ムラサメという家は、いわゆる名家
その栄光は過去の物だが、鉱石業であげた業績を生かし、メダロットという新興の玩具に関する商業に携わっていた。
パーツの加工。土台となるティンペットの生産。それらの修理、販売。不自由はない。それら利益でもって、ムラサメの家を保つには十分過ぎる。
ただ、メダロットという仕組み……その中央にメダルというコアを埋め込まなければならない構造が、家に不和をもたらした。
メダル。ロボット。その中心となるのは、頭脳にして魂を司るメダルである。故に、そのメダルに関する利権を独占しているニモウサクの家がメダロット市場を牛耳ることとなるのは、自然な流れでもあったのだ。
ムラサメの家の中心、つまりムラサメ・シデンの両親は割と善良な人達だ。
社長という立場よりは代表と呼んだ方がしっくりくるような、腰の低い、和を尊ぶ人間性を持っている。
和を尊ぶ。社の重役達の意見を無視しない、権力の強さを率先しては振るわない人達である。
ニモウサク家の台頭に対して、ムラサメの社に示された方針は幾つかあった。
ニモウサクの家に恭順し、メダロットという大事業の一役を担うこと。
パーツやティンペットの独自開発を行い、ニモウサクとは違う路線で楯突くこと。
アクセサリーや周辺機器に手を出すという路線もあっただろう。実際、「ケイタイ」と呼ばれる第一次メダロット転送格納機器の開発には、ムラサメの家から出頭したシデン少年の力が大きく働いている。
しかし重役達はそれらの方針の中から、よりにもよって最も波風立てる選択肢をこぞって推した。
つまりは、独自開発。メダロットという分野における独立だった。
ムラサメ社が持つ武器……財産として、「遺跡」と呼ばれる地域を買い上げている事が挙げられる。
かつてのメダルは、地面や遺跡から出土した物が全て。パーツすらも、遺跡から発掘したものを参考にしているほどだ。依存しているとすら言えよう。だからこそ幾つもの遺跡を押さえているムラサメであれば、社会的な利権を押さえられていても、いくらか融通は利くだろうという算段であった。
そうして、両親の反対を押し切りメダロットの独自開発は実行に移された。
資金も、人手も、社の殆どを注ぎ込んだ。基盤からして違うメダロットを作り上げるため、遺跡の殆どを吸い尽くし、
ムラサメ社は努力を重ねた。その時代は、メダロットが売り出されて未だ数年という頃合い。そうして、前を見ていられる時代だった。
……すぐさま「天然ではないコピーメダルの開発」に成功したニモウサクの家によって、メダルの発掘という利点すらも奪い取られ、完膚なきまでに叩きのめされるという結末を迎えるまでは。
一度負ける。そこまでは良かった。負けた時の方策が無いようでは、それは社である意味が無い。
セーフティは稼働し、ムラサメという社の形は存続した。痛めつけられた重役達は大人しくなった。ニモウサクのメダロット事業に参画し、自社の特徴を生かしてパーツの生産業と開発業を受け持つことが出来た。
やっと協力できたのだ。なのにそれを、ニモウサクの家に取り込まれたのだと。ムラサメの誇りを忘れたのかと。そう、良く思わないのは、社に残った……かつて痛めつけられた人達である。
ムラサメ・シデンという長兄は、そんな捻れ狂う淀みの中で生きていくことを選んだ。淀みの中だからこそ輝く才気を掲げ、自らを天才なのだと戒め、汚れを胸の奥底に積もらせつつも、表層には出さぬよう細心の注意を払いながら。
ムラサメ・ユウダチという長女は、そんな暗闇の中から逃げることを選んだ。しかし5才になったばかりの子どもが親から離れられる筈はなく、傘下の炭鉱街で単身、社宅を転々とする日々が続く。妬み嫉みの渦から這い出たが故に、その瞳の中に貯まった汚泥を吐き出すことも許されずに。
翌年、メダロットという社会を揺るがす事態が起こった。
