「うぅ…」
もうお嫁に行けな……行けるところも無いけど、私もう行けない!!
「…素晴らしく上質な毛ね、程よく妖力も篭ってる…ありがとう、ユウ」
あんなにモコモコもふもふデカデカだった尻尾がゲッソリと…。
あれ?
「…げっそりと、してない?」
「ふーん?その尻尾、中々込み入った事情がありそうね」
目を擦って何度見てみても、カッティングされた後のホッソリ尻尾がいつの間にかボワボワデカデカ尻尾に戻っていた。
「お帰りマイラブふわふわ!生えた事には感謝してないけど!!」
「…そうだ、これからユウはどうするつもり?外来人だから寄る宛も無いだろうし、その尻尾じゃ人里にも行けない」
「あ〜…」
出てきた人里という単語、やっぱり依頼する奴の推測は合ってたか。
ただ『行けない』という事は、人里には私みたいな異形や異種族の見た目は受け入れられないようで、どうしようかと思い悩む。
「…美味しい」
「紅茶は入れ方が大切だからね」
「……うーん、外の世界へ帰ることって出来ますか?」
「そうね、本来外来人の対処は指定されてるのよ、博麗の巫女へ送り届けて元の世界へ帰ってもらうって」
「帰る…って、それ本当ですか!?」
マジ?ゲームクリアの条件過ぎた『この世界から脱出』とかいう問題に一瞬でケリがついちゃったよ?
「但し貴方の場合はそうはいかない、ユウは幻想郷へ誘われた立場だから」
「…尻尾のせいですね?」
「そう、貴方は幻想郷に居る事が『正常』だという側になっている、博麗の巫女に送り届けてもいいけれど、彼女が貴方に審判…元い、彼女が判断を付けてこの世界への永住を勧められるとは思う」
「…っでも、でも私には待っている人が居るんです…!アリスさんはさっき『忘れ去らた』ものが辿り着くって言ってましたけど、私は違います」
「私には、私の事を忘れない大切な人が居る」
私がこの世界を夢だと判断した理由。
だって、お母さんが私の事を忘れる筈が無いから。
「良い人が貴方には待っているのね………難しい話、ユウは既に妖怪に近い」
「……え?」
「貴方は本質的には迷い込んだ外来人でありながら、ここに来るべくして来た来法人でもあるの」
「で、でもこの尻尾は私のものじゃなくて…」
「それでも、よ」
「頼み込む相手は妖怪退治のエキスパート、幻想郷最強を謳う巫女、その相手に自分の提案を押し通さなきゃいけない」
足組みを解き、紅茶のカップを丁寧に置いてアリスが立ち上がる。
「外へ行きましょう、貴方に幻想郷での戦い方を教えてあげるわ、ユウ」
「戦い、方?」
■
「ふんぎぎぎぎ…」
どうも、空を飛ぶ練習をしている私です。
何言ってるんだお前と思う方もいる事でしょう、私にも分かりません。
「気長にやっていきましょう、知識に無い、常識に無い概念を練習するなんて中々出来ることじゃないから」
「雲を掴む様な話だけど…頑張らないと」
あの後、外へ連れ出されて見せてもらったものがある。
『スペル』
『【紅符 紅毛の和蘭人形】』
あれだけ美しいものを見たのは、私の人生において初めてだったと思う。
空に花が咲いて、華が咲いた。
幻想郷、その名に違わない幻想の光景を瞳に焼き付けていた。
「……うおぉぉぉお!!」
まぁなんか空飛びながらやってたんで、驚き過ぎて記憶に薄いのは秘密。
いや、まぁね?綺麗だと思ったよ?でも、それよりもなに当たり前の様に空飛んでんだって話ですよ。
ビックリし過ぎてあの光弾への反応を求められた時、『綺麗だった』なんて感想しか返せない位に驚き桃の木山椒の木。
「そもそも飛べないと弾幕勝負にすらならないから、頑張って」
教えて貰った『弾幕勝負』という決闘方法、血なまぐさいやり方から脱却して、負けた方は勝った方の要求を呑むという遊び。
それぞれの種族間での文化交渉を均一化した素晴らしい発明だ。
「無理ですよぉぉぉぉ……」
人は空を飛べない、人は光弾を打てない、人がそんな事出来てたまるか。
案の定アリス……マーガトロイドさんも人間じゃ無かったし…なんか霊力とか妖力と気力と魔力の根本的な関係とか、私の中には妖力だとか話されたけど…。
分かるだろうか?この難しさ、よく小説とか漫画だと蛇口を捻って水を出すイメージで調整したりとかあるでしょ?
まず、蛇口そのものがイメージ出来ない。いや、出来ないというよりは取り付けられないんだ。
思い描いても虚空に蛇口がぽつんと浮かぶだけ、その自分の中にあるとやらの妖力…その源泉と蛇口の導線が繋げられない。
「無いものは無いか…ヒン…めそめそ…」
「…やっぱり外来人だと固定概念のせいで難易度をあげてるわね」
「こういう時は妖力を実際に感知して自覚するのが手っ取り早いかしら」
「へ?」
スタスタとアリスさんが歩いてきて私のお腹に手を当てた。
「霊力はともかく、妖力は魔力と地続き…ユウに今から微弱な雷をぶつけて、自分の中のモノを自覚して貰う」
「少しピリッとするわ、我慢してね」
「え?ん?はい、え?…あ、なんかピリッと…」
バチバチバチッ!
「ぎょおぉぉわぁぁぁぁ!??!?」
少しって言いませんでしたかぁぁぁぁ!?!?
「ん〜…どう?」
「はひっ…あひふ…ほへ…な、なにもかわらないですよ…」
「本当?魔力を身に受けて、非現実を目の当たりにしても何も変わって無い?」
「はひ(はい)…」
「……おかしいわね、それだけ身体に妖力が混ざっておいて自覚すら出来ないなんて…」
「ふ、ふぅ、そんなに妖力って私の中にあるんですか?」
「ええ、そうね…私が最初出したヒント、覚えてる?」
「…危険そうな子が、危険そうな事を叫びながら笑ってるでしたね、いやもう本当にごめんなさーー」
…危険そうな子?
「私は、貴方の言葉を聞いてやってきた訳じゃない、貴方の妖力の存在を感知して見つけ出したの」
「普通、どんな妖怪だとしても体外に放出している妖力は微量、体内循環の一環として排出されているもの」
「その一般量を大きく逸脱していた……別にそれが今後の貴方の能力や強さを規定している訳でないけれど、理由も無くそうはならない」
「い、今は…?」
「落ち着いているわ、その尻尾を出してからね」
「……」
「とりあえず、このまま自覚してもらう方向で練習を続けましょう」
「はい、分かりまし……ん?」
「それじゃ、堪えてね」
「ちょま、ギョワワワァァゥアぅあぅあー!?!?」