ジャンクヤードの友人へ   作:生姜

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   @ジャンクヤード_ヘベレケ博士

 

 

 そういう訳で。イッキとそのメダロット一行は、はぐれたユウダチの落下地点であろう「謎に(みどり)(びか)りした樹」を目指して、海の上を歩いて行くことになった。

 

 の、だが。

 

 

「……距離感、わからなくない?」

 

『まー無駄にでっけぇしな、あの樹。ってか実際には樹じゃあねーんだろうし……』

 

 

 ざぶ、ざぶ。

 水深の深い場所をさけて(メダロットの構造および気密的に浅瀬程度は全く問題ないが)メダロッチの中に引っ込んだメタビーが、正面遠く。光の樹の方向を見ている様子で言う。

 

 まぁ、本当に樹であるとはイッキも思っては居ない。

 しかしああいう摩訶不思議な現象を起こせる心当たりも、イッキにとってはメダロット達しかないわけで。

 

 

「やっぱりメダフォースなのかなぁ」

 

『そうなのか? 少なくともオレはあんなこと出来ねーけど』

 

「うーん……。でもさ、ナエさんとヒカルさんとメダロット博士が言ってたじゃんか。メダフォースは本当は、ロボトルで扱っているみたいな直接的な力だけじゃないって」

 

『言ってた……ような。言ってなかった、ような』

 

 

 メタビーは忘れているようだけれども、そういう風なことは言っていた。

 どちらかというとマザー側が……もしくはレアメダル側が、下位のメダロットらを操る(・・)ために扱うような力が、メダフォースの本質であるらしいと。

 

 だとしてもどう扱えばそうなるのか。何を目的として、あんな光を発するのか。

 少なくともメタビーは、想像もつかないようだった。イッキにしてもそうだ。というか、光って……樹を出して。それで出来ることなんてたかが知れているだろう、とすら思う。

 

 

「侵略には使えるからいいんだろうね。僕はあんまり興味ないけど」

 

『オレとしてはビーム撃てるほうがロボトル勝てるし、格好いいなぁ』

 

 

 ざぶ、ざぶ。

 さざ波を足先でかきわけて、イッキとメタビーが前へと進む。

 

 前へ、前へ。

 

 ……。

 

 ……何か、スクラップの道の脇に。

 こんもりと残骸のような小山が出来ている様な気もしたが……。

 

 とはいえ漁っている時間も体力も惜しい。

 特に気にもとめず。

 

 スルーして。

 通りようとした、時だった!!!

 

 

「―― 待てーぇい! オヌシ! そこの小僧! テンリョウ・イッキ! ワシを無視してゆくんじゃあなーーーーーいッッ!」

 

 

 がしゃああぁぁぁんっっ!!

 義手の生えた鞄を背負った老人、ヘベレケ博士。スクラップの山からご登場である。

 

 老人はどっしん、どっしん。残骸を吹き飛ばして、地団駄を踏んで、転がる様に落ちてくる。

 しばらくすると気が済んだのだろう。ヘベレケ博士はイッキを見るなり超高速で近付いてきた。目が合ったらロボトル、という訳でもあるまいに。

 

 そういう心持ちで、彼と彼のメダロットの到着を待つ。

 ヘベレケ博士はイッキの目前まで、足元のジャンクをがっしゃがっしゃと蹴り飛ばしながらやってくると。

 

 

「ぜはーっ、ぜはーっ……」

 

『博士、博士。急ダッシュ急停止は腰というか、膝に悪いですからお控えくださいね?』

 

「ムムムム……。貴様を搭乗用に『せんすい』装備に換装してくればよかったわい、コガネ」

 

『今のくらげ海岸沖には潜水と言う程の水深はないですけれどね。ホラ、博士でもイッキ君でも歩けてしまっているわけですから』

 

 

 腕のじょうろ型パーツを揺らしながら、彼女(・・)はモニタをへにゃりと心配げに曲げてみせた。

 ヘベレケ博士おつきの助手(シッター)メダロット、コガネの言う通り。どちらかといえば『かぜのつばさ』で飛行なのだろうけれども、あれはあれで燃料消費が激しいなど問題点もあるものだ。

 

 ところで博士は何用なのだろう。

 イッキが、今度はヘベレケ博士の息が整うのを待ってあげながら尋ねると。

 

 

「何用じゃとう!? きっさま! フユーンにユウダチをさらって、小僧をおびき寄せたのはワシじゃぞぅ!?」

 

「あっ、そうだった! 博士、ユウダチを見ていませんか?」

 

「見ちゃおらんわい! そもそもワシとあやつの契約は、オヌシをおびき出したところまでで終わっておる!!」

 

