起きたら尻尾が生えていた   作:カピバラバラ

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起きたらまた森の中にいた

「…ぅ……ぁ…?」

 

頭が痛い。

 

 

「…っ!!」

 

 

何が、いや、何かあった。あの眩しい光は…。

 

 

「ねぇ」

 

 

「ねぇねぇ」

 

 

「貴方、食べてもいい人類?」

 

 

暑い密林、ムシムシここどこ。目が覚めたあの時と同じ声が聞こえた。

 

 

金髪の黒い洋服の子供、それが仰向けに寝ていた私の顔を覗いている。

 

 

「……ぁ…あの!帰り道を知りませんか!?」

 

 

僥倖が過ぎる、何があったかは思い出しずらいけどこの森はもう勘弁だ。

頂かれ系女子だろうがなんだろうが、一旦森の中から出なきゃ…!

 

 

「帰り道〜?」

 

 

「はい!目が覚めたらこんな所に居て…!前に会った時もそうだってんです、それで!人のいる場所を知りたくて!」

 

 

「前?…うーん、貴方、食べたらダメな人類?」

 

 

「食べたらって…別に本当に食べれる訳無いから別に良いっちゃいいですけど、その、スケベな方向でお持ち帰りするならダメですごめんなさい、でもその、人の居る場所ーー」

 

 

ガブッ。

 

 

ガブッ?

 

 

「……??」

 

 

「貴方、頭が良いのね!お持ち帰り、そう!お持ち帰りすれば良かったのか〜!」

 

 

手、私の手が目の前に?なんで?

 

 

「あ、手…繋がって、あれ」

 

 

「お腹いっぱいな時に、貴方みたいな美味しそうな人を見つけてどうしようかな〜って思ってたけど、そうね()()()()()しましょう!」

 

 

可愛い顔を血に染めて、光がはね返る様な綺麗な金髪は赤黒く染まり、真っ赤に染まった口を大きく開き私の手を持ってニタァと笑っていた。

 

 

なんで私の手が、私から離れてるのかも分からないし、右腕が熱過ぎて何もかも分からなくなる。

 

 

「う、ぁ…うぁぁぁ…!!?手…が…ぁぁ!」

 

 

「早く〆ちゃお〜」

 

 

ヒュン、と風きり音が聞こえて。

 

 

私はまた意識を失ってしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

頭の中が血で染まる。

 

 

鼻腔に鉄の匂い、視界に赤色、死ぬ程の痛み。それら全てが夢うつつの様でいて、現実だった。

 

 

「ねぇ」

 

 

「ねぇねぇ」

 

 

「貴方、食べてもいい人類?」

 

 

「ひっ…」

 

 

「……ォエッ…ぎっ…ぁ…」

 

 

「返事が無いって事は食べてもいい人類って事?美味しそうな人を見つけてどうしようかと思ってたけど、どうしよっかな〜」

 

 

「ぅ…逃げ、逃げないと…」

 

 

「あ〜!ダメ!」

 

 

バツンッ!!

 

 

そんな断裂音と共に、今度は足の感覚が無くなる。

 

 

「うぐがぁっ…うぎ…がッ…」

 

 

「そうだ!最近教えてもらった干し肉、干し肉にしよ〜!みすちーに頼んだら上手くしてくれるかなぁ?」

 

 

「えっと、大切なのは血抜きって言ってたし…首、落として持っていこっと」

 

 

またあの風きり音だ、あの風きり音が聞こえて、視界が反転して…?

 

 

私の身体を、視界に捉えた。私自身が。

 

 

首を失った死体を、夢うつつの様に眺めながら…そうしてまた、私は意識を失ってしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ねぇ」

 

 

「ねぇねぇ」

 

 

「「「貴方、食べてもいい人類?」」」

 

 

 

 

 

 

「お……いしく、無いよ…惰性のりのりで、お腹壊しちゃう」

 

 

 

 

最初と同じ言葉を吐けたのは、何度目の事だっただろう。

 

 

 

「そーなのかー…それじゃあバイバイ」

 

 

「……バイバイ」

 

 

少女が黒い塊になって飛んで行った後、自分の声かも分からない音が喉から出てくる。

 

 

