ジャンクヤードの友人へ   作:生姜

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   結局、彼は本気か否か

 

 かくして、コウジとのロボトルが始まった。

 こちらは(スペース)ロボロボ団に扮するイッキと、シュコウことユウダチの2人。ただし機体が2体。コウジよりも1機少ない。イッキにしろユウダチにしろ、悪の集団の一員に偽装できるパーツは一式だけであるため、これ以上の追加は不可能だ。ちなみに、リーダー機はメタビーが任された。単純に装甲の差である。

 不利ではあるがやるしかない。イッキはそう腹をくくって、メタビーへと指示を出していく。ちなみに水晶玉ヘルメットは多機能で、変声機を内部に仕込んであるらしく、少なくとも声の質で正体を見破られる心配はなさそうだ。

 

 

「……ベイアニット、押し込めっ!」

 

『ぉぅょっ』

 

 

 メタビーが声の調子を変えて応じる。どうやら珍しく空気を読んでいるらしい。

 ウォーバニットが後衛、スミロドナットとブラックメイルががトラップを仕掛けながら機動力を活かして飛び回り、かく乱を試みている。コウジらしいアクティブな戦型だ。

 ただ、メダロッターの熟練度では負けては居ない。こちらは指令系統が2つある。だとすれば、戦況をかき乱すのが有効だろう。

 岩床でばちばちと跳ねる連射(ガトリング)を緩急付けた歩行でいなしながら、エイシイストが踏み込んだ。メタビーを合わせる。

 

 

「くっ! ……やれるか、スミロドナット!」

 

『早いっ……! 追って……じぃっ……っ!?』

 

 

 先手を取られたスミロドナットがエイシイストに追随しようと旋回した間を、側面からメタビーが打ち抜いた。

 左腕を破壊して。

 

 

『だいじょぉーぶ!』

 

『……大ぶりが過ぎる! シィッ!!』

 

 

 ブラックメイルによる両腕を交差させながらの打撃を、ヨウハクはひょいと一息に飛び交わす。ついで、右手の剣で脚部の右大腿を切り裂いた。

 ヨウハクが格闘戦に持ち込めた形だ。どうやらメタビーは、他に回して良さそうだ……と、思うのもつかの間。

 

 

「出し惜しみなしだっ……全弾、カミキリを狙えっ」

 

『了解した! ぉぉーんっ!!』

 

 

 乱戦に持ち込まれる前に火力を出そうと、ウォーバニットが銃口を向ける。

 が、イッキも流れは読めていた。格闘戦の熟練度で勝っているのであれば、こちらはウォーバニットを押さえ込む。ヨウハクを暴れさせる環境を作ればいい。

 射線に入り込んだベイアニット、その右腕の装甲で弾痕が煙を上げる。

 

 

『ででっ』

 

「次いで、狙い撃てっ!!」

 

『ぉぉぉんっ!!』

 

『ってぅぉゎ!? だ! でっ!?』

 

 

 メタビーが足をどしどし踏みながら、一番威力のある右腕からのライフルを避けようと身をよじる。背屈。開脚。両手を持ち上げ荒ぶる鷹のポーズ。最終的になんか凄い格好になったが、奇抜なポーズは読めなかったようで、辛うじて直撃は避けられた。

 後ろの岩盤に、びしりと弾丸が直撃する。なんとなく嫌な予感がするのはイッキだけだろうか。ユウダチとひそひそ声で。

 

 

「……洞窟、やばくないかな」

 

「すいません。多分、やばいですね……」

 

 

 背筋を冷や汗が伝う。一応本格的な落盤には至らないよう対策は成されているようだが、部分的に岩が落ちてくるのは避けられないらしい。

 そもそもコウジが好戦的過ぎる。正体を明かすにも、スルメら幹部が(のびているとは言え)近くにいるため間が悪い。環境が最悪です、とユウダチがやや焦りの声をあげる。

 ヨウハクがひらりひらりとブラックメイルを躱し、時にはスミロドナットとの同士討ちも狙わせる。格闘を主戦とする機体の、面倒な部分だ。コウジも何とか、ブラックメイルに比べれば機敏なスミロドナットに細かく指示を出すことで巻き込むことを避けているのだが、その早さにヨウハクはぴったりとついてゆく事が出来るのだからタチが悪い。攻めあぐねたと見れば、ユウダチが反攻のタイミングを指示し、着実にパーツを傷つけていくのである。