 

 ふんと息を吐き出したヘベレケ博士に、イッキは肩を落とす。

 それもそうか。フユーンからの落下の際、ユウダチの最も近くにいたのは自分である。

 

 

「そもそも僕をフユーンにおびき出してどうするつもりだったんです?」

 

「ふん、そんなのは決まっておる。アキハバラの使いであるオヌシを倒して、ピッチピチのギャルにモッテモテ……と、言いたい所じゃが」

 

 

 ヘベレケ博士は、揃って遠くを見た。

 海面のはるか向こう。緑光に輝く大樹の方を。

 

 

「……。……今のオヌシは、アキハバラの使いと言う訳でもないか」

 

 

 いきり立っていた肩を、今度はすくめる。思い直してくれたようだった。

 

 

「それに、そもそも、アレ(・・)を救いにゆくというならば……。それがもしも、叶うのならば。オヌシの行動は、ワシの悲願を証明するための行動とも呼べる……か?」

 

『そうですね、博士。……なのでイッキ君。わたし達はここでロボトルを仕掛けたりしないので、ふふ。そう準備をしなくてもいいのですよ』

 

 

 がっつりメダロッチを構えていたのを見られたようだ。

 普通に出て来たメタビーと顔を見あわせ。メダロッチの中へと戻り。じゃあ何のためにこちらに声をかけたのだ、と思わなくもないのだが。

 

 

『博士、博士。イッキ君たちにあれをあげましょうよ』

 

「アレか? 確かにムラサメの金で開発したのを良い事にクラスターブロックごとフユーンに貼っ付けておいたが、今はワシらの手元には……」

 

『でも海面のどこかには落ちているんじゃありませんか? あれらプロジェクトのうち、この事件でisocaは足踏みをしてしまうのでしょうけれども……少なくとも、木星の使途相手ならば、ユウダチちゃんはあのパーツを扱うはずです』

 

「ふむ。それもそうか……。あの樹は……。……おい、小僧」

 

「はい」

 

 

 長い逡巡の後で、ヘベレケ博士がイッキへと手を差し出した。

 ので、受け取る。黒くてツヤのある外殻の……長方形の。フラッシュメモリのような、何かだった。

 

 

「ソイツを持っていくといい。オヌシに巡り合わせがあったならば、皇帝(・・)を呼び覚ますことも出来るじゃろう」

 

『頑張ってくださいね。博士がケイタイを落下の際に無くしてしまった以上、わたし達には応援しか出来ませんが』

 

「ふん。獣王たちのデータはきちんと外付けに保存してあるから、研究所に帰れば問題なく転送できるわい」

 

 

 腰に手を回して老人のように、ヘベレケ博士は後ずさる。

 1歩、2歩。

 

 くるり。振り向く。

 

 

「……ユウダチを救うというならば相応の覚悟を持て。あれはワシらヒトに示された、進化の方法のひとつ先をゆく者。故にこそ、本来は独りのまま、果てる未来を選ぶべき者じゃ」

 

『博士は怖い言葉を使っていますが、イッキ君なら大丈夫ですよ。自信をもって進んでください』

 

『おいおい、オレもいるぜ!』

 

『ふふ、そうですね。メタビーくんも。それに……仮面のヒーローさんも、足早く駆けつけてくれていることでしょうし』

 

 

 なるほど。コガネの言う通り。

 かねてから動向を注視していたフユーンとクラスターと、軌道エレベーターでの大事(おおごと)である。セレクト隊よりも身軽で、どんなメダロッターよりも強い彼と彼女であれば、確かに。

 

 

『いってらっしゃい、イッキ君。メタビーくんたち』

 

「はようゆけ。しっ、しっ」

 

 

 こちらを手のひらで払っておきながら、ヘベレケ博士は背中を向けて歩き去ってゆく。

 ……まぁどこまでも海面なので、老人の姿はずっと見えている訳なのだが。そちらを気にしていても仕方あるまい。

 

 

「いこう、メタビー。クマ。クモ。皆の力を借りて、今度こそ、ユウダチを助けに!」

 

『おうよ! 未知との遭遇、だぜ~!』

 

『レッツ・ロズウェルだクモ~!』

 

『イッツ・くらげ海岸沖だクマ~!!』

 

 

 

 

 ◆◆

 

 

『うまくいくでしょうか、イッキ君たちは』

 

「知らん。だがこういう道筋を選んだのはアヤツらじゃ。そこにワシとアキハバラめの因縁を持ち込むべきではないじゃろう」

 

『ふふ。そうですね。それに、ユウダチちゃんが独り(・・)じゃなくなる千載一遇のチャンスを逃すべきでも、ありませんね』

 