「…ふう゛っ……ふう゛ッ…ぁあ゛……はぁ…」

 

 

否定をして、食べられて、拒絶して、殺されて、逃げて、喰われて。

 

 

何度も何度も頭の中から血が消えないままに蹂躙された。

 

 

「……美味しく、ないよ……か…」

 

 

正解が無いまま問題を提示され続けて、訳が分からずともなんとか辿り着いたこの答え。

 

 

首のとれた私を見たし、脚が無くなって噴水の様に血を流した私を見た、腕を取られた眼を取られた舌も耳も取られて、挙句の果てに連れ去られて丸干にされた。

 

 

「ぉえぇぇぇえええぇっっっ…」

 

 

緊張が解けて、胃が震えだし中身を全て吐き戻す。

 

 

「……はぁっ…ふぅ…ぁぁああああ!!!」

 

 

「頑張った!!私頑張ったよお母さん!!だから早く迎えに来てよォォッ!!」

 

 

高校2年生とは思えないセリフだけど、それがこの時に出た心の底からの本音だったと思う。

 

 

「ぅぅううう……」

 

 

そのまま吐瀉物と共に寝てしまった事だけが、本当に失敗したと後々思ったけれど。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……臭」

 

 

おはようございます、ゲロまみれの私です。

 

 

「湖でもさがさないと……」

 

 

疲れました、本当に。何がなんだか分からないままボコボコにされるってマジで酷い、説明ぐらいだれかしてくれ。頭が痛いしおかしくなりそう。

 

 

それとこのままじゃお母さんの姿でゲロ臭い変質者になるので、程よい水場でもあれば良いんだけど……探し回ってもここら辺には無いのは分かってる。

 

 

「どうしよ」

 

 

「…それより、まず整理しないと、か」

 

 

全ては尻尾が生えてから始まった。クソデカい尻尾が生えて、病院に行って異常無しと言われたから、今度は獣医の元に向かおうとして……。

 

 

「それで、私の姿がお母さんに変わってから気を失った」

 

 

聞こえてきた単語は幻想郷、気付けばこの森に。推定幻想郷っていう森として……。

 

 

「うっぷ…」

 

 

彼女の顔がフラッシュバックする、化け物?怪物?食人族?分からないけれど、無い胃液を吐き出そうとしてえずいてから考える。

 

 

考える事を辞めてはいけない、その瞬間に死がやって来るから。

 

 

「……身体は、人の……形をしてた、喋って、動いて、思考をしていた」

 

 

「人という生き物と違う点は……見た目には、無かったけど」

 

 

私を襲った事、それは大切じゃない。人には人の文化があって、場所にはその場所の生態系がある。それを学んできたからこそ考えるのは別の事。

 

 

「…あれは、人なのかな?」

 

 

あれが人であるかどうかだ、脳裏に過ぎるのはあの虫の事。

 

 

人に限りない見た目をして、人に限りなく近い、人では無いナニカ。

 

 

「……風きり音…」

 

 

あの音が聞こえてから何度も私の首が飛んで、そしてまた目覚めるを繰り返す。

 

 

多分、死んだ。確信してる、何度も死んだんだ私。

 

 

毎回毎回、その時の事をハッキリと思い出せる訳じゃない。夢の様に目覚めたら記憶は薄まっていく。

 

 

そう、まるで白昼夢だ。全く知らない幻想郷という森で、怪物に出会って殺されて目覚めると、また夢から覚めた現実へと戻ってくる。

 

 

「…素手で人の脚切り落としたり、首落としたり出来る奴が人間な訳無いか」

 

 

「そして、狐の尻尾が生えてて、死んだ事を覚えてる様な人間は……」

 

 

「人間な訳、無いよね」

 

 

人間に、尻尾は生えていない。人間は、死んだら、死ぬ。

 

 

人間は、自分が死んだという事実を認識できたりしない。

 

 

「……待てよぉ…?つまりあの時って死んでたの?」

 

 

そういえばそうだ、キッカケはあの十日過ごした後の謎のコスプレ巫女野郎。

 

光に包まれたと思ったら、目覚めて森の中、つまり…。

 

 

「…え?何このクソみたいな場所」

 

 

人食いの化け物が徘徊し、未知の生物と未知の植物だらけで、お母さんに捜してもらう為に目立ったら巫女がすっ飛んで来て殺される?

