「ちょっとお兄さん、ちゃんと握ってますーー?全然痛くないんですけどー?」
「待て!待てって言ってるだろ!」
「ん?あ、はいはい」
低空飛行でぴーゅんと飛んでたから着地もすんなりと。
振り返ってみると泥だらけ砂まみれになったお兄さん……ガタイが良くて強面だから思っ切り引っ張ってくれると期待してたけど、ちょっといきなり過ぎたか。
「はぁっ…はぁっ…!おま、お前……人里で…はぁっ……こんな事して…」
「どうぞ、お水です」
「あ、あぁありが…ーー労わってんじゃねぇ!!」
おわっと、危ない危ない……てかそうだった、人里って基本妖怪禁制の場所だったな、他の妖怪も妖怪だって公にせず生活しているらしいし。
でも、飛べるのって普通なんでしょ?だからお兄さんにも飛んでもらって尻尾を反対にぎゅーってして貰えたら良いだけだから…金で釣ってみっか。
「急にやっちゃってごめんなさい、謝罪のお金なら渡すんで…」
「銭どうこうの話じゃねぇよ、あーあ〜こんなに服も汚されてよ…傷も付けられて、銭渡してはいサヨナラだぁ?ふざけてんじゃねぇ」
「本当にごめんなさい…でも、お兄さんも飛べばよかったのに…」
「はぁ?何言ってんだ妖怪が、俺らがお前らや巫女様の様になれるかってんだ寝言も寝る前に言いやがって腹が立つ」
「……ん?」
はい?
「ともかく、お前には少しばかり痛い目に…」
「ん、え?お兄さんお兄さん、空飛べないの?弾幕は?」
「…本当にお前には勢いが削がれる、そうだよ俺ら人間は空も飛べねぇし巫女様がやってる様な退治も出来ない、精々自警団みてぇに棒や刀で追い払う位だ」
「へぇ〜………なるほど、色々大変なんですね、それじゃちょっと失礼します…」
「お前も!今から!そこに行くんだけどな!!」
「ぎにゃぁああーーー!?!?許してーー!!?」
尻尾!尻尾様!!飛んでくれませんかぁぁ!?駄目ですよね!ちょっと心迷ってるから!!
尻尾掴まないで!ふわふわをむしろうとするなぁァ!?!?
クソォ…ある程度この世界の『人』の当たり前部分を基礎にして、摩訶不思議な事を受け入れてきたけど……そこまでメジャーじゃないんかい!!アリスお母様嘘ついたな!?
「イテッ…!」
ん?なんか勝手にダメージボイスが聞こえた気が……お!!
ラッキー!尻尾の毛が目に入ってる!力も緩んだし退散退散!!
「失礼しましたーーー!!!」
「あ、クソっ!待てガキィッ!!」
はん!山で鍛え上げられた足腰に適うと思うなよ!
「速ぇっ!!?クッソ!チビガキの癖に…!」
「あーらよっと!ばいなら〜!」
■
「ガミガミガミガミ…!!」
「はぃ…」
「幻想郷の成り立ちを知ってるんじゃ無かったんですか!!?アリスさんから教えられたって!!」
「いぇ…その…神々と賢者が作ったって…」
「それだけ?」
「それ…だけ……」
「ガミガミガミガミ!!!」
「ごめんなさぃ…」
どうも、私です。
あの後家に戻ってゆっくらご飯食べてたら阿求さんにガチ怒りされてます、ずっとガミガミ言われております……。
どうやら、私と阿求さんの間で解釈の違いがあったらしく…。
私の言い方が悪かったのもあるんだけど、どうやら私が人里での暮らし方もアリスさんから教えられて理解していると思ってたらしい。
「と・も・か・く!これ以降は空を飛ばないこと!その姿を隠して変化し続けてて下さい!」
「あのぉ…そのぉ……」
「なんですか!」
「多分、もう飛べないし、姿も変えられるかどうか…」
「はぁぁ!?何でですか!?」
「阿求さん…あの、この世界で飛べたり弾幕打てたりする人って、限られているんですか?」
「…まぁはい、と言っても長年修行を積み、過酷な訓練に耐え抜いた者、自警団にも複数人は飛べたり弾幕を打てる人もいます、私も少し特別な事情があって飛べますし打てますよ、それが関係ある事で?」
「……そうなんですね、だからなんです」
「……?」
「私は特別な修行も何もしていない、ただの人です、だからもう飛んだりも出来ません」
「…何を言ってるんですか、貴方は取り憑かれたとはいえ狐の妖怪じゃ……」