 

 

『せいっ』

 

『いでっ……っょぃ』

 

 

 ウォーバニットの方ばかりを向いていたメタビーが、後ろからスミロドナットの左拳を受ける。思いっきり頭部を直撃したが……外側の装甲が少し凹んでふらついた程度だった。

 ベイアニット様々である。足元も堅く、不意の一撃にも余裕を持って受けられる。ここまで頑丈だとすると、少しばかり思い付く戦法もあった。

 戦況はヨウハクが主導しているものの、単純な数の差で未だ劣勢。ブラックメイルの破壊力は侮れない。スミロドナットは削れているが、今回はウォーバニットも居るため、リーダー機がどちらなのかは今の段階では判断がつかない。

 イッキが隣を見る。すると、向こうも丁度こちらを向いた所だった。

 

 

「もしかして、メダフォースですかね?」

 

「うん。メタビーが一番、溜めやすいと思う」

 

 

 イッキが頷く。メダフォースは意識して溜める事も出来るが、ダメージによっても蓄積する。反撃の一手。戦況を変えるための切り札として、大変に有効なことは間違いない。

 

 

「ならばこっちも合わせるですよ。ヨウハクなら、問題なくいけるのです!」

 

 

 ユウダチが自信をみせる。ヨウハクも横目にちらりとこちらを確認していた。やってやれないことはない、という辺りだろうか。だとすると後はメタビー次第だが……それこそ、メダフォースは余裕を持って溜められる。難易度はヨウハクの方が高いのだから、イッキとメタビーも引くわけにはいくまいとやる気を燃やす。

 

 

「―― 狙いをスイッチだ、ブラックメイル(ラムタム)!!」

 

『だいじょぶ!』

 

 

 歩調を合わせている内に、先手を取ったのはコウジ達だった。危惧していた動き。指示を受けたブラックメイルが、自前の破壊力で重装甲のメタビーを狙い。スミロドナットがヨウハクをマンマークで、介入を防ぐ形だ。

 

 

『それでも、だ。やれるかカブト』

 

『任せろぃ!』

 

 

 ヨウハクとメタビーの間で小さく言葉が交わされ、同時に頷いた。実行である。

 狙うのはリーダー機でありたい。スミロドナットか、ウォーバニットか。絞り込みながら。ちなみにブラックメイルは全身が「がむしゃら」攻撃の機体で、任せるにはピーキーすぎて論外としている。

 ヨウハクがカバーに入ろうとする動きを、スミロドナットは執拗に阻む。そのくせ消極的で、防御主体に立ち回る。

 メタビーがブラックメイルの爪と牙をひたすら避けるのを、ウォーバニットは軽重織り交ぜて追撃する。

 

 

「―― それでも構わない立ち回りをするです。頼みましたよ、イッキ」

 

 

 こう着しているように見える現状を踏まえて、ユウダチが、ヨウハクが踏み込んでいく。打破するつもりなのだ。

 イッキもメタビーに声を掛け ―― 動く。

 

 びしり。エイシイストの後ろに、ひとつの(しわ)もなく伸ばされた、薄羽が広がる。

 コウジが身構えた。メダフォースの怖さも、パーツの破損やダメージによって蓄積する逆転の一手となることも、彼は身をもって知っている。メダリンクランカーなのだから当然だ。

 ユウダチとヨウハクだけに通じる音声で、指示を飛ばす。

 

 

『頼みました、ヨウハク! ―― 横一線!!』

 

『……オオォッ!!!』

 

 

 ヨウハクが全力で跳ぶ。狙いはメダロット全機の中央だ。

 ブラックメイル、ウォーバニットを狙える位置につける。スミロドナットが後を追い、範囲に入った所で、ヨウハクは右手の剣を高く上げ。

 振り下ろしながら、旋回。メダロット達の脚部の高さで一閃した。

 

