ジャンクヤードの友人へ   作:生姜

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   コーダイン王国(二度目の初めて)

 

 

 

 

『―― ッキ。おい、イッキ!』

 

「―― いてて。ここは……?」

 

 

 自分の名前を繰り返し叫ぶ声に答えるべく、イッキは力を入れる。小さく首を振って、目を開いた。

 隣にずっと座っていたのだろう。視界の端にメタビー、そして水晶玉(かぶりもの)を取り外したユウダチが座り込んでいた。

 ぱちりと目が合う。

 

 

「あ、起きましたですね! イッキ!」

 

『無事か? 無事だな! あー、よかったぜ』

 

「うん。痛い所もないし……けど、ここは?」

 

 

 イッキは起き上がって周囲を見回す。

 見覚えがない……どころの話ではない。天井は高く石造り。明らかに通電していないのにふんわり光っている謎の照明。 

 「文化」というよりかは「文明」が違うという表現が適当なのだろう。現代っ子のイッキに言わせれば、昔っぽい雰囲気というやつだ。

 

 

「ここは『コーダイン王国』……だ、そうです。わたしとメタビーとヨウハクが聞きまわったところによると、そもそも時代が違うみたいです。……わたし自分で言っていて信じられないんですけど、時代がっ!」

 

 

 なかば諦めた風味の笑顔でどろりと、ユウダチは説明を試みる。

 なにせタイムスリップである。フィクションはフィクションだと割り切ろうにも、現実に見える状況がそれを許さない。

 ……とはいえ、だ。

 出入り口からは、廊下を歩いているメダロット達が見えている。パーツは見たことがないものでも、ティンペットら骨格は自分がよく見ているものと相違ないように思えた。

 

 

「うーん。古代でもメダロットはいるんだね」

 

「ですねー。ヨウハクはあんまり出しませんでしたけど、メタビーはまんま歩いててもびっくりされてませんでした。技術とかそういうのはよくわかりませんが……」

 

 

 イッキが話しながら手をベッドに着くと、ユウダチが手を貸そうとしてくれる。身体に違和感はないためその掌を握り、手早く立ち上がる。

 念のためメタビーだけはメダロッチの中に格納しておいて、部屋を出た。

 

 

「ユウダチも怪我はない?」

 

「はい。ちなみに天井から落石してきたくらいまでは覚えているんですが……床が光って、そこから先はあまり覚えていませんです」

 

「だね。僕もだよ。コウジが無事だと良いんだけど」

 

「ですねー。まぁ一応の安全策は施していましたし、いざとなればサイプラシウムを利用した空間保持を行える機能も用意していましたので、落盤には至っていないでしょう。そもそもメダロポリスの地下ですからね。地盤はまぁまぁ強い筈です」

 

 

 そこを狙って発掘していたのだから、おおよそ調査は済ませていたのだろう。ユウダチはすらすらと語ってくれる。

 語りつつ。

 ユウダチはその語りを一時止め、傾聴していたイッキの顔をじぃっと見やる。

 

 

「……イッキ、タイムスリップ自体にはびっくりしていないんですね?」

 

「だってさ。シデンさんヒカルさんナエさんから、宇宙人が本当に居るっていう話を聞いたばかりじゃないか。いまさらタイムスリップくらいじゃびっくりしないよ。それに、ユウダチが言ってる事だからね。疑うよりは信じたい、かな?」

 

 

 どうせこれから自分の目でも見に行くんだし。そう考えると、イッキとしては好奇心が勝るのである。

 出入り口を潜る。……後ろに気配を感じない。どうしたことだろう。

 後ろを振り返る。すると、当のユウダチはキョトン顔をしまま立ち止まっていた。

 

 

「なるほど……うむぅ……なるほど、です……?」

 

 

 納得はいったのか、いってないのか。

 不明ではあるが、それよりも気になることがある。

 気になるからには確かめなければならないと、イッキは思うのである。

 

 

「じゃあ早速だけどコーダイン王国を見に行こうよ、ユウダチ。帰る方法も探さなきゃいけないしさ」

 

「そ、う……そうですね。はい。……ええ、そうしましょう!」

 

 

 見知らぬ土地ではあるが、ひとりではないのが幸いだ。

 先に王国の人達と話をしているらしいユウダチに先立ってもらわなければならない。

 イッキはその手を引いて、まずは神官さんがいるという神殿へと向かうのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 つまるところ、こういう事であるらしい。

 

 コーダイン王国では「まもの」を倒すために勇者を召喚する……らしい。

 

 珍妙ないで立ち(水晶あたま)をしていたことから、イッキとユウダチが勇者に間違えられた……らしい。

 

