ドズル閣下の推薦で士官学校に入学して2週間が過ぎた。まぁ、なんというか、勉強するのはいいんだが…
「はぁ…。」
俺は図書館の隅っこの椅子で戦術書を読みながらでかいため息をつく。なにせシーマ教官に教えてもらった事がほとんどだ。ぶっちゃけくそつまらん。だが入れてもらった恩義がある、真面目にやらねばならん。士官学校でやることといえば座学と体力錬成、モビルスーツでの演習。その他いろいろ…。実戦に比べると幾分か気が楽だがここで学ぶことは役立つだろう。士官になるためだけの学校じゃねぇ、学べることは学び吸収し、戦闘に役立たせれるようにならないと。ドズル閣下のいう要にはなれねぇ。きっちりやるかぁ。
「ナガト、そろそろ次の講義だ。行くぞ」
「あいよ、はぁ…行くかぁ…」
シンが呼びに来る。いつも空きコマの次の講義のときは呼びに来てくれる。ありがたいことだ。俺の場合は読書に夢中になり遅れていくことがたまぁーに、ごくたまにだがあるのだ。それで見かねたシンが毎回呼びに来てくれるというわけだ。全くもってありがたい。俺は本を棚に戻しシンと共に教室に向かい、あんまし面白くない授業を真面目に受ける。この講義が終われば本日最後の講義、モビルスーツ演習だ。それもそれで若干憂鬱である。
ちなみにだが今士官学校にいるもので戦闘経験のあるものは俺とシンの二人のみ。よって模擬戦もザクに乗れる以外あんまりうれしくない。大体は俺とシンが別チームのため二人での一騎討ちになる。だって僚機護っても指示聞かないで突っ込んでシンに撃たれるしシンの僚機も同じだ。戦術もクソもあったもんじゃない。こんな輩が士官候補生とは…。ジオン軍の未来が心配だ。それに、整備士の腕が姐さん達に比べると…いや比べちゃだめなんだろうけど、お世辞にも良い腕とは言えない。もちろん俺用にとかそんなこと言ってないよ?だってチューニングできるの姐さん達しかいねぇもん。だけどここの整備士、基本整備すら満足にできねぇんだぜ?毎回何処かしらアラートだ。故意にやってんじゃねぇかって思うくらいだ。全く、嫌な学校だぜ。姐さん達の整備したザクに乗りてぇなぁ。なぁんて馬鹿なことを考えながら講義を受けていたらいつの間にか終わり、モビルスーツ演習の時間だ。さて、移動しますかね。
「シン、行こうぜ」
「あぁ、行くか。」
そういうと二人で席を立つ。そして雑談をしながらロッカールームに向かい、パイロットスーツに着替える。これを着ると気持ちが切り替わる。パイロットスーツに着替えた俺らは格納庫に向かい、両側にザクが5機ずつ列ぶ圧巻の眺めの麓で3列横隊で整列し教官の説明を受ける。今日はどんな演習なのやら、楽しみである。
「これより、モビルスーツによる演習を始める。本日は黒い三連星と呼ばれるガイア、マッシュ、オルテガ少尉達が来てくださった!通常であればシン・マツナガ候補生とナガト・ヨシノ候補生は分けて演習とするが、本日は二人をペアで組ませる!三番機にはアルト・ハインリヒ候補生!3対3の模擬戦を行なうこととする!場所は月面基地、グラナダの演習場!また、本日の演習はキシリア・ザビ閣下も拝見なさる。気を引き締めてかかるように!」
