10話:わるだくみ
ナオキが<アキバの街>に帰ってきた次の日。未だ長旅の疲れを残していたナオキは未だ布団の中で惰眠を貪っていた。スピスピやらフゴフゴやらイビキをかきながら布団の温かみを感じていた彼だが、ふと身体が揺すられているような感覚を覚えて思わず文句を言う。
「うーん、あと18時間寝かせて」
「夜になっちゃいますよ!?」
「そしたらまた寝るんや~」
寝ボケているのか、それとも大真面目に言っているのかよく分からないナオキの声に揺すってくる存在──サラは驚きの声を上げながらも彼を起こそうと奮闘する。
既に朝というよりは昼間に差し掛かっており、<西風の旅団>のギルドメンバーは活動を開始している時間帯だ。いくら『遠征』というサラにとって知らないことかつ、とてつもないことをこなして帰ってきた直後だからといってもこのまま寝続けるのは良くない。そう思った彼女は思いっきり布団を引き剥がした。
「うん、起きてる。……起きてるさかい。……おき……て……」
「起きてないじゃないですかー!」
首を左右にフラフラと漂わせて起き上がったナオキではあったが、しばらく『起きてる』とどう見ても起きていない寝言のようなことを口走ったかと思えば再び敷布団の上にダイブ。そのまま寝息を立てながら動きを止める。
そのダメ人間振りにサラは『これが格好良く皆を纏めていた人の姿なのか』とイメージしていたナオキ像が崩れていく感覚に苛まれていると、部屋の外から『西風っ』『旅団会議ぃ!』という誰かの大声が聞こえてきた。
「キャッ」
「な、なんや! 敵襲か!」
「ふぇ!?」
突然の大声に驚くサラだったが、いきなり覚醒したナオキが彼女の盾になるように立ちはだかりながら部屋の入口を睨み付けるという早業を目撃して2度目の驚きの声を上げた。先ほどまで梃子でも動かないようなだらけた雰囲気だったのに、今は寄り付く敵は全て切り伏せるかのような剣呑な雰囲気というギャップに彼女はちょっとだけ心臓の音が早まる。
しかし、そんなサラとは対照的にナオキは短刀を前に出しながら微動だにしない。いきなりの大声に無意識に反応したは良いが、よくよく考えれば<ギルドホール>内である。当然だが待てども待てども部屋の外からは何のアクションもないため、この状況をなんとかしたかったナオキは何事も無かったかのように振舞うにはどうするべきか考え始める。
流石にこのまま構えを解いて『つい警戒してもた』と弁解するは格好悪すぎるため、あわよくば誰かが通りすがって聞いて来ないものかと奇跡を祈る。すると、どうやら神は彼を見捨ててはいなかったようだ。
「あれ、ナオキ。何してるんですか?」
「いや、さっき変な大声聞こえたから。敵襲やと思ってん」
「あぁ、たまにありますよね」
鼻歌混じりのソウジロウが通りがかったことで神の存在をこの瞬間だけ肯定したナオキはやっと構えを解くことが出来、彼の薦めもあってサラ共々広間まで移動する。
広間に近づくにつれて激論が交わされているらしく声が大きくなっていく。内容としては少し前にナオキが言っていた<ギルドホール>で暮らす人数制限の緩和に伴うルールの制定と言ったところで、時折いつも元気溌剌な
「ルール決めみたいやな」
「ボクが言うのもなんですが、仲良く暮らすには大事ですからね」
「よく分かりませんけど、白熱してますね!」
一部怪しい掛け声が混ざってはいるが、オリーブが代表してものすごい熱弁をしていることは分かったため、様子を見ようと半端に開いた襖を開くと──。
「ウチは別に局長のことなんかす、好きじゃないし! 相談役のこともどうでも良いと思ってるもん!」
「あ、ソウ様」
「相談役、おそよー」
頬を紅くしたイサミの叫びにより、ソウジロウとナオキの表情が一瞬の内に『無』となった。
