起きたら尻尾が生えていた   作:カピバラバラ

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起きたら、森の中だった

 

「うぅぅぅぅ……」

 

 

「わた、し…は…人じゃ、無くなったのかな…」

 

 

 

こんな状況になっても、私は私のことしか考えられない。

 

 

それが私に課させた、たった一つの命題。

 

 

 

『絶対に迎えに来るから』

 

 

 

生き残るんだ、生きて家に帰る。何をしてでも家に帰りたかった。

 

 

お母さん、お母さんが待ってる。

 

 

いつの間にか忘れかけ、思い出せなくなっていたこと。

 

 

私は、お母さんの所へ戻らなきゃいけないのに、何をしてでも。

 

 

 

「逃げる…?」

 

 

ダメだ、そもそも私は妖怪同士のいざこざのルールを知らない。無意識、無自覚に他の妖怪を喰い殺してしまった妖怪なんて…。

 

 

「ぐっ…」

 

 

頭が痛い、何かが頭の中で生きて蠢いているような感覚がある。

 

 

「い…まは、とにかく…阿求ちゃんの…所へ…!!」.

 

 

ごめん、ルーミア…全部に決着は付けるから…少しだけ待ってて…!

 

 

 

血まみれの服も着替えておく時間も無い、変化の術で…

 

 

「っ!?」

 

 

玄関から飛び出して気づいた、あまりにも静かすぎる。そして、おそいかかってくるデジャヴ、異常な光景が、なぜか慣れ親しんだものに感じるのだ。

 

 

何が起きていて、私が何をしたのか、私の身に何が起きているのか、それすらわからずにとりあえず走った。

 

 

「う゛ぅ゛っううう゛…!゛!゛」

 

 

怖い。泣きたい。わからない事は怖い。何が起きてるの?

 

 

 

人里なのに飛んでしまった。でも飛ぶしかない。もう怖くてたまらない。

 

 

 

飛んでいる最中に真下を見た、人里を俯瞰できる位置で…。

 

 

 

「…ぁぁ…あああああ……ぅうあぁ゛…」

 

 

 

ーー血の海。

 

 

 

おにぎり屋のおっちゃんも、子連れの親子も、柄の悪い男性も、等しく頭部を失って倒れている。

 

 

 

「……」

 

 

降下して、人里を足で歩く。

 

 

 

どこを見ても、家の中の人も死んでいた、そのせいで静かだったんだ。

 

 

 

人里全体が血の海になっていた。

 

 

 

 

「お母さん……お母さん助けて…」

 

 

 

「わかんない…お母さんッ!!お゛かぁさん…!!!!」

 

 

 

「あきゃ、あぎゅうぢゃんの……所に…」

 

 

 

転げ回り、這いつくばって、四足歩行になりながら……

 

 

ようやく屋敷へと、辿り着いた。

 

 

 

「ーー……」

 

 

 

「阿求…ちゃん……」

 

 

 

死んでいた、使用人も、いつも通してくれて挨拶しあう門番も、稽古を担当している白髪のおじいちゃんも全員。

 

 

その顔を見る事は出来ない、等しく皆、首から上がないからだ。

 

 

 

「…」

 

 

 

「……」

 

 

 

「だい、じょうぶ……はは、ははは、死ねば、死ねば元に戻るから、待ってて…」

 

 

 

頭のてっぺんからつま先まで、凄まじい嫌悪感と恐怖が貫いている。

 

 

「はッ…はッ…ふぅ゛っ…ぅぅ゛…ケポッ…」

 

 

死体、という非現実。恐らく自分が殺したであろうルーミア、血に沈む人里。

 

 

それらがじわじわと心の中で現実として受け入れられてきてしまうんだ、そしてそれは強烈な違和感と拒絶をもって胃の中を掻き回す。

 

 

「ぅううううううぅぅぅぅ…!!!」

 

 

吐瀉物と血の中で暴れ回る、拳を地面に叩きつけて現実であるかどうかを確認する。

 

 

痛い、痛いのが嫌で仕方ない、夢なら痛くないからだ、なんで現実なんだ。

 

 

 

私の中には絶対的な安心感があったはずだった、それはこの世界が夢で、あの死に戻りとも言える力を持っていたからだ。

 

 

この世界が夢であると確信し、全ては夢境だからこそ有り得る夢の話なんだと。

 

 

……でも、この世界には『現実』があってしまった。

 

 

 

 

 

「条件は……あってる、大丈夫、何回も戻ったじゃん…」

 

 

 

「大丈夫、大丈夫…」

 

 

 

死ねばいい、ここで死ねば世界は巻き戻る。

 

 

 

「……」

 

 

 

「ぅ……」

 

 

 

手が、動かない。

 

 

 

「……」

 

 

晴れやかな空からの日差しが熱い、痛い。変化の術で自分の首を断ち切ればいいだけなのに、指が動いてくれない。

 