まじか…。うわぁ少尉3名めっちゃ気持ち悪い笑み浮かべてこっちみてるよ。見るんじゃなかった…。てか、何で黒い三連星とキシリア閣下が士官学校の演習に来るんだよ。ふざけんなくそったれ、仕事しろよ…。いやこれも仕事か。…しかしアルト候補生か、彼なら俺達についてこれるしマイヤーほどとはいかないが三番機としての役目を全うしてくれるだろう。それに彼は実戦に出たことはないが慢心もせず威張りもせず他の候補生の中で一番やりやすい人間だ。
「アルト候補生、今日もよろしく頼みます。」
俺はアルト候補生のもとに行き挨拶する。
「ナガト、候補生はつけないでくれ。敬語もだ。いつも言ってるだろう?今回も頼りにしてるよ、ナガト」
「すまん、慣れなくてな。わかった、敬語と候補生呼びはしない。とにかく。今日も頼むぜ、アルト」
「任せとけ、というかこっちがお願いする立場だぜ」
「気にすんな、俺達についてこられるのはお前だけだからな、それに敵はあの黒い三連星だ。いつも以上にきついぞ。」
「わかってる、お前のけつを必死に追いかけるよ」
「それでいい。」
俺とアルトは笑いあいながらシンのもとに向かう。
「今日はいつもの演習よりハードだ。相手は黒い三連星。ブリティッシュ作戦でも、ルウム戦役でも活躍したエース部隊。3機で突っ込んでくるジェットストリームアッタクは特に厄介だ、オルトは決して単機行動はするな。いいな?」
「了解」
「了解だが、シン。どうする?あっちは完全に自分達用にチューニングされたザク。こっちはドノーマル、しかも整備不良気味のザクだぜ?」
アルトが応え、俺は懸念していることを聞く。演習場のザクではとてもじゃないが黒い三連星に渡り合うどころか動く的呼ばわりだろう。そんなことになればドズル閣下の名に泥を塗り恩を仇で返すことになる。
「あぁ、それなんだがな…」
シンが言おうとしたとき俺の視界が真っ暗になった。
「誰だと思う?」
聞き慣れた整備長の声だ、すぐわかる。
「姐さん、来てくれたんですかい?」
「そうだよ、黒い三連星とやり合うって聞いてすっ飛んできたのさ。あんた等のザクが不調なのはシンから聞いてたからね。自慢のアイツ等も連れてきたさ!」
姐さんがだ〜れだ?状態から離れ俺達の前に立つ。するとどうか、あの整備隊が、凄腕の整備兵達がいるではないか。これなら勝てる、姐さん達が整備してくれるなら、シンとアルトがいるのなら勝てる確率がかなり上がる。突撃軍に一泡吹かせてやる。
「姐さん、早速だけど俺達のザクを見てもらってもいいですか?」
意気揚々と姐さんに言うと、姐さんは笑いながら
「あんた等2人が乗るのは演習用のザクじゃなくて試作高機動型ザクだよ」
といい資料を見せてくれる。試製高機動型ザク。ジオニック社のザクⅡの高機動型試作機、その1号機と2号機。
1号機はシンに、2号機は俺用に調整が済まされていた、こいつに乗るのか。試作機というのがちと怖いが姐さん達凄腕が整備して調整したのなら問題ないだろう。シンの方を見ると少し目を輝かせていた。シンもやっぱり男だ、なにせ通常よりスペックが上がっているのだ。こいつは素敵だ。だがアルトの機体は?
