バタバタと館から飛び出して、古い紙の匂いを纏わせた紫の少女が息を切らせて庭の草に倒れ込んでいる。
「…はぁっ……はぁっ…レ、レミィ…」
「パチェ」
「ふぅっ、どうして…行かせたの…危険性なら、説明…ーーゲホッ!!」
「焦り過ぎよ、転移すら忘れて走ってきたの?」
「それほどに、はぁっ…慌てさせる貴方に責任が、あるんじゃ、ゲホッゲホッ……」
手を伸ばし、優しく持ち上げてテラスの椅子へと座らせる。
「ふぅ……咲夜は?」
「あの後直ぐに尾行させているわ、あの狐も遊んだら直ぐ返して帰ると言ったから、それまではね」
「…それでもよ………全く、ウチのお嬢様は…」
「さて……パチェ、『何の変哲もない』が問題ってどういう事?」
「…そうだった、説明する前に事態が進んじゃってたわね……はぁ…」
魔術書を取り出し、空間に解析結果と図式を表示して語り出す。
「単純な事よ、美鈴からの説明と彼女…カネイロ・ユウからの話だと、あの尻尾と称しているものは呪いの塊、人間を妖へと魂から変化させる特大級の呪術」
「魂の変質は魔法分野に置いてもリスクも難易度も高い、それ故にそういったものは【呪い】や【禁術】として扱われる」
「外界の世界にまだそんな呪いを行える者が残っていたと?」
「そうじゃないわ、問題はそこじゃない……彼女、飛んでたり変化の術を使っていたわよね?…まっ、髪色の変化は置いといて」
「ええ」
「レミィも私も、彼女から妖力を感じていたからこそ騙されていた……妖力によって術を行使していると、思い込んでいたけれど……この尻尾の毛、切っても切っても元に戻ったのよね?」
『うぅ……なんで二度あることは三度あるがこんな現実に……シクシク…ふわふわが……』
思い浮かべるのは、枕を作成していた彼女の姿。
「……もし、彼女に本当に呪いが掛かっているとするのならば、何度も何度も元に戻る半妖としての証の尻尾、つまりはあの尻尾は妖力と呪いによって生成される半妖としてのシンボルなのよ、それを起点として魂を妖怪へと変質させる悪質な呪い」
世界とは、見る目によってあらゆるものが変化していく。シミュラクラ現象にも繋がりを持ち、外見というものはそれ程に大切なのだ。
存在証明の証、妖怪であるレミィなら翼や牙、血を吸うという行動、魔法使いの霧雨魔理沙なら箒等、シンボルというものはその存在の印象を大きく操作する。
「ここまで、はぁ…丁寧に解説すれば分かるかしら?渡されたあの毛が、染色体から構成物質含め、あらゆる点で『ただの動物の毛』でしかない事の危険性」
ずっと言葉にしている『危険』の二文字、それは未知に対する恐れ故のものであることを、理解はしている。
だからすぐに思い至った。
「……妖怪的要素の欠損、かしら」
「正解、妖力の痕跡、呪術の痕跡、妖怪の身体の一部であれば備わっているものが無かった、本当にあの尻尾は…『ただの狐の尻尾』なのよ」
「つまり、彼女は嘘をついていた」
「……」
「戻ってきた彼女は髪色が変化し、妖力も消え去り、それでいて霊力の反応すらなく飛んでいた……分かる?私達は巧妙な詐欺にかけられたのよ、目的も過程も不明、分かったのは
「対してカネイロ・ユウが得たものは、この一瞬の時間で手に入れてしまったものは……フランの信頼とその身柄」
「………………」
「……ふぅ……これで、はぁ…行かせるなって私の忠告の意味も分かったかしら?レミィ」
「……まぁね」
「…でも、それでもあの時の貴方なら行かせてしまう理由もそれなりに理解出来るわ」
「……」
「フランの笑顔、でしょ?」
その言葉を耳にしても、取っている表情は何一つ変わらず、紅茶を飲んでいる。
「楽しそうに笑って、楽しそうに遊んで、それで心を鬼にして危険人物から遠ざけようとすれば、その本人がフランに対して悪意無く心からの行動を起こし……」
「それにフランも応えた」
「……」
「私も鬼じゃない、これ以上は何も言わないわ」
「……語り過ぎよ、引きこもり」
「ごめんってば」
「ふーんだ…」
■
どうも、私です。
「走れー走れーマキバオー〜…どんなにほにゃららなんちゃらら〜…」
「お姉さん、本当に飛ぶの早いのね!」
「そりゃフランちゃんみたいな子が尻尾に乗ってくれてるなら、ジェット機でも何にでもなっちゃうよー?」
ゲハハハ!めちゃくちゃ空飛ぶの楽しい!!今私の心は空を手にしたのだッ!!
