起きたら尻尾が生えていた   作:カピバラバラ

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起きたら……?

 

「「借りるって…そんな単純なものじゃ」」

 

 

「……」

 

 

「「本当に見えているんですね」」

 

 

さとりの言葉が二重に聞こえる、だがそれは本人の口からでなくユウが被せて発言しているからだ。

 

 

「なるほど、これが……サトリ…」

 

 

こりゃダメだ、消しとこ消しとこ…。

 

 

「…苦労、なさってるんですね」

 

 

「ええ、それはもう沢山」

 

 

さとりちゃんの赤い目をコピーして分かった、心を読めるってそんな単純なものじゃない。

情報と雑音、騒音が鳴り響く密室に閉じ込められた気分だ。

 

 

一体一だけじゃない、周囲の万物万象の情報を読み取ってしまう。しかもさとりさんはめちゃくちゃその力が強いのか、この目玉の服製品を通しても下町の霊の心が流れ込んできた。

 

 

下卑て、醜く、正に『見たくもない』。

 

 

 

「よし、本題に戻りまして…っても、ただ単に御礼参りしに来ただけですけど」

 

 

「…それが本当かどうか、読めないせいで貴女を信用していいのかすら分かりません、そんな力を見せておいて」

 

 

「…ノンデリで申し訳ございませぬ……そうだ、この目を通じて私の心を読めたりします?私ってあの、外来人なんで…幻想郷の能力がなんか不具合起こしてるみたいなんです」

 

 

もう一度瞳を作ってさとりさんに見せてみるけど…案外グロいなこの目玉。

 

 

「……………グロくてすみませんね」

 

 

「わ!もう聞こえてるんですか!?」

 

 

「驚く程澱みない本音、聞かせてもらってます」

 

 

「もうどうぞどうぞ、保護者様には全て差し出しますので」

 

 

「………」

 

 

「……ふむ」

 

 

「……なるほど、その『不具合』とやらで欠けた記憶しか読み取れませんでしたが、貴女がお母様を大切になさっている事、そしてその人生の一部分を見させて頂きました」

 

 

「妹の為、ここまで足を運んで頂きありがとうございます…地霊殿へ貴女を歓迎致しましょう」

 

 

「はい!宜しくお願いします、さとりさん!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……」

 

 

貸し出したペットと遊ぶ三人を眺めながら、目の前の烏天狗の心を覗く。

 

 

「なるほど」

 

 

 

「射命丸文さん、あの3人…どう思いますか?」

 

 

「ビクッ……えっと、そのぉ…読めば分かるのでは?」

 

 

「どう、思いますか?」

 

 

「め、めんどくさい案件を抱えちゃったなー!と!」

 

 

「そうですね、確かに面倒くさい、私もこいしには振り回されてばかりです」

 

 

「けれど、同時に姉として譲れないものがある」

 

 

「…そ、その…つまりは?」

 

 

「…あの3人、とっても可愛らしいと思いませんか?こいしは勿論の事、フランさんもこいしの友人になってくれて…何よりカネイロ・ユウさんは自分の背丈よりも大きな尻尾をふわふわゆらゆらとさせている」

 

 

「3人が私のペットとじゃれ合う度に、私の心は癒されていきます」

 

 

「……」

 

 

「ちゃんとその心の声も聞こえていますからね?…さて、姉として譲れないもの…それは、妹の笑顔です」

 

 

「引きこもりの私の為に、写真集…お願いします」

 

 

射命丸の前に突き出されるのは、旧地獄のその有り様から濃縮され、採取できる程に積み重なった金欲の鉱山から削られた石。

 

 

つまりは金塊だ。

 

 

それを目の前にして、最早涙を垂れ流すことしか出来ない文であった。

 

 

「これは貴女の選択ミスの結果です、『どうしてこんな事に』それは貴女のせいです」

 

 

「貴女に拒否権は無い、サトリ妖怪を目の前に交渉の場へ立ってしまった事を骨の髄から後悔する事ですね」

 

 

「うぅぅぅ…し゛つ゛れ゛い゛し゛ま゛す゛!゛」

 

 

金塊を懐へサッと入れて、地霊殿から立ち去ろうとする文に、さらに追い討ちの一言。

 

