西風の相談役   作:マジックテープ財布

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11話:商品開発

 ナンダァ テメェ! 

 

 アァン!? オレラハ アノ<D.D.D>ダゾ! 

 

「平和やねぇ」

 

 キョクチョー! クリノンガァー! 

 

「へ、平和です……ねぇ」

 

 ソウチャン! ナズナチャンガ マタ キンダンショウジョウヨォー! 

 

 もうすぐ昼に差し掛かる頃合。<西風の旅団>の<ギルドホール>にある縁側でナオキは目を細め、自分だけ平和な状況を享受していた。<ギルドホール>のすぐ傍では<冒険者>同士の言い争いをし、<ギルドホール>内でもどったんばったん大騒ぎ状態なのだが、彼は無心になることでそれら全ての声を排除。そのまま我関せずと膝の上で丸まっている犬をモフっている。

 彼の隣ではその犬の召喚者であるヒサコも別の犬を撫でながら相槌を打ってはいるのだが、やはり中の様子が気になるのだろうか。チラチラと後ろを気にした様子で振り返っている。

 

「気になるんやったら行って来てもええんやで。ただ、どっちもヒサコには荷が重いと思うけどな」

 

「い、いえ。こ……ここに居ます」

 

 片や自身も被害にあう可能性が高いセクハラ魔人、くりのんの相手。片や禁断症状に陥った酒乱、ナズナの相手。ナオキの言うように自分1人がどうこうしても太刀打ちできない相手なので、ヒサコは即座に真正面に視線を固定する。

 

「ワンッ!」

 

「おー、よしよし。こんなことならボクも<召喚術師>(サモナー)になったら良かったなぁ」

 

「あ、そ……そうでした。あの、ナオキさんに教わった……召喚数を少なく言う作戦。う、上手く……いきました」

 

 鳴き声に反応したナオキがさらに撫でる速度を上げ、心地良いのか腹まで見せる迷彩柄のリュックとヘルメットを装備した柴犬。自身の呼び出した召喚獣が他人にここまで懐く──というか、懐きすぎな気配にヒサコは『それで良いのか』と思い浮かんだヒサコであったが、先日起こったPKとの戦いを思い出してナオキに報告する。

 召喚数をわざと1匹少なく伝えて敵が殺到して来たところを虎の子の1匹で返り討ちにするというナオキがかなり昔に教えた作戦が見事に引っかかったこと。その際に相手から『腹ぐろ』や『狡猾』などと言われたこと。

 他にも色々話したのだが、ふと相槌が無くなっていることを不審に思ったヒサコがナオキの方を見やると、彼の顔からいつもの笑みが消えていた。

 

「そいつら、<ハーメルン>か? 名前は? いや、もうシロエの作戦どうでもええからソウジロウと突っ込むか」

 

「ちょっ、ナオキさん止めてください。私は駆け引きって思ってますから」

 

「ほんまにもう……。こんな可愛い腹ぐろなんか居るわけないやろが。"真の"腹ぐろはもっとこう──えげつないで」

 

「かっかわっ! ……え、真の腹ぐろ?」

 

 ≪ソーンバインドホステージ≫を秒間隔で制御したりと相手の首を真綿で締め上げる方法が多彩で大得意な<付与術師>(エンチャンター)のことを脳裏に浮かべ、『連絡遅いなぁ』と文句を言いながらナオキは横に居たヒサコの肩を『気にすんな』と励ましながら軽く叩く。

 あの眼鏡に比べれば、彼女のやったそれはまさしく『駆け引き』である。逆にPKをしている連中がヒサコのことを非難するのであれば『聖者でも相手にしてるつもりか』と漫画の引用を持って反論が出来るし、そもそもその言い分だと自分たちの頭目掛けてブーメランを放る行為に他ならない。

 

「だからヒサコは気にせんでえぇ。でも、意味のない所で無暗に嘘をつきすぎるのは良くないで。ボクみたいな変な大人になるさかいな。用法容量を護って正しく……な?」

 

「はっ、ハヒ!」

 

「ワン!」

 

「おー、主人に構わずに自分に構えとは主人思いやない召喚獣はお前かぁー?」

 

