「率直に聞きたい。イッキ君。キミは、ユウダチとどういう関係だい?」
「友達ですけど……?」
メダロポリスの一画、メダロット社近辺のマンション、アガタヒカル宅にて。開口一番これである。
間をおかず答えたイッキに、シデンはむむと唸った。後ろからお茶を出したヒカルとナエは、このやり取りに苦笑いをこらえ切れていない。
どうやら早速出番の様だ。おかっぱの青年……アガタヒカルは、両名の間を取り持つように、柔らかな声音で割り込んだ。
「僕も、今年に入ってからイッキ君の話はよく聞いてる。僕自身もコンビニではよく会って、メダロットの話をしているよ(どうせ仕事、あんまりないし)。いい子だと思うけど?」
「そうですか。メダマスター。ボクは貴方の事を信用していますから、
うんうんと大げさに頷いて、シデンは再び顔をあげる。
顔が良い。街を歩けば誰もが振り向く、美少年と呼ぶに相応しい面構え(語弊)をしている。
「ならばイッキ。キミの人柄はよいとしよう。メダロットの腕はどうだい?」
「……あのう、シデン
身を乗り出す勢いのシデンの前。イッキの隣に座り、ユウダチが頬を膨らませる。
「あまりイッキに失礼なことを言わないでくださいです。待ち伏せた挙句にこれだと、兄様の印象も悪くなるですよ」
「……本当なら、もうちょっと段階を踏んでいきたいのは山々なのだがね、我が妹」
ユウダチもどろり濃厚とした瞳さえ覗かなければ美少女だ。兄妹が向かい合うと、何もしていないというのに絵になってしまう。……肝心の兄は、妹の目から視線をそらしてはいるものの。
「キミもボクも、急がなけらばならない時期だろう。計画があるのでね。話ひとつにしても、時短するにこしたことはない」
ユウダチが顔をしかめた。ヒカルとナエも、なにやら知っているようで驚きはない。
イッキだけが思い当たる節もなく……いや。
「ユウダチ。それって、クラスター計画ってやつかい?」
「おー。知ってるですか、イッキ」
「! ……驚いた。イッキ、キミは情報網も広いようだ。認識をさらに改めよう」
どうやらあたりであるらしい。イッキとしては先日ミチオから聞いた話題を出しただけなのだが……いや。思い返せば、いつかのリュウトウ町の研究所で、ナエからも似たような話を聞いていたか。
おかげで思い出すことはできたようだ。シデンは知っていたことそれ自体を別段咎めるでもなく、話を進める。
「そう。ボクが仕切る、ロボトルリサーチ社が打ち出す計画のひとつだ。なるべく秘密にしておくれよ、イッキ。……まぁキミひとりが騒いだとて、情報を封鎖するくらいは難しくもないけれどね?」
「わかった。秘密にするよ。……で、それってどんな計画なの?」
イッキが首をかしげると、シデンが今度こそ驚いた表情だ。彼が社を仕切っているなどという大仰な言葉にも動じていない。あっさりと打算も跳ね除ける。
その面前でふふん、とユウダチが鼻を鳴らして胸を張る。
「兄様はそうやって、すれたやり取りばかりを身に着け過ぎるのです。普通に話せば良いのですよ、普通に」
「……まぁ、イッキには必要のないけん制だったみたいだね。こればかりは君の言い分が正しいようだ、妹」
咳をひとつ挟んで、シデンは仕切り直した。イッキに対しての興味が俄然、湧いている。
計画の内容について話すのは問題ない。むしろ、話すためにこそ彼はこの場所へ出向いているのだ。
「さて。クラスター計画についてだったね。まぁ、最近よくある宇宙開発事業の一環だよ。これの場合はテーマパークという形だけれどね」
テーマパーク。そう聞いてイッキの脳裏に思い浮かぶのは、先日訪れたメダロッ島の様な場所である。いずれにせよエンターテイメントを重視した施設なのであろう。率直に言って。
「すごい! それって、僕みたいな人でも宇宙に行けるって事ですか?」
「そうなるね。ただ……」
シデンが間を置く。視線を横にずらすと、その先に居たナエが頷き、引き継ぐ。
「シデン君が貴方たち……イッキ君とユウダチちゃんを待っていたのは、これを話しておきたかったからというのもあるのでしょうね。イッキ君。少しだけ、お話を聞いてあげてくださいますか?」
「はい。わかりました、ナエさん」
「ありがとうございます。……シデン君。私からイッキ君へは、さわりの部分だけ伝えてありますから」
「了解しました。これはボクから話して良いかい、妹」
「開発は兄様なのです。お気になさらず!」
順繰りと回った末、シデンが話し出す。
「クラスター計画とは、つまる所、ただの復讐なんだよ。それもわが社の
何とも酷い例えだが、率直に言うとそうなるらしい。
