殺す、殺されたから殺し返す。喰われたから喰い返す。
私が唯の人だとしても、獣を殺す事は出来る、それが人なら更に容易に。
生きる為に殺す、もう殺されたくない。喰われたくない。
ずっと頭の片隅に置いてあった憎悪が意識を塗りつぶしていく。
『辛い事や悲しい事があって、無理だーってなった時はお母さんを呼んでね、一緒に向き合い方を考えるから』
『頑張れ、ユウ』
『生き残る事だけを考えて、絶対に私が迎えに行く』
「待て、待て待て!ルーミアもそこのお客も何をそんなにいがみ合ってる、喧嘩する前に落ち着いて話せば…ーー」
「ふふっ…ごめんなさい慧音、お客さんは止まる気が無いみたいだわ」
「止まる
先程まで札で隠れていた尻尾が姿を現して、その毛を逆立たせ始めた。
「もうお前には喰われない、何度戻ったとしてもお前だけには…お前だけには!!……私が人として駆除してやる」
「ルーミア、私ルーミアって言う名前よ?お前お前じゃ分からないわ」
一歩一歩、両者の距離は縮んでいく。
「獣に名前は必要無いと思うが?」
「私は妖怪よ、獣さん」
…ーー手が届く距離になった。
「同じだ、お前は妖怪を自称してるだけの獣なんだから」
「奇遇ね、私の目の前にも人を自称してるだけの獣で、餌が居るわ」
言葉による応酬を経て、両者の敵意や殺意が目に見える程に膨れ上がる。
尻尾が金色に輝き始め、ルーミアからは暗闇が漏れ出し始め…。
景色が歪む様な迫力に慧音すら一時唾を飲み動けないでいた。
…が。
「なんだお前!ルーミアへの悪口は天才のあたいが許さないぞ!」
「……」
「それと喧嘩をするっていうのならあたいも混ぜろ!さいきょーのあたいが二人纏めてボコボコにしてあげる!」
「ちょ、ちょっと!チルノちゃんヤバいってば…!」
「「………」」
絶望的に空気の読めない、良く言えば清涼剤のチルノが二人の間に頭を突っ込んだ。
「へへーん、チビは弱いってそうばが決まってるって知ってるから、あたいより小さいお前なんかボコボコにしてやるぞー?」
「……はっ!コラコラチルノ、喧嘩は良くないぞ?それとルーミアとお客もだ、ここは寺子屋、そんな話をする場所じゃない……聞いているか?」
「「…………」」
「聞いているかと言ってるん…だッ!」
「イッッタァァァ!?」
「ぐわぁーー…」
ぶちかまされる頭突き、喧嘩の匂いを察知した慧音先生お得意の一撃が二人の額に叩き込まれた。
「おぉあぁぁぁ…かっっった、お母さんの拳ぐらい硬い…」
「けいねー…酷いのだ…」
「ふん!取り敢えず話し合いからだな、阿求も近くの椅子に腰掛けておいてくれ、生徒の尻は私が拭こう」
「……はぁ、ありがとうございます慧音先生…全く、話を聞きに来ただけなのに何故こんな事に…」
「うわ!ちょ、持ち上げないでーー!?担ぎあげ方が!あの!ま、丸太じゃないんだぞこっちは!」
「うー〜…」
■
数十分後。
「申し訳無かった…!!」
ドタドタと慧音が二人を連れて戻ってきて、阿求の目の前に座らせてからルーミアと一緒に謝っている。
※ちなみにチルノと大ちゃんは退出しました。
「いえ、かくいう私も2日前に彼女が屋敷に預けられる前の事情は知らなかったので…」
「…え?2日前?私そんなに阿求さん所にお邪魔してたの?」
「ユウさん、話の腰を折らないでください…!!」
「ゴメンナサイ…」
阿求が事情を聞いてみると、どうやら4、5日程度前に森でルーミアが拾い食いをしたらしく、それがユウだった様で…。
「だって、私の人生で見た事も無いくらいに美味しそうだったから…美味しかったし……」
「光栄ですね!!ファーストキスも奪いやがってこんちくしょう!!あ、あんな……こう、なんていうか苦しみの方が先に勝つディープな……キス初めてだよ馬鹿!!恥ずかし!!!」
「…よく生きていましたね、ユウさん」
「…済まないユウさん…どうか、どうかこの事は内密にお願いしたい」
そもそも寺子屋には人のみが学びに来る場所で、こうやって妖怪や妖精に勉学を教える様になったのも極々最近の事らしく……そんな時にこんな事例があっては、これからの活動の未来は閉ざされてしまう。
元より慧音先生は人と妖怪の溝を埋めたいと思い活動している第一人者でもある、だからこそ広く生徒を受け入れたのだが……。
「んーーーー…」
「んーーーーーーーーーーー……」
どうも、私です。
この現状、とても悩み所。ここで幾ら約束をしたとして、私がまた何かの不祥事で死んでしまえば全部パーになる。
許す許さないじゃなくて、どちらを選んでも意味が無い。その上で私はこのガキ…ルーミアが死ぬほど苦手だ。
嫌いじゃないのかって?
