ジャンクヤードの友人へ   作:生姜

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5話 アガタヒカルの冒険/中章

 

 ユウダチが発した案はとんとん拍子で事が進んだ。

 少女に紹介された人物が、なんと件の「メダロット博士」であったのには驚かされたが、その博士自身から両親へと連絡がなされ、ヒカルの山修行はなんとも簡単に認可されてしまったのである。

 

 

「こんなに簡単に進んで良いことなのか? なんだか怖いんだけど」

 

「良いじゃねえかヒカル。どうせ山には行くんだろ? 修行だぜ修行!」

 

「メタビーの言う通りですよ、ヒカル兄さま!」

 

 

 研究所で一泊。翌朝、ユウダチともう1人をつれてヒカルは研究所を出立した。

 研究所のあった街を少し出れば、そこは田舎である。これも区画整備が厳重に整備なされたからなのか。と、ヒカルは自身の祖父の住んでいる田舎を懐かしく思いながら歩き進める。

 隣にはヒカル兄さまの修行に着いて行くのだと言って聞かなかったユウダチ。

 

 ……と、もう1人。

 

 

「……」

 

 

 時折ヒカルをちらちらと見ながら無言で歩くのは、白衣を着た楚々とした女性だ。聞くところによると彼女も10歳の筈なのだが、ヒカルと同年だとは思えないほどその物腰は大人びていた。

 それもその筈。彼女はその年にしてメダロット博士の右腕として大人に混じって活躍をする研究者であるらしい。

 見た目通りに園児であるユウダチが修行に同行することを許されたのは、彼女が同行するからという部分がとても大きかった。

 

 

「やっほー、ですー!」

 

「お、なんだそれユウダチ。オレもやるぜ! やっっほーぉ! ですー!」

 

 

 いつまでも無言を貫き通すのは空気の汚染である。

 ケイタイから出たメタビーとユウダチとがわいわいと叫んでいるその後ろで、腹を決めると、ヒカルは彼女へ声をかけた。

 

 

「それでその、ナエ、さん……で良かったかな?」

 

「はっはい!」

 

 

 声をかけられ、びくりを身をちぢこめた少女……アキハバラ・ナエ。

 折角勇気を振り絞ったその結果に少し落ち込むも、実はこれも仕方が無いこと。いくら大人びているとはいえ、小さい頃から研究者として育ってきたナエは、同年代の男子と話す機会など無いに等しかったのである。

 というか実は孫に甘々なメダロット博士の妨害もあるのだが……そこへ思いがけず、ヒカルの登場なのだ。しかも妹分に連れ出され、いきなりの遠出。よりにもよって場所は山。緊張する要素しかなかった。

 

 

「……」

 

「……」

 

「はふぅ、メタビーさんの装甲は重厚で良い感じです。かっこいいです。メダロット社のこういう童心をくすぐるデザインは素晴らしいと思うのです!」

 

「そうか? いやぁ、照れるなぁ」

 

「……」

 

「……」

 

「そういやちびっこにもメダロット居んのか?」

 

「はい居ますよ。大人しいので、あまり率先しては話さないですけど」

 

「……」

 

「……」

 

「何だこれ!? すげーいっぱいの水! これも海か!?」

 

「これはダムと言いましてですねー、マニアさん達がこぞって集まる……」

 

「……」

 

「……」

 

「暗くなってきたなー、おい」

 

「なんでしょうあの立て看板。野良メダロットにエサはあげませんが……いざとなったらメタビーさんの反応弾の出番です!」

 

 

 ユウダチとメタビーの会話だけが延々と続く道中。

 いつしか辺りから民家の気配が消え、ダムを越え、山の入り口へと差し掛かった時。

 

 

「―― その、ごめんなさい」

 

 

 両者の間に満ちた沈黙を破ったのは、ナエだった。言葉の通り申し訳なさそうな表情で、俯いている。

 その様子に慌てて、ヒカルはばっと両手を振る。

 