 元の時代(世界?)に帰る方法はあるが、「まもの」を退治することを条件にされている……らしい。

 

 ユウダチが独自に調べた結果、実は、この国の姫である「マルガリータ様」とその愛機(メダロット)らが原因である……らしい。

 

 なんともはや、やむにやまれぬ事情(マッチポンプ)なお国である。

 そもそも「まもの」とやらの正体について、イッキとしては心当たりがないでもない。

 in 花畑。今現在目の前に居る、当の「姫様」である。

 

 

「プース・カフェはあんな『まもの』とちがうもん!」

 

 

 イッキの腕を抱き寄せてつかまえながら憤慨するドレス姿の少女。

 彼女こそがこの国が誇るおてんば、マルガリータ姫である。言動からしても容姿からしても、小学生たる自分よりももっと年下だろう。

 

 

「まものって……まぁ、爺やさんが言うにロボロボ団のことですからねぇ。この集団については、唯一無二であって欲しい気持ちがあるのです」

 

「あぁ、それはそうだね……」

 

 

 そう。イッキ達に「まもの」の討伐を依頼し。マルガリータ姫にお小言をこぼし。神官も務めるというところの「爺や」が言うに、ロボロボ団たちのことを異物(まもの)であるとしているらしい。

 ……まぁ全身タイツに金魚鉢マスクの格好である。まものと呼ばれても間違いではないだろう。

 しかし、まものと言うには悪辣さが足りていないとも思わなくもない。首領であるヘベレケのじいさまは別として。幹部達ですら、目先の欲へまっしぐらなメンツがほとんどなのであるからして。

 

 

「でも、違うってのはどういうこと?」

 

「聞いてくれるの? うーんとねー……」

 

 

 話したいのだろうと優しく聞けば、(名前で呼ぶように要請された)マルガリータは(イッキにますます貼り付きながら)順序立てて教えてくれる。

 

 

「うん。つまり、倒して欲しいってお願いされた『まもの』の居る所 ―― 向こうの海には、爺やさんに追い出された君のメダロットがいるんだね?」

 

「たぶん、そうだと思う……」

 

 

 困り顔。かなりまいった表情で姫様はつぶやく。

 マルガリータは沢山のメダロットを「ともだち」にしていて、そのうちの目立ったイタズラをしていた1機が騒動を起こしていて。

 その騒動が、最近では猟などの生活にも影響を及ぼし始めたと。

 

 

「プース・カフェはイタズラが好きで、いっつもじいやに怒られてたから……」

 

「うーむ。自業自得(じぶんのせい)ということですね」

 

「うん。ごめんなさい」

 

 

 ぺこりと頭を下げる。

 しゅんとしたマルガリータが離れたので、ユウダチは再びイッキの隣に位置どった。

 

 

「まぁ元の……時代? 世界? に帰るためには爺やさんを納得させる必要はあるのです。プース・カフェの事件を解決しなければいけないのでしょうね。そこは任せて下さいです!」

 

「うん。お願いね、ゆーしゃさまたち!」

 

 

 うって変わってぺかりと笑う。ユウダチにとっては眩しい笑い方だ。

 いずれにせよ。イッキはユウダチと顔を見合わせて、マルガリータに見送られ、コーダインの海側へと歩いて行った。

 

 

 

 

 

 

 

 ――

 ――――

 

 

 

 

 

 

 

「―― ロボーっ!? 幹部様が言うなら、さっさと牢屋に入っているでロボ-!!」

 

 

 走り去る金魚鉢+タイツ。

 浜辺で遭遇したロボロボ団に、ユウダチ(シュコウ)が説明を行った後の反応がこれである。

 そう。海に出たは良いのだが……。

 

 

「海の先へ続いてる箱、箱、箱……です。なんなんですかね、これ」

 

「さあ。でも、多分ロボロボ団のせいだよね?」

 

 

 箱の上を歩くと時折「ふぎゅっ」的な声がして、その都度ロボロボ団員が現れるのである。

 聞くところによると、海の先までこれで歩いて行ったらしい。どんな方策だ、と言いたくはなるものの。それに関しては幹部たるユウダチが直接突っ込みを入れてくれている。

 件のユウダチはイッキの目の前で、上手くバランスを取りながら、箱から箱へと飛び移っていく。

 

 

「よっ、ほっ。……さて、海の先には何がいるのですかね」

 

「ロボロボ団の言い分によると、『クジラのまもの』だってね。僕、ちょっと楽しみなんだけど」

 

「あははっ! その気持ちはわたしもちょっとわかります!」

 

 