……だって、それが妖怪だって説明されたら仕方ないじゃん。それが妖怪であれば普通の事だったらしい。
妖怪が妖怪らしい事して責められるっておかしいし、しかも生理的な部分にまで踏み込んでる、それを否定してしまうのは私の考え方にも反してるからね。
どっちかと言えば、早くこの世界の普通を知れなかった私の方が悪い、それで喧嘩ふっかけて謝らせちゃってるし。
郷に入れば郷に従え、山でよく無茶をしたからこそ、お母さんに散々言われた事だ。
「許しましょう!」
「…な、いいのか!?」
「私これでもお母さんっ子なので!」
「えぇ…それが理由?ユウももう少し何か、こう…無いの?」
ちっちっち、阿求嬢ちゃんあめぇなぁ……私がタダで許すとでも?
「あります!!条件を言いましょう……それは…」
「「それは?」」
「ルーミア……ちゃんの身体の一部分を、食べさせて貰ったら許しましょ〜う」
「「………は?」」
「いいよー」
はい、という訳でクッキングタイムじゃオラ。
散々ボコボコにされてよぉ…喰われてちぎられて殺されて、覚えては無いだろうけどね、ワタクシ鬱憤溜まりまくっております!!!
まぁ謝礼をくれるなら有難く頂きたいので、ここは一つルーミアを食べてみたい。
「ちょちょちょ、ちょっと待った、ユウさん……それは真剣に言ってる事なのか?」
「…?そうですよ、妖怪にとっての普通だって聞いたんで……まぁ、納得してないし認めてないけど、尻尾生えちゃってるんで……」
「ユウ!貴方『自分は普通の人だから妖力は使えない』って言ってたのに!?妖怪である事を否定してて、それなのに食べるの!?」
「あ〜…その事だけど…」
よく良く考えてみて欲しい。
ずっと否定してきた事だけど、結局尻尾は私に生えてて、尻尾の力も何回か使わせて貰った。私は人でも、尻尾の力を使ってしまっていた、この世界ではきっと、それは阿求ちゃんから聞いた妖怪と人間のハーフに属するものだろう。
なら、私に使われている尻尾にも普通の妖怪として居させてあげるべきなのでは?
「という訳でして」
「「………」」
「そしたら何か飛べる様になってまして、妖力?も戻ってきたのかな」
「それで………食べると?」
「うん」
「…ル、ルーミアは、ルーミアは良いのか?」
「さっきも言ったけど…いいよー」
「「………」」
(…紫様、次来られた時は一発弾幕を打ち込ませて下さいね…!!)
■
「相変わらず訳分かんないわねぇ〜…」
画面に映る光景は、幻想郷であっても中々見られないもの。
「紫様〜!天ぷら上がりましたよー!」
「分かったわ〜すぐ行く……ってしまった、天ぷらかぁ…」
「まっ、取り敢えず『直前の知識』に引っ張られやすい事は分かったわね、というよりは……認識、かしら」
「紫様〜?」
「はーい…くちゅんっ!……誰か噂したかしら?」
ジュワワワ…と、熱された油が音を立てている。
箸を入れてみれば、空気の泡が箸から溢れ、纏わりつく程となった。高めの温度になった証だ。
食感を良くする為には衣は薄め、揚げ方入れた後放置、その後によく油をきる。
勿論衣の元は氷水で作ってある、今では携帯で調べれば天ぷらの美味しい揚げ方なんて幾らでも出てくるから、家庭でも試してみてね、後片付け死ぬほど辛いけど。
「下茹では無し…見た目悪いし、ねぇルーミア、コレって食べた事あるの?柔らかい?」
「んー〜…コリコリした…んーと軟骨みたいな感じー」
「なら油は高温で良かったか、入れちゃえ入れちゃえ〜」
「……最ッ悪の見た目してるわね」
パチバチと食材と衣の水分が跳ねる音が聞こえてくる、くぅ〜!この音は誰だって好きになるだろ!って感じ!
「さっと、さっとあげる……いやぁ…でも…」
「
という訳で、お上がりよ!!
【片耳天ぷら そばつゆを添えて〜】
「天つゆが無かったから、温めて水で伸ばしたもので代用しました」
「……これを直視しないといけない現実に腹が立ってきたわね」
「そんなに嫌なら阿求ちゃんも他の部屋で待ってたら良かったのに」
「どんな事でも『初めて見るもの』は、私にとって貴重なのよ…全く、とんだ珍事を縁起に追加しなきゃいけなさそうね…」
という訳で…食材に、感謝を込めて!
「いただきます!!」
サクッ…。
「どうかしら?」
「……ーー」
私、今まで色々口の中に入れてきた人生ではありますが…この初体験、流石にドキドキして待ち構えておりました。
人道的にも医学的にもタブーな人食い、まぁ相手が妖怪なので人型のものってだけだけど……。
「………案外コリコリしてる…んーと、軟骨って感じ」
「そーなのかー」
はい、言われた通りでした。やげん軟骨の天ぷら、それ以外の何物でもない。
ちなみに耳をちぎって渡してくれたルーミア、どうやら妖怪は身体の欠損も時間が経てば治る様です。
私もこんな感じで治ってたんかな〜?
「仲直りもして、これでユウとも友達なのかー?」
「んーーー!!まっ、仕方ないか、宜しくねルーミア」
「わはー!お互いの身体を食べた仲だし、友達よりもっと強い…親友って事ね!」
「宜しくね、ユウ♡」