「アリスさぁぁぁん!!!」
「わわっと…どうしたのよ、ユウ」
「コレ!コレ見て下さい!!」
ぴょんぴょんとジャンプして着地の瞬間を見せる。
「え?……飛んでる…?…いや浮いていると言った方が正しいかしら?」
「も、問題があって、コレ元に戻せ無いんですよッ!?」
「…少し落ち着いて、検査してみるわ」
「お願いします!」
アリスさんの上海人形が私の周りを囲って、何やら訳の分からない魔法陣を私の足元に書き出していく。
…早く、早くお願い…!
「こ、こんな…私、なんで…」
なんで浮いてるの…?私は、そんな…出来るはずが無い。
人は……人は、空を飛べない、それは人では無い、私は人で尻尾は私のものじゃない。
だから元に戻さないと。
「…ユウ?」
「ぅ…ぅううう…!」
「…」
「お母さん…お母さん、早く迎えに…!」
「ユウ」
…?
何か、甘い匂いが…。
「目をつぶって」
「……」
「ユウは今、自分で思考して飛んでいるかしら、原理を理解し、己の意識の範疇で浮いている?」
「……してない、やってないです」
「ならその原因を取り除けば貴方は元に戻る、尻尾と同じ、貴方自身の心は何も変わっていない、怯えなくてもいいわ」
それも……そうか、自分がやってないんだから何もこんなに…。
あれ、なんでこんなに怖がってたんだっけ?
「落ち着いた?」
「…はい、ありがとうございます」
今更こんなことに驚いてちゃ世話ないぜ!なんかお腹の底からゾワゾワと怖がってたけど…なんか気分も良くなったし…。
普通に考えたら自分のせいで浮いてるんじゃないんだから、別にこれは『私』の事じゃない、尻尾のせいかな?考える限り『尻尾』のせいでこうなってるんだから…。
なんだ、いつも通りじゃん。夢の中なんだからこれぐらい当たり前か。
「あんれぇ?元に戻ってる」
気づけば足裏の感覚が戻ってきていた。
「もう大丈夫そうね、一人で立てる?」
「はい!心配おかけしてごめんなさい…!」
「よし、それじゃ朝ごはんを食べましょうか」
「は〜い」
oh......なんてグレイトなマザーだ、私はこの人にお母さんと同等のバブみを感じている…!!
アリスお母様の圧倒的優しさに包み込まれてしまうッ!!!
「えへへへ…」
■
「行ってきまーす」
「行ってらっしゃい」
手を振って野草狩りに行く彼女を見送る。
扉が閉まると同時に、軽く息を漏らす。
「まるで獣ね…」
桜花爛漫、天真爛漫、咲き誇る野草が如き活力。
落ち着かせる為に使った花の蜜のアロマも本来の用途は罠にかかった野獣を安静に解放させてあげる為の鎮静剤。
「また術を砕かれた…今回は妖力の過負荷の影響かしら」
それにあの浮き方、少し奇妙だったわね……見た所妖力の放出も何も無かったのに浮いていたし…それと、お母さん…か。
「…浮いただけであの取り乱し方……少し引っかかるけれど、今は気長に待ちましょうか」
お手製の木イスに座って、上海に持って来てもらった紅茶を啜り数分。
ドタドタドタ!!と、外から走ってくる音が聞こえてくる。
「ただいまーーです!!」
大きな尻尾に大量の葉っぱやら木の枝が突き刺さった状態でユウが帰ってきた。
「…ーーん?」
「リストに載ってた奴全部取ってきましたよ!!」
「んんん…ユウ?あのリストに載ってるものは山菜含め、そんな短時間で…」
「ほらこれ、全部ちゃんとありますってばぁ…えへへ」
肩に担いだ風呂敷を広げて中身を確認してみると、確かにリストにあった全てのものが入っていて、思わず目を見開いてユウの顔を見る。
「…本当ね」
「次は何をしましょうか?」
「うーん、こんなに早く集め切れるとは思っていなかったし、早めに練習を再開しときましょう、おいで…ユウ」
「はーい!」
■
「うっひゃーーー!?」
「…これは」
どうも、空を飛んでいる私です。
何故そうなってるのかって?私にも分かりません。
「自由自在!圧倒的クリエイティブな飛行ッ!私は翼を手にしたんだぁ!!」
もうね、難しく考えるのは止めました。ここは夢の中で現在進行形で呪いにかかってる最中、狐の人生うんぬんかんぬんは私の恥ずかしい妄想だとしても……よくよく考えれば妖力とか考えなくても良かったじゃん。
あの巫女も飛びながら光弾を放ってきてた、それにアリスお母様の発言からこの世界の住人は飛べる事が普通…なら、『尻尾』が生えた事によってこの世界に迷い込んだなら、私も飛べてもおかしくない。
もう尻尾が生えてんだから今更ファンタジーが何だ!!幻想郷に来る前から尻尾生えてんだから気にすんじゃねぇ私!!!