 俯きながらブツブツ言っているヒサコに目もくれることなくナオキは犬をモフりまくる──が、より一層騒がしくなる外の喧騒に眉を顰めると、<フレンドリスト>からとある<冒険者>に向けて念話を開始。2~3の受け答えの後にしばらくすると一瞬だけさらに騒ぎが大きくなったが、すぐに静かになった。

 

「静かになりましたね」

 

「通報しといた。多分、地獄の訓練やろうなぁ」

 

 名も知れぬ<冒険者>に向けた合掌を行うナオキだが、なにがなんだか分からないヒサコは首を傾げる。

 そうしていると、今度はナオキに向けた念話が届いた。その念話先の名前を見た彼は、『やっとか』と言いながらヒサコに出かけてくることをソウジロウに伝えるよう指示し、そそくさと<ギルドホール>から出て行った。

 

「……えへへ」

 

 誰も居なくなった縁側で数秒ほど動きを止めていたヒサコ。しかし、ふと自らの肩に手を置きながら少女らしい笑みを浮かべるのだが、それを見ていたのは彼女の召喚した犬たちのみであった。

 

***

 

 三日月同盟の<ギルドホール>にあるキッチンはかなりの混雑を見せていた。集団の中にはマリエールやヘンリエッタ、シロエといった出店に関する計画書も並行して作る必要がある人間も居るのだが、『売る物を実際に確認しないと進むに進めない』とそれっぽい理論武装を引っ提げてきたのでナオキからは特に何も言えなかった。

 

「ほい。じゃあこれより出店する店で出す料理を決めるで。……ってか、なんでボクが音頭取るねん!」

 

「味のある料理の第一人者ですから、ですわね」

 

「あーだこーだ言いつつも、きっちり仕上げてくれるから?」

 

「実家が定食屋なんだろ? なら問題ない祭りじゃねぇか」

 

 その集団の中心にはたすき掛けをしたナオキが不服そうな表情で立っているのだが、どんなに文句を言っても上役を中心とした物量で言い返してくるためにとうとう諦めてキッチンへと向かう。

 

「すみません。お願いしてしまって」

 

「かまへん、かまへん。んじゃ、始めよか。シロエのオーダーはいくつかあるけど、一番重要なのは味のある料理の作り方が分からないようにするっちゅーことや。それ以外は試作の段階で気付くやろうし、とりあえずはそれを念頭にやってみよか」

 

『うぃーっす』

 

 実家がレストランでその手伝いをしていたギーロフに笑顔を向けながら今回のオーダーを<料理人>全体に伝えると、全員の元気のよい返事が聞こえる。それを聞きつつ、ナオキは最終確認のために『それでええな?』とシロエの方に頭を向けた。

 この『店』は前哨戦に過ぎない。確かに重要なのだが、後々で開始する予定の『作戦』よりかは重要度は下がるため、こんな所でシロエたちが持つ唯一の武器である味のある料理の作り方を露呈するわけにはいかない。伝えたことを必須事項としてちゃんと全体に共有してくれたことに感謝をしながらシロエがナオキに返事をしようとしていると、彼は『あ、忘れとった』と追加事項を述べ出す。

 

「まだ腐敗の概念あるかどうか分からんし、あると仮定して加熱調理縛りでお願いするわ。シロエ、それでええか?」

 

「あ、うん」

 

 よくよく考えてみれば、<醸造師>というサブ職業もあるので微生物で生じる発酵や腐敗はあるのだろう。ただ、目の前のことに注力していたために食品衛生的なところに頭が向いていなかったのか、シロエはナオキの発言に多少驚きながらも首を縦に振り、それを合図に<料理人>の<冒険者>どころかキッチンに居る全員が案を発し始めた。

 

「軽食だろ? やっぱパンじゃね?」

 

「総菜パンや菓子パンとか種類はあるし、どれか選ばねぇと」

 

「でも味のある食べ物のお披露目! っていうインパクトがないよなぁ」

 

 まず案に出されたのはパン類。無論だが、パンに使用する諸々の素材アイテムは揃っている。

 ただ、それはコッペパンや丸パンのように基本の材料が揃ってはいるだけでコンビニに並んでいるような焼きそば、ナポリタン、ハムカツといった総菜パンの類をはじめ、あんぱん、クリームパン、ジャムパンといった菓子パンや総菜パンの類を作る材料はこれから吟味していく必要が出てくる。