 彼女がくるりと反転。よろけそうになった所を、イッキが腕をつかんで引き戻す。

 ありがとうございますです、とのお礼をはさんで。

 

 

「騒動の中心に居ると思われるプース・カフェのパーツについては、わたしがマルガリータから聞いてきました。型番的にはナイトメア型メダロットで、現代にも存在しているパーツです」

 

「そうなんだ。じゃあここは古代って言う訳じゃあないのかな……?」

 

「そんな感じがしますねー。やっぱり世界的な位相(・・)ずれている(・・・・・)って考えた方がしっくりくるのです」

 

 

 ユウダチがちょっと難しい言葉でそう付け加えてくれる。

 ……イッキとしては、最近どこかで体験したような気もする。異物感のある相手……そういうロボトル(・・・・)をしたような。そんな気が。

 

 

「ですが、メダロットの仕組み自体もおんなじなのは有り難いです。軍用であったりしたならば、ティンペット側のセイフティがそもそも存在しなかったりしますからね」

 

「なるほど。ならメタビーに任せられるかな」

 

『おうよ。まかせろっ!』

 

 

 結局はロボトルで決着をつけられるということだ。それは確かにありがたい。

 大人で、権利やら何やらを振りかざされて……というのがイッキらがあらがえない類いの力である。その点についてはむしろ、ロボロボ団などを相手にするのならば、子どものほうが楽だということもある。利権にしばられないという点で。

 

 

「僕たちで何とか出来そうだね」

 

「ですねっ! ……お?」

 

 

 次第に海原に岩場が多くなってきて、入り組んだ場所。

 海上に並んだ箱の終着点。そこに、ぷかりと浮かんだ小島が見えた。

 

 

「小島があって……それ以外には、何もない?」

 

「うん。何も、ないね……」

 

 

 ふたりで小走りに駆け寄って、上陸する。

 砂場。浜辺。波音。いかにも南国といった風味の木が数本。いや、コーダイン王国が南国なのかは知らないが。

 人も居ない。メダロットも、プース・カフェも居ない。話に聞いていたクジラのまもの、その姿も無い。

 しかし。

 

 

『おいおい。なんだ、これ……?』

 

 

 周囲を見回すイッキとユウダチを差し置いて、メダロッチからメタビーの声が上がる。

 ふたりには何も聞こえていない……が、やや時間をおいてヨウハクも。

 

 

『御主人。どうやら来客のようだ』

 

「お客さま……です? けど、誰も……って」

 

 

 ユウダチが目を凝らす。

 海の果て。そこに小さく影が見えた。

 

 海洋生物の背だろう。

 

 小さく。いや。小さかったその影が、段々とこちらへ近づいてくる。

 

 段々と大きくなってくる。大きい。大きいどころではない。

 

 …・・巨大が過ぎた。

 

 

「でっっっっっか!?」

 

「うわぁ、普通のクジラどころの話じゃあないですよ!?」

 

 

 ふたりが立っている島から距離を置いて海洋生物がとどまる。

 びり、と空気が震えた気がして。

 かた、と木の陰に隠れていたメダロットが動き出す。

 

 

『ぴ、がが。が。おぉ、ぃ。っぉ、ぃ。……ぶつ、ぶつ』

 

「あのメダロット、僕たちに話しかけようとしてる……?」

 

「そんな気がしますね。あの機体はたぶん、プース・カフェのものでしょう。NMR型『ユートピアン』のパーツそのものです。つまり……」

 

「あの機体を使って、僕たちに話しかけようとしているのは……」

 

 

 ふたりと2機が揃って海原を見る。

 同時に、ユートピアンが前に出てきて ――

 

 

『あー、あー。マイクテスマイクテス。やぁやぁ聞こえるかね、ニンゲンどもロボットども? 少しばかりこのババアクジラの話に付き合ってもらおうじゃないか』

 

 

 白色の巨大なクジラがぷしーと潮を噴き上げる光景をバックに、陽気な感じで手を挙げる。

 なんともはや凄い光景である。とはいえタイムスリップもどきも経験したことだし、まぁこんなこともあるかなぁとイッキは適当に構えるのであった。

 

 







 ちょいちょい時間をとって更新します。
 連打はできないと思いますが、完結目指して速書きします!
 とりあえず。




・コーダイン王国
 だって御曹司がバカンスにこれる場所ですし……(
 そこを現実的にするか、と問われたならば。
 私はロマンを失いたくない派閥に属するので、と返答します。


・ユートピアン
 メダロットSはやってないんですけども、やっぱり変更されますよね……。
 最新作でも仕様は固まっていない気がするのですよ、メダロット。

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