世には『ツンデレ』という属性がある。普段はツンツンしてぶっきらぼうな態度をとっているものの、何かのきっかけでデレデレして好意的な態度示す属性のことで、昔の日本ではかなり持て囃されたようだが今となっては一種の死語となっている。
理由は様々だが、基本的には『相手に気持ちが伝わらない』のが大半だからだろう。いくら心の中で想っていても、宇宙に進出した新しいタイプでもなければ頭の中が見える超能力者でもない一般人が相手の思いを汲み取るのは互いに気心が通じ合って、ちょっと言っただけで相手の言おうとしていることがわかる状態。所謂『ツーカー』という今や死語にもなっている例外を除けばほぼ不可能だ。
今回はまさにそんなツンデレの欠点が出てしまった事故である。
「は、はは。せやったんか。それは申し訳なかったなぁ。うっ……うぅ」
「ボク……何か気に障ることしました?」
「ふぇあ!? いや……ちが……違くて」
ギルドメンバー第一と考えて行動していたのにも拘らず、まさか裏で嫌われていたことを知ったソウジロウは白目になりながらその場に佇み、ナオキは床に蹲ってメソメソ泣く。控えめに見て被害は甚大であった。
「気に障ったのであれば遠慮せずに言ってください。ボクはイサミさん好きですから」
「これからは距離取るから、なんかあれば言うて。……いや、ナズナに言うて。マヂムリ」
片や落ち込みながらも(友達として)好きといつもの朴念仁ぶりを発揮するギルドマスターに、片や未だに『距離感難しいわ』と反抗期の娘を前にした父親のようなことを言いながら床に這い蹲る相談役。後者の方が今すぐ弁解しなければヤバ気な雰囲気を醸し出していたのだが、イサミにとっては憧れの人間に『好き』と言われたとなればつい舞い上がるのも無理はない。
しかし、そのショート寸前の思考回路にオリーブという冷や水が浴びせかけられた。イサミの肩を粉砕する勢いで握るという制裁を加えた彼女は、仕切り直しとばかりに<ギルドホール>におけるルールの重要性を再び熱弁し出した。
「なんだか、ボクらが入る余地はなさそうですね」
「せやなー。もう、相談役降りよかな」
「きっと思い違いしてるだけですって。気分転換行きましょ」
オリーブたちは議論が白熱していることからナオキの状況に何も反応を返さない。完全にアウェー状態なため、ソウジロウは未だ心に傷を負ったナオキを面倒くさそうに外に行こうと提案し、外出の準備を始める。
そうしているとオリーブたちの白熱した議論をチラチラ見ていたサラと目が合った。
「サラさん、一緒に散歩でもどうですか? ……ほら、ナオキも落ち込んでないで準備してください」
「へ?」
「うぇ~い」
***
燦々とした日の光が降り注ぐ昼下がり。<アキバの街>は落ち着きつつあったが、少しでも悪い衝撃が走れば前よりも悪くなる雰囲気を醸し出していた。
そんな街の大通りを和服に袴姿をした2人の男性と割烹着姿の女性が練り歩いている。言わずと知れたソウジロウ、ナオキ、サラなのだが、ナオキだけはせっかくの予定のない外出と気分転換のためにいつもの目深に被ったフード付きローブから抹茶色の紋付袴へと着替えていた。
「久しぶりに見ますね。それ」
「ひさこがくれたもんやからなぁ。しかし、実際に着てみるとすごいな。着心地良いで」
「そんなにですか。僕も素材渡して普段着とか作ってもらおうかな」
<裁縫師>のサブ職業を持つひさこから少し前にもらった<西風の旅団>のギルドエンブレムがあしらわれた紋付袴。ゲーム中だと本格的に狩りに行かない日に興が乗った時限定で着るような『コスプレ衣装』だったが実際に着こなしてみると中々着心地が良いことに驚いていた。
そんな感じでソウジロウたちは雑談混じりで<アキバの街>の散策していると、当然ながら様々な視線が彼らを射抜いてくる。
──剣聖か。
──横に居る奴は誰だ。
──また別の女連れやがって。
──イチャイチャパラダイスは余所でしろよ。
──あのソウジロウの隣に居る男、もしかしてナオキか?
