あの要塞 ―― フユーンが、浮いている。
円盤状の上部と、その下部にはぐちゃぐちゃと何か
要塞であると喧伝されたが、あのまま浮いて浮いて、どこか宙まで飛んでいってしまいそうな雰囲気さえある。
そんなフユーンの中からがんがんと、ヘベレケ博士の声がこだまする。
誰かを。「アキハバラの使い」とやらを呼んでいるようだ。
……多分それは僕の事なんだろうなぁと思いながら、イッキは頬を掻く。
「預かっているっていう大切な女の子、っていうのが気になるけど……誰だろう?」
『あーん? 心当たり、あんだろーがよ』
メタビーは呆れた様子でそう言うものの。
思いを巡らす。
アリカ……ではない。
あの子は好きだが。しかし明るく
カリンちゃん……ではない。
あの子は好きだが。しかし強くて
大切ではあるのだろうけれども。
どちらにもコウジやレトルトバディーズという強力な護衛がついている。
それでいて、さらわれたとは聞いていない。
『はーぁ。ちげーよ、イッキ。ユウダチだろ? ユ、ウ、ダ、チ!』
「……? ……な、なるほど……?」
いまいちしっくり来てはいないが。
メタビーがあまりにも呆れた様子でため息なので、納得した風味に頷いておく。
ただ、疑問を全ては解消しきれなかった。気になる点がいくつか。
「でもさ。ユウダチがさらわれたりするものかな……?」
イッキの中でのユウダチとは……研究者で、ロボトルが強くて、自分よりも頼りになる存在なのである。簡単にさらわれるような場面は、あまり想像がつかなかった。
というかそもそも。ロボロボ団は別としても、ヘベレケ博士は彼女の仲間だったのでは……?
『ロボトルとかになっていなきゃあ、そういうこともあるんじゃねーの? あとヘベレケ博士がいってただろ、ピッチピチのギャルにモテモテになりたいーって。ユウダチはピッチピチではあるだろーがよ』
「それもそうかぁ。……そうかな~……?」
よくよく考えれば、おどろ沼の一件などでも、彼女はひとりで解決をしようとしていた。姉代わりであるナエからも、研究以外にはかなり無頓着だと聞いている。割と無茶を通すタイプであるのかも知れない。そう思い直す。
ヘベレケ博士の好みと言えば……ユウダチは、ギャルではない。ぴちぴちなのかどうか(活きの良さ)は、瞳のどろどろ具合からして議論の余地があると思うが。
「どっちにしても、まずは事実確認からだね。アリカとカリンちゃんには連絡しておいて、と」
『ユウダチは……おん?』
ぴろん、と言う音でメタビーの声が中断。
イッキがもつメダロッチあてにメッセージが届いたようである。
曰く。
『さらわれてしまいましたー……です』
『うおー、まじかー!?』
「うーん、本当みたいだね……」
まさかのユウダチご本人からの申告だった。
メダロッチを挟んで、しばし交信。
『さらったのは、ヘベレケ博士?』
『ですです』
『じゃあ今は、フユーンの中?』
『そうです』
『ユウダチは、無事?』
『です!』
『よかった。というか連絡は禁止されていないんだね……』
『うーん、ヘベレケの爺さまはイッキをフユーンに呼び寄せたいらしいのです。そのための囮になれー、と取引を持ち掛けられまして。ほら、この間のメダリアシステムの後処理の借りの分があるのです』
『うわぁ』
『すいませんです! とはいえ中枢に忍び込んで、爺さまの思惑の内、迷惑な部分を潰してしまうには良い機会かもしれないなーと思うのです!』
それもそうか。
中に引きこもって居られるより、侵入してしまった方が決着はつけやすい。招待してくれるならば尚更だ。そもそもコーダインでのメダリアシステムの処理の分も含んでいるとなると、イッキとしても他人事ではない。
よし、と気合を入れる。航空手段は確保できている。ユウダチからもらっていた「かぜのつばさ」だ。
対応するパーツ一式ももらったはずだよなーと、イッキがメダロッチ内をぽちぽちとしていると。
『……本当かー? 本当にこれ、賢いやり方かー?』
メタビーが訝しんできたので。
問答無用で彼を女性ティンペットに移し替え、「かぜのつばさ」を起動する。
『イッキお前、ユウダチにめっちゃ影響されてると思うんだよなぁ』
「だとしても、大人に頼りっぱなしで動くよりは早いと思うよ」
まっとうに対応するとなると、やはり真っ先に思い浮かぶのはセレクト隊になってしまう。
メタビーもアワモリ隊長のことを思いだしたのだろう。