後に「魔の10日間」と呼ばれる、メダロットの暴走事件である。
事件の後に残された何が問題なのか……は、吐き捨てるほどあって枚挙に暇がない。
例えば根幹のメダル部分に電流操作で暴走させられるシステムが仕組まれていただとか。
そのメダルがニモウサクにセレクト隊が依頼して作られたセーフティ機能ありありのコピーメダル、セレクトメダルだとか。
メダロッター人口の多さから、コピーメダルは販売中止にはならず、電流操作機能を除外した物が今でも販売されているだとか。
セレクト隊の隊長が犯人だったとか。ビルが一晩で消えたとか。宇宙人がゴシップだとか。
……そういう雑事は、年時の経過によって薄れていくのでどうでも良いだろう。
ただ、「魔の10日間」を、解決に導いた少年少女がいたのだ。
野良メダロット達の立場が悪くなったのだ。
ニモウサクの家に批判の矛先が向けられた事で、重役達が本格的に復讐を再開し始めたのだ。
メダルとロボット。
その組み合わせによる技術が生まれて、生産ラインが作られて、商業に乗って……たかが数年での出来事だった。
だからこそ、魔の10日間という事件を経て初めて、ロボットペットと人間との関係が本格的に問われ始めていた。
それからまた、時間は過ぎて行く。
メダロットは世界的なブームになった。
こうして島丸々1つを使ったメダロットをテーマとした遊園地が出来て、それが商業として成り立ってしまう程度には。
メダロットはロボットペットとしてだけではなく、玩具として、そして宇宙開発の一助としても期待をかけられている。
結果としてムラサメの家は、そのどれにも関わっており……ステーションの開発では一歩遅れたが、宇宙適応したメダロットの開発においてはニモウサクの家に先んじることが出来たのだった。
そうして今に至って。
ムラサメの子ども達は、未だ汚泥の中を藻掻き進む日々を過ごしていた。
ムラサメ・シデンは若き社長、社の広告塔として。
ムラサメ・ユウダチはその開発部門の一職員として。
ムラサメ・レイニーは……まだ物心ついていない年ながら、シスターをしている。
◇
ガラクタ山の動かぬメダロットだけが友達だった少女は、5才の頃にアガタ・ヒカルとアキハバラ・ナエに出会う。
光明だった。暴走事件を通して奔走し、時には崩れることもあったが、彼らのおかげで寂しさを少しだけ克服し、前を向くことが出来た。
小学生になった少女には、友人が出来た。名前をジュンマイ・カリンという。
カリンは少女の背景や人とずれた感覚を受容できる、受容しながらも付き合ってゆける、温和で広い人柄を持つ少女だった。
少女は、彼女を通してカラクチ・コウジと知り合い、そのコウジを通してテンリョウ・イッキやアマザケ・アリカとも知り合った。
暴走事件を機に力不足を実感した少女は、ロボトルも強くなった。
その兄は何やらムラサメ社……現「ロボトルリサーチ社」を利用して色々と手回しをしているようだが、いずれにせよシデンとそのメダロット達もロボトルが強い事には変わりない。
少女は小学5年生となった。
本日、少女は友人達と共にメダロッ島というテーマパークに訪れていた。色々と他の理由……ロボロボ団幹部のサラミがどうやら暴走しているらしいというものもあったが、単純に初めて利用する「テーマパーク」なるものに対する好奇心も大きかったであろう。
テーマパークそのもの、アトラクションの数々と催し物は大変に楽しいものだった。友人たちと一緒なら尚更である。
そこへイッキとアリカが同道したのは偶然だが、しかし目下、少女の興味は偶然同道したその友人へと向けられていた。
「……」
自らが属する研究室のPCの前を陣取って、黒い両目をうっすらどろりと開く。視点は揺るぎない。
友人はその名を、テンリョウ・イッキと言う(さっきも言ったが)。
