただそこへ、一筋、侍の様に右腕を構えたメダロットが割り込んでゆく。

 

 

「―― 着弾点が決まっているのならば、迷うことはない!」

 

 

 メタビーを狙ったミサイルが、真っ二つに。

 半身のまま刃で弾頭を切り捨てたエイシイストは、そのまま、水場へと直進する。

 ひと飛び、ふた飛び、推進力を全て体重に乗せて。

 

 

「ぬん ―― この身に替えても!」

 

 

 高速で迫るヨウハクへ向けて、アビスグレーターは両腕を持ち上げた。

 メダルが発したエネルギーをたたき込み、両腕を暴走させる。破壊力だけを前方に向けて射出する、「サクリファイス」攻撃だ。

 

 カミキリムシとダイオウイカ。

 メダロットが交錯した次の瞬間、イッキの耳にはぼぼん、という爆発音だけが届いた。

 それはアビスグレーターが「サクリファイス」の反動で両腕を爆発させた音で、しかし、それ以外の音は響かなかった。

 すれ違いざまに頭を切り裂いたエイシイストが、水に浮かぶアビスグレーターの頭を踏みつけて岸に飛び乗り、残心。

 

 

「―― カブトムシのミサイルを対迎撃した熟練度からみるに、お前が幹部シオカラの言う『くらげ』だったのであろう。私の迎撃に、得意の火薬ではなく、慣れない犠牲攻撃などを使ったのが運の尽きだ」

 

「ぬん。無念」

 

 

 アビスグレーターがおどろ沼の水辺にぷかりと浮かぶ。

 ミスターうるちの声を待つまでもない。残るは1体、メタビーの銃撃によって装甲を削られたプルルンゼリーのみ。

 イッキの切り替えは早かった。メダロッチに表示されたゲージが、先ほどのミサイルの雨によって満タンになったことを示している。

 あの「メダフォース」の名前は決めていた。イッキはメタビーに向けて、とどめの指示を飛ばす。

 

 

「メタビーっ、『一斉射撃』!!」

 

「おうよっ ―― んだらぁぁぁぁーーーッ!!」

 

 

 頭と左腕の射撃パーツからエネルギーをかき集め、それでも尚溢れるエネルギーが待ちきれないとばかりにカブト虫の角へと集まり。

 名前そのままの威力でもって束ねられた光が、一方向へ向けて放たれた。

 びり、と。

 

 

「……あれは……」

 

 

 ユウダチが驚いたような顔をしていた気もするが、結末は変わらず。

 轟音と共に、メタビーの「一斉射撃」がプルルンゼリーのパーツを纏めて撃ち貫いた。

 ミスターうるちが快哉をあげ、びしり。

 

 

「戦闘不能っ! 勝者、イッキ&ユウダチチーム!!」

 

 

 ちなみに。

 ミスターうるちの声を待たずして、老人とは思えぬほどの素早さで脱兎の如く逃げ出したシオカラはご愛敬である。

 

 

 

 

 ◇◇

 

 

 

 

 ロボロボ団幹部を撃破した後、コウジは中流で発見された。

 イッキとの勝負は引き分け。再試合の持ち越しとされた。コウジの負けず嫌いが、遺憾なく発揮された形である。

 コウジが見つからなかった理由だが、どうやら山を散策中に、スクリューズというイッキと同じ小学校の悪ガキ3人組に絡まれていたらしい。幽霊を倒してパーツを取り戻せば、スクリューズの名声うなぎ登り! という算段である。コウジを邪魔した理由も、名声独り占め! という欲望丸出しの考えであろう。それが運の尽き。もちろんスクリューズの彼ら彼女らは、コウジにロボトルで蹴散らされたわけだが。

 そしてもちろんコウジは、それなら連絡を入れろと、ユウダチとカリンと自らの母によるお説教を受けもしたわけだが。

 

 

「ねえ、ユウダチ」

 

 

 暗くなり始めた夏の夕方。メダロポリスとおみくじ町の境目。

 道中に家があるアリカを送り、迎えの黒塗りの高級車に乗り込んだコウジとカリンを見送ってから、イッキはユウダチを呼び止めていた。

 ユウダチはどうやら、メダロポリスにあるメダロット社に近いアパートで一人暮らしをしているらしい。だからコウジ達とは帰り道も別々。「ミニハンドル」というパーツの試運転を兼ねての帰宅。

 ……だが、そこを呼び止められて、ユウダチは不思議そうな顔を浮かべてみせた。

 

 

「? なんです、イッキ」

 

 

 笑顔ではない。ただ、決して無表情でもない。

 好奇心は抑え切れていないが、興味を隠すつもりもない。

 そんな、少女然とした印象の顔だ。

 

 

「ううん。えっと、ちょっと聞きたいことがある、って言うか……」

 

 

 呼び止めたのは他でもない、今回のおどろ沼における事件にまつわる内容についてである。

 シオカラを撃退し、幽霊メダロットの修理をメダロット博士に任せた後。イッキは「この件については誰にも話さないで欲しい(です)」と、ユウダチからお願いをされていた。

 とはいえ子細も語らず協力だけしたのでは締まりが悪い。気になるので、聞けることなら聞いてしまおう。そういう感じである。

 

 

「ん、んんー……話すには、ちょっと説明が必要なんです」

 

 

 雰囲気を察したのだろう。アリカもカリンもコウジも居ないので、周囲を気にする必要も無い。それでもやや躊躇った様子で、ユウダチは傾いだ。

 

 

「あ、えと、無理には聞かないよ?」

 

「うーん……でもでも、今回の事件で手伝って貰ったイッキに隠し事をしたままなのも具合が悪いですし……」

 

 

 そういう部分も含めて無理には聞かないと言ったのだが、どうやらユウダチは几帳面な気性であるらしい。

 

 

「なら、そうですね」

 

 

 ユウダチはうんうんと暫く悩んだ末に、ぽんと手を叩く。

 くるりと回る。腕を思いっきり持ち上げる。表情に反して、リアクションが豊かだ。

 持ち上げた腕の先で人差し指を立てると、つついーっと、ご機嫌な様子で南側を指さした。

 

 

「イッキ。明日、海へ行きましょうですっ!」 

 

 





・爆風
 初代メダロットにおける「ミサイル」「ナパーム」を回避した際に起きた現象。威力は減衰している。以降のメダロットでは「火薬」攻撃は必中扱いとなった。
 必中扱いはちょっと……。ゲームならではかと。とはいえ熟練度の差があったからこその芸当です。


・メダフォースゲージ
 ダメージでも溜まる、新世紀のメダロットに近い仕様。
 元々が一発逆転の為の(もしくは攻撃パーツが全壊した時の最終手段(わるあがき))手管なので、此方の方がロマンがある。
 ただし其処に(残念ながら)ロマンスはない。

・3対2
 初っ端、シオカラのフルメンバーがご相手。
 お察しの通り、このルートは茨の道です。

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