「上海、捕まえて降ろしてきて」
「シャンハーイ」
「ふんふふんふふーん…へ?ちょわわぁぁぁ!?」
何故ゆえ〜!?ごめんなさい何か悪い事しちゃいましたっけ!?
「身体に異常は無い?息苦しかったり山で変なもの食べたり、怪我したりしてない?大丈夫?」
「だだだ、大丈夫ですぅ!?わ、ちょ、まさぐらないで〜!?」
「尻尾は…異常無し、服を脱いで、すぐ検査するから」
「アリ…アリスさん!大丈夫です!大丈夫ですってばぁぁ!?」
「大丈夫な訳無いでしょう、浮くだけで騒いでた子が数十分でこうなったら何処かに異常があってしかるべきだわ」
「解決したんですぅ!さっきは本当にごめんなさい、自分の中でちゃんと噛み砕けたんです!納得して、だから…ーー」
「…納得した?」
私の身体をまさぐる手が止まる。
「……………ぁ…なる、ほど、なるほど…そういう事ね、納得か」
「あ、あの…」
「ちゃんと自分の口で説明出来る?何故飛べているか」
「それも…ごめんなさい、さっき適当にやっちゃってて…」
「分かったわ、貴方はそれでいい……その感覚を忘れない間に弾幕を打ってみましょう」
「ええええ!?無理、無理ですってば!アリスお母様の言う事でも………あ」
しまったぁあああ!?!?焦ったせいで心の底で思ってた事がつい口に出ちゃった!!
やっばい、会って一日の奴にお母様呼ばわれは殺されても仕方ないんだが??ちゃんと覚えてるからな、この人あのコスプレ女と同じ位悪寒がしたんだから!
「お母、様」
しかも私とそうそう年齢が変わらなそうな人に……やらかしたぁ……。
「………」
「…その、あのぉ…」
「……貴方の、待ち人はお母さんなのでしょう?私は貴方のお母さんでは無いわ」
「いやもう、本当にごめんなさいっ…」
「分かったから、早めに弾幕の練習もしてしまいましょう…貴方の固定概念を覆す時よ、受け入れなさい」
「ん…んむぅ…」
「貴方が飛べなかった理由も分かった、初歩の初歩過ぎる事だったわ……まさか、『自己認識が強すぎる』為だったとは」
自己認識ぃ?んなもん私は人間なんだから強いも何もないのに。
「拾った子猫の面倒は最後まで見る主義なの、霊夢に勝てるまでとは言えないけれど、話を出来るまで貴方を鍛え上げるから」
「ミッ……宜しく、お願いします…」
怖い、めちゃくちゃ目がガチ過ぎる…。え、コレって…所謂地獄の特訓編?てか霊夢か、霊夢っちゅうんかあのコスプレ野郎、いつかボコボコにして私を帰してもらうからな。
「……だから、そこの覗き見しているこそ泥も出てきなさい」
「へ?」
目線は私に向けつつも、ここに居ない誰かに向かってそういい放つアリスさん。
「はは!仕方ねぇなぁ、アリス」
「…また貴方は、私の所には貴方の思う様な魔術書は少ないというのに」
「知ってるか?何万本とある図書館から一冊借りるのも、数百冊ある住宅から一冊借りるのも、借りる側からすればそこまで変わらねぇって」
「盗むに言い換えなさい盗むに」
「失礼だな…私はいつでも言い続けるぜ?死ぬまで借りるだけだって」
…なんか、また変な人が来たもんだ。
黒い…ハット帽?いや、魔女帽子かな?また古典的な黒を基調とした衣装、見るからに魔法使いですって見た目をしている金髪の……。
…また金髪かよ!!一番思い出が良くない奴に出会うもんですね!!
「変なキノコでも食べたか?アリスがそんな狐の妖怪の面倒を見てるなんて……ルーミアから聞いたぜ?」
「こっちにも事情があるのよ、冷やかしなら帰りなさい」
「魔理沙」