自らと同年の11歳。アガタ・ヒカルが認め、自らも愛用するKBT型を怪盗レトルトに扮して渡すほど。また、メダロット博士と共に開発したメダフォースを測定できる新型メダロッチを渡すほどの ―― 純然たるメダロット好き。
子どもらしくメダロットと向き合うことが出来、気弱なところもあるが真っ直ぐな、しかしいざという時には勇気を奮って悪に立ち向う少年。
そういう、頭に結われたちょんまげ以外は、ごくごく普通の少年である。その筈なのだ。
だが、その少年は「メダロットと心を通わせる」 ―― この1点において平凡ではなかった。
一般的な子どもらは、メダロットとの間に「一線を引く」。それはロボットと人間の間に隔たる当たり前の隔絶であり、必ず別れを迎える両者にとって必要な「距離」だ。
しかしテンリョウ・イッキにはその距離が、ない。
主従としての畏れがない。庇護を受ける側の引け目もない。普通の、それこそ同年代の友人と……仲間と接するように、メダロット達とコミュニケーションを取れる。
それはかつての、人の集団に排斥されたアガタ・ヒカルが持つ、数値に表せない素質であり。
そして今、ユウダチが捨てられずに持ち続ける、人ならざる感覚の正体でもある。
「……」
メダロッ島から帰ってきて、しばらくの時が過ぎた。そろそろ夏休みに突入する頃合いである。
彫刻のように椅子に座っては動かず。少女が燻りうねる黒々とした瞳で見つめる先には、ロボトルリサーチ社が運営するメダリンクのリアルタイム順位表が表示されている。
メダロッ島から帰還してからというもの、テンリョウ・イッキは邁進を始めた。どうやらロボトルに精を出しているらしい。
元々素質のある少年が、本来ならば友人たちと遊んでいるであろう放課後や、家族の団らんの時間を削ってまで、メダリンクを利用してロボトルの研鑽を重ねているのだ。流石に少年は吸収率が高い。ランキングを急激に上昇させているのは、少女にとっては不思議な事でもない。
ロボトルランキングの上昇……いや。彼の場合は単純にロボトルが上手くなりたいという一心なのかもしれないが……とにかく、日本ランキングを急上昇させている少年。
花園学園の学生であるハチロウを倒せば、小学生ながらにトップ50も圏内である。そろそろ目立つ立場になりそうだ。
「―― イッキ」
モニターに表示された少年のランキングポイント上昇を見届け、どろりと両目を動かすと、少女はぽつりと少年の名を零す。
自社というにはおこがましいが……ムラサメの家が。ロボトルリサーチ社が管理する、ロボトルランキングだ。あれでプライドの高い兄がああいうことをしているのは、その辺りも関係しているのだろう。
少年がランキングを上げ続ければ、いずれは自分と戦う事もあるのだろうか。
だとすれば、その時には ――。
「……いえ。それはまだ、早いです。でも……楽しみにしておきますです、イッキ」
本当に楽しそうに笑うと、少女は自らの研究室の明かりを消し、部屋を出て行く。
がらくた共の山の中。研究室の細胞固定液の中に浮かび続けるメダル達は鈍くも光り、少女の行く末を見守っている様に見えた。
地の文多め。
前半はまとめとおさらい、後半はいよいよユウダチ視点の解禁という構成です。
多分、私の悪癖(くどい、長い、整理整頓されていなくて判りづらい)が炸裂している。
・メダロット社
だからといってメダロット社がクリーン企業なのかと言われると、漫画版のアングラさんとかピルバーレンさん家の子どもを見てるとそうも行かない気がする。まぁあの人は株主なだけですけど……。
ムラサメの子ども達もメダロット社のおかげでこの様ですし……(注意:二次創作。
・ムラサメ・レイニー
オチ担当の末妹。
出家しているので、あまり関係が無い。
・ハチロウ
メダロポリス編の分岐から考えると、出演は厳しいか。