…ふかふかなモノに座ってる?
……。
そうだ、ソファー…ソファーだ、このふわふわ、小学生の時に買ってもらったっけ。
「ねぇお母さん、お願いがあって…ソファー買いたいんだ」
「急にどしたん?まぁリビングにスペースあるから買ってあげてもいいけど」
「ん〜…こうね、テレビの前に置けばゲームしながらくつろげるかなって」
「…ふーん?ならソファーと一緒にクッションも買ったげる、今週の日曜日行こっか」
「いいの!?やったぜ!!」
本当はお母さんと一緒に遊べる時間を作りたかったんだっけ?今じゃ一緒にソファーでテレビゲームをしてくれる様になってたんだけど、私が思いつく事をお母さんが気づかない訳無いか。
…買って貰ってはしゃぎながらソファーに寝転がってたら、お母さんが私の名前を呼んでた。
「ねぇ、ユウ」
「なーに〜?」
「学校、辛くない?」
「んー…別にー?」
「…でも、何か嫌だな〜って思ったらすぐ言ってね、お母さんの力貸したげる」
「貸すって?」
「ふふん、お母さんだって嫌な思い出沢山経験して、それでもって前向いてきたからユウと出会えたし、だからね…『向き合い方』を教えてあげる」
「嫌な事、辛い事、泣きたい事があった時に、それとどうやって向き合うのか」
「……?お母さん、時々難しい事話すよねぇ…」
「アレよアレ、嫌いな奴だったり物事を殴り飛ばすか蹴り飛ばすか、口喧嘩でボコボコにするか一緒に選ぼうって話」
「怖!いや、お母さんならやりかねないのが嫌だわ…うん、でも分かった、辛い事があったら直ぐに…ーー」
「ユウ」
……お母さん?
「明日の為に生きるのは怖い?」
「明日の為に、寝る事は怖い?」
お母さん?何言って……。
…違う、確かこんな事を言われていたもん、お母さんはこんな人だ。
「難しいよ、お母さん」
「んっとね、ユウはどうして今、頑張ってると思う?」
「頑張るったって、普通に学校行って…勉強して、そりゃ将来お母さんから自立しても生きれる様に…」
「…本当にアンタも大概マセてるよね、ビックリだわ母さん、アンタの歳の口から自立って言葉出てくんの」
「えへへ…それほどでも〜?」
「んとね、それで今頑張ってる理由ってつまり『明日』の未来の事だよね?」
「うん」
「じゃあさ、なんの前触れも無く、寝て明日になったら世界が滅んでたらどうする?自分が目覚めれなくなってたり、明日が消えちゃったりさ」
…小学生の自分はこの時、あんまりにも難しいから黙っちゃったっけ?
「だから寝る前だったり、夢を見る前だったり…『明日』の為に何かをしようとする自分に聞いてみて?」
「怖くない?って」
「……怖くなってきた」
今考えたとしても、この疑問は晴れないんだろうなぁ。
「あはは!考えちゃうと〜って奴よね、ごめんごめん」
「…でもさ、お母さん…だったら私達って何の為に学校行ったり働いてるの?まぁこういう疑問って大人になったら分かるって濁されるけど、『周りも同じ事考えてる』って」
「達観し過ぎよ!?…ん、でも、そうねぇ…私はね、私はだけど…『今』生きていく為かな?」
「比喩る話し方好きだよね、哲学の授業でも受けてた?」
「…ゲンコツするよゲンコツ、暴力反対を反対するから」
「ミッ…」
「明日、目が覚めないかもしれない…明日、世界が滅んでるかもしれない…明日、『明日』が無くなってるかもしれない……そんな世の中だからさ、お母さんは明日の為に、じゃなくて今の為に明日を生きようとしたいんよね」
お母さんの話は毎度毎度、なんていうか軽度の厨二病というか、その中に混ざった大人の人生経験としての達観的な意見というか、聞けば『ふーん?』ってなる話ばっかりだった。
私が小さい頃、迷惑かけてばっかだったからかもしれないけど。
「私が、ユウが生きている『今』は、明日になっても無くならない、沢山の『今』を生きてく為に…生きるのかなって、そのソファーだって買ってあげた事の時は一生覚えていくつもりよ?」
「享楽主義って奴?」
「まっ、ちょっと違うけどそんな所、そんな事考えても仕方ないから今楽しもうぜ!ってね」
「…だからね、ユウ」
「寝る事を怖がらないで」
「夢を見ることを怖がらないで」
「明日を迎える事を、怖がらないで」
「…それでも怖い!無理だ!って辛くなっちゃった時には……」
「お母さんの事を呼んで、すぐ駆け付けて寝かしつけてあげる」
「…うん!!マイラブマザー!」
「はい可愛い、1000000点満点」
■
「でも子供に話すにしては内容が難しいんじゃないかな!!」
…って、あれ?