──ナオキだな。本当に男だったんだな。
他にも様々な小言や視線があったのだが、ナオキを認識している者はかなり少なかった。いつもはフードで目許を隠した真っ白なローブに身を包んでいるために人相が分かり辛かったのだが、今の彼の風貌はどこから見ても江戸時代頃に居そうな町民。
いや、隣で刀を下げているソウジロウの立場的に休暇中の武士や浪人であろうか。
また、ややベビーフェイスで温和な雰囲気を醸し出すソウジロウと比べ、ナオキも三枚目な顔ながらも温和な雰囲気で周囲を見回したと思えば怪しそうなところに鋭い視線を投げかけるという落差に少なからず注目を集めていた。
「やっぱり治安悪いなぁ」
「一応、戦闘系ギルドのおかげで結構マシになったんですけどねぇ」
「ほぁぁ……ほわぁ……」
街の様子を伺いながら当てもなく歩いていく2人だったが、彼らの少し後ろを歩くサラが圧倒されたような声で初めて東京に来たお上りさんのように視線を左右に向けていることに気づく。何か珍しい物でもあったのかと問うと、どうやら<冒険者>に圧倒されていたようで今頃になって2人は彼女を無理やり連れだしたような気がして申し訳ない気持ちが間欠泉のように噴き上がってきた。
「サラ、ごめんな。ソウジロウが無理に連れ出したみたいで」
「そんな、旦那様。とんでもないです」
「うん、ナオキでええんやで。むしろやめて、周囲の目が怖いんや」
──旦那様だと。
──殺すか。
──羨ま死刑。
──でも、あの服装で旦那様は結構似合ってね?
──よっ、若旦那!
「それは<第8商店街>のギルドマスターに言えや!」
罵声の一部を耳ざとく聞いた大声でツッコみを入れつつも、サラの一言で周囲の憎悪が徐々に膨れ上がっている気配にビクついたナオキが呼び方の訂正をお願いする。
だが、肝心の彼女は『旦那様は旦那様ですよね?』と曲げる気はないらしい。なお、ソウジロウの方の呼び方は『ご主人様』なため、そちらよりマシだと呼び方の件はとうとう折れてしまった。
「まだ<冒険者>が怖いのであれば引き返しますが?」
「大丈夫です。ご主人様や旦那様がいらっしゃいますし」
自信に満ちた表情で宣言したサラが次の瞬間、<冒険者>にぶつかりそうになってソウジロウの胸の中に収まるという少女漫画風の展開もあったが、彼らは<アキバの街>を隈なく散策していく。
しかし、目に付くのはやはり『力』。それが武力であれ、<ギルド>の影響力や求心力であれ、力による格付けが既にされている光景にソウジロウとナオキは揃って盛大なため息をつきながら目に入ったビルの屋上へと昇っていく。
「昔はここも結構栄えとったんやけどなぁ」
「それ、ジジ臭いですよ」
「ほっとけ」
<マジックバッグ>から白湯を3杯取り出したナオキはそれを啜りながら物思いにふける。
シロエは<アキバの街>の現状を憂いていたが、人1人では出来ることは限られている。しかし、幸運なことに彼の周りには仲間が居る。居るのだが、そこから先は<ギルド>という枠組みに収まる必要が出てくる。
あの<ギルド>が煩わしいと思っているシロエがそんなことを出来るのだろうか。
それに、仮にシロエが<ギルド>を作ったとしても街1つを変えるという『
ならばどうする。どうやってクリアする。そんなことを呆然ながらも考えていると、ソウジロウがサラと会話しているのが耳に入った。
「皆が笑ってくれているから、ボクも笑っていられるんです。だから、<ギルド>だけじゃなくて<アキバの街>もそうなってほしいんですがね」
「私も、皆様には笑顔で居て欲しいと思っています」
今の街には似付かわしくない願いが空に溶けていく。だが、出来ないわけじゃない。
戦力がないのなら戦力になりそうな、それが出来る奴に任せれば良い。それが『カナミ流』だ
「ソウジロウ、今の<アキバの街>を変えようとするやつに興味はあるか?」
「シロ先輩ですか?」