「ふん。だから知らんとゆうとるじゃろうに」

 

『はい』

 

「……」

 

『……』

 

「……」

 

『……』

 

「……心の定義などどうでも良い。魂の定義なんぞ、クソくらえじゃ。頭でっかちになった学者どもも、ワシも、アキハバラの奴めも……かのフシハラ・ゲンゴロウであっても。そういう結論は出せはしまい。なにせ、年寄りじゃからの」

 

『……』

 

始めから(・・・・)そうでないと、ああは成れん。あやつのように、ユウダチのように。現代の一般的な人間と違い、メダロットを真に友だと思えてしまう奴は、新たな世代とでも呼ぶべき者」

 

『……』

 

「その原初の例であるアガタ・ヒカルは、失敗した。年少からメダロットに接した経験と、(たぐ)(まれ)なる才覚と、度重なり洗練されたロボトルによって発現したメダフォースに触れるという希少な経験。それにより開花した『メダルのリミッター解除指令を出せる能力』は……覆い隠された」

 

『……』

 

「アガタ・ヒカルは、(ねた)まれた。(うと)まれた。こやつは人外であると烙印(らくいん)を押された。故に、あやつのことを誰も知らぬコンビニなんぞでバイトをしておる。メダマスターだなどと(うそぶ)いて、ロボトルをしておる。……本収入はアキハバラの娘の縁故でやっとるテスターだとは聞いとるがな」

 

『……』

 

「誰が呼んだか、人擬(ヒトモド)き。……ふん。見た目も骨格も生殖方法も同じな輩に、そんなレッテルを押し付ける方こそ、バケモノじゃろうに」

 

『……』

 

「では聞くが、友達とはなんじゃ? 旅をともする(・・・・)ものじゃろう。そこに難しい定義は必要あるまい。自身にとってどうか、が大切になる」

 

『……』

 

「新たな世代がいくらメダロットを真に友だと思える心を持っていても。その友誼(・・)によってメダフォースを自在に演算できるようになったとしてもじゃ」

 

『……』

 

「人間は、メダロットよりも先に死ぬ」

 

『……』

 

「不慮の悪運でもない限りはな。じゃがそれは人間でも同じこと。メダルとて劣化はする。じゃがそれは人間のテロメアとて同じ……どころか、メダルの耐用年数よりも遥かに短い」

 

『……』

 

「友であって良い。じゃが、友人ではありえん。メダロットは飯を食わん。メダロットは三原則に縛られておる。メダロットは ―― 機械じゃ。友人を欲するならば、別に作る必要がある。ただでさえ稀有な才覚を必要とする、メダロットを真に友だと思ってしまうやつ。そんな難儀な輩をの」

 

『……ですね。ですから……』

 

「ふん。ユウダチは、結局、欲した。その手をつかもうとした。ならばアヤツが……テンリョウ・イッキが、男をみせるところだろうよ」

 

『ええ。ですのでわたし達は……フユーン稼働の首謀者だとバレない様に。セレクト隊とのいざこざにイッキ君たちを巻き込まない様に、ちゃーんと逃げましょうね?』

 

「わかっとるわい。さぁて、今度はどこへ逃げ込んだもんかの」

 

『アースモールも出禁でしょうからね。ベビーもパクリ(コピー)ましたし、わたしもベビーシッターの仕事を蹴っちゃいましたし』

 

「ロボロボの奴らを利用して作った基地も、あらかたパーフェクト・フユーンにくっつけておったしの。……前に誘いがあったのは、リュウトウ町の学園だったか」

 

『はい。博士の軍属時代のファンを自称する人が、学園長をしているそうです。コンタクトをとりましょうか?』

 

「怪しいがの。じゃが……がっはっは!! 研究は出来そうな臭いがぷんぷんしとる!! お金もがっぽがっぽじゃ!!」

 

『じゃあ連絡してみますね。うーん、ギャルはいますでしょうか』

 

「がーっはっはっは!」

 

 






・稼働年数
 まぁ実際には故障とかエラーとかあるでしょうけれどね。
 がっつり破損したら湖に漬ける。


・軍属時代のファン
 基礎設計が博士であるのは、色々な設定の混ぜこぜの流用です。
 ブラックメイルとか、4のグレイン&パーティクルとか。
 天使だの黒山羊だの悪魔だの、そういうモチーフは博士発だということにしています。

 一方でほぼ自己開発であるカンタロス一式やビートル系列もナンバリングがあったりするあたり、メダ社まわりの商標はふわっとしていて良い物だと思っていますね。その方が楽しいですし。
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