シデンはぽつぽつと語る。かつてのメダロット事業への三画失敗から両親の立場が危うく、彼が社のトップとなることで広告塔の使命を果たしていること。テーマパークとして稼働しつつ、外宇宙への足場にもなり、宇宙活動用メダロットの販促にもなっていること。先日遂に、ロボトルリサーチ社はメダロット社と同等に近い「格」を取り戻したこと。
そして ―― この快進撃を足掛けに、遂に重役たちが表立って衝突し始めたこと。
「計画の形を『初の宇宙テーマパーク』という題目にしたのは、民間およびメディア露出を増やすためだ。実際そうなのだけれど、重役たちはもっと大きな利益を見ている。ボクはそれを後押ししなければならない立場だから、なんとか体面を取り繕うのに必死でね。膿を出し切る機会と前向きに捉えて、
「兄様。メダリンクの件は自業自得なのですよ? レイニーは叱ってくれませんからねぇ」
「ふ、判っているとも。罰は受けたさ」
兄妹の間で視線が交わされる。どうやら色々と問題ある行為にも手を出しているらしい。
「さて。ここからが本題なんだが……妹よ。君から話すかい?」
「はい。そうさせてもらえると」
居直り、ユウダチはイッキの側を向く。
目線の高さは同じ。ユウダチは同年代を比べると背が低い方だとはいえ、成長は性別にもよるものだ。イッキも横を向くと、自然と彼女の目を見る事となる。
その黒目から、視線から感じる嫌悪感は生理的なものだ。が、どうやら最近その感覚も薄れてきているようにイッキは感じている。これは良い変化だ。間違いなく。
ユウダチは指をもじもじと絡ませながら。
「イッキは……外来メダロット、という単語を知っていますか?」
「うん。教科書通りに言うなら、野良メダロットなんかもその枠に入る……『地域外からやってきた、100%人工のメダロット以外』を指す言葉だよね?」
定義としてはそうなったはずだ。消去法。かつて問題となった野良メダロットが論争の的になるにあたって、そういう単語を嫌う派閥も当然ながら存在した。そのために造られた新たな括り。
どこまでも普通に正面切って言葉を交わす2人を、シデンは……驚いた表情を隠そうともせず、目を見開いて見つめている。ヒカルとナエは、どこか楽しそうだ。
「それが、すぐそこまで来ているのです。それも、多方面から」
「そ、そんなに!?」
「はい。現在捜索中ではありますが、『木星の使途』と呼ばれる宇宙からのメダロットと……『月』のマザーが、現状この地球に隣接した脅威とされてますです」
「……脅威?」
イッキとしては問いかけなければならない。脅威。本当にそうなのか。
心底の疑問に、ユウダチは少し首をかしげて返す。
「わたしも、余りそうは思っていないのです。しかし今ある種が駆逐されてゆく可能性があるかないかでいえば、『有る』と言えますからね。何せ、メダロットは……『他の星を侵略する兵器』としても稼働できる、そもそもの外来種なのです」
それは、メダロットというロボットペットの根幹にも関わる内容だ。教科書や歴史書に載っていた覚えはない。けれどもイッキとしては、目の前の少女が無駄に嘘をいう理由もないと思っている。
本当に? という意味を込めてナエに視線を向ける。
「はい。メダロットの中心である、六角貨幣石 ―― メダルが発掘されるという遺跡は、外宇宙からもたらされたものだという結論が出ています。これも、一般の人には内緒ですよ?」
「ナエさんの言う通りでね。イッキ君。キミがこれを聞いてどうするかはまた別として、機会があれば伝えておくべきだとメダロット博士から言われていたんだ。タイミングはユウダチに任せていたけれどね」
ヒカルが補足を加える。……なかなかに重大な事を告げられているのは、理解できた。だが、なぜ自分がこの真実を伝えられる人物として選ばれたのか。それが判らない。
「判らないかい? だからこそキミとユウダチの関係性について聞いていたんだ、ボクは」
疑問が顔に出ていたのだろう。シデンは社長としての顔から、年相応の少年のそれへと様相を戻し。
「ボクは、我が妹は『スペシャル』なのだと思っている。例をひとつ挙げるとすれば……そうだな。どうやら我が妹とヨウハクらの間では、三原則が
「……? いや、されてないと思うですよ??」
当の妹から否定的な意見が繰り出されてしまったが、シデンはそれを苦笑いしつつ。
「まぁ聞きたまえ。確かに明瞭ではないだろう。それはあくまでボクよりも、という話だ。アシュトンとボクのやり取りと、ヨウハクと妹のやり取りをかなり曖昧に比較した、ただの感想でしかない。だが、それは確かに存在するのだよ。その第一号がそこに居るメダマスター……アガタヒカル氏なのだがね」