「あえてボカしたのに……。あっさり言うのはあかんやろ」
「すみません」
迷わずの
意見。──そう、意見だ。ソウジロウが気に入らなければやらなくても良いし、興に乗ったのならやっても良い。そう言った予防線を張りながら彼は今の街の状況とは正反対な澄みきった青空を見上げる。
確証はないが、おそらくはシロエも<ギルド>を作るだろう。
それが必要に駆られて仕方なくなのか。それともようやく折り合いをつけることが出来たのかは知ったことではないが、その後は作戦を遂行するためには人手などいくらあっても足りないぐらいに必要となってくることだけは分かる。
だが、人手といってもそこら辺の<冒険者>を連れてくるのは論外だ。見た目は大人でも契約の重要性も秘匿性も理解できない社会人未満の子供の場合もあるため、承認欲求のために作戦に支障が出ることが十分あり得る。
なので、その人手を<西風の旅団>が行う。少数であり精鋭揃いであるこの<ギルド>であれば大きな<ギルド>と違って小回りが利くだろうし、彼女たちは理由を言ってトドメにソウジロウが『お願い』すれば生半可なことでは情報を漏らさない鋼鉄の口となる。
皮算用とはなるが、ソウジロウがやると決めれば間違いなく彼の好感度を稼ぐためにギルドメンバーは全力でサポートするだろう。
「シロエもソウジロウと同じ思いや。変えたいと思っとるけど、どうやって変えるべきか悩んどる。やから、もし合って欲しい言われたら応えて欲しい。<西風の旅団>のためにも、<アキバの街>のためにもな」
「分かりました。橋渡しをよろしくお願いします」
「気になるんやったら連絡すればえぇのに。……まぁ、これ以上言うのはかわいそうか」
「そのシロエって方とご主人様は仲が悪いのでしょうか?」
「勝手に思い込んでるだけや」
『連絡』という言葉だけで一気にテンションが下がったソウジロウを前にサラがナオキに聞いてくる。しかし、いくらナズナと共に何度も『お前の考えすぎだ』と声を大にして説得しても聞く耳を持たないため、既に諦めていたナオキは彼女に投げやりな返事をする。
そんなこんなで何とも言えない空気になってしまったために3人は<ギルドホール>へ帰ると、その光景を見たギルドメンバーから『サラ、恐ろしい子っ!』と戦慄されるという一悶着はあったが、その騒動の中で1本の念話がナオキにかかってくる。
念話の送り主に対して2~3回の応答をした後、『折り返すわ』と言って念話を切ったナオキはソウジロウの方に視線を向けた。
「ソウジロウ、すまんな。向こうからボクだけの呼び出しや」
「逆に都合が良いですね。前衛バカが動きやすいようにシロ先輩と色々考えておいてください」
自らをまるでラジコンのように自虐つつも、ソウジロウは床に置いた刀を指で叩いてやる気をアピールする。それほどまでにシロエとの共闘は彼にとって不安はあるが、やはり楽しい物だろうとナオキは紋付袴のまま<ギルドホール>を出ていく。
そして、指を虚空に這わせながら耳に手を当て──
【じゃあ、腹ぐろ眼鏡。話を聞こか】
口を三日月の形に変形させた。
***
元は空に穿つほどの高さだったこと思わせるビルの残骸。その足元では大きな焚火の明かりが煌々と灯っており、その周囲を数人の<冒険者>が囲っている。
「……で? なにをするんや?」
「<アキバの街>を掃除する」
「つまり、ここの王になると? 圧制か? 圧制やな?」
違う、そうじゃない。そうシロエが言いたかったが、ナオキの顔がニヤついていたので知ってて言っているだけだと文句が出掛かった口を手で抑えた。彼の態度に『冗談や』と軽く流した彼がこの場に居るシロエ、直継、アカツキ、にゃん太の数を数えてから自分を指差して──。
「5人で<アキバの街>を変えるんか? 無理やろ」
「うん、だから三日月同盟を呼び水にして<アキバの街>の有名な<ギルド>にも参加してもらう。そのために僕は……いや、それだと逃げになっちゃうね」
