「パスってなんだパスって!人と人のいざこざでも無いのに…!!」
「だから本当にごめんってば、仕方が無い事情ってモンがあるのよこっちにも」
「じゃあその事情とやらを教えてくれないと納得できんぞ!?…それに茶菓子食べるだけ食べてスタコラサッサとは、それでも霊夢か!?なんかおかしなものでも食べたのか!食べたんだな!!」
「け、慧音先生一旦落ち着いて……」
「まぁ今回に限っては諦めて、慧音」
「うがぁーーー!!!」
「……」
…こいつが博麗霊夢、幻想郷最強を自負する現実世界と幻想郷の橋渡し役……思ったよりも、普通?…いや、いい体躯をしてる、相当鍛えこんでる感じがするけど、筋トレって弾幕勝負関係あるのかな?
でも思ったよりも普通だ、クソデカ虹色ビームぶっぱなしたり、人の足とか手とか簡単にちぎれる化け物だったり、アリスの言う最強という単語には少し遠い感じが…ーー。
「……ーーッ!!!」
「……アンタ…はぁ、なるほど…確かに変な奴ね、勘が告げているのに身体は動いてくれない…」
「見てるこっちまでチグハグするわ、それじゃさっさと帰るから、お茶菓子ご馳走様、それじゃあね慧音」
「おい!本当に帰るのか!?」
「また他の案件があったら呼んで」
ピュ〜っと教室の窓から外に出て飛んでいってしまう。
紅白の巫女服を揺らし、お祓い棒をパタパタとはためかして。
「……」
心臓のバクバクが止まらん。
一瞬の一瞥、それだけで殺されたかと錯覚するほどの鋭意。
「……そりゃ…あれは、最強だわ」
今まで会ってきた人物は皆、異常である部分は行動や能力に出ていた。
火力馬鹿、人食い、人形使い、絶対記憶、自然の体現…だけど、気迫だけでこんな気分になるのは初めてだ。
絶対的な畏怖を抱かされた、草の根ネットワークみたいな妖怪達を幾億積み上げても届かなさそうな強者の背中、絶対者の目、裁定者の威厳。
「ねぇルーミア、ルーミアは霊夢に勝てる?」
「わは〜…ユウにしては変なことを聞くのだー………絶対無理」
「ルーちゃんの隠してそうな事全部解放しても?」
「…………難しい、かな」
「アレに勝てと!?アリス様!?!?ルーミアも本当に勝てる様にしてくれるの!?」
「うーーーん、多分?」
……あやば、なんか心折れそう。
「ルーミア゛ぁぁぁ…むりむりむり!だずげでよぉぉぉ……こわがっだぁ……!」
「おーよしよし」
あったかふわふわ…。
「泣きべそかいても勝てないけど」
「うるぜぇ!!ぶっ飛ばすぞ!!!」
マジ無理無理プリンの虚無虚無ぷりん、あんな殺意の暴風みたいな奴をどうやって帰してくださいなんて説得すんの!?
…しかもなんか、私の事見てパスって言ってたよね…?
「…ズビ……仕方ない事情か…」
取り敢えず魂が抜け落ちた顔をしている慧音先生を椅子に座らせて、帰る宣言だけしておく。
「け、慧音先生、あのですね…こうやって慰めてもらったり普段も特に悪いこと…されて無いんで、本当に大丈夫です、心配して下さってありがとうございました……それじゃ失礼しますね?」
「あ、あぁ…気をつけて帰れよ…」
「さよなら〜けいねー」
「ルーミアも、気をつけて帰りなさい…はしゃいで怪我しないように」
「はーい」
…先生だなぁ。
■
自宅への帰り道、ルーミアに霊夢の事について聞いてみた。
「霊夢〜?」
博麗の巫女、妖怪退治をする事は知っているけれど、それ以外の役回りを知らない。
「んーとね、『異変』を解決してるのだー」
「異変とな」
「人里単位じゃなくて、幻想郷自体を揺るがす様な事件を解決するのが役目だって、よく魔理沙と一緒に飛び回ってる」
「へぇ〜?魔理沙も一緒になんだ」
「この前なんか、人里に人にとっては毒の赤い霧を出してた元凶を退治しに、道に居た私ごとぶっ飛ばされちゃったし」
「随分適当にやられちゃってんのね…てかその霧って人里丸ごと?凄いね、とんだ大妖怪が居たもんだ」
ルーミアでも暗闇の展開は昼でも球状、夜だとしても人里の半分位らしいし、つまりその元凶はルーミアの約2倍の力を……。
「あはは、ちがうよー?人里単位じゃないって言ったじゃん、元凶が霧で包み込んだのは…」
「幻想郷全てよ」
……それが退治されたって、マジ???
「お先真っ暗だなぁ……」
「あら、暗闇は嫌い?」
「嫌いって言ったら『私の事も?』って聞いてくるのでノーコメントでーす」
「もう、狡いわ〜」
「…そうだ!明日ちょっと阿求ちゃんの所寄ってもいい?幻想郷全体って言葉聞いて、そういや人里と森以外知らないなって」
「うん、いいよー……あ、それとユウ」
「今、飛べる?」
「え?いや、ちょっち待たれよ……ふぎぎぎぎ…ぬぐぐぐぐ…!! …アレ?」
「うわー…ちょっと引き戻されちゃったか、霊夢めー…ユウ、手を出してー」
「うん?まぁいいけど、なんで…ーーっうぁ!?」
言われた通りに片手を差し出すと、その手をガシッと力強く掴まれる。
振りほどけ無い程強く握られた手首からはギシギシとなっちゃいけない音がして、思わず叫んでしまう。
「ルー…ミア…!?ちょっと、食べるには…ぐっ…早いんじゃ…」
「んむ…」
「ちょ!?」
震える指先を口の中に咥えられる。
「まだ外出て手洗ってないんだからペッ!しなさ……いてて!ごめんって!!」
「あばふぇらいで…きれいにかむのむひゅいから…」
「いっッ…!ぐぅっ……」
プチプチと指の断裂音が手を伝って振動として耳に伝わる、遂にはルーミアの歯が自分の指の骨にぶつかった音がして…。
ゴキンッ!!…と、比喩抜きで『取れた音』がした。
「ぅう゛っ…ふぅ゛っ、ふぅ゛ーー゛」
「あむ……ん、ご馳走様」
「な、なんでぇ…」
指を千切られた小さな手を、ルーミアの手が多い隠す。
「ふふ…大丈夫、イメージして?大丈夫だから、私でも、誰でも妖怪ならこれくらいゆっくり息を整えて…落ち着けば元に戻るから」
「ほんとぉ…?だいじょうぶ?」
「うん、大丈夫」
「ん…」
さっきとは打って変わって優しく包み込んでくれるルーミアの手に意識が集中され、次第に手の痛みも引いていく。
涙を飲んで、垂れる唾液を掬い、動悸が止まらない心臓を一旦落ち着けた。
「……ほ…んと、だ」
ゆっくりと、ルーミアの手が解かれると…ちぎれたと思っていた指は元に戻っていた。
「言ったでしょう?大丈夫だって……ほら、家に帰ってお風呂入ろっか、血で汚れちゃったし」
「…うん」
「ふふ…よし、可愛くなった…手を出して?」
さっきと同じ言葉、それに怯え、震えながら差し出した。
すると今度は力強く掴まれるのではなく、優しく母親のように暖かく手を繋いでくれる。
それに身を任せて、フラフラとした足取りで帰路についていって…。
そのまま、今日は大人しく瞳を閉じてしまいました。