「なんだろう、あれ……」
緑光の樹まで、進捗3割。
イッキが歩いていた道の上に ―― 指の間の水かきと、青緑色の肌を持った
「君は?」
「……やはりか」
海面から現れてぷかりと顔を出した所から始まり。
少しずつ近づいてきて。遂にはイッキらの前に立ちはだかったのだ。
ざぶりとスクラップの上に足を付ける。
魚的で流線形なパーツを多く持っているが……顔と。両手と。両脚。人間と同じ形をしているようだ。ただ瞳がふた回り以上は大きく、どこを見ているのか判断付かない複眼を思わせる。
そんな彼が首を振るう。
水を払ったわけではなく、思い直すような仕草。
「やはり、ニンゲンは海を汚す」
「……」
反論の仕様がなかった。周囲のあり様が、まさにその通りだからだ。
イッキは正面の彼の、何かを
「この海の惨状は、キサマが原因か?」
「えぇと……間接的には、そうなんだけど。こうしたかったわけじゃあないというか……」
反論の仕様が、残念ながらなかった。周囲のあり様が以下略。
イッキの言い訳をどう受け止めたのだろう。彼はどこからか……そう、本当に何処からか、メダロットを呼び出してみせた。
彼が何者なのか。彼が何を求めてイッキの前に立ちはだかったのか。
……ニンゲンが、とこっちへ話しかけるいうことは。つまるところ彼は人間ではないのか、とか。
謎の光の大樹は生えているし、海はスクラップで埋め立てられるし、軌道エレベーターの外壁は剥げ落ちた。
そういうイッキにとって判らない様々な事柄はあろうと……今。彼がどうしたいのかは、率直に理解できている。
答えよう。イッキもメダロッチを構え、メタビーたちを呼び出した。
辺り一面の海原の上に立って、メダロット達が向かい合う。
当然、どこからか現れる ―― 海中からとみせかけてスクラップの1体が動き出し!
「合意と見てよろしいですね!」
公認レフェリー、ミスターうるち。
正面の彼が頷いて。相対するイッキが頷いて。
「ロボトルぅ……、……ファイッ!」
ばしゃり。6体のメダロット達が、海面をかき分けて走り出す。
互いに牽制をはさんでいる間に。
イッキがみるに、相手の
周囲は海であるから有利……という訳でもなく。今のくらげ海岸沖には大小さまざまなスクラップが沈んでおり、潜水したからといって自由に動ける訳でもないようだ。
では何故、男の子のメダロットは全て見たことの無いパーツだというのに。
「純正」―― つまりは型式番号が同一のメダロットである、と判断出来るのかというと。
「ロンガン、メダチェンジ!!」
「フィィィーーッシュ!」「ンフィィィーーシュッ!!」
開幕早々。ロンガンと呼ばれた男の子のメダロットは、メダチェンジをしてみせたのだ。
尻尾のようなシーアンカーや流線型のボディ。
全身
両腕に爪のように据え付けられていたパーツがばしぃんと別たれ、『せんすい』型へと変わったようだ。勢いよく海中へと潜ってゆく。
そちらは今は、注意しておくくらいでよいだろう。イッキのメダロットの中に潜水可能な型はいない。メタビーが二脚、スパイダが多脚、クマが車両。いずれも海では動き辛過ぎる……が、今のフィールドは違う。
海面ではあるが。落ちて来た巨大な装甲の上は「平面」。積み上がったスクラップの上は「岩場」や「渓谷」。配線等が露出している箇所などは危険地帯、「ダメージ床」とでも呼ぶべきだろうか。
その内の「平面」に立ったメタビーが、向かい合う。
「だらっ……だっ!? だっ、だぁぁ!?」
メタビーが右腕からライフルを放てばライフルを返され。
左腕からガトリングを放てば、ガトリングを返された。
そう。メタビーと向かい合っているのは。
「ちっくしょー、ナニモンなんだってーの、テメーは!」
「……」
「黒い……KBT型、メダロット!? あんなの、研究所でも見たことがないや」
視線を向けられた機体は、無言のまま。
その照準を続けて、メタビーへと向けて攻撃に移ってくる。
「守るクマーッ! ……あだだだだだっ」
「さんきゅーだぜ、クマ! つーか威力高過ぎだろ、あの銃撃!!」
援護に入ってくれた楯を見ながら、めっちゃボコボコに凹んでやがるとメタビーが呟く。メダロッチの表示上においてもかなりのダメージだ。
クマの「援護」の熟練度は相応に高い。なにせイッキらと共に、メダリンクをアジアランクまで勝ち進んできたメダルなのだ。そのクマの楯を、馬鹿正直な正面からの銃撃だけで崩そうとしているのだ。あの黒いKBT型は。
とりあえずあの機体はブラックビートルと呼ぼう、とイッキが考えているうちに。男の子が端的な指示を出す。
「やれ」
「ンフィィィーーシュッ!!」
「クマーッ!?」
「んおわーっ!? あっぶな!!」
海面から飛び出したロンガンがメタビー目掛けて「メルト」。
塊の溶解液を射出して一撃離脱、再び海中へざぶり。メタビーが苦し紛れに海面を射撃しているが、当たった様子はない。
その隙にも、黒いKBTはこちらを追うように射撃を繰り返している。