何か言いたげなシロエだが、既に彼のステータス画面のある部分が変化していることをナオキは見逃さなかった。
<
「シロエがやりたいって言ったんやったらボクには何も言う権利はないわ。それに、シロエはギルドマスターに向いとると思うで?」
「あ、気づいたの? ……いや、僕はギルドマスターには向いてないよ。班長の方がよっぽど向いてると思う」
「えー、自分の職業も読めんくなったんか?」
「にゃあ。その中でシロエちは何が得意にゃ?」
謙遜なのか本気でそう思っているのか──おそらく本気の方だろう。シロエが班長の方を見ながら弱音を呟いていると、ナオキは心底バカを見るような目つきで、にゃん太は子供を諭すような口調でシロエに自身の職業と能力を問う。
シロエの職業は
そして、シロエの習得スキルや装備品は全て<マナコントローラー>と呼ばれるビルドに最適な構成にしている。これはMP操作魔法によって味方の継続戦闘能力を強化し、消耗を最低限に抑えつつ戦い続けるための構成であり、真価はやはり『他人との協調』となってくる。
自分では碌に敵は倒せないが、仲間の基礎能力をはじめとした様々な強化。そして相手への妨害によって味方の継続戦闘能力を上げて勝利をつかみ取る。言葉にすれば耳障り良く聞こえるが、悪い言葉で言えば『他人の力ありきな地雷』である。
そんな修羅の道となってしまうこの道を90レベルの今でもなぜ続けているのか。答えは明白、彼が<エルダー・テイル>やそこで一緒にプレイする仲間が大好きだからだ。
「そっか……。そうだよね。でも、そこまで分析されるのは恥ずかしいな」
「なるほどなぁ。しかし、ナオキもよくシロの職業やビルドでそこまで推測出来るな」
「いやいや、シロエのどマゾビルドなんて自分の中で一種のご褒美持ってないと続かんって。"パーティに入ってくれて助かるわー"なんて賛辞受け取ってもボクは絶対やらんわ。せやろ? ご隠居」
「他人の方針をとやかく言うのは如何なものと思いますが、おおむねはその通りにゃ。それはシロエちのみの美学であり、吾輩にとって眩しい物ですにゃあ」
「うむ、私では到底真似できないな」
全員の見解も一致したことでシロエの精神に少々のダメージは入るが、咳ばらいをしながら彼は話を戻すために中々ヘビーな話題を話し出した。
<ハーメルン>。初心者救済を掲げ、<大災害>後に急激に勢力を広げた<ギルド>である。
ただ、この<ギルド>は外見はそんな御大層なことを掲げていながら内面はブラックらしく、初心者が毎日取得できる<EXPポット>を徴収し、それを纏めて現在躍起になってレベル上げをしている戦闘系ギルドに売っているらしい。
「あー、あっこか」
「ナオキ殿も調べていたのか?」
「うんにゃ。うちの<ギルド>があそこに結構世話になってたみたいや。ボクとしてはそうやな……、とりあえずはこの街に居られるのも嫌なぐらいやな」
意外そうに口を開くアカツキの言葉にナオキは<西風の旅団>が色々やらかした末に<ハーメルン>や他のPKを積極的に行っていた<ギルド>たちと大太刀回りをしたことを話す。
都合の良い時には共闘し、都合が悪くなると斬り捨てる。リアルでもネットゲームでもよく似たことは多々あるが進んでやりたくはない友たちを一気に失くすようなプレイングに、ソウジロウから話を聞いたナオキは激怒したものだ。
そして、再び彼から聞かされた『どうせ生き返るんだから』とまるでタクシー代わりにするかのように自ら殺されに行く姿勢にナオキは先ほどの怒りを忘れて極度に怯えたものだ。
「あんな所に初心者が居るのはあかん。下手したら<ゾンビアタック>に使われかねんで」