「…?私は人ですよ?てっきりこの世界の普通の人間全員があんな感じなのかと思って、なら外の世界から来た私でも、尻尾の力を借りたらできるかな〜って思ってたんですけど……そうでもなさそうだし」
「……???…一体どういう、何を言って…」
「だからごめんなさい、どうにかして尻尾を隠す手段とかあります?」
真顔で固まってしまった阿求さんに話しかけるも、返事が全然帰ってこないので目の前で手をブンブンと振ってみたりする。
そして、人形の様に首を回してこちらを向いて小さく何かを呟いた。
「…………無干渉……なるほど…」
「ん?何か言いました?」
「いえ、そうですか…変化が出来ないのなら、そうですね、まずは香霖堂へ行きましょう、その後に寺子屋に行って慧音先生の力をお借りしに」
「分かりました…ご迷惑かけて申し訳ない…」
■
魔法の森をテキパキと葉っぱや枝を踏みながら突き進む、香霖堂は魔法の森入口近くにあるお陰で苦労せず辿り着けた。
と言ってと彼のお店には人はそうそう来ない、人里から人が外へ出る事は滅多に無いからだ。
ではどんなお客を相手に店を開いているのか、それは『人以外』に対してである。
香霖堂、その看板の前に立った。
「こーりんさん、失礼しますよ」
「おや、阿求さんいらっしゃい…珍しいね、君がここを訪ねるなんて」
「ええ、少しばかりお力をお借りしたくて、ユウさん来てください」
「は、はい」
店の扉を小柄な少女が通過する、が少女が扉を通ろうとすると後ろから大きなモノが付いてきていた。
「いらっしゃい……こりゃまた大きな尻尾のお客さんだね」
「姿隠しのマジックアイテムを探しに来ました、これで用件はお分かりで?」
「なるほど、了解、少し倉庫を漁ってくるからお茶でも飲んでゆっくりしてて」
急須、では無く電気ポットと呼ばれている湯沸かし器で、粉末茶をさっと溶かしお盆を使って渡してきてくれる。
そのまま裏の倉庫へと消えていった。
「……てぃふぁーる…??」
「霖之助さんは外の世界から流れ着いたものを修理して活用したり、幻想郷でのマジックツールを保管している方です、その尻尾を隠すアイテムがある事を祈っておきましょう」
「へ〜!凄い、まさか幻想郷で電気機器を見るなんて…そうだ!電力ってどうしてるんでしょう?」
「それもまた別の機材やマジックアイテムを利用しているらしいですよ、人里では禁じられていますが、ここでは別です」
「へーーー…スッゴイなぁ…」
こう見ていると、目の前の小柄な少女はただの小狐の妖怪にしか見えない。
…ただ、何か…何か違和感がある、確かにこれは無干渉を言い付ける訳だ、今私は先が見えない暗闇、深淵に手を伸ばそうとしていた。
だから、止めた。
大人しく一般的な対応をして止めにしておこう。
〜数分後。
「…ーーお待たせ」
「見つかりましたか?」
「あぁ、これでいいかい?」
「霖之助さん、それなんです?」
「これ?これはねぇ…」
何やら御札のようなものを私の尻尾に張って、ブツブツと何かを唱え始めると…。
「うおっ!?」
御札ごと、私の尻尾がこの世界から消えた。
「姿隠し、とまではいかないマジックアイテムだけどね、一部分だけなら背景に隠し覆いさせるモノさ」
そしたらまた虚空に向かって指をカリカリとすると、札が剥がれたのか尻尾が現れる。
「この札は、貼った本人には効果が無いからね…さて、代金なんだけど」
「ユウさんは中々のお金持ちですよ、霖之助さん」
「ははは、別に金額をふっかけようって訳じゃ無いさ……そうだね、お金ともう一つ、その尻尾を見せてくれないかい?そこまで大きな一尾は珍しいからね」
「だそうで、如何ですか?ユウさん」
「別に大丈夫ですけど……その、なんで片手にハサミを持って…」
ニコニコとしながら、霖之助さんがハサミをチョキチョキとしている。
「んーーー…後、ちょっとだけ毛を貰えたり出来るかな?」
「そうですよねぇーーー!!?」
なんで来る所来る所、私の尻尾の毛を貰いたがるんだよ!!もーーー!