威力は高い。実際クマの装甲は、がりがりと削られている。しかしその攻撃にイッキは「機械的な射撃である」という印象を受けた。
「ローテーションで動いている……? いやでも、メダロッターがそこにいるのに、そんなことする意味は……」
「お? なんだイッキ、いい作戦でも浮かんだのか?」
クマの盾の後ろに完全に身を隠したメタビーが、ブラックビートルから完全に視線を外して嬉しそうに言う。
どうやら表情で伝わってしまっていたようだ。イッキは頬をかきながらいう。
「うーん、確証はないんだけどね。ただ、戦況はすごく良くなると思う」
「別にいいぜ! 上手くいかなかったらそれはそれで、オレたちの方で何とかしてやるよ!」
「任せろクモー!」
「いでででっ……お任せだクマー!!」
メタビーとクマと。
トラップを仕掛け終えてきたスパイダが、傍のスクラップの影から、身をひょっこりと乗り出して。
なら、いこう。
ロボトルに確証なんて、元々、持てるはずもないのだから。
「第三波だ」
「―― フィィィッシュ!!!」
「クマ! スパイダ! ……メタビー!」
男の子のひれ付きの指示に従い、ロンガンの片方が海面から飛び出した。
そのタイミングに合わせて、メタビーが走る。放たれた溶解液が、間に入ったクマ……ではなくスパイダの両腕と足の何本かを、じゅうと焼いた。
「今の内にいけだクモーっ!!」
「おうよ! ……いくぜクマ!」
「合わせるクマーッ!!」
迫ってくるこちらの様子を、黄色のモニターアイで見ていたブラックビートルへ。
メタビーとクマが、文字通りの様相で飛び掛かる。
接近。角と角が当たるような距離にまで、ごつん。
「にぃっ……食らいやがれ!! ハンノーォォォォ、だぁんっっっ!!」
「……!!」
今度は、応じた。
この至近距離だというのに。
メタビーが……
ブラックビートルが超威力の弾頭を、メタビーへ向けて放った。
だから。
同じく至近距離に接近し、メタビーの「援護」に入っていたクマの両盾に、直撃。
「オ゛ア゛ーーーーーッ!?」
爆散。
およそクマらしくない悲鳴をあげ。両手両足のティンペットをむき出しにし。
ひねりをくわえながら……クマは遠くの装甲の上にべこん、ぼこん。転がった。
……自分自身の攻撃の余波を直上で受けたブラックビートルもまた、同様。
「……。……ィ」
「ブラックビートル、戦闘不能! テンリョウイッキ3、スピリット2!」
倒れる黒光りのメダロットを視認し、ミスターうるちが判定をくだした。
つまり、リーダー機ではない。
イッキとしても、これは予想の範囲内だ。
相手は周囲の海をという環境を活用している。そこに優位性を見出しているのだ。地上にリーダー機を置くはずもない。
メダロットの数は3対2となったが、クマは殆ど戦闘不能。
事実上の2対2。とはいえ。
「相手が海中にいるっていうのは、デメリットだけじゃないよね?」
イッキは自分の考えを復唱しながら戦況を見やる。
相手が海中にいて、こちらが地上にいる。それでいて射撃攻撃を搭載していない(と思われる)。
ということはつまり。相手は攻撃する際に……「せんすい」パーツの脚部では明確に不利な地上へ。海を出てこなければならないのだ。
いちおう公式のロボトルのルールにおいては、タイムアップがある。
制限時間経過時には、残っているメダロットの機体数。損傷度合い。それらを比べて優勢な方が勝利となる。
だがこの戦いにはない。
ミスターうるちは公正に。決着がつくまで。野良のロボトルに準じた、リーダー機が撃破されるまでのジャッジを行うだろう。
相手の男の子もそれは理解している。
そもそも盤面上の有利がイッキ側である以上、けしかけてくるだろう。
イッキはその、表情の読み辛い、青と碧の合間にあるような顔色をうかがいながら。
応じる。
「―― ンンン、フィィィシュッ!!」
水面から一機、ロンガンが勢いよく飛び出した。
海中からの勢いそのまま、10メートルは飛び上がり。角度を付けて「メルト」を投射することで、「格闘攻撃ながらに近寄らない」という目算のようだ。
だから ―― そこへ向けて。
メタビーの頭パーツが先ほど撃ちあげたミサイルが……1度空中に撃ち放たれ。時間差で誘導機能を作動させられたものが、着弾する。
がぼんっ、がぼんっ。
「ンフィィィィッ!?」
空中で2発。炸裂の勢いそのまま、スクラップの地面へ叩きつけられた。
パーツが壊れた様子はない。だが全身に焦げ付きを残したまま……。
「―― で。お前がリーダーなわけだな?」
「フィッ!?」
ばしゃりと。
数の有利をこれ以上取られてはたまらない、とばかりに。「格闘武器で援護が出来るくらいの位置」まで近寄ってきたもう1機のロンガンを……その背後を、メタビーがとった。
むんずと持ち上げる。
脚の車輪をきゅらきゅらと回して勢いを付けると、ごろり。
「どっせぇぇぇぇい!!」
巴投げ。
ロンガンを後方の、スクラップの山まで投げ飛ばしてみせた。
配線と剥き出しの破片だらけの、ダメージ床の区域まで。
1バウンド、2バウンド ―― 多重に鳴り響く、爆発音!!
