「まずはコレ、返しとくわね」
「…私の服、回収して下さってたんですか」
「裸に剥いて放ったらかしにする訳にもいかないからね」
あの後、色々とこちらからも質問させて貰えた。あの時は私に何をしたのだとか、何か実験する為に連れ去って来たんじゃないのかとか。
「私は人形師よ?貴方の事が幾ら興味深くても人形以外にはね…まぁ、そういう事をする奴は別に居るわ」
「居るっちゃ居るんですね…」
そして現在絶賛お世話になっている途中の私だ。
服は丁寧にアイロン?らしきものでシワ無く返却して貰えて、温かい飲み物と暖炉の前で自分の尻尾に包まれながら会話している。
…最初の出会いとは打って変わってめちゃくちゃ親切な人でして、頭300回下げても足りないぐらいに今お世話をお掛けしております…。
「川での事は本当に申し訳ございませんでした…」
「別に大丈夫、今は身体に異常は無い?捕縛する為とはいえ強めの魔術を当てちゃったから」
「…魔術」
私にはとりあえずここの知識が足りていない、夢の中だとしても現状把握と情報収集を徹底しとくべきだけど……あんまりお世話になった人にベラベラと質問尽くしにするのも気が引ける。
「さて、貴方は外来人だからね…まずはこの世界について説明してあげる」
「ここは幻想郷と呼ばれる場所」
「表、境界を隔てた外の世界から『忘れ去られたもの』が流れ着く美しき楽園」
「楽園…」
そして、幻想郷という言葉。
薄々感じてはいたが、この森を指す訳じゃなくこの世界の事だったらしい。
……そして、忘れ去られたものが流れ着くともアリスさんは話してくれた。
確定だ、確信した、
「表の世界、貴方が居た世界で多くの空想や幻、伝説とされたものの殆どが幻想郷へ流れ着いている、例えば私の魔術、魔法だったり貴方が食べたって言っていた妖精は、自然の体現者、貴方達の世界で忘れられ御伽噺とされた『本当の妖精』よ」
…なるほど、つまり魔術も魔法もなんでもありな世界って事か。
あのコスプレ巫女も忘れ去られた、『本当の巫女』って所なのかな?今みたいな形だけのものじゃなくて、巫女として神に祈り、本当に退魔師として活動していた時代の的な…。
あの謎の光で私は死んだ、つまりこの世界…定義としてマジでファンタジーが、いや…『ファンタジー』とされたものが流れ着く場所なのか。
「…わ、私そんなものに手を出してたの?」
「ふふっ、そんな萎れた花の様な顔をしなくても、心配しなくてもいい…あの子達にとって、弱肉強食は常の事、死んだとしても次の季節にはまた生き返っているわ」
「生き返っ……そ、そうですか…本当にアレって妖精なんですね」
「まぁでも、食べた…なんて与太話は私も初めてよ?『真実の口』で語らせた内容に偽りは無いから信じるしかないんだけど……それに、貴方が迷い込んできたケースも中々に珍しい、間違えて紛れ込んできたのかどうか…」
「さっきも私の事、興味深いって言っていましたけれど…何か変な部分とかありますか?……変な部分しかないか…こんな尻尾付けといて」
「ええ、普通では無いわね、死ぬか忘れ去られてここへ来る時は…大抵『無縁塚』と呼ばれる場所で目覚める事が殆どだと思う」
…つーことは結局この尻尾のせいじゃねぇか!!
現状これが夢である事は確定しているんだから、もうそういうものだと受け入れちゃうけどさぁ……どう考えてもこの尻尾に目付けられてファンタジー判定で放り込まれたとしかねぇ…。
「…ねぇ、ユウ」
「はい?何でしょうか」
「急だけど、貴方神を信じているかしら?」
うぉっへぇ!?急に胡散臭い宗教みたいな事言い始めたよこの人。
「え〜…っと、まぁ信じてはいますけど、よく大仏様とか寺とか行くし」
「その実在を信じた事はある?心の底から神様が居ると信じて、神様に向かって祈りを捧げた事は?」
「…無い、です」
「ユウ、覚えておいて」
「幻想郷には神も、魔もありとあらゆる存在がいる、そうやって『存在していた事を忘れ去らた』ものが辿り着いているの」
「幻想郷は元より、太古の神と賢者が作り上げた理想郷、ここでは貴方の非現実は、現実にあるという事を…しっかり覚えておいてね」
淑やかにゆったりとそう語られる姿には、しっかりとした覇気が込められていて生唾を飲み込まざるを得ない。
見た目は二十歳辺り、いやそれよりも幼い程度の少女からは想像も出来ない程の『重み』を感じる。
アリスの美しい人形の様な青い瞳に見つめられるまま、身体を硬直させていると、ふと香ばしい葉の匂いが漂ってきた。
「ふふっ、そう強ばらないでもいいのに…紅茶も出来たみたいだし、一席いかが?」
「…は、はい、頂きーー」
後ろの匂いを頼りに振り向き、紅茶を受け取ろうとする。
そういえば一人暮らしじゃ無かったんだ、程度に思いながら振り返ってみると…。
「どぅわぁ!?」
「…」
「え?えーっと、お、お人形さん?」
「…」
「ん、ありがとう上海」
人形が自立して動いてる…。
「言ったでしょう?人形師だって」
「おぁぁぁ…なるほど……めっっっっちゃ…可愛い…」
危うくフリーズしかけた脳を振り戻して、まぁそういうもんかと受け入れないと、今目の当たりにしている光景を幻覚だと思ってしまいそうだ。
小さくて可愛い、衣装の細部まで丁寧に施された人形が家事をしている。
ていうか今思ったんだけど、幻想郷に居る人は皆顔面偏差値100000無いと駄目とかあるのかな??
この人形のモデルもアリスさん自身なんだろうけれど、衣装もそうだが顔が良い、あの人食い野郎もコスプレ野郎も、よくよく思い返してみると顔が良かった。
「うふふ、ありがと…この子達は上海人形、全て私の手作りよ」
「え、この子達全部ですか!?」
すっっごいでコレぇ…一人作るだけでも気の遠くなる様な細かい調整がされてんのに、家の中で見えるだけでも三、四人は居る。
また一体が私の元へふよふよと飛んできて、紅茶を手渡してくれた。
「あ、ありがとう…紅茶頂きます」
「さて、ここでユウに問題」
「…?」
「私がここに貴方を連れてきた理由は何でしょうか」
「……あ、えっと…よく考えれば、余程の理由が無いとあんな不審者を連れ込む訳なんてないですよね…」
「そうね」
「…んーと、き、危険人物を自陣で処理する為…?」
「…ふふ、あはは!そ、そんな事する訳無いわよ、大丈夫…ふふっ…」
「え〜…じゃあなんだろなぁ…?」
「ヒントその1、川に水洗いをしに行ったら、危険そうな子が危険そうな事を話して高笑いしていた」
うっ…言い逃れようの無い事実!!
「本当にごめんなさい…」
「その2、その危険そうな子を気絶させてみると、とても大きくて毛並みが良くて、ふわふわな尻尾が出てきた」
…ん?なんか話の流れ変わった?
「その3、私は人形師」
「…っすー…」
「尻尾の毛、少しカッティングさせて貰っても良いかしら?」
「あ、あはは…その、そこまで感覚が無いとはいえ…」
「少しだけだから、先っちょだけよ?」
「あぁぁああのその」
ぽん、と人形の手が後ろから肩に置かれる。
「シャンハーイ」
「今ならブラッシングも付いてるわ」
いぃぃぃーーーやぁァァァァーーー!?!?!