 ただ、パン類にはかなり致命的な欠点があった。調理の手間や1個当たりのコストを考える上で何十種類もの別のパンを作る時間もないため、多くても2~3種類に絞らなければならないのが1つ。もう1つはさらには『味のある食べ物』というビッグニュースを知らせる食べ物として菓子パンや総菜パンを多数並べた絵面は地味ではないかということだ。

 

「まぁ、やってみて決めよか。餡の練り方知らんし、クリームダルいから焼きそばパン数個で。<料理人>の皆は手伝ってな」

 

『了解(ですにゃ)』

 

 しかし、うだうだと悲観的なことを言っても仕方がないため、<料理人>で手分けをして実際に焼きそばパンを作り出す。初期の試作なので焼きそばの麺は適当。炒めながらにゃん太作の濃厚ソースを絡めて手早く作り、セララの帰還パーティの残り物だったコッペパンに挟み込んで並べていく。

 

「地味……だね」

 

「地味やな」

 

「紅ショウガがあればなんとか……」

 

「いや、それでも無理でしょ」

 

 あまりにも茶色一色の光景に、当初の懸念であった『売れなさそう』という感想がキッチンを占領する。

 

 しかし、案の1つが廃案になったぐらいで会議は終わらない。次なる案として日本を代表する主食である米。その携帯食である『おにぎり』が提案された。

 

「おにぎりかぁ。具は何?」

 

「うちはツナマヨー」

 

「私は梅ですわね」

 

「"梅子"だけに? ……あっ」

 

 マリエールを引き摺りながらキッチンから出ていくヘンリエッタを一旦無視することにしたナオキは、なにかおにぎりの具になりそうな物を探す。

 梅、鮭、昆布、ツナマヨ等々。おにぎりの具というものには論争が絶えない。ただでさえ飲食物には『キ〇コとた〇のこ(たまに別の御菓子)』、『ポ〇リとアク〇リ』、『真ん中に餡などを挟んだ円形の焼き菓子の名称』と戦争が多いのだ。

 それに、パン類と同じく売り出す具の種類が多ければその分だけコストや手間がかかるし、下手に制限をすれば戦争の火種になる。どうした物かと思案していたナオキだが、台の隅にとある物体を見つけた。

 

「あ、天かす結構あるやん」

 

「天ぷらを結構揚げたので。明日当たりの昼食にうどんを出してかけてもらおうかと」

 

「いや、これを具にするわ。ちょっとご飯炊いてんか? ご隠居はなんか、昆布みたいなやつとか和風の調味料ない?」

 

「味醂はないですが、昆布と醤油ならありますにゃあ」

 

 にゃん太が昆布と黒い液体が入った小瓶を取り出したところで再び調理は開始される。ご飯の準備をしている間にナオキは大きな寸胴鍋で大量の水を入れ、そこに濡れ布巾で軽く拭いてから短剣で所々を切った昆布を投入する。

 そのまま鍋から離れたナオキは<マジックバッグ>を漁ると、茶褐色の片手盾を取り出して取り付けられた金具を外し始めた。

 

「ナオキ、それ何だ?」

 

「うちの鍛冶師がノリで作った盾。材料は<ヨコハマ>の<ハーフレイド>で出たサファ節っての使っとるで」

 

「え、それ使うの?」

 

「鰹節みたいなもんやし、出汁取れるんちゃうかなって」

 

 流石は長寿ゲームと名高い<エルダー・テイル>というべきか。こういったジョークアイテムも存在するのは知っているが、防具である盾を調理に使うのは中々に攻め過ぎではないだろうか。寸胴鍋に火をかけ、濡れ布巾で盾の表裏を丹念に拭いていくナオキにシロエ──いや、彼を含めた全員が怪訝な表情を浮かべた。

 そんな彼らの思いとは裏腹に調理はスムーズに進行していく。沸騰直前に昆布を引き上げ、そのまま節の盾を投入して1~2分。特にゲル状や炭化することなく盾が煮出される現象に『マジか』という声が上がる中、ナオキは『お、成功やん』と駄目で元々のような言葉を発しながら盾を取り出して寸胴鍋の中を布巾で濾してやる。

 

「え、もっとぎゅって絞った方が良いんじゃないの?」

 

「元は魚……<サファギン>か。その身を使っとるから無理やり濾すとえぐみが出るんや。さ、まずはギルドマスター様に味見していただこか」

 

「えっ、うち!?」

 