 

「あ、謝る事は無いよ!?」

 

「でも、折角ヒカルさんが話しかけてくださったのに、わたし……」

 

「誰だってそう言うことはあるからさ。気にしないで。僕もちょっと緊張してたし」

 

「そうなんですか?」

 

「うん。だってほら、僕の都合に無理矢理に巻き込んじゃっただろう?」

 

 

 ヒカルがワザとおどけた調子で言うと、ナエはくっきりとした目を見開いた後、口元に手を当てたおやかに笑った。

 

 

「ふふふ。優しいんですね、ヒカルさんは」

 

「お人よしだ、ってはよく幼なじみに言われるよ」

 

 

 ようやくと心からの笑みを見せたナエの様子に、ヒカルもやっと荷の降りた気分であった。

 実の所、ヒカルには猿のところへ向かう用事がもう1つ出来ていた。山の麓にある村を通過した際に、猿にメダルを奪われたという少女に泣きつかれていたのである。

 あの時も母性を発揮してくれるナエが居なかったら、どうなっていた事か。と、ヒカルは自分のふがいなさからやや弱気になって。

 

 

「あの女の子のメダル、取り戻せると良いんだけどなぁ」

 

「厳しい意見になるかも知れませんが、奪ったのが野生の猿となると、その特定はちょっと難しいかもしれませんね。こう言うのは本来、セレクト隊の仕事なんですけど……」

 

 

 ナエがヒカルを励ますように意見を付け加え、憂うような表情を作る。

 

 

「セレクト隊は、本部の隊長さんの人格があれですので」

 

「? どういうこと?」

 

「はい。先ほどの山の麓の村には、セレクト隊の支部がありませんでしたね?」

 

「うん」

 

 

 どこか学校の教師のような雰囲気で指を立て、解説を始めてくれたナエに、ヒカルが素直に頷いて先を促す。

 

 

「そういう場合は本来、本部から部隊が派遣されてしかるべきなんです。でも、こういった小さい事件はタイヨー隊長が好む案件ではありませんので、恐らく申請しても部隊の1つもよこしてくれないでしょう」

 

「なんだそれ? ショクムタイマン、ってやつじゃないの?」

 

 

 父が隊員をしているヒカルとしては、やや信じられない内容だった。

 その様子を見ながら、ナエはあくまでわたしの知っている見聞によるものですが……と加えて。

 

 

「ですが、研究所周辺でも有名な話題ですよ。実際小さな盗難事件はいくつも握りつぶされ、新聞に載るような目立つ事件ばかりに人員を割くと。勿論、それに反発する隊員達もいるみたいですけれどね」

 

「う~ん……めんどくさいなぁ、大人って」

 

 

 ある意味では淡白で身も蓋も無いヒカルの反応に、ナエは再び頬を緩める。

 実直な少年に向けて、暫く暖かい気持ちを胸に抱いて。むんと拳を握って、ヒカルに笑顔を向けた。

 

 

「ですので是非、わたし達で解決してあげましょう! ヒカルさん!」

 

「そうだね。ありがとう、ナエさん」

 

 

 

 ◇

 

 

 

 その後は順調だった。深くなっていく木々の間にある獣道を、時折顔を出す野良メダロット達を退けながらさかのぼって行く。

 日が完全に落ちた頃合で、タウンマップが示す目的地周辺にまでたどり着くことができていた。

 

 

「う~ん、この辺りの筈なんだけど……」

 

「迷ったのか?」

 

「不吉な事をいうなよメタビー」

 

 

 件の目的地とは、山の天辺に存在するという「温泉」だ。

 ナエが猿の居る場所を予測してくれたのだが、猿と言えば温泉と言うイメージが強かったのも否めない。

 しかしあてが無いよりはマシなのではないかというユウダチの進言もあり、とりあえずの目的地として探している。の、だが、未だヒカル達は温泉を見つけられずに立ち往生していたのである。