 

 

「……」

 

 

 

「……お母さん」

 

 

 

「お母さん、お母さんなら…」

 

 

 

「違う」

 

 

 

「今やることは、死ぬ事じゃない」

 

 

 

「何が起きたのか、調べなきゃ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

毎晩夢を見ていた気がする。

 

 

夢を見て、起きて。夢を見て、起きて。夢を見て、起きた。

 

 

起きたから、起きるんだ。目覚めたから、目覚めるんだ。

 

 

『起きたから、一日が始まるんだよ?夢有』

 

 

『えー?でももっと寝ときたいよ…学校辛いし』

 

 

『もー!それでも起きなきゃ卒業できないよ!ほら着替える!歯磨きする!支度しなさい!!』

 

 

『布団引っ張らないでぇぇぇ…』

 

 

 

「……」

 

 

寺子屋に足を運んだ。

 

 

「慧音先生…」

 

 

「うぷっ…」

 

 

「ぉええぇエエッ……!!」

 

 

 

 

教卓にもたれかかったまま首を失って亡くなっていた。

 

 

 

誰も居ない。生徒1人すら生きている者は見当たらない。

 

 

 

からっぽになった胃からは何も吐き出せること無く、嗚咽だけしか喚けない。

 

 

「ぁう…」

 

 

 

ふらふらと寺子屋を立ち去ろうとして、つまづいて転けてしまった。

 

 

転けた原因は…

 

 

「裕太……くん…」

 

 

いつも門の係を務めている少年の死体だ。

 

 

 

「…次……だ…!」

 

 

 

まだ、歩かなきゃ。

 

 

 

まだ、まだ何も分かってない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

紅魔館。

 

 

門番の美鈴さんも居なければ…レミリアさんも咲夜さんも居ない。

 

 

勿論それ以外のメイドさんや紅魔館のメンバーもだ。

 

 

そして…。

 

 

 

「……」

 

 

 

「フランちゃん」

 

 

 

フランちゃんの、首から上が無い死体が寝室に眠っていた。

 

 

 

「……」

 

 

 

「次の……次の場所なら…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ひまわりがこちらを見ている。

 

 

「……」

 

 

 

太陽の花畑、幻想郷で最も美しい場所。

 

 

「幽香さん…」

 

 

「幽香さん!!いませんか!!」

 

 

わざとらしく花を乱暴に扱う。

 

 

「……」

 

 

「誰も、居ない」

 

 

皆死んでいた。何が起きているのかも調べる余地すらない。

 

 

「……」

 

 

最後の手がかりはこのスペルカード。

 

 

【夢符 常闇の少女】

 

 

「…」

 

 

これを使えば何かが起きるのだろうか?でも私にはこれを使うと言う概念すら、感覚すらわからない。

 

 

「……」

 

 

何も思い出せない。昨日フランちゃんとお別れしてからの記憶が確かじゃない、家に帰ったということだけはわかるが…本当に家に帰っただけなのに、一夜でこんな状態に…。

 

 

私に踏み出せるのか?この道への一歩が。

 

 

「…ふぅっ…」

 

 

今が悪夢なら覚めてくれ、これが夢なら現実に戻してくれ。

 

 

誰か起こしてくれ私を。

 

 

起こして。

 

 

お母さん…。

 

 

 

 

どうしてこんな時にだけ誰の声もどんな声も、私に届いてくれないのだろうか。私はここにいるよ?寝てるよ?起きたいよ、頼む…誰でもいいから…私を…!!

 

 

 

「【夢符 常闇の少女】」

 

 

 

 

目覚めさせて

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「大食らいめ、まだ足りぬか」

 

 

「分かるでしょう?ドーンとしたものだって」

 

 

「あぁ、ゆかりんには珍しく本当にどーーー〜んとしたものだったな」

 

 

スキマから映る幻想郷、そこには博麗神社を除く幻想郷の9割が闇に沈んでいた。

 

 

「それじゃ私は裏から行くわね」

 

 

「異変としてやるには、辿り着くまで大変だなぁ…だがなるほど、面白いな」

 

 

 

「行ってこい紫」

 

 

 

「私も見せてやろう」

 

 

 

 

「秘神の真なる魔力、後戸の神、その真の力を」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ねぇ」

 

 

「ねぇねぇ」

 

 

「貴方、食べてもいい人類?」

 

 

「……」

 

 

「ねぇ、聞いてる?」

 

 

「……ぅ…」

 

 

「ル゛ー゛ミア…!」

 

 

「あら、私の名前を…何処で?」

 

 

「何処でもない…何処かでだよ……ごめんね、私惰性のりのりで……食べたら多分、お腹壊しちゃう…」

 

 

「そう、残念ね…ばいばーい」

 

 

「バイバイ…」

 

 

 

 

そして再び、私は夢を見る。

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