 綺麗な琥珀色をした液体。昆布とサファ節の合わせ出汁を小皿にとって試飲したナオキは納得したように首を振ると、別の小皿に出汁を少量入れていつの間にか戻ってきたマリエールに手渡した。はじめこそ戸惑っていた彼女だったが意を決して飲み干すと、途端に口が半開きになって恍惚の表情を浮かべた。

 

「お出汁の味やぁ。日本人の味やぁ!」

 

「私も! 私にも味見を!」

 

「僕にも!」

 

「俺にも!」

 

「ナオキ殿!」

 

「いや、無くなるから。先に取り分けさせてーな」

 

 まるで腹減り状態の肉食獣の前に生肉を置いたようなシロエたちの勢いに、ナオキは軽く引きながらも寸胴鍋の4分の3ぐらいの出汁を料理用にストックしてから残りを提供する。

 その後はお察しである。マリエールの感想には嘘偽りはなく、すっきりとしつつも濃厚な『旨味』は日本人である彼らの舌を蹂躙する。

 

「あー、この出汁で味噌汁飲みたい」

 

「もうこれを売れば良いのでは?」

 

「でもインパクトがないでしょ」

 

「おにぎりセットで行こう!」

 

 出汁に魂を引かれた『和食派』が口々におにぎりをセットとした品物を販売するように言ってはいるが、とりあえずはおにぎりを作らないと話にならないと出汁を少々と醤油と砂糖を煮詰めて濃度が濃い天つゆのようなものを作ったナオキは、それを少量の天かすに絡ませてから炊き立てご飯の中へ混ぜ込んでいく。

 旨味を含んだ出汁と醤油と砂糖の濃厚な天つゆが、そして天かすの油分がご飯に混ざりあうことで何とも言えない良い匂いが周囲に漂ってくる。

 

「な、ナオキ殿。それは!」

 

「ほら、なんか話題になったあれや」

 

 別のことをしているにゃん太や数人の<料理人>以外の<料理人>と手分けしてご飯を握り固めていく。既に味が付いているため、塩はほんの少量。なるべく米を潰さないように均等に三角形に握りこみ、出来た端から綺麗に拭いた木の板の上に乗せていく。

 

「悪〇のおにぎり。本家は色々あるからこれも"もどき"やけどな」

 

「うおぉぉ! 何個でもイケる祭り!」

 

「これと出汁を……たまらない!」

 

「ナオキさん! これならば金貨500万枚……いえ、1000万枚は売って見せますわ!」

 

「DASHI IS GOD! DASHI IS JUSTICE!」

 

「んー、おにぎりもやけどいまいちやなぁ」

 

 またしてもいつの間にか戻ってきていたヘンリエッタも巻き込んでの大絶賛の嵐。ただ、ナオキとしては店に出せるようなものではないと難色を示す。

 このおにぎりはあくまでもサブ。メインをしっかりした中で期間限定として出すならば『有り』だと思うが、これをメインに据えるにはやはり種類と数が必要不可欠なのでおにぎりの具の調達や開発を行う時間が今の電撃作戦と嚙み合っていないのだ。

 

 そんな話し合いの中、調理を終えたにゃん太が手を挙げた。

 

「ナオキち、ではこれならどうですにゃん?」

 

「おー、ハンバーガーか! えぇなぁ」

 

「すっごい美味しいですよ」

 

 にゃん太の出してきた物はハンバーガーだった。大量の肉汁が封じ込まれているであろう肉厚のパテに、見ただけで新鮮そうな葉野菜やトマト。見ただけで美味しいというのが分かる正統派の逸品である。

 その完璧すぎる見た目とセララの太鼓判におにぎりを食べたにも関わらず、ほとんどの人間は欠食児童のようにハンバーガーに群がっては目を煌めかせながら吠える。

 

「うまっ! これうっま!」

 

「ソースがっ、お肉がっ」

 

 俄然賑やかになってきたキッチン。ナオキも試食してみたが、かなり──いや、とてつもなく美味かった。おにぎりと比べてもインパクトはあるし、なにより若者が多そうな<エルダー・テイル>で肉の味というものは特効に近いだろう。

 

「(ここで手が汚れたとか言ったらどうなるんやろ)これは決まりやな」

 

「ナオキち、これを出したのは他にも理由がありますにゃ」

 

「理由?」

 