『……あー、確かに。それはそうだな! 足引っ張られる前に、行くか!』
納得してくれたようでなにより。
メタビーはいやいやながらもジェット噴射をふかして。イッキを乗せて。
……乗せて。
「―― 少し待ちたまえ、イッキ君!」
後ろから、誰かが駆けて来ていた。
現在地はおみくじ町。メダロポリスなどと比べて人通りは多くなく、だからこそ人目を気にせず「かぜのつばさ」などを起動できている訳なのだが。
駆けて来ていたのは、ムラサメ・シデン。
「っは、っは……はぁ~。間に合ったな。君を名指ししていたからな、あの博士は」
今日も今日とて白ランの彼は、どうやら家の車を道の端にとめ走ってきたようだった。
荒かった息を整えて間もなく、びしりとイッキを指さす。
「警告だ。それと助力もしておこう」
「えーと……ありがとうございます……?」
勢いが良い。警告と助力。悪い話でも無い。
なによりそういえば、ムラサメ・シデンはユウダチの兄だ。妹が人質になっているのだ……と思い返す。
一刻を争う状況だと思うのだが、話はしておくべきだろう。急ぎたくはあるが。
「マザーについての情報はユウダチから聞いた。感謝しよう。少なくともあれが不干渉であると聞ければ、こちらとしても不和は無くなるのでね」
シデンが汗だくの髪をキザにかき上げる。
マザー。コーダインで出会った大きな白鯨、イサナガミのことだろう。彼女に関する情報を得られたのは全くもって偶然なのだが、出会ったことにウソはない。
情報を渡す事、その許可自体もイサナガミからもらっている。協力というか、不干渉というのは確かに正しい表現だとイッキも思う。
「だから、ボクからキミ達にも幾つか情報をあげておこう」
「……情報?」
イッキとしては疑問が浮かぶのは当然だ。彼、ムラサメ・シデン自身もロボトルは強く、行動力もあるはずなのだから。少なくとも妹がさらわれて、黙っているような質ではないと聞いている。ナエから。
当のシデンは、それら疑問には「今はもう僕よりも妹の方がランキングも上なんだ」と。あっさりと答え、流して置いて。
上を向く。
浮遊要塞が、青空の中にぽつんと大きく浮いている。
「あのフユーンは、ヘベレケ博士が構想した浮遊要塞 ―― その
「横取り……って」
「具体的に言えばいいかい? それじゃあ、メダロッ島の地下に建設されていたロボロボ団基地の一部。ヘブンスゲートの下部、ヘルズゲートの外付け容量を丸々。それに建設中だったクラスターのブロックの幾つかも、吸収されているようだ」
「えぇ!? それって、シデンさんの……」
「ああ。開発は中断せざるを得なくなった。犯人が判明したのは、たった今のことでね。……というか、
とんでもないことを言ってくれる。
企業スパイという奴のせいだと、彼は付け加えておいて。
「これからボクは社の方で戦力を整えてから、あの要塞の迎撃に向かう。セレクト隊に任せておけないのはキミだって同じなんだろう、イッキ?」
「うん!」
「そうか……じゃあ、これを」
力強く頷いたイッキの前へ。
頷き返して、シデンはひとつのケイタイを差し出した。
「これは?」
「テレポーターさ。ボクらが開発したクラスターのブロックを奪われたけれど、だからこそ、そのテレポーターはまだ直通で使えるはずだ。キミが先に乗り込むのがいいと、ボクは思う」
「そっか……ありがとう!」
『マジか。さんきゅーな、シデン! やったぜ、飛ばなくていいじゃねーか!』
イッキとメタビーがそろってお礼を言うと、シデンは礼には及ばないさと返す。
……メタビー自身、あまり空を飛ぶ感覚には慣れていないので、そういう意味でのお礼な感じだったけれども。
「それじゃあ、お互い急ごうじゃないか。ユウダチを頼んだ、イッキ君」
最後にシデンから激励の言葉を受け取って。拳をごつり。
イッキは、テレポーターのスイッチを起動した。
・完全体フユーン
足がなくても……?
もしくはなんちゃらポッド。
でも上についているのはいつものフユーンなので、さもありなん。
外壁はべこべこしていない。
・さらわれた、たいせつなおんなのこ
大事なことなので何度言っても以下略。
メダロット2ではここでどちらが攫われたのか、でエンディングが決定しています。
大事なこと以下略。
・テレポーター
どっちかというとメダロットには、こういう超技術要素はあまり……。
……いや、出して良いか……。1の移動宝箱やシノビックパーク……いやあれは底抜けスライダーな可能性もあるし……。