紅魔館 野外テラス
紅魔館の主は美しい蝙蝠の羽を羽ばたかせながら、対面に気まずそうに座っているもふもふを睨んでいる。
そして紅茶を一啜り。
「………」
「そ、その……レミリアさん…」
「……」
「本当に申し訳ないとは思っているんですが、でもあれは不可抗力で…」
「不可抗力、ね」
「ひッ…ごめ、ごめんなさい!!」
「吸血鬼にとって、自分自身の手で行う初めての吸血行為は成人への一歩と呼ばれる程大切な儀式なのだけれど?」
「ほんっっっっとうに…申し訳ございません……」
「ね〜お姉様〜!私がやっちゃった事なんだからもう良いじゃん!それに、そんな事私知らなかったし、知らない原因はお姉様にあるでしょ?ずっと閉じ込めて、なーんにも教えてくれなかったんだから」
「…………」
「フランちゃん……それは…」
「だからユウを責めるのは間違ってるって分かってるよね?…ねぇ、お姉様」
「………」
「ほら!またすぐに黙っちゃうし…!もうお姉様なんか知らない!嫌い!」
そのままパタパタと羽をはためかせて、ユウの尻尾の中へとすっぽりと入ってしまう。
「待ちなさい、フラン」
「一つ言っておく事があるわ」
「……言っておくこと…?」
「貴方の外出を、これからも認めるわ、館内だけじゃなくてこの広い
「…え!良いの!?」
「その代わり、そのお友達とはお別れして貰うわ…」
「永遠にね」
「ほへ?」
ーー瞬間、咲夜がナイフをユウの首筋へと突き立てる。
「うわぁ!?咲夜さん生きてたんですか!?良かった……」
「……」
「咲夜、殺しなさ…ーー」
突き立てられ、今すぐにでも首の血管を断てる様に添えられたナイフが動き出す。
だが…。
「……は?…はぁ、ソレ、理解して言ってるの?お姉様?」
ナイフが爆裂し、粉々を超えてこの世から消滅した。
それに対応してすぐ様二本目のナイフを取り出し、咲夜が時を止めようとするも、それも…。
「っ!」
「咲夜のタネは分かってる、空間の『目』を固く結べば時は止められない」
「フラン」
「…ーーキャハッ!!全部壊れちゃえッッ!!」
姿を見せず、ユウの尻尾から手だけを伸ばして、思いっきり掌を握り込もうとする。
赤い目を狂気に染め、その力によって殺戮は一瞬で完遂できる彼女にとって、全ては薄氷の上のものだ。
「全く…」
「……この手を離してよ、お・ね・え・さ・まッ!!」
だが、あくまでも彼女にとって無意識下で設定してある発動条件は掌を握る事。レミリアが寸前でそれを止め続ければ発動は出来ない。
爪を凶器の形へと変化させ、もう片方の手でレミリアの瞳を狙うが……唐突にその間にもう1つの手が挟み込まれた。
滑らかに、なんの抵抗も無くフランの爪は柔肌を貫通して突き刺さる。
「いったぁぁ!!?」
「わ!ちょ!?ユウ!何してるの!?」
「……こっちは殺す手を止める気は無いけれどね、死になさい妖」
レミリアの噛み付きがユウの首目掛けて振り下ろされ、それもなんの抵抗も無く受け入れ、生命の維持線を断ち切った。
完璧に食いちぎられた首筋から噴水の様な血を吹き出して止まらない。
「…ッペ」
「ちょ゛…食うなら゛はぎだざないでよ……」
「…!」
「いっだだだ……あ〜゛グゾッ……変化変化っと」
……どうも、私です。
キレそう、人の尻尾と人の間でわちゃわちゃイチャイチャしてさぁ……。
こっちに変化の術なかったら死んどるんやぞ!?今死んだら何の進展も無くまたルーミアにパクパクされるあの時まで……はぁ…。
「ちょっと二人共落ち着いて下さい!フランちゃんも物騒な事しない!レミリアさんもせめてパチュリーさんの報告聞かせてから殺してくれません!?……全くも〜……」
「だーれーが、今フランちゃんの日傘になってると思ってます?そんなホイホイ軽々決定して、話もせずにやっちゃったらフランお嬢様が怪我しちゃいますよ!?火傷で済むのかどうか知らないけど…」
「……貴方…」
「わ〜!!ユウ凄い!」
「フランちゃん…喧嘩する時は言ってよ……目的が私とはいえ、フランちゃんが暴力振るう必要なんて無いんだからさ…」
「うん!」
なーんか分かってきたぞ?この姉、レミリアさんってもしかして…めちゃくちゃ頭硬いな??
フランちゃんの……性格?根源?的なものが、絶妙〜にヤバそうなのは察知出来てる。大妖怪の妹で、謎の力で物を遠隔破壊できて、495年の間に溜め込んだ不満が爆発してる思春期の女の子。
それに対する教育と不満解消の仕方が下手ッ!!余りにも!頑固!!!
