西風の相談役   作:マジックテープ財布

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23話:デザイン/武器を変えてみよう

 とある晴れた日のこと。魔法以上の愉快なことが降りかかるわけもなく、サラと朝食の準備を始めたナオキは暇つぶしに最近の調子を彼女に聞いていた。

 すると、どうやら未だ外に居る<冒険者>という存在は怖いらしいが、<西風の旅団>に居るギルドメンバーは別だと頬を仄かに紅く染める彼女の言葉にナオキは『えぇことや』とまな板に視線を移して調理を進めていく。そんな彼の横顔をサラが時折見ていたことを一切気付かないところが時折ナズナから『残念』や『ソウジの同類』と言われる所以なのだが、そこで気付くほどの器量良しであればとっくの昔に彼はモテていたはずなのでこの話はここまでとさせてもらう。

 

 そんなこんなで朝食が出来上がり、ミチタカの勧めですっかり食堂兼居間に改築された部屋にそれを運び込むとまばらに起きてきたギルドメンバーたちが合流。ナオキたちに朝の挨拶をした後、何も言わずに味噌汁と注いだり食事を机に並べたりと配膳をし出した。

 昨今では食事の準備を手伝わない子も居る中で全員が率先して作業に当たるのは<大災害>という未曽有の危機からの不安なのだろうかとナオキは哀れみ半分、感心半分で見ていたのだが──。

 

「イサミ君、こっちのテーブル拭き終わったよ」

 

「あ、はい。ではこっちのテーブルをお願いします」

 

 彼女たちに混じって立派な体躯の伊達男が配膳を手伝っていた。

 ナオキをはじめとして<西風の旅団>やその下部組織である<そうきゅんファンクラブ>に男は少数ながら在籍しているのだが、彼はそのどちらでもない。ナオキはフレンドリストから三佐の名前をタップしつつ、大きく『< D.D.D >』と書かれたTシャツと長ズボンスタイルでテーブルを拭いていたクラスティに声を掛けた。

 

「またかいな、クラスティさん。三佐さんに連絡入れとくからな?」

 

「あぁ、ナオキ君おはよう。ソウジロウ君にはいつも通り許可はもらってるよ」

 

 数日前と同じようなやり取りが行われる。

 そう、彼の襲来は<西風の旅団>にとって『いつものこと』なのだ。声を掛けられたイサミも慣れた調子で受け答えしていることから分かるように、<円卓会議>が発足してから数日おきにクラスティはひょっこり<西風の旅団>の<ギルドホール>に現れては朝食をたか……食べ、その後は<円卓会議>の打ち合わせのためにソウジロウたちと<ギルド会館>へと出かけていく。

 最初こそはソウジロウやナオキ同伴でやってきたクラスティに三佐やリーゼが『いきなり消えないでください』と怒ることもあったが、最近は朝食代と称して様々な食材を受け渡しながら『よろしくお願いします』と頼み込まれるのが普通となっている。

 

『それで良いのか< D.D.D >』という気持ちはあるものの、ここで言っても仕方がないとナオキはいつものようにクラスティの横に座って朝食に手を付け出した。横ではバサリと新聞を広げながら朝食を食べるという忙しいサラリーマンのようなことをし出したので、子供の教育に悪いとナオキは渋い顔をする。

 

「一膳屋は朝対応してませんからね。ナオキ君の朝食と新聞は助かります」

 

「そりゃどーも。……うちの子らが真似するし、それやめーや」

 

「君も高山女史みたいなことを言うんだね。……ほう、オキュペテーは順調そうだね」

 

「あぁ、生産系ギルドが作っとるあれか」

 

 クラスティが見せてきた新聞には『オキュペテー建造 順調か』という大きな見出しと大きな船の写真が映っている。

 オキュペテーとは、あの3馬鹿……もとい、3大生産系ギルドが協力して設計した大型蒸気船の通称である。正式名称はたしか──試作型蒸気機関搭載輸送船という長ったらしいだったか。

 自分もだが、つくづく日本人の男というものは『試作』だの『搭載』だのといったように漢字ゴテゴテの名前が好きな生き物なのだなと実感していると、緑茶を啜りながらクラスティがナオキの名前を呼んだ。

 

「それはそうと、ナオキ君。狩りに行きませんか?」

 

「えらく急やな。< D.D.D >で行けばえぇやん」

 

「うーん、そういうのとは違うんですよね」

 

 珍しく煮え切らない反応をするクラスティ。< D.D.D >では基本的にギルドメンバーでの<大規模戦闘>(レイド)を行っているので、連携練習的に狩りも同じようなメンバーで行うことが多いと聞いたことがある。

 そのため、いくら<大規模戦闘>(レイド)の援軍として呼ばれた経験があるナオキでも部外者なので邪魔にならないかと問いかけると、彼はつまらなさそうに愚痴のようなものを吐き出した。

 

「普通の狩りは飽きてしまってね。たまには別の武器を使ってみようかと」

 