「姐さん、アルトの機体はどうなりますか?」
「なぁに、あんたの機体をあの子に合うように整備して調整したさ。」
「それなら良かった。ありがとうございます、姐さん。」
「任せな、あたしらにかかればおちゃのこサイサイさ」
姐さんは自慢げに親指をたてて笑顔で答えてくれた。
「アルト、アルトは俺が使ってたザクに乗ってくれ。姐さん達凄腕の整備兵が仕立ててくれた。最終調整は自分で頼む」
「わかった、ありがとう。」
「おう」
俺たちは機体のことや世間話をしながらムサイに乗り込みグラナダに向かい、向かう中で機体の最終調整をおこなっていく。そして
「只今より、モビルスーツによる3対3の摸擬戦をおこなう!両小隊準備はいいか?」
「こちらマツナガ小隊、準備よろし」
「こっちもいいぜ」
教官の声がコックピットに響く中小隊長であるシンが答えるとすぐにガイア少尉もこたえる
「では、演習開始!!」
教官の掛け声とともに戦闘が開始された。3対3のフラッグ戦、フラッグ機を撃墜判定するか、殲滅したほうの勝ち。単純な話だ、フラッグ機を守りながら敵を潰せばいい。戦争は嫌いだが摸擬戦は別だ、特にドズル閣下のメンツに関わってくるなら尚のこと別だ。敵機のフラッグ機はわからないようになっている。因みに俺たちのフラッグ機はオルトだ。俺はシンの右斜め後ろ、オルトはシンの左斜め後ろに位置し渓谷内を移動していく。さて、敵機は一キロ先、三機編隊でこちらに向けて移動してくる。
「ナガト、オルトを連れて敵編隊の背後に回れ。俺が黒い三連星を引き付ける。」
「了解、派手にやりすぎて壊すなよ。アルト!しっかり俺のけつについてこい!!」
「わかった。シン、無理はしないでくれよ」
アルトの通信を最後にシンは速度を上げレーダにはっきり映るように渓谷の外に飛び出る。それを見届けたあと、アルト機を連れ渓谷内を速度を上げていく。このまま渓谷を縫っていき事前にシンから渡されていた紙に記されていたポイントまで飛行する。そこまでシンは黒い三連星を引き連れ誘導、それと同時に俺とアルトが背後から奇襲を仕掛ける。そこまでがシンに渡された紙に書いてあった内容だ。シンが簡単にやられることは絶対にありえない、僚機の援護なしで三機を相手するのは並みの候補生では無理だろうがシンならやってのける。シンのシグナルと、三連星のシグナルが交差する。接敵して戦闘しているのだろう。何度も交差しているのがレーダーで見える。徐々に徐々に指定ポイントまで移動している。いいぞシン、そのまま連れてこい。仕留めきってやろう。
シンside〜
会敵してから逃げては岩陰に隠れたりしながらタイミングを見ては叩き、逃げては叩きを繰り返し三連星を煽っていく。ナガト達が待ち伏せているポイントに。二回目の接敵で左足に弾をくらい使用できなくなっているのでバランスが取りにくい。引き換えにマッシュ少尉の機の右手と右足を使用不能にした。
「どこだシンマツナガぁ!!!」
「落ち着けオルテガ!」
おぉっと、怖い怖いオルテガ少尉がおかんむりだ。無線はオープンチャンネルでダダ漏れ。正直うるさい。
「他の2機はどうした?逃げたのか?」
ガイア少尉が嗤うように聞いてくる。舐められてるのだろう。無線を切り替えていない時点で舐められている。岩陰から飛び出してザクマシンガンで適当に3機に撃ちながら返答する。
「さぁ?貴方達を仕留めるために狙ってるんじゃないですかね?こんなに騒いでるんですから」
敢えて疑問形で返してやろう、含み笑いとペイント弾も込めて。
「なんだとてめぇ!!」
「そんなに怒らないでくださいよオルテガ少尉。オープンチャンネルでダダ漏れなんですから、五月蝿くて叶いません。」
オルテガ少尉の機がヒートホーク(模擬戦仕様)で斬りつけてくるのをいなしながら距離をとり岩陰に隠れる。リロードしたあと左手にザクマシンガンを持ち替え右手にヒートホークを握る。さて、あと100でポイントだ。このまま一気に飛び出して追ってきてもらおうか。岩の左側からザクマシンガンを撃ちながら飛び出してポイントに向かう。指定したポイントは上から撃ちおろせるポイントだ。さて、ナガト達が着いていることを祈ろう。