 なお、ハンバーガーを見た瞬間からナオキの脳内では某美食家がドアップで何かを叫んではいるのだが、にゃん太の言葉に我に返る。

 

 彼の言う理由とは、『このハンバーガーが<アキバの街>の周辺で取れる材料』であることだった。

 パンはカナリア麦と呼ばれる<アキバの街>周辺の小さな鳥サイズのモンスターから低確率で取れるアイテムを使っており、肉は猪のようなモンスターの肉を使っている。野菜は<アキバの街>から少し離れた村などで大量に作ってあるためにいつでも仕入れは可能で、調味料やソースに使う材料も<アキバの街>周辺で採集したり購入することで手に入る。

 

「後、カナリア麦がドロップしなかった時のモンスターの肉は……。ちょうどギーロフ君が仕上げてくれたみたいですにゃぁ」

 

「にゃん太さん、お待たせしました」

 

 待ち人来たりといったところか。奥からやって来たギーロフの手には大皿があり、その上にはフライドチキンが載っていた。

 プツプツという気泡が弾ける音や揚げ物特有の香りが揚げたてであることを示しており、その香りに『鼻』が眩んだ面々はゾンビのようにノロノロとフライドチキンの元へと歩いてはナプキン越しに力強くチキンを掴む。

 

「あつっ! ……フゥー、フゥー。……美味い!」

 

「こういう骨付きって肉食ってるって実感するなぁ」

 

 パリパリとした衣を歯が突き破ると共に肉汁と油が口内に流れ出る。そこを肉自体に塗された香辛料が追いかけ、そのまま咀嚼することでそれらが一体となる。

 パリパリの衣。弾力がありながら味わい深い皮。そして中まで十分に加熱されても尚、瑞々しい肉。ファストフードやコンビニに慣れた現代人にとってこれはまさしく『慣れ親しんだ味』。いや、それ以上の出来かもしれない。

 

「なるほどなぁ。<アキバの街>周辺の物でハンバーガーを用意して、そこから目当てのもの以外の食材を使ったプラスαか。……なら、これなんかどうでっしゃろ」

 

 そう言って油の準備をするナオキ。ギーロフや他の<料理人>に手伝ってもらいながら魚を捌くと、細かな骨を抜いてから一口大に切ってした塩を振る。

 この魚は<アキバの街>の釣りポイントで釣ることが出来るため、<釣り人>。もしくは、もっと珍しいサブ職業の<太公望>が居れば確実に手に入る魚である。

 

「ナオキさん、ジャガイモはどう切りましょう?」

 

「自分たちってマ〇ド派?」

 

「俺はマッ〇派ですね」

 

「私は〇ス」

 

「ドム〇ム」

 

 人間、複数居れば趣味趣向も変わるものだ。細めよりも太めの方が好きな人が多かったため、ジャガイモを太い棒状に切るように指示したナオキは先ほど塩を塗した魚から出てきた水分を丁寧に拭きとる。これは味付けのためではなく、魚の臭みやら雑味が混じった『良くない水分』を抜くための作業で、焼き魚であれ煮魚であれこの作業をすると一気に美味しくなる大事な作業である。

 

「ほんまやったらビール使うんやけど、無いからなぁ。うちの飲兵衛も騒いでたわ」

 

「ナズナちですかにゃ?」

 

「ご名答。ご隠居、酒の作り方とか知っとります?」

 

「ホワイトリカーを使った果実酒なら。ですが、そこは<醸造師>の出番ではにゃいかと」

 

「<醸造師>かつ、リアルではお酒の職人とかレア中のレアだね」

 

 シロエの言う通り、いくら<大災害>で巻き込まれた<冒険者>の数が多くてもその中で<アキバの街>に居て、リアルでは酒造関係の仕事に就いている人間など稀だろう。残念だが、ナズナにはしばらく禁断症状に付き合ってもらう他無いと諦めながら、ナオキは小麦粉に水を入れて緩く溶いた物の中に魚の切り身を潜らせてから高温の油で数分揚げる。

 徐々にこんがりキツネ色となった魚の切り身を良く油を切ってから盛り付けていると、別の調理鍋でジャガイモを揚げていたギーロフから声がかかる。

 

「ナオキさん、ポテト揚げ終わりました」

 

「そこは"ピロピー、ピロピー"って言ってくれんと」

 