「うーん……」
イッキもヒカルをみる。彼の表情は、いつものコンビニでみかける、どこか困ったようなやる気のないような、とても彼らしいもののままだ。特に変わった様子はないと、イッキは思う。
ただ、ヒカルはシデンの言葉を否定しなかった。
「まぁね。うん。そのスペシャル、が良い物かはさておいて。メダロットとの『心の距離』が通常の平均よりもとっても近い人が居るっていうのは事実なんだよ、イッキ君。データにも出ているんだよね、ナエさん」
「ええ。そういうのを積極的に研究しているのが、ヘベレケ博士なのですけれども。……かつてのフシハラ博士から引き継いだ、金色のカブトムシらの研究。メダロットに『魂』はあるのかというお話です。わたしが子供の頃の話題でしたが、そもそもの定義からして議論が白熱していましたね」
ナエの話はむつかしいが、どうやら本当に、大人が真面目に研究している分野のひとつであるようだ。
もう一度、ヒカルをみる。フルネームはアガタヒカル。頭の中で何度も繰り返していると、なんと思い当たる名前があることに気が付いた。
「もしかして、ヒカルさんって……ユウダチと一緒に魔の10日間を解決したっていう、伝説の?」
「尾ひれがついているなぁ。偶然にも解決の主力になっていたのは本当だけどね」
押せば引っ込むような、何とも感触のない反応だ。しかし割と本気で、教科書に載るような活躍をした人であることは間違いない。イッキのカブトメダルのペットネームである「メタビー」の、親元のようなものなのだ。
彼は学生でありながら当時のメダロット社主催の世界大会で優勝し、そのまま開設当初であったロボトルランキングを席巻した。今は枠が分けられているが、それこそメダリンク等を利用したランキングは今も一桁を維持しているらしい事がネット上から確認できる。
ただ、いつ頃からか名前は聞かなくなっていた。世間においてもあまりニュースに取り上げられることもなく、活動を休止しているらしいという噂だけは知っている。
「まぁ、僕のことは置いとこう。君は真っ直ぐにメダロットと向き合って、他の人よりもメダロットに近い位置にいると……仮定しておこう。その部分に納得はしなくていいと思うよ。どうせ、学者的な考え方なんだし」
「そうですわね。ヒカルさんの言う通り。今大切なのは ―― 」
ソファに腰かけたまま、ナエが再びシデンへと話題を振った。
こくり。シデンが頷く。
「まぁ、それらメダロットの本幹を聞いたとして。それらを鑑みたとしても、ボクは計画を止めるつもりがない。いや。ボクの中には『進める理由しかない』という方が適切かな。とにかく。クラスター計画を遅延、再計画等々。予定外の行動をとるつもりは……なかった、のだけれどね?」
そこでふと、視線をずらす。
ユウダチが、不思議そうに兄を見返ている。
「唯一、ボクが歩みを止める可能性が……『妹が変わるかもしれない』という種が、今まさにここにある。それを見届けなければならないという義務があるのだ。それは両親ではなく、ロボトルリサーチ社を仕切る重役でもなく、ボクにしかできない事なんだ」
だからシデンはイッキへ話すのだ。
イッキの行動を、この物語の流れを……根本から変えうる、その内容を。
「―― キミとユウダチに調査を頼みたい。唯一未だ、誰の手も届いていない、もうひとつのマザーの在処について」
ユウダチが首をかしげる。
友人への情はあつい。メダロットの世情にもいやに詳しい。
そのくせ、自分のことには殆ど興味を持っていない ―― 生まれたての幼子の様な。初めて出会ったメダロットの様な。
……そういう、無垢でしかない表情だ。
・ムラサメシデン
泣き顔が似合う男。こんなことを言っているが、この世界線においても末妹とはこじれている。
プライドが高く、ロボトルリサーチ社のランキングをいじってトップを席巻している。本作においてはメダリンク等々もそちらの管轄としているため、かなり規模の大きいことになっている。
国内ランク<世界地域(アジア)ランク<ワールドランクという勝手な設定をつけており、ムラサメシデンはアジアランク(東部)1位。最近の人口増加に伴って、アジアランクも分割された。
尚、維持は不正しているが辿り着くまでの道中は地力で歩んだため、実力はある模様。
・アガタヒカル
もうちょっと語る予定。彼の今の境遇とか立場とか云々とかについては、漫画版やアニメ等の情報をまぁざらーっとみて想像できる、あくまで創造の内容となっております。
今日はここまでおやすみなさい!