 

「なっ……!? いや……!」

 

 

 コウジが驚愕の表情を浮かべる。そう。ユウダチは……ヨウハクは、「誰がリーダー機でも構わないよう全員を相手取る」一手を選んだのだ。

 そして、今のイッキであればその意図も読み取れる。ウォーバニットだ。コウジの命令の範囲にない動きをしたのは、スミロドナット。「ヨウハクのメダフォースを止めにかかった機体」だった。

 逆にウォーバニットは、一歩コウジの側へと引いていた。間違いない。イッキはメタビーへと指示を飛ばす。

 ……が。

 

 

『今度は負けんっ!!』

 

『……だーっ!? 邪魔だってんだよ!?』

 

 

 脚部を破損したスミロドナットが、もう隠すこともないとメタビーの射線に躍り出ていた。

 ガトリングを撃ち放つも、ダメージ覚悟で近づいてくる。ウォーバニットへの攻撃を通すまいと、必死の形相だ。

 イッキは考えを回す。メダフォースを放つには距離が近く、スミロドナットに減衰される。そもそもあれは細かな狙いは苦手なのだ。ヨウハクはメダフォース後の放熱中。またもスイッチされたブラックメイルの攻撃を回避するべく、意識をそちらに割いている様子だ。

 つまりこれは、この場を後ろから……指示できる場所から見ている、イッキの実力が試される場面である。

 考えろ。考えろ。今はベイアニットで、変形はない。メダフォースはチャージされているが、スキルとして場に出すには戦略にそぐわず。

 

 ピンとくる。メダフォースのチャージがあるという事は、「攻撃力が上がっている」という事でもある。

 それは普段であれば微々たるものだが。ベイアニットの装甲を利用して、「片手で放つ純エネルギー」として利用すれば。

 

 

「メタビー、右手(ライフル)だ! メダフォースを右手にだけ乗せてうてっ!!」

 

『……無茶を言いやがるぜ、イッキ!』

 

 

 言いつつも。メタビーはコミュニケーションモニターの緑の目をにやりと吊り上げてみせた。

 銃口をあげると、当然ながらスミロドナットが立ち塞がる。その奥を。ウォーバニットの頭を、直接狙う。

 メタビーの背に、電気色の薄羽が、びしり。

 

 だんっ!!

 数段重い音と共に、銃弾が放たれる。それはスミロドナットが伸ばした右手を貫き(・・)、ウォーバニットの頭を直撃して凹ませた。

 ウォーバニットは目を回して立ち尽くし ―― 倒れる。最後まで装てんされていた右手の弾丸が暴発し、岩壁の天井にぶち当たった。

 

 

「リーダー機ウォーバニット、戦闘不能!! よって勝者、スペースロボロボ団チームっ!!」

 

 

 全然メダロットが戦闘不能にならないので状況観測マンと化していたミスターうるちが、待っていましたとばかりに勝敗を告げる。

 

 ……ただ、それどころではない。場に居るメダロッター全員が全員、別の場所を見ている。

 …………ウォーバニットの右手という、高威力のパーツから、暴発して放たれた弾丸が、岩壁の天井にぶち当たったのだ。

 

 ぐらぐらと揺れる足場は、落盤対策が成されていない場所に次々と岩が落ちてきている、その証。

 次の瞬間。辺りは土煙に包まれた。

 

 






・本気か否か
 カブトorクワガタによってボイスの内容が乖離している in 4。
 ただ、カブトにおいて「いつだって本気」と言っている辺り、クワガタのは負け惜しみに近いと思われる。


・メダフォース
 ダメージ蓄積、無行動(チャージ)、パーツ破壊によって溜まります。
 新世紀と色々ごっちゃにしてある。或いはメダスキル。


・ライフルが貫通したぁ
 貫通するのもありますよ(すっとぼけ。
 今回の場合は新世紀より「ヘビーライフル」を取捨選択。メダフォースゲージが50以上あると貫通します(うろ覚え)。
 ……なお、威力が上がるのは元々あるシステム。忘れがちですけれどね。


・ロボロボ達は? うるちは?
 助かりました(過去形断言。

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