<ゾンビアタック>。ゲームの仕様で手法は異なれど、大抵は強大な敵に対して自分、あるいは味方が死亡しても即座に復活して強大な敵に攻撃を仕掛け続けることを続けて討伐すること指す。<エルダー・テイル>では<ゾーン>で死んだら大神殿に送られるために手法としてはマイナーになってしまうが、大神殿がある周辺の<ゾーン>で高レベルの馬や<グリフォン>など<冒険者>を数人乗せられる速い騎乗物があればという制約は付くが、出来る。出来てしまう。
ナオキとしては他人のプレイスタイルに口を出す権利も義理も無いが、<大災害>の後にそれをやろうとすることもましてや強制させることも論外だと断ずる。
「トウヤの話では皆で狩りをしとったみたいやけど。魔が差すっていうからなぁ」
「トウヤに会ったの!?」
「<アキバの街>に帰った時に三日月同盟による前にボクだけ寄り道したやろ? あそこや」
真面目に話を聞いていたシロエが叫ぶ。<アキバの街>に帰った時とはほんの1日前……しかも、その場にもシロエも居た。『何故知らせてくれなかった』とシロエはナオキに食って掛かるが、胸ぐらを掴まれた本人はいたって冷静に『ド阿呆』とストレートな罵声を浴びせた。
「自分、ゲーム情報だったらスラスラ答えること出来るやろうけど初対面は他人行儀やろうが。そんなやつを連れて行ってみ? 即座に警戒されるわ。直継、アカツキさんもどう思う?」
「そうだな。初対面だと警戒祭りだ。胡散臭すぎるし、2人組ってのもな。裏があると思われちまう」
「それに時期が時期だ。今の<アキバの街>では初対面同士で他人に信じてもらうのは主君では無理だと思うぞ」
ギルドマスターに対して理解が深いからだろう。ナオキの反論に合わせる形でアカツキと直継による連携が炸裂したことでシロエの精神的なHPは一気に持っていかれてしまう。
ただ、彼らの言い分は非の打ちどころがないためにようやく落ち着いたシロエが『分かったよ』と虚勢を張っていると、ナオキは意地の悪そうな笑顔を浮かべて虚空へ向けて指を出す。
「話を纏めると、トウヤがなんか怪しそうな連中とツルんでたってことや。あの様子だと初心者たちの狩りを監督してるやつやろうし、ついでにフレンド登録しといた。やから……後はな?」
「いや、さすがにそれは」
「大人げないぜ、ナオキ。弱い者いじめじゃねぇか」
『初心者を交えた狩りに乱入してPKをする』となんとも悪逆非道な行いを実施するような宣言。如何に<ハーメルン>が人道的に最低な連中でも、初心者ごとPKの対象にするのは流石に許容しきれないとアカツキと直継は抗議する。
しかし、シロエとにゃん太は顎に手をやりながら熟考した末に『1回か2回なら作戦としてあり』と、まさかの肯定的な意見を示した。
「シロッ! お前っ!」
「落ち着いて、直継。アカツキも短刀は戻して」
「ナオキちはちゃんと話を最後まで言わないと駄目ですにゃん」
「あー、すんまへん。皆なら分かってくれると思ってたんですわ。ちょっと言葉が足りなかったわ」
にゃん太の優し気な忠告に頭を掻いたナオキは具体的な説明をし出す。
フレンド登録を経てフレンドとなった<冒険者>は同じ<ゾーン>に居ると<フレンドリスト>の名前が白くなるという仕様がある。<ススキノ>では<ブリガンティア>がそれでセララを追っていたが、今回はナオキがトウヤやシュレイダを追うためにそれを使う。
そして、相手がナオキの予想通りに初心者の引率を行っているのであれば、まずはシュレイダを<ゾーン>から排除。彼が大神殿から急いで戻ってくるまでに初心者に対して口裏合わせを行いながら支援を行うことが出来るのではないか……ということだ。
「なるほど、大神殿から近くの<ゾーン>は少なくとも10分はかかるからなぁ」
「なるべく移動時間に費やして欲しい所ですにゃぁ。支援内容は今のところ、元気づけられそうなのは味のある食べ物ぐらいですかにゃ?」
「それもすぐに腹に入る味のある食べ物やな。昨日、ベリーの樽漬け食わせたら目を輝かせとったし」
「他のパーティも居たら不公平になっちゃうし、そこはちゃんと口裏合わせしないといけないね」