 

 すると。

 

 

「おいすげーぞヒカル! 見ろよ、金ぴかのカブトムシだぜ!」

 

「どこだよ?」

 

「そこそこ! ……あーっ、逃げちまった!」

 

 

 ヒカルがメタビーの示す方向を振り向くと、小さな羽音が1つ頭上を通過してゆく。

 それがメタビーの言う「金色のカブトムシ」であったのかは知れないが、いずれにせよヒカルの視界に、既に動くものは何も無かった。

 

 

「何だよ。……んん?」

 

 

 しかし振り向いたその先に、偶然にも、湯気が立ち上っているのが見えた。

 なんどか目をこすりながら確認し、ヒカルは後方で周囲を見渡しているナエとユウダチに声をかける。どうやら目的地の発見らしい。

 

 

「ナエさん、ユウダチ、メタビー。どうやら向こうみたいだ」

 

「ん? お~、流石はヒカル兄さま。確かに向こうに湯気が見えますね」

 

「……あの、それは良いんだけどユウダチちゃん。手に何を持ってるの?」

 

 

 面々が集まってくる。だがナエの言う通り、ユウダチが何かを手に持っている。

 山が暗くて良く見えないが……と凝視していると、ユウダチはヒカルの左手に何かを握りこませた。

 六角貨幣石ぽい何か。そして、袋詰めの重たい何か。

 

 

「何だよこれ?」

 

「メダルっぽいのが落ちていたんです。あと、良い土があったので兄さまにと」

 

「……はぁ。メダルもどきは、後でセレクト隊で照合してもらおうか。これが女の子のメダルだったら良いんだけど……何で土なんだ?」

 

「マイナーですが、良い土は陶器としてメダロットの装甲にも使えますからね。ユウダチちゃんの生家であるムラサメの会社ではよくよく生産していたんですよ、ドンドグー系列やハニワミラー系列のメダロット」

 

「そうなの?」

 

「はい。ナエお姉さんの言う通りです、ヒカル兄さま。……メダルは、ん~、祠に置いてあったのでそれもどうかと思いますです。忘れ去られるのは寂しいことですからね。ああ、お猿さんに信仰心があったら、それはまた別の話になるですが」

 

「まあ良く分からないけど、その辺りは後にしておこうぜ。まずは猿のヤローをぶっとばさなきゃな!」

 

 

 移ろい出した話題を区切るように、メタビーがコミュニケーションモニターの表情にヤル気を満ち溢れながらふんと鼻を鳴らした。どうやらメタビーの中では猿=倒すべき相手であると認識されてしまったらしい。

 ヒカルはその様子に自然の生物を一方的に攻撃するのはなぁ……とは考えつつも、行動の指針には賛成し、一行を率いて温泉へと向かった。

 





・園児
 ヒカルにメダルを取り返してほしいと泣き付いた幼女のこと。
 彼はロリコンではなくペd(検閲)でもないのでご安心を。
 実際、メダロット1の遭遇戦の相手には園児が実在するがどうでもいい話。

・金色のカブトムシ
 メダロット博士とヘベレケ博士の共通の師、フシハラ博士が飼育していたという個体。研究素体となるにふさわしい特殊性を秘めていたようだ。
 作中でメタビーが目にしたものがこれであったのかは定かではない。

・コミュニケーションモニター
 メダロットの(主に)頭部に搭載される、感情表現を行う装置。カメラアイとは別物である。
 メタビーの場合は人間で言う顔の部分に、黒液晶に緑光のデジタルモニターが搭載されており、光の有無によって顔文字(というか目鼻立ちというか)を表現することでコミュニケーションを円滑にすることを目的としている。
 メダロットがロボットペットに区別される、最たるもの。とはいえメダルには知性が備わっているため、言語変換機能とスピーカさえ搭載されていれば、これ抜きだとしても十二分に役割は果たせるかと。


 20160508.追記修正
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