片田舎に拠点を構える、飲んだくれなプロヒーローのお話 作:ホム竜
「粗茶……いや水しかないんですけど、よければ……」
「あぁ、急に押しかけてきたのにすまないね」
とりあえず俺は、玄関の前で話すのもあれだからと、オールマイトを家にあげる。
ちなみに俺の家にはお茶がない。基本的に酒か水の二択である。
「で、どうしたんですか?俺の家に来るなんて珍しい、というより初めてですけど」
「いやね、ちょうど君が担当している場所の近くまで来たから、顔を出しておこうと思って」
「あー、なるほどです」
俺は自分用にと出しておいたパック酒にストローを刺しながら、そんなわけがないだろと口にせずとも、視線でその言葉を伝える。
日本ナンバーワンヒーローであるオールマイトが、こんな辺鄙な片田舎に、近くに寄ったからついでに来た、なーんて暇はないはずだ。いったい何を企んでいやがる……。
そんな俺の言葉なき言葉に気づいたのだろう。
オールマイトは途端に明後日の方向を向いて、できもしない口笛を吹き始めた。
そんな様子のオールマイトに、俺は聞こえるようにため息を吐く。
「あのっすね、オールマイト。俺はもう大丈夫です。この通り立派に……はできてないですけど、日々の業務はしっかりやってますし、ちゃんとヒーローしてます。今の俺には、何の心配もいらないんですよ」
俺はなるべく不信感を与えないように、口に若干の笑みを浮かべながら、そう言い切る。
しかし、俺のそんな言葉に、いつの間にか口笛をやめているオールマイトが、俺の目をじっと見てくる。
俺も負けじとオールマイトの目を見る……見……あれ?オールマイトの目、4つ以上ない?
「自分ではそう思っているだろうが、先ほどの商店街での事件、君は一度でも個性を使おうとしたのかい?もしあのヴィランが個性を使っていたら?君が想定していたものより強力で凶悪な個性だったら?君が自分の個性を嫌っているのは知ってる。だが、個性を使わずにヴィランを取り押さえることは決して容易ではないことだ。それがわからない君ではないだろう?」
「……え?」
オールマイトが喋っているのはわかる。
だが、ところどころ彼が何を言っているのかわからない。
……それになんだか、視界が回っているような……。
そこまで考えて、俺は気づいた。
……あ、これ、ぜってぇ酒飲んだ状態で激しく動いたからじゃん。
そんなことが頭をよぎったと同時に、俺の意識は深い闇へと落ちていった。
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「――ぐ、ぉぉぉ……」
気が付けば俺は、ソファに寝転がっていた。
なぜか痛む頭を抑えながら起き上がると、台所から何やら美味そうな匂いが漂ってくることに気づく。
――はて、俺は寝る前に料理なんてしただろうか。
そんな疑問が頭をよぎ……ろうとしたが、おそらく二日酔いが原因であろう頭痛に邪魔をされ、まともに考えることができない。
とりあえず俺は、その匂いの大本があるであろう台所へと向かう。
近づくにつれてその匂いはより強くなっていく。
と同時に、何やら鼻歌まで聞こえてくる。
……あれ、誰か家にあげたっけ。
寝る前の記憶を何とか思い出そうとしたものの、やはり頭痛がそれを邪魔してくる。
……もしや、空き巣か?
いやでも空き巣なら、家の中を物色してさっさとトンズラこくのではないだろうか。
まさか舐めプか?
と、回せない頭を無理やり回しながら思考を廻らせる。まぁ二日酔いの時点でまともな思考など持ち合わせてはいないのだが。
それはともかく、なんとか台所に着くと、そこには後ろ姿でエプロンを着た長身の男性がいるではないか。
って、オールマイトか?
そういえば、寝る前にオールマイトを家にあげた気が、あるような、ないような……。
そう必死に思い出そうとしていると、おそらく俺の気配を感じたのだろう。
オールマイトが振り返っていた。
オールマイトは少し驚いた顔をしたが、すぐに心配そうな顔をする。
「お、起きていたのか、悪身くん。話してる途中で急に倒れるもんだから、思わず心臓が口から飛び出るところだったよ」
「オールマイト、あんたが言うとなんだか冗談に聞こえない、うっ……」
今のオールマイトの状態だと、まるで冗談にならないので、そうツッコむが、自分の声が頭の中に響き渡るような感じがして、たまらず頭を抑える。
「まぁまぁ、そんなことよりまずは夕飯にでもしようか」
「なんであんたが俺の家の台所で飯作ってんだよ……、ツッコみ待ちか?」
オールマイトは俺の言葉を無視することで流し、速やかにテーブルに皿を並べていく。
チラリとテーブルのほうを見ると、全体的に胃に優しめのものばかりだ。
なんでそれ系のものばっかりなのかと問われれば、俺がいつも酒ばっかり飲んでいるから、だと思う。
と、そんなくだらない分析をしている間に、すべての料理が卓に出されたようだ。
さすがに出されたものに手を出さないというのは選択肢的になしなので、俺は渋々席に着く。
「……いただきます」
夕飯を食べ始めた俺をニコニコ顔で眺めるオールマイト。
…………。
「あの、……食い辛いんすけど」
「いやぁ、すまないね。ほら、私って独り身だろ?こうやって誰かにご飯作って食べてもらうのって中々ない機会だから、美味しいかなって思ってね」
「あんたは俺の彼女ですか?……まぁ、あんたは、あんたの見た目に反して美味い飯作るから、美味いんすけどね」
「それはよかった!」
話が途切れれば、あとは俺が飯を食う音が響くだけ。
「そういえば、ドタバタしてて言い忘れてたんだけど」
唐突に話しかけてくるオールマイト。
俺は目だけをオールマイトに向け、飯を食いながら話を聞く。
「私、来年から雄英で教鞭をとることにしたんだ」
「……っていうと、ようやく後継を探すことにしたんですね」
「……いや、実を言うと、すでに誰を後継者にするかは決めてるんだ」
「ほーん……――はい?」
「その少年とは奇跡的な出会いをしてね。その子に私の個性――ワン・フォー・オールを引き継がせようと思ったんだ」
「いや、いやいやいや。……え?」
えー、話が急展開過ぎて着いて行けません。え?俺まだ酔ってんのか?いやたしかに俺はまだ二日酔いで酷い頭痛を起こしてはいるけど……。
「いやまぁ、それも大事だが、今は別のことを君に話に来たんだ」
「え、あぁ…はい」
とりあえず置いておくらしい。……置いといていいんだ……。
「実は今日、君の家に来た理由なんだが、――私のサポートとして、雄英の教師をしてくれないかい?」
いや、どっちの話もぶっ飛んでて笑うしかないな。