……フランちゃんの根の良さ、超過保護な対応に、フランちゃんが楽しそうにしている事への対応はダダ甘。
つまりはアルティメットシスコンだ。
そうじゃなきゃ外出のあの言葉は出てこない、そんな性格を隠してこんな事をしている。
「つまりは〜…」
整理の時間だ、この事態を私の得がある様に収めるには〜……。
「よし、一旦話し合いましょう、レミリアさん」
「……」
「あと、咲夜さんの事落ち着かせてくれませんか……?怖すぎて漏らしちゃいそうです…」
後ろでめっっっちゃ荒い息が聞こえる、振り向けない。死ぬ無理。ホラゲーの数億倍怖い。
「…はぁぁぁ………分かったわ、下がりなさい咲夜」
「ですがッッッ!!!!」
「私の言う事が聞けないの?」
「…っ!申し訳ありません!」
お、おっそろしい気配が漸く消えた……よし、これで遂に話し合いが出来る。
研究で分かった事、洗いざらい話してもらうぞ〜!
■
「え?ただの毛?」
「ええ、ただの毛よ」
「毛」
「そう、毛ね」
「……解呪方法は?」
「分からないわ」
終わったぁぁぁぁぁーー!!!!
終わりでーす!解散解散!!なんだこのクソゲーーー!!
最早第一目標になってた呪い解除が、レミリアさん曰く世界最高峰の魔法使いを以てして分からなくて、分かった事が……。
ただの毛って、毛ってなんだよバカヤローー!!!
「……シナシナ…」
「もー元気出してよ〜…呪いなんてほっといてさ〜」
「いや……そのね…なんか…」
本当はね?交渉で上手くやりくりして……『フランちゃんから離れるんで!研究だけ続けてくれませんか!』とか、フランちゃんとレミリアさん、私で納得のできる折り合いを付けようと思ってたんよ?
はい、既に私の『得』の部分無くなっております、クソがッ!!
「…結局、フランちゃんは私とずっと一緒に遊びたくて…」
「うんうん!」
「レミリアさんは部外者の私にフランの自由を預ける事を危惧していると……優しいですね、本当に…」
「……余り、口に出さないでくれるかしら?」
「ごめんなさい…」
否定はしないと、確定だね…愛の行き違いって奴だ…。
「どうしよっかなぁ〜…」
私の事はもうどうでもいいや、せめてフランちゃんの納得する着地点見つけてあげなきゃ…。
「…………」
「…んー」
「んーーーーーー」
「………!!!!!!!!」
我、天命の閃き得たり。
「レミリアさん!私の事…」
「雇いません?」
「は?」
皆、私の現状を思い出せ。家あり金あり仕事無しだ、依頼主様のスネかじって生きてる途中って訳。
…美鈴さんは言ってた、幻想郷と外の世界にはある程度の時間のズレはあると、つまり2~3年程度使って幻想郷を探索し尽くして呪いの解除法を探す場合も、もしかしたらある。
その場合……仕事が無かったら詰む、ウダウダ悩んでるならここで仕事貰っちゃおうぜ!
「レミリアさんは、結局の所私に対しての信用が無い、なら信用出来るまで……そうだなぁ、フランちゃんの家庭教師でも頼んでみません?」
「見た目じゃ想像出来ないかもしれませんが、一応これでも高校2年生…あ、1年生なもので、基礎的な国英数とか道徳だとか、あ!家事育児お任せあれですよ?」
「……」
まぁ着地点はこんな所かな、陳腐でありふれてるっちゃありふれてるけど、また殺し合いになるよりはマシだ。
こういう所でも小説読んでるのが活きてるんですね!!発想力が違うよ発想力が、火事場の馬鹿知恵も悪いもんじゃない。
「…あ〜もし〜家庭教師になったら〜〜フランちゃんの自由な外出に教育の一環として付き添えるんだけどなーー」
「!!」
「ねぇお姉様!私からもお願い!」
「……っ」
効いてるな、ヨシ!
「…ダメ…よ…ダメ、その提案は受けれない」
「何で!?お願いだってばお姉様!」
「……そこまで頑なに拒絶する理由はあるんですか?」
「……」
「…私でも悩み、苦悩、苦痛が見て取れますよ…レミリアさん」
「……はぁ…」
「……拒絶する理由、ね」
紅茶をまた一啜り、レミリアがティーカップに手をつける速度は上がりっぱなしだ。
沈黙が続いて1分、見かねてユウが口を開く前にテラスに新しい草を踏みしめる足音が響く。
「《そこから先は、私が話しましょう……カネイロ・ユウ》」
「貴方は……?」
「私はパチュリー・ノーレッジ、紅魔館の専属顧問だと考えて貰っていいわ」
「…!つまりは雇用先の社長さん…!」
「ま、まぁその解釈でもいいけれど」