 某ファストフード店のポテトが揚がる音を真似しつつ、ギーロフからフライドポテトが入った器を手渡されたナオキは少量の塩をフライドポテトに塗して揚がった魚の切り身の脇に添える。

 

「ほい、フィッシュアンドチップスの完成や」

 

 カリカリホクホクのフライドポテトとカリカリの後にふんわりとした食感が続く魚の切り身。片栗粉やビールを小麦粉の中に入れていないのでどうしても軽い舌ざわりにはならなかったのだが、ケチャップやタルタルソース。英国では王道のビネガーなどでどうとでもごまかしがきくクォリティにフィッシュアンドチップスも商品に決まる。

 

「こんぐらいでえぇやろ。後は商品開発する上でなんか出来たら報告に行くさかい、頭脳労働組は早よ仕事しーな」

 

「そうですわね。では、私はこれらの商品の金額設定などを決めさせていただきます。なにか行程が増えた場合などは私にご一報ください」

 

「僕はなるべく良さそうな狩場の選定をしてくるよ。直継、アカツキ、護衛をお願い」

 

「じゃあうちは「マリエは最終的な判断を下すのですから私と一緒!」」

 

 それぞれの役割を心得ている2人はそれぞれ行動を開始し、約1名ばかりは『梅子のいけずー』という自身の役割が一番責任が重いことを蚊帳の外にした捨て台詞と共に姿を消す。残されたギルドメンバーも、<料理人>以外はそれぞれに割り振られた作業に戻っていき、キッチンには<料理人>しか残されていない。

 

「じゃ、品質上げますか」

 

「せやな」

 

 ここから先、やることと言えば研究である。いや、むしろ商品開発はここからが本番だともいえる。

 ハンバーガーのソースの比率やハンバーグの焼き具合などといったレシピに反映できるものから、よりコストを削減するために別の材料を用いた詩作や選定。やることは盛りだくさんだ。

 

「あ、フライドチキンについてボクから1点ほど改善案が」

 

 ナオキが手を挙げながら残っている鶏肉を3本ほど水を入れた蒸し器に投入して火にかける。こうすることで骨離れが良くなるとどこかの漫画で書いてた気がするので試しにやってみたのだが、本当にスルリと肉が骨から離れた。

 その勢いに乗ってフライドチキンの改良が行われるが、件のカナリア麦の兼ね合いから肉自体の変更は出来ないという結果となり、最終的には先ほど試した蒸す行程の追加と香辛料の配合バランスを微妙に変えるのみに留まった。

 

「じゃ、次はハンバーガーやな」

 

「野菜は概ね似たり寄ったりだと思いますにゃ」

 

「そうなると、パティ、パン、ソースぐらいですかね?」

 

 レシピの変更点を記入しながらのギーロフの問いかけに全員が頷くが、ひとまずは時間がかかるパンの改良から行ってみようと生地をこね始める。酵母などを手作りした方が味わい深いと思うが、惜しむらくは時間である。簡単に出来そうな案だけを試して後は焼くだけとなるのだが、彼らは未だ止まる気配はない。そのまま台に置いてある生肉を見やる。

 

「パティの肉どうします? 一応、この辺りに出る獣系の肉は全部試したいのですが」

 

「比率変えんのは流石に時間足りないやろうしなぁ」

 

「使う肉は1種類で試作してみますかにゃぁ」

 

「そーっすね」

 

 家畜としては豚、鳥、牛。<ゾーン>に居るモンスターもボスを含めるとかなりの数になる。それらを合い挽きし、なおかつ混ぜ込むバランスともなるとそれは天文学的なパターン数が予想される。ここでも時間の都合によって全てを試作することは絶望的なため、この辺の居る猪のモンスターを含めた10種類のみで試作をしてみることにした。

 

「味だと豚ですが、手に入りやすさだったらモンスターですね」

 

「そもそもあんまり牛が美味くなかったことに驚きが……」

 

「現代は肉牛とか居るけど、昔は農耕とか酪農目的で育てられとったからなぁ」

 

 コンクリートジャングルだった面影をかなり遺している<アキバの街>を見ていたら麻痺してしまうが、<ススキノ>の外見から見るにまんま中世。いや、上下水道の概念がしっかりしている所を見るに『ローマ的な中世』。ラノベ的な物言いをすれば『なんちゃって中世』と言った方がしっくりくるだろうか。