「個人的にはアカツキさんが居てくれた方が
「心得た。<ハーメルン>の調査と一緒に尾行してみよう」
追跡者は隠れた存在でも探し出すサブ職業であるため、透明化で付いてきた
「じゃあ、それも込みで僕の考えた話を続けようか」
シロエが『安定のポーズ』で自身の考えを述べる。その考えに全員は静かに頷きながら聞き入り、やがて全てを語った彼は『質問は?』と尋ねるとナオキが真っ先に手を挙げた。
「その計画、絶対に"そこ"じゃないとあかんの? もっと<冒険者>にとって急所になる所があるやん」
「もちろん、復活する"そこ"も考えたけどお金の問題かな。一番コスト的に手が届きやすくて皆にとって痛手になる場所が"あそこ"なんだよ」
『そこ』、『あそこ』と具体的に言わないが彼らは何故か通じ合ったうえで会話を終える。その後もそれぞれから様々な質問が出てくるが、シロエはそれらに難なく答えていく。
やがて、直継たちからの質問が無くなったところでシロエがそろそろ直近でやるべきことを話そうとしたところで、ナオキから再び手が上がった。
「ナオキ?」
「これはお願いやねんけどな。三日月同盟の次に声をかけるのは<西風の旅団>……ソウジロウにしてもらえへんか? どうせボクも参加やろ?」
「ナオキが居てくれた方が助かるんだけど。もしかして、嫌だった?」
「うんにゃ、その為に全部話したんやろ? 参加するわ。だけど、これはボクが参加する条件として聞いてもらいたいっっちゅー話や」
最初に協力を持ちかけるのは中小規模の<ギルド>の方が良いし、セララ救出の一件で貸しやギルドメンバー全員との面識があるということで三日月同盟とシロエは思っていた。だが、次に声をかけるのは未だ決めていないという話を先ほど聞いていたため、ナオキは<西風の旅団>に声をかけて欲しいと我儘を言った。
そんな我儘だが、実はシロエもソウジロウやナズナといった『友人』が居るためになんとなく<西風の旅団>に声をかける優先度をある程度上げていた。だが、例外はたまにあるが基本的に建てられた作戦に忠実に従うナオキが我儘を言い出したので、つい気になったシロエは彼に疑問を投げかけた。
「まぁ、シロエとソウジロウが仲直りして欲しいねん。……いや、ソウジロウが勝手に勘違いしただけやし、仲直りよりは誤解を解いて欲しいってのが正解やな。たまーに地雷踏みよるから、それを宥めたりするのがダルいねん」
「あー、うん。それはそう……だね」
「茶会が解散する時のソウジちの悲しみようは凄まじかったですにゃぁ」
あの頃はまるで『ヤダヤダ期に入った子供』。たまに地雷を踏み抜いた時はまるで『全てを諦めきって"どうせ"と悲観的になるダウナー』。どちらのソウジロウも酷く面倒くさ……ゲフン。制御が大変なので、比較的すみやかに誤解を解いて欲しいとシロエに持ち掛けたナオキだったが、彼からの返答は『一段落してからかな』だった。
「まぁ、後々やるならええわ。で、参謀殿はボクに何して欲しいん?」
「んー、今は良いかな。予定としては明日かな。企画会議の段階になってから呼ぶよ」
「……マジかぁ」
これから一仕事でもするのかと思いきや、まさかの帰宅。しかも、実働部隊と思ったら企画会議に呼ばれることが確定したナオキは極度にやる気を萎ませる。
そのまま帰宅したナオキにソウジロウが『あれ? 招待されたんじゃないんですか?』と無自覚の言葉の刃で攻撃されて寝込み、シロエたちもシロエたちで三日月同盟からパーティの片付けによるゴタゴタがある連絡に手間取ったせいもあって予定日が1日延びてしまう。
そんなこんなで、ようやく次の物事が動くのは帰還パーティから2日目の昼頃ぐらいのことであった。
ヒロインはまだ決めていません。(そもそも、西風の旅団に入っている時点でほとんどはソウジロウですし…)
多分、デミソースかつ丼さんのように大地人かなぁと