「さてと、フランちゃん…何して遊ぶ?まだまだ日は長いけど…」
「…うーん……私、あれ以外の遊び方、知らない…」
「…アレって……あ、あのきゅっとして〜の奴?」
「うん」
マジか、どれだけ一人遊びしかやってなかったんだ……。
「それじゃ、初体験の事ばっかり?」
「うん!館の外に出たのも初めてなのよ?」
「…そっ……か、じゃあ、お客さん、私のおすすめ旅行は如何?」
「それにするー!」
「了解!」
人里には姿隠さないと入れないし、まずは魔法の森だな……チルノちゃん達仲良くしてくれるといいけど…。
「今なら何でも出来そうだしな〜」
ルーミアから色々変なことされて変わった髪色が元に戻ったから気分が楽だ〜…………。
……。
叱られそ……まぁいっか。
「おーーいチルノーー!!」
「………ーー」
空からちっちゃい青と翠が見える、チルノと大ちゃんだ。
「掴まっててー」
「は〜い」
■
「ルーミア〜…今日はユウと一緒じゃないのか?」
「そーなのだ…」
「何かあったんです?」
「何も無かったのだ…何も無かったけど、唐突に飛び出して行って……枕は私のじゃ無かったし、気分落ちてる…」
「だからそんなジメジメした木の穴の中で丸まってるんですね…」
『チルノーーー!』
「……!」
「今の声って、ユウだよな?……何処に居るんだ?アイツ…」
眩しい朝日を手で遮って辺りを見渡してみるが、声の在り処は掴めない。
だが微かに強く風がキレる音が……。
「どりゃあああああ!!!」
「「うわぁぁ!?」」
地面が陥没する勢いで、二人の前に着陸するユウ、その姿を見て丸まっていたルーミアも飛び出して声をかける。
「ユウ!!…………それ、誰?」
「あ、ルーミアも居たんだ…紹介しまーす!お城から連れ去ってきたお嬢様、フランちゃんッです!!」
「あ、えと…こんにちは?」
「……ふーーーーん…?」
「ちょーっと長い間閉じ込められちゃってて……遊びに出るのが初めてのヴァンパイアなので、チルノ、大ちゃん…ルーミアも『お願い』出来る?」
私の信頼する友達に任せれば、全部解決ってね!遊び方が分からない子は、巻き込まれてでも遊んでくれる子が必要だ。
「新しい遊び相手ってことか!任せろー!」
「連れ去っ…ーー深く考えない深く考えない…」
「ふ、ふふ…ユウ?少し、変わった?」
オゲホッゲホッ!!聞こえなーーい聞こえない!!!!
「よし!ならめいよたいいん、第一号として!!太陽の花畑へ探検しに行くぞ!ついてこーい!」
「えあちょ、チルノ!?太陽の花畑つった!?ちょ、待てぇぇえ!!それと!!フランちゃんは昼の間日傘を差してあげないと駄目だから、私も付いてくけどね!!おい待てっつってんだろチルノーー!!」
「キャーー!はやーーい!!」
「チルノちゃん待ってよーー!?」
「ふふ、あはは…あははは!!」
「………どうしてやろうかな〜?」
■
どうも、私です。
「お、重てぇ…流石に…」
「遅いぞー!ジュースだせー!」
「コイツ……」
「ご、ごめんなさいユウさん」
尻尾に…!ふぅっ……三人乗せて!ぉあああ!移動中です!!!