 そんな世界に加えて大地人の感じる美味しいの基準が著しく低いため、肉牛なんて贅沢な経済動物は存在しないと考えるのが正解な気がしたナオキがにゃん太の方を見ると、彼も同意見なのかパティに使う肉は最初に使っていた猪モンスターの物に決定する。

 

「問題はどのぐらい素材としてとれるか……やな。ボスの方が取れる肉の量って多いんやろうか」

 

「これも料理と同じで実際と同じ手順で捌いたら成功とかあるんですかね?」

 

「そこら辺は試してないからなぁ。やり方も分からんし」

 

 そう、彼らはバリバリの現代人なのだ。肉は肉屋や卸売りから購入した精肉か少しでも安くするために部位ごとに切り分けられたものぐらいしか見覚えがなく、解体の方法なぞ全くといって良いほど精通していなかった。

 

 ただ、様々な事柄には例外というものが存在するのは世の常である。今回は──にゃん太こそがその『例外』であった。

 

「吾輩、猪程度ならば解体は可能ですにゃ」

 

「え、マジです? ……ご隠居ってリアルハンターとか?」

 

「まぁまぁ、吾輩のことは別に良いとして。ただ、姿が大きな物は一般的には大味になりやすいにゃ。なので、やるならば普通のを捕獲して解体した方が良いですにゃぁ」

 

 にゃん太に対して謎が深まるばかりだが、確か北の試されざる大地出身であったことを思いだしたナオキは『あそこ、熊とか出るしいろんな知識有るんやろ』とそれ以上の詮索はせずに狩場の選定に行っているシロエたちに念話でサンプルとしてモンスターを数匹捕獲するように頼み、彼らが帰ってくるまでにパンやソースの試作を続ける。

 

 何度かの試作を経て、ハンバーガーに使用するパンの生地にはバター抜き。ただ、断面にはバターを塗って野菜からにじみ出た水分からパンを守る役割が適任という結果となった。

 バターをたっぷり含ませたパンはたしかに美味かったが、思いのほかナオキの口が受け付けなかった。食べ盛りの男子とは行かずとも、セーブしなければ後々大変なことになるであろう年齢にはまだまだたちしていないのにそのような事象に見舞われたナオキは、『あれ、ボクってそんな肉体的に老いてるん!?』と軽く戦慄したのは秘密である。

 

 そうこうしている間にシロエたちが捕獲したモンスターと共に帰還してきた。

 念話では捕獲してきてほしいことしか行ってなかったため、何をするのかシロエたちは期待に胸を膨らませているが、ここから先は視覚的に『G』が入る方のRー18である。なので、セララには強制的に退去してもらい、アカツキには同意を取る形で参加してもらう。

 

「では、始めさせてもらいますにゃぁ」

 

 そう宣言したにゃん太は、捕獲したモンスターに躊躇いなく止めを刺して血抜きを行う。いつもは倒したらそのまま粒子となり、金貨やアイテムがドロップするはずのモンスターのスプラッタシーンに全員の顔色が悪くなるが、その裏でナオキは捕獲したモンスターの1匹を普通の手順で倒してドロップ品を入手していた。

 

「ナオキ、普通に倒したらダメじゃないのか?」

 

「検証用や。……まぁ、見た感じやと明らかに解体した方がええかもな」

 

 皮、肉、内臓と部位ごとに纏められた素材が台の上に乗せられていく。その量は、如何にナオキのドロップ運がゴミだとしても説明がつかない程の量であった。これにより捕獲さえしてしまえば解体次第でかなりの食材を賄えることが分かり、大量のモンスターを狩るよりも遥かに効率的であることが分かった。この気づきは本日の成果としてピカ一であった。

 

「この情報も踏まえてヘンリエッタさんに報告をしてください。調達面やコストを大幅に削減出来るかと」

 

「モンスター捕まえる檻ぐらいなもんやしな。削減できるんちゃう?」

 

 シロエの指示にギーロフは慌ててヘンリエッタの元へ走っていく。そこから数分後、ヘンリエッタが『大幅にコストカット出来ます! お手柄ですわ!』と狂喜乱舞でキッチンに入ってくる。

 会計をしている者としてコストが削減できるのは嬉しいことなのだろうが、明らかにキャラが崩壊している様に全員は全力で見なかった振りをした。

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