「フィッ、ガフィッ……フィフィフィフィブィフィッッ!?」
そこはスパイダが最初の交戦のうちに射撃・格闘の両用トラップを多量にしかけ。地雷原と化した場所だった。
メダルが弾け落ちる、ぴぃんという澄んだ音。結末はこの通り。ロンガンの機能停止という形で現われた。
「チーム、スピリット! リーダー機戦闘不能! 勝者、テンリョウ・イッキ!」
きちりと見定めたミスターうるちがジャッジをくだす。
背中を海水に浸したままのメタビーが、こちらをみながらVサインをしてみせていた。
◆
ロボトルが終了して。ミスターうるちがスクラップの中へと戻っていって。
クマと取っ組み合っていたロンガンを(メダロッチらしきものが見当たらないのに)何処かへ転送した男の子は、立ち去るでも無く、イッキの方をじっと見つめたままだった。
イッキとしてもなんとなく居心地が悪い。話しかけてみることにしよう。
「えーと。……君の名前は?」
「ない。セイレイたちには必要が無い」
そういうものだろうか。先ほどミスターうるちには「スピリット」と呼ばれていたが……だとすると多分、あれは名前ではないのだろう。イッキを人間。メタビーをメダロット、と呼ぶようなものだろうか。
こちらが
「……あるいは月の……ワレらの核となるべき者がいたならば。役割上、便宜上、区分けを必要としたかも知れないがな」
「あー、なんだ。そういうことか」
イッキは胸をなで下ろす。
彼がその様子を、訝しみ返していると。
「ワレら、っていうことはさ。君はひとりじゃないんだね。それが、よかった」
ぴくりともしない彼から視線を外して、続ける。
「でもごめん、僕たちは行かなきゃ。まだひとりぼっちの友達が向こうに居るんだ。……じゃあね! いつかまた、よければ、ロボトルしよう!!」
ヒレ付きの、碧色の彼をその場に残したまま。
イッキは再び。びかびかと光ったままの樹を目指して、歩いて行った。
単発更新。
・海のスピリット
メダロット3、海の街より。ゲーム内での名義はセルリアーノ。変装時はウラシマ・カイ。
ボスラッシュその1。ゲーム内ではスピリットの真新しさや友情まわりのイベントもそうだが、初出となるブラックビートルのインパクトに喰われている感が強い。
別段にセルリアーノがブラックビートルを所持している理由がはさまれるわけでも無く、ブラックビートルの出自が語られるわけでもない。そのうえレイさんとメタビーのロマンスや、スバルによる時間操作のイベントの方が濃いので尚更である。
ただイッキの心に最後まで引っかかっているのは彼であり、スピリット回りのイベントで最も記憶に残るのはここだろうとも思う。
4以降に続くメダロット三原則まわりの解消(解決では無い)は、この辺りが発端となるのも印象的か。
作中ここで出演したのは、見ての通り、海が汚れたからである。
・ブラックビートル
女性型ティンペットに装着される、黒いKBTタイプ。
変形も可能でパワータイプ。
何よりその各パーツの攻撃力の高さが特徴で、メダチェンジを含めなければ頭部の弾数を差し引いても完全上位互換と呼べるだろう。
サイカチスとの差別化ポイントは、メダチェンジのタイプの違いにより攻撃のシフトが存在せず、ライフル・ガトリング・ミサイルというKBT型のお約束しか扱えないこと……くらいか。
クロス攻撃を鑑みればサイカチスの完全上位互換とまでは言えないが、装甲バランスやカブトメダルのメダフォース威力のことを考えれば、シャトルランロボトルにおいてはブラックビートルの方が強いと言える。
ブラックカブトメダルの出自などは詳しく語られない(そもそもナンバリングによって異なる)が、メダル的な自意識の方は4に固有のイベントが存在するのでそちらをどうぞ。