 

「見えないから撮れなかった、なんて…通用しませんよ、あの子を認識させてくれる可能性があるのはカネイロさんだけです」

 

 

「『低級妖怪』…貴女のプライドが抜け落ちない限り、貴女は頭を下げる事なんてなさそうですけれどね」

 

 

 

「そーーですかッ!失礼しますッ!!!」

 

 

 

バタンっ!と扉が閉められて、一人執務室で窓から3人を眺める。

 

 

 

「……」

 

 

「……うぐ……ぐぐぐ…」

 

 

 

「……ペットに、したい…」

 

 

 

「尻尾……もふもふ…大きなもふもふ…」

 

 

 

「うぐぐぐぐぐ…」

 

 

 

……また別の欲望を我慢していたことは、ナイショの話。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はぁ…はぁっ……はしゃぎすぎた…そろそろ帰らないとレミリアさんに怒られるのに…」

 

 

「あはは!そっか、ユウは外来人だから幻想種を見るのも初めてだもんね!」

 

 

「もふもふが大好きだからね……ふぅ…どうやらさとりさんとは趣味が合いそうだ、枕プレゼントしてあげよっと」

 

 

「…ねぇ、ユウお姉さん、私とも時々遊んでくれる?」

 

 

ほへ、それはつまりあれか、フランちゃんを介さずとも遊ぼうって話か。

 

 

「全然OKよ!幻想郷にはまだまだ疎いから助けてあげる的な感じで沢山遊んでくれると嬉しいな」

 

 

「…!うん、うん!!また絶対遊ぼうね!」

 

 

……まぁ、もうちょっとだけなら…。

 

 

《帰ってきなさい》

 

 

「おわぁぁぁ!?!?」

 

 

「ユ、ユウ?急にどうしたの?」

 

 

「ゆゆ、幽霊が!てあれ?」

 

 

《これ、貴方だけにしか聞こえてないわよ》

 

 

なんだよパチュリーさんか、そういえば契約だかなんだか色々結んでたなぁ……こんな便利なことも出来るのね、殆ど携帯じゃん。

 

 

《今地霊殿に居るのね、そこは空が見えないから気付いてないかもしれないけど、もう良い時間よ》

 

 

「はいはいっと……それじゃごめんねこいしちゃん、また遊ぼうね」

 

 

「うん!帰りも送っていくね?帰り道分かんないと思うし」

 

 

あざます……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ほら邪魔邪魔」

 

 

「グギャァァッッ!!?」

 

 

穴から出てみれば、外は夜の幕が落ちていた。

 

 

妖怪も活性化し、空を飛んでいるだけで絡まれる。

 

 

消し飛ばし、焼き払い、もう実力差をとことん解らせると…自然と野良妖怪は襲いかかって来なくなった。

 

 

紅魔館が視界にとらえられた辺りで……ふと、気付いたことをフランちゃんには語る。

 

 

「……ねぇ、フランちゃん」

 

 

消し飛ばしてる最中で違和感に気付いた。

 

 

「なぁに?」

 

 

「ん〜…私ね、本当はもっと妖怪を怖がってた気がするんだけどさ…最近抵抗無くボコボコにしちゃう事が多くなってきてね…」

 

 

「なんていうか、頭と心が別々に動いちゃってさ……なんか、自分の起こす事に自分の意識が辿り着いてないというか」

 

 

「そうだ、さっきさとりさんの力とか借りてたけど…あれも、出来るとか出来ないとか考えずに、なんかやっちゃったというか」

 

 

そうだ、この感覚は夢に近い。

 

 

不思議な事が引き起こされても、なんの違和感もなく物語が進む。

自分の行動になんの疑問も持たない。

流れるままに……心も身体も動かされていく。

 

 

このふわふわ感は、フランちゃんに髪色を戻してもらった時から続いていた。

 

 

「フランちゃん、何か知らない?」

 

 

だからこの状態を理解出来るのは、フランちゃんだけだ。

 

 

「…あは…大丈夫だよユウお姉ちゃん…ユウは、そのままで良いの」

 

 

「そのままが、1番可愛い」

 

 

「…そ、そう?」

 

 

「うん!ほら、お姉様が待ってるから…帰ろ?」

 