「フラン〜本当に遊び方っていうのが分からないのかー?」
「うん…楽しい事は分かるけど、楽しくなり方が分かんない…」
「…とっても大変な人生を送ってきたんですね……そうだ!チルノちゃん、あの遊びとかどうですか?氷の彫刻の……」
「アレか!よーし、それなら一緒にかき氷も作ってやろう!」
「チルノ……私の…分も……作ってね…」
ちなみにルーミアは着いてきてません、機嫌損ねちゃったかなぁ……。
「そりゃ!」
チルノが尻尾のテーブルの上に手をかざせば、美しい氷の結晶が現れて、その状態から一点に纏まり真四角に形を成す。
チルノの力が漏れでる影響か、パラソルの中に冷たい霧が蔓延して夏空の明かりの反射でキラキラと虹色に光っている。
「綺麗…」
「……それ、日差し反射してるんじゃ…」
「これ位なら私に怪我すら負わせられないから大丈夫よ……それと、私にはユウとも遊びたいな!」
「よし…それじゃ一旦降ろすね…足元気をつけて…」
よいしょっとぉ!!……ふぅ、太陽の花畑まで後二分程度か…。
私はチルノがしようとしている遊びに参加出来ないから、傍でかき氷食っとくか…。
「フランちゃん、チルノちゃんから離れててね、巻き込まれると凍っちゃうから…」
「チルノちゃんは何してるの?」
「あれは、弾幕の的を作ってるんだ……フランちゃんは弾幕を打てる?」
「…?うん、当たり前だよ?」
「……メソメソ」
打てない人がいてごめんなさいね!ちなみにこれ、よく傍で見てるんだけど、チルノちゃんが作った氷の彫刻の部位を決めて的当てをするゲームだ、つまりは私は出来ません!
一番点数の高かった人にのみ、砕けた彫刻の氷で作ったかき氷にシロップが与えられます!(私作)
「よし!出来た!今回のモデルはユウだぞ!」
「なんでだよ…ピキピキ…!」
なんで作られてんのがギャルピしてる私なんだよ…!マジでいつかチルノのほっぺたに熱いおでんとか押し付けてやるからな……!!!
「アレを壊せばいいの?」
「うん!よし、まずは…そうだな、フランから…手を壊してみろ!」
チルノが腰に手を当てて指さすのは、丁度ギャルピをしている私の手首だ。
「手…手だけ?手だけか……」
「フラン、大丈夫?なんかトラウマとかあったりしない?」
「うん、大丈夫だよ…よーし!」
「きゅっとして〜……ーードカーン!」
フランが手を開き、思いっきり握ると氷の彫刻の手首だけが吹き飛ばされる。
…出たソレ、何がどうなってんのか分からん奴。きゅっとしてドカーンか、凄いな…本当に手だけだ、一寸の狂いも無い…!
「…ーーっ」
「………」
「あ、あれ?二人とも…?何か間違っちゃったかな…」
「……す」
「すっっっごーーい!!どうやってやってるんだソレ!!?あたいにも教えろーー!」
「フランちゃん凄いね!あんなの初めて見た…」
「そ、そう?えへへ…」
「もう一回見せてよ!次は〜…足ー!」
「うん!きゅっとして〜……」
…ふふ、そうそうこういうのこういうの、求めてた奴よコレが…純粋無垢な二人にフランちゃんを褒めまくらせれば、自然と笑顔になってくれると信じてた。
次々壊されてく私の彫刻(自尊心)は置いといて、この光景をツマミにかき氷食っとくか…。
「シロップ作っとこ……フランお嬢様ー味何がいいー?どうせ優勝しちゃうだろうし〜…」
「キャハハハ!ドカーンドカーン!あははは!」
「………ま、後ででいっか…」
サヨナラ……氷の私(自尊心)…。
「よーし!負けてられないな!喰らえーー!!」
「あんまりはしゃぎ過ぎて頭に熱登らせちゃだめだよー……かき氷美味し、イチゴシロップ最高だな…」
「大丈夫だって!このままじゃだいいちたいいんに負けちゃうもん!えっと、きゅーーっとして、ぼかーーん!」
おお、デカいデカい、チルノってあんな氷のミサイルみたいなの撃てたんだな。真似してるのも可愛いし…。
「あ、チルノちゃん、その方向」
「んー?」
「……あ!!」
ん?