シンsaid out―
さて、シンと黒い三連星の点はこちらに一気に向かってきている。俺達は撃ちおろせるいちに陣取り今か今かと待っていた。
「ナガト、シンは大丈夫だろうか?」
俺の反対側に陣取ってるアルトが少し不安そうな声で聞いてくる。
「なぁに、多少弾くらっててもやられはしねぇよ。シンがここに飛び込んでくる。それを追ってきた三連星にたっぷりペイント弾を味合わせて差し上げればいい。焦って機体を追って撃つなよ、みこし射撃を忘れんな」
「あぁ、分かった。」
「おう、そろそろだ。射撃用意。」
俺のザクとアルトのザクは狙いを定め引き金を絞る。
途端にシンのザクが飛び込んできた。それを追って黒い三連星も入ってくるのが見えた。
「撃てッ!!」
言うと同時にザクマシンガンが火を吹きペイント弾を吐き出していく。2機目3機目にペイント弾は吸い込まれていき、俺の撃った弾がマッシュ機の顔、コックピット、左足を染め上げ、アルトの撃った弾がオルテガ機の右肩右腕、右足を染め上げた。
「マッシュ機、コックピットに被弾!撃墜判定、行動不能!オルテガ機、右腕部、右脚部被弾!被弾箇所は使用不能とします!」
管制塔のオペレーターから無線が入る。一機撃墜したが油断はできない。
「アルト、ここで援護射撃。俺は下に降りてどっちかの相手をしてくる」
「分かった、気をつけてくれよ」
「おう」
そう言うと、下に降りてシンのザクの隣に立つ。
「なんだシン、被弾してんじゃねぇか」
「あぁ、くらってしまった。」
俺は笑いながら声をかけ、シンも少し笑ってこたえる。
「さてガイア少尉、オルテガ少尉、3対2ですがよろしいですね?」
俺はオープンチャンネルにして真面目な声でガイア少尉達に聞く。
「構わねぇよ、こいつは喧嘩じゃねぇ。演習だぜ?」
「そうですね、では本気でやり合いましょう。」
ガイア少尉の返答を聞くと俺は無線を切り隊の無線に切り替える。シンとアルトも無線を切り替えた。
「シンはオルテガ少尉を頼む。手負いで無傷の相手はきついだろう?」
「あぁ、少しきついな。ガイア少尉を頼むぞ、ナガト。」
「任せとけ。思いっきり暴れたかったんだ。アルトはシンの援護だ、頼むぜ」
「分かった。任せてくれ」
「準備はいいか?ルーキー共」
打ち合わせが終えるとガイア少尉からオープンチャンネルで呼びかけられる。
「えぇ。お待たせしました。」
「じゃあ行くぜ!!」
シンが答えると2機が突っ込んでくる。ガイア機が先頭だ。俺はシンの機体の前に機体を出しガイア機にペイント弾を撃ち込む。2機は左右に分かれ交差しながら突っ込んでくるのを止めない。ならば下がらず前に出るのみ。俺はガイア機に、シンはオルテガ機に向かい一度交差したあとしつこく取り付き、ドッグファイトに持ち込む。俺とガイア機は互いにザクマシンガンを撃ちあい、避けながら近づき、ヒートホークでぶつかり合いまた離れて撃ち合いを繰り返して、4回交差したところで両者弾切れになりヒートホークでの斬り合いに変わる。ほぼゼロ距離でのインファイト。何度も何度も鍔迫り合いを繰り返す。
「このままでは埒が明かない…ならば!」
ガイア機が振り降ろしたヒートホークをスパイクアーマーで受けとめ、刃をスパイクアーマーに喰い込ませて動かせないように左腕でガイア機の右腕をがっちり掴んでヒートホークをガイア機の頭部に振り下ろし
「ナガト機!左腕部破損!可動不能!ガイア機頭部破損!大破!行動不能!シン機!オルテガ機!左腕部破損!可動不能、両腕部被弾により戦闘不能!ガイア小隊のフラッグ機戦闘不能によりマツナガ小隊の勝利!!」
普段とは違う演習、実戦に近い演習は俺たちの勝利で幕を閉じた。
この演習から1週間後、俺とシンは戦時特例により少尉を拝命し卒業。
シンはソロモンに、俺はグラナダに配属になった。
…、なんで?