 

「ん…でも、紅魔館へ行ったらフランちゃんと今日はお別れだね」

 

 

ルーミアの元へ帰らにゃいけんからなぁ。

 

 

「明日はちょっと家庭教師らしい事でもしよっか、少し勉強も挟みつつね」

 

 

「うん」

 

 

 

……まぁ、今すぐ解決できる事じゃなさそうだし…一旦帰ろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ルーミア〜…ルーちゃん、帰ったよ」

 

 

自分の家(貰い物)に足を踏み入れてルーミアの名前を呼ぶ、なんか亭主みたいだけど女同士だから気にしない。

 

 

「……居ないのかな」

 

 

押入れや部屋の隅、普段好んで丸まってる場所を探してみるがルーミアの姿は見当たらない。

 

 

「まっ、どうせ呑みにでも行ってるんでしょう、暫く起きといて帰ってこなかったらそのまま寝るか」

 

 

「……」

 

 

「静かな夜も、久しぶりだな」

 

 

 

「………」

 

 

 

もふもふの尻尾に座って、1人っきりの夜を過ごす。

 

 

 

「…」

 

 

 

「……」

 

 

幻想郷は星空が綺麗だ、基本的に人工的な光が無いから空の星が見えなくなることが無い。

 

 

これが毎日、毎晩見れるんだから、高い金払って絶景ホテルに行く馬鹿らしさを実感する。

 

 

「……」

 

 

 

……帰ってこないな。

 

 

 

「……案外暇だなぁ…」

 

 

 

その後もダラダラと過ごしていたら、いつの間にか寝落ちしてしまっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『ユウ』

 

 

誰の声だろう。

 

 

『ユウ、起きて』

 

『学校、始まっちゃうよ?』

 

 

お母さんか。

 

 

『それとも、もう起きたくない?』

 

 

ふとんがあったかい……

 

 

『でも、起きないとダメだよ?』

 

 

いやじゃいやじゃ…

 

 

『夢は、いつか覚める』

 

 

『夢から覚めるために、夢を見るの』

 

 

『だから、起きて』

 

 

『ユウ』

 

 

 

 

 

 

 

 

「んっ…んーー〜っ」

 

 

目を擦って、朝の日差しを浴びる。

 

 

「寝てたか…」

 

 

起きてみると、やけに生温い感覚が口元に残っていたから、口をゆすぎに台所へ向かった。

 

 

「ガラガラ……ペッ!」

 

 

「……なんじゃこりゃ」

 

 

水を吐き捨ててみると、真っ赤に染まっている。

 

 

「寝てる間に歯周病だか口の中切っちゃったかなぁ……」

 

 

「…てかルーミアは?」

 

 

ここまで帰ってくるのが遅いとなると、一回慧音先生の所まで行ってみるか…。

 

 

 

という訳で、外出用に着替えてレッツゴー。

 

 

 

 

 

「……」

 

 

 

「……誰もおらん」

 

 

 

人里に、人が居ない。

 

 

行き道に人影1つすらない。

 

 

 

「……」

 

 

明らかな異常事態、寺子屋へ向かう足が早まる。

 

 

寺子屋の門前に辿り着くも、いつも門の小窓を開けてくれる少年の気配は無い。

 

 

 

「…はっ…はっ…ふっ……」

 

 

塀をよじ登って、なんとか寺子屋に侵入して教室を歩き回った。

 

 

でも、誰も居ない。

 

 

「誰か!誰かいませんか!」

 

 

返事は無い。

 

 

無音だ、私以外の音が存在していない。

 

 

 

「…ふぅっ…ふぅっ…!」

 

 

 

落ち着け、落ち着いて整理して誰を頼るか決めろ。人里の異変だ、これは異変……つまり霊夢だ、霊夢を頼ればいい。

 

私の事をどう嫌ってても、どんな事情があってもアイツは人里の守護者だから…。

 

 

 

 

「ーーもう、誰も居ないわ」

 

 

「ッ!?」

 

 

「おはよう、ユウちゃん」

 

 

聞き覚えがある声が聞こえる。

 

 

この世界に来る直前に聞こえた、大人びた声。

 

 

 

「そして、おやすみなさい」

 

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