「……び、びっくりした…」
「…どちら様ですか?」
どうも、私です。起きたら見知らぬ家で寝っ転がってました。
「…コホン、おはようございますユウさん、私は稗田阿求…とある方のご依頼で貴方を人里に連れてきました」
な、なんか和風少女に挨拶された、これは返さないとシツレイになる。
「ドーモ、アキュウさん、カネイロ・ユウデス」
「……」
あ、ものすっごい変人を見る顔をしてらっしゃる。
「ともかく、ユウさんは魔法の森で妖怪に襲われ倒れていた所、依頼人様に救助され人里へ保護されました」
「依頼人様…というのは」
「名を伏せる様にと」
…何があったんだっけ。確か魔理沙と弾幕勝負をして…光に包まれて気づいたら、なんかめちゃくちゃ痛くて……また寝て起きたらここに?
本当に何があったんだっけ?てか人里?
「…そうだ、アリス…アリスさんが付近にいませんでしたか?」
「アリスさん…あぁ、アリス・マーガトロイドさんの事ですか、状況を余り詳しく知らせられていませんが、知りうる限りでは彼女は居なかったと捉えれますね」
…あの時微かに見えた金髪はアリスじゃ無かったのか。
随分と遠回しな依頼人様だこと、私を助けたって事は何か見返りでも欲しいんだろうに…。私の目標だった人里へわざわざ連れてきてくれて…。
「カネイロ・ユウさん、貴方はこれから里の一時的な住民として生活して貰います、その為の最低限の知識はおありでしょうか?」
「えっと、ここが幻想郷って事と、その基礎や成り立ち…かな、それだけしか知らないです、後は色々と幻想郷の勝負事をアリスさんに教えて貰いました」
「…アリスさんに?」
そういえば、アリスお母様は滅多にそんな事しないんだったな。
「ここに迷い込んで、路頭に迷ってばっかりの所を助けて貰いまして…」
「……そうでしたか、外来人である貴方にとっては過酷な旅だったでしょう、私から幻想郷、その人里の説明をさせて頂きます」
阿求さんが私の手を取って、部屋の外へ連れ出してくれた。
■
〜数十分後。
ばかでっかい屋敷を歩き回った後は外へ出て、阿求さんに解説をされながら遊覧していた。
「…ーーこれが、人里になります」
「……………なるほど」
私が予想していた通り、人里は妖怪の脅威から身を守る為に作られたそうで、人以外は長く慣れ親しんで危険性が無いと判断された妖怪のみを受け入れる村社会と説明された。
そして永く続いている古の文化が根付いた場所とも。歩き回って見てみても皆日本劇みたいな着物ばっかりだ。
よく外来人も迷い込んだ後は村に一時的に住まう様で、帰る準備が出来たら博麗霊夢が迎えに来るらしい。
博麗霊夢とは村の守り人的な存在らしく、異変を解決したり妖怪を退治したり治安を維持する役目にあるらしい。そして外の世界と幻想郷を繋ぐ橋渡し役とも。
「人里には多くの施設があります、買い物にも享楽にも利用する貨幣はこちらとなっていて……」
歴史書に出てきそうな古めかしい銭を渡される。
「依頼人様はユウさんの為に、数年分の生活費を置いていかれました」
「………はい??」
…どうも、私です。
謎の大富豪が私を助けてくれていました、訳が分かりません。
数年分って、馬鹿か?見ず知らずの人を助けて人里に送り込んだ後に、生活費も数年負担ってどんな聖人だよ。
どうやら貨幣は金庫に預けられているらしく、私名義でいつでも引き出せたり使えるらしい、更に貸家のおまけ付き。
オマケがオマケしてねぇ!!家探す手間も省けたんだけど???
「…失礼かもしれませんが、ユウさんは妖怪だと連絡を受けてはいるのですが…詳しく説明は出来ますか?」
「あ、いやぁ…違うと言えば違うんですけど、今は外付けの妖怪の力を使わせてもらってます……この尻尾…あれ、尻尾……」
…見た目がお母さんじゃん!!だが甘いな尻尾よ、お前の扱い方は学んだ!
元に戻れ〜ちちんぷいぷいちちんぷい!
「………」
「………」
変なポーズを取りながら固まるユウを、可哀想な人を見る目で阿求が見ている。
「尻尾様ぁぁ!?!?」
アレ!?こんな感じじゃ無かったっけ!?
「えっとそのあの、私が人間である事に間違いは無いんですけど…呪われたかなんかで尻尾が生えちゃって、妖力が混ざってるってアリスさんが」
「ふむ、アリスさんの分析でしたら疑いません、形式的には人として里に受け入れますね」
「お願いします」
危ない危ない、このままイカれた奴だと思われて過ごす所だった。
まぁ、暫くは里にお世話になろう、待ってるだけで迎えに来てくれるらしいし…どうすれば帰れるのか分からない時から随分と楽になったもんだね。
早くて目覚めて、お母さんと一緒にゲームをしないと。
「それでは、コチラが借家の鍵です、地図をお渡ししておくので印に従って移動お願いします」
「ありがとうございます…!何から何まで、感謝しきれないです」
「御礼は依頼人様へ、全て契約上での事ですので」
「はい!もしまた阿求さんの所へ依頼人さんが来た時は…私が『ありがとうございました』って抱え切れないくらい感謝していたと伝えておいてくれませんか?」
「了解しました、それではユウさん」
「幻想郷へ、ようこそ」