手触りのいい毛並み。抱きつけば数分で眠りに落ちる包容力。
身の丈よりも大きく、野生を失ってるのではと錯覚する程のもふもふの塊。
うる艶で、高級バスタオルの何倍も肌触りが良い。
「何じゃこれ…」
朝起きて、そんなものが自分に生えていたら、貴方はどうするだろうか?
「………重い…」
「…はぁ、日曜日だし、寝るか」
私は寝る事にした。
■
目を擦りながら階段を降りる。
ファサファサと後ろから擦れ音が聞こえてくる。別に感覚は無いので何が当たってるのかは分からない。
一瞬尻尾の重さでズッコケかけて大きな音を出してしまった。
「ん?あ、遅起きさん、おはよ……何ソレ」
「知らん、起きたらこうなってた」
「そっか、朝ごはんは?」
「…10時だし、昼ごはんに纏めてお願〜い」
今日は日曜日、今尚あらゆる曜日の中で最強の地位を保ち続ける日だ。
なればこそダラける以外の選択肢等無い!
「ソファー…なんのゲームしよっかなぁ…」
おねだりして買って貰ったリビングソファーとマットレス、その他にも手が届く範囲に生活用品を置き、くつろげる空間を作る為に私の死力が尽くされたこの完璧な配置は……くつろぎの究極に至ったのだ。
……あれ。
「…座りずらっ!?」
尻尾がクソデカ過ぎてすっごい座りずらいんですけど!?っていうかコレどっから生えてんの??
「あら、よく見ればその尻尾、ユウよりデカいじゃん…大丈夫?痛覚とかあるの?」
「いや、無いけど…自由には動かせるのよね、ほれほれ」
左右自由に動かし、又ヘリコプターの様にぶんぶんくるくると勢い良く回せもする。
そして尻尾を動かして分かったのだけれど、脊髄に沿って腰の付け根辺りから生えていた。根元もバッチし確認、普通に狐の尻尾だった。
「痛覚は無いのに動かせるのは変な感じがするけれど、なんて言うんだろ……思った通りには動かせる、テレパシー繋がってる的な、でもめっちゃ重い」
「へ〜…触ってもいい?」
「乱暴にしないでね、ほら」
優しくモフっと、母の顔に当ててあげた。
「うっわぁぁ…うぅ……」
そうすると、母が尻尾に埋まって動かなくなってしまう。
「…ちょっと?」
「うーーー〜…すっっっごい、もっっっふもふ、しかもお日様の香り」
軽く尻尾を振っても全然離れてくれないので、無理矢理引き剥がし、自分が座れるように尻尾を股下から通してクッションにする。
「あぁ〜…残念、ユウのものになっちゃった」
「ヨシ、実験体での検証完了、私も楽しも…」
「……おおお??おぉぉ!!?」
おぉ…!確かにこりゃ最高、今までに無い最高級ベットとこの世界最高のタオルケットに包まれて、そのまま揺籃の中で揺さぶらているみたい!
「おほほぁぅ……」
「病院、二時から予約しとくからね」
「ふわぁ……え?」
「え?じゃないえ?じゃ、そんなもん生やして行かない訳無いでしょ、明日から学校だよ?しかも二年次の始業式」
「え〜…」
「病院行って、それから学校の方にも言っとくから、ご飯食べて歯磨いたら車で送るからね」
「分かった〜」
確かに、普通に受け入れたけど…。
「……」
生えた尻尾をさすって、カーペットの様に毛並みを揃える。
「よく考えたら…本当に、何コレ」
……まぁいっか!新しいクラスで話せるネタも出来たし。
起きたら尻尾が生えていた、ってね。
■
「尻尾、ですねぇ…」
「尻尾、ですか…」
「「「……」」」
「後、信じられない程に状態が良いですよ、何十年も丁寧にお手入れしたペットでもこの毛並みには届かないと思います」
「はぁ」
「一通り検査をさせて頂いて、こちら、この画面に映ってる通り、何も異常はありませんでした、申告して頂いたアレルギーにも反応は無かったですし、発生理由も不明瞭で現段階ではどうとも言えません」
「ですが、後々身体に悪影響が発生しうる可能性はあります、何せ完全に未知な病気ですので根強く経過観察を行っていくしかありませんねぇ…」
「分かりました、ありがとうございます」
「処方箋は今回は無しという事で、後は知り合いの獣医への紹介状もお渡ししておきます、お大事に〜」
スライド式のドアを開けて、必要な書類を受け取り、病院を後にして車に乗り込む。
私は助手席に座って、邪魔な尻尾をなんとか空きスペースにしまい込んだ。
「…普通に検査してもらるんだ」
「ここの人、天然混ざりだからねぇ」
「天然が過ぎるよ??病院のホームでの奇々怪々なコレに対しての視線ヤバかったからね!?」
そりゃもう凄かった、どう頑張っても隠しきれない尻尾は病院に居た全ての人の視線を釘付けにしていたし、看護婦さんにも一瞬夢かと思われたし。
なんなら気付かない間にちっちゃい子供が尻尾に張り付いてた時は流石にびびった、すぐさまお母さんが来て回収して行ったけど……。
「ユウ、あんた何か思い当たる事は無いの?最近ネットでよく見るけど、こういう場合って病気じゃなくて呪いだったりするんでしょ?お祓いとか行った方がいいのかな…?」
母が車を走らせながら話しかけてくる、確かにこういうのって呪いとか祟りとか取り憑かれた系なんだろうけどさぁ。
「なんもしとらんよ……あ〜…いや、何かはしたっちゃしたけど…」
思い当たると言えば思い当たるけど……え、アレの事なのかなぁ…?
「ふーん?それじゃ祝福でもされたんかね、なにがあったの?」
「あ〜いや、うーん…そんな大した事じゃないんだけどね、昨日散歩しに近くの山まで走ってたでしょ?」
「それで、その途中で…ーー」
あ、やば、鼻むずむずしてきた。
「途中で?」
「と、途中……ふっ……ぁっ…クチュッン!」
「ふぅ、それでね、山の途中…で……」
あれ?…なんか、目線高くなった?
「ぁ、え?うん?」
「もう、途中でいったい何が…って……えぇぇ…??」
母がこちらを向いて目を丸くし、硬直する。
原因はハッキリし過ぎていた、車のルームミラーから見える私の姿は…
「…なんで、お母さん…?」
母と瓜二つ、というか全く同じに変わっていたのだから。
そしてその瞬間に目の前が真っ赤に包まれたのも同時だった。
「ふふ、おめでとう…
「そしていらっしゃい、幻想郷へ」
そんな妖艶で、麗しい声が聞こえた気がした。あとちょっとだけ歳を取ってそu…
「…コラ」
「イテッ」