■
太陽の花畑 周辺
「あら、こんにちは…小さな妖怪達さん?」
日傘を突き立て、土下座をしているユウを睨んでいる緑髪の成人女性。
「……あ、あのあ、そそのの…あの…」
「貴方が、一番前に出るって事は、貴方がッ、責任者かしらッ?」
日傘をゆっくりと近づけて、その先が光だす。
「ははは、ははい…ご、ごめ、ごめんなさい……」
「チッ…良かったわね?運良く花達を傷つけずに、溶けて水になった氷の礫で…ね?良かったわね??」
「い、い以後、気をつけますすす……」
ど、どうも……私、私です…。
「今後一切太陽の花畑に立ち入らない事、それで許してあげるわ、幸運な
「はい!!あの!責任者として守らせるので!!有難く温情を頂かせて貰います!!」
私が一番怖いと思っている奴は誰かと聞かれれば、この人を答えるであろう。
霊夢でも、レミリアさんでも咲夜さんでも無く、この人…幽香さんだ…。
花を愛す『大妖怪』つまりは
……軽くね、あれで軽かったら何が軽くなるのか……ゲホッゲホッ…。
「チルノも頭下げて!!」
「ごめんなさい…」
「……まだ、隠してるわね?その尻尾に、二人」
「えと、この二人は関係無いんです!だからお怒りは私だけが…!」
「出しなさい」
「はいぃ!!」
逆らえないよ……だって『殺す』って顔に出てるもん…。
「ぷはっ…ユウ、もういいの?………って、貴方はだぁれ?新しいお友達?遊び相手?」
「あ、あわわ…フランちゃん駄目です!この人は…!」
「……吸血鬼、いや…もっと根源に近い純血……? …なるほど、鬱陶しい羽虫が覗いていると思ったわ、貴方の付き人ね?」
「付き人……咲夜の事?」
「咲夜、なるほど…この前の
「あの!フランちゃんは本当に関係無い人なんで…ーー」
バチュンッ!!
「黙ってなさい」
「はぃぃ…」
危な!今頬に日傘掠ったんだが!?てか日傘振り回してビームみたいな音だすなよコイツ!
「フランとか言ったわね………貴方…その目………ふーん?」
「私の目?綺麗でしょ、お姉様にも褒められるんだ〜」
「……そうね、綺麗な目をしているわ」
ゆっくりと幽香がフランの瞳に手を伸ばす。
「……っ!」
ヤバイか?止めなきゃ不味いんじゃ…!?
「……」
そしてその手を伸ばしていき……ーー。
……フランの頭を撫でた。
(へ!?)
「……貴方、花は好きかしら」
「お花……分かんない、今まで絵本とお庭でしか見た事がないから…」
「興味はあるのね?」
「うん!絵本だと、おっきくてとっても綺麗な…ひまわり?っていうお花もあって、綺麗だな〜って!」
「…ふふ、いいセンスしてるわね……ユウ、説明」
「はいっ!えっとフランちゃんは…ーー」
ええいどうにでもなれ!!なんで急にデレてるのか分かんないけど、今がチャンスだ!取り敢えず同情を誘う様に、それでいて慰めたくなるように…!!
あーたらこうたら、もけもけペケペケ!めっちゃ大変な思いしてたんです!!
「……495年…そう、なるほど…」
「貴方、本当に良い目をしている…無意識下で花の本質を捉えている」
「うん?うん!お花はね、『目』が色とりどりで綺麗だなって!だからお庭のものも壊さずに育ててるの」
「……ふふふ、いいわ、フラン…来なさい、向日葵を見せてあげる」
「え!いいの?」
「勿論、貴方の様な私好みの強者、そして花を愛する心があるのなら歓迎するわ」
「やったー!」
…えええ!?!?訳分かんね!なんなんだよ全く、殺意ガンギマリで怒ってるかと思ったら急にコレって…いや、丁度いいのか?フランお嬢様に初体験を贈るって意味でも……。
「ならユウも一緒にでいい?」
「……コイツも?」
「え?」
「うん!ユウはね、私のお気に入りだから…ユウが行けないなら、私もあんまり行きたくないかも…」
…正直に言っちゃってまぁ……嬉しい事この上無いんだけど、コイツ相手に自分の意見を述べちゃったら…ガクブル…。
「……はぁ、全く……コイツがお気に入り、ねぇ……理解出来ないけど、まぁいいわ、フランの日傘として役目を果たしなさい」
「マジ!?あ、しまった……ご、御一緒させて頂きます!!」
「…チッ…」
すーーんごい嫌そうな顔〜……コイツに好かれてるフランちゃんって、どうなってんの…?
「虫は早く何処かへ行きなさい、うろちょろしてる人間もね」
「虫!?今あたいのこと虫って言ったか!?」
「チルノちゃん!!帰るよ!!!ユウさんごめんなさいお先失礼します!!」
あ、あぁぁぁ…行かないでおくれ希望の二人よ…。
「……二度目は無いわ、立ち去りなさい、人間」
「……」
「そう、そんなに死に急ぎたいのね、なら今すぐ殺してあげる」
「うぇへぇ!?さ、咲夜さん逃げ…ーー」
幽香が日傘を持っていない方の手を森の方面へとかざして、一呼吸置く間もなく…。
「死ね」
ーーあの日見た以来の極光が視界を埋め尽くす。