 

 

「……」

 

 

「私何か悪い事したっけなぁぁぁぁ!?!?」

 

 

お母さんに伝えそびれた尻尾が生えた心当たり、もしアレが原因でこんな事になってるのなら…キレそう、マジギレ寸前だよ本当。

 

 

「逆だよね??良い事してあげたじゃん!怪我してる小狐に、木の上で鳴いてた赤ちゃんを手渡ししてあげた……え、もしかしてアレって動物界隈的には激怒案件なの?」

 

 

「死にかけのお母さんの代わりに、ミルクでふやかしたドックフード口に入れてあげてさぁ…そのまま子供背負って消えてったけど、最後まで面倒見ろとか?それともあれが原因で子供死んじゃったとか?」

 

 

祟り?呪いでこんな苦痛を味あわされてるのかい??クソ!人助けならぬ獣助けは一文の得にすらならないって本当なんだな!!

 

 

「……祟り、祟りかぁ…お母さんは祝福だとか言ってたけど、どう考えても呪いでしょ」

 

 

余りにも非現実的な事が続くと、逆に元気になってきた。そもそも初手の尻尾生えてる時点で訳が分からなかったけど、ファンタジー的に考えたら一応理由が思いついた。

 

 

「祟りによって、狐にされた私は……あの狐の人生を送ってる、とか?」

 

 

獣から見れば人間は化け物だ、一方的に奪われ、殺される。反撃の余地すらない、それと似ているのだ。

 

 

「というよりは、そうやって狐の視点を人の視点とに置き換えて……あの狐の苦しみを味わってるとか?」

 

 

天才かもしれない、よく小説読んでて助かった。これは所謂『山月記』的なアレそれだ、その人の罪業によって、同じく獣となって生きていく。

 

 

一寸の虫にも五分の魂、ホラーミステリー番組でよく見る、踏み潰しちゃったアリの人生を死後に追体験する奴、セミになったりとかさ。

後、夢の中で決まった手順を行わないと永遠に夢の中に囚われるホラーとか……。

 

 

「えぇ……」

 

 

死後の窓口受付さん、ちょっと手加減してくれませんか?

 

 

「…なんでお母さんの姿から変わらないのかは分からないけど、今ここはもしかして…夢の中?何かを達成して償わないと現実に戻れないとかある?」

 

 

疑問は絶えないけど、取り敢えずやる事は決まりそうで助かった、助かって無いけど。

 

 

「……色々、試してみないと分からないかぁ」

 

 

あんな恐怖体験をして、頭が割れる程怖くて、発狂するかと思っていたのに寝たら案外スッキリするもんですな。

 

整理して分かった事は幾つかある、全部ファンタジーを前提としちゃうけど、大事なのは…。

 

 

「その1、お母さんは多分迎えに来れない」

 

 

ここが夢の中だと仮定すれば、私が何かをしなきゃ帰れない。

 

 

「その2、夢の中なので死んでも大丈夫」

 

 

死ぬ程怖くて、死ぬ程痛くて、死ぬ程辛かったけど……ここが夢だと思えば急に身体も脳みそも楽になってきた。

 

 

死ぬ程怖くてもこれは夢で、死ぬ程痛くてもこれは夢で、死ぬ程辛くてもこれは夢なのだから。

 

 

「その3、成すべき事は生き残る事」

 

 

今私は狐の人生を送っていると仮定すれば、死ねばリセット、生き続けて狐の人生を最期まで迎えないと目覚めない呪いにかかっている。

 

鍛えられた小説脳とゲーム脳によって弾き出されていく現状には、余りにも現実味が無いけれど……。

 

 

「その4、家に!!帰るぞぉぉぉ!!!」

 

 

待ってろよソファー、私が次目覚めた時は君の上である事を期待しておく!!

 

よくあるからね、夢オチって。

 

 

「ぅ…っ…おえぇぇぇぇぇえ…」

 

 

後吐いた後に叫ぶのは辞めましょう、マジで気分悪くなってまた吐き戻しちゃうので(今実体験した)。

 

 

 

 

 

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