「あー、いつもと違う武器で狩りかいな」

 

「そういうことになるね。なので、決まったメンバーだとちょっとまずいことになると思ったんだよ」

 

 クラスティは<マジックバッグ>から1張の弓を覗かせる。一見すればただの弓だが、アイテム名が仰々しいために何の素材を使用したかを問えば秘宝級などの高ランク素材を使った制作物らしい。

 やはり最前線をひた走る超大規模なギルドはやることが違うことをまざまざと見せつけられるが、本日は<円卓会議>で話し合う議題が1つのみという珍しい日。そんな日はいつもと違ったことをするのも悪くはないだろうとナオキとちょうど近くに居たソウジロウは二つ返事で了承した。

 

***

 

「では、会議を始めます。シロエ君」

 

「はい。本日の議題は制服について……ですね」

 

 朝食の席から1時間ほどした後。<ギルド会館>の会議室では<円卓会議>のメンバーが席に着いたことを確認したクラスティが開始を宣誓し、シロエが本日話し合う内容を提示する。

 

「制服だぁ? ンなの作る必要性あんのか?」

 

 開口一番にアイザックが文句を言う。

 制服。ある集団に属する人が着る、色や型などが定められた服装のことだが、果たしてそれは<円卓会議>で必要な物だろうか。この集団は<冒険者>の集まりゆえにそういったフォーマルな会合は間違いなく肌に合わない。

 なので、作る必要性は皆無というのが彼の意見なのだろう。アイザックに同調するように茜屋とウッドストックが頷いていると、マリエールとアインスが反論する。

 

「どっかへご挨拶行く時に必要ちゃう?」

 

「入り込んでいる<大地人>のこともありますからね。地理的にはイースタルが初めに接触して来るかと」

 

「あー、<大地人>の店を開店する時に家政婦の子が言うとったなぁ」

 

 アインスの言葉に少し前にナオキが聞いた周辺の領地の管理をしていた<大地人>の家で家政婦を務めていたらしい<えんむすび>の従業員のことを話し始める。

 はじめは『なんでそんな大事なことを報告しなかったの』とシロエから怒られたが、<ロック鳥>の一件で元々は彼がやるべき仕事を代わった時で詳しい話をする機会がなかったのだ。それに加えて既にイースタル傘下貴族が雇った<大地人>の密偵がアキバの町に入り込んでは<円卓会議>の主要ギルドの周辺や味のある食べ物について調べていることも少し前から議題に上がっているため、あえて言わなかったこともついでに話す。

 

「そこまで来ると、イースタルとの接触は時間の問題だね。なら、制服は作っておくに越したことはない……と」

 

「そういうことになります。なので、デザインについて皆さんの意見を纏めようかと」

 

 仲良くするにせよ、戦うにせよ、相手とのやり取りが必要となってくる。そこでバラバラの服装で行けば体裁だけ整っているが内部はてんでバラバラの烏合の衆と馬鹿にされかねない。デザイン用の紙を渡しながらそう話すシロエの言葉に制服不要と論じていたアイザックたちは納得し、自身の考えたデザインを紙に書いていく。

 

 ──が。

 

(シゲル先生。質問なんやけどさ、これってデザイナーの人間に任せた方がえぇ案件やないの?)

 

(俺もそう思った。一応、生産系の知り合いに声かけてみるわ)

 

(珍しくミロードがやる気になっているので見守りたいです)

 

(とりあえず、私たちで招集できる人員は集めておきましょう)

 

(アイザック君もやる気みたいですし。ここでやめさせると不機嫌になるので、私たちで知り合いに声をかけておきましょう)

 

 ナオキを含め、ギルドマスターに付いて来た副官たちは『餅は餅屋なのではないか』と相談し始める。ただ、アイザックなどヘソを曲げられると面倒臭いギルドマスターも居るために一旦席を外したナオキたちは念話で<裁縫師>のサブ職業を持ったデザインセンスが良い知り合いに声かけを行っていく。

 

【あ、お世話になります。ナオキですわ。ちょっと依頼したいことがあるんやけど】

 

【そうです。服飾系の職業についていた方が望ましいのですが】

 

【<円卓会議>で使う制服だとよ】

 

【リリアナ? ちょっと会議室へ来ていただけませんか?】

 

【ゴリマッチョTシャツのデザインを決めているから無理? なら仕方がないですね】

 

 ナオキ、三佐、シゲル、ヘンリエッタ、レザリックがそれぞれデザインが出来そうな<冒険者>に声を掛ける。

 ……約1名だけ断られたらしいが、他の人員は暇だったのか少ししたら集まってくれた。誰も彼も初めて見る顔だったために狼狽える<冒険者>たちに、三佐が招集した理由──<円卓会議>で使用する制服のデザインを協議するために呼んだことを話すとそれぞれは納得顔で仕事にとりかかろうとした。

 

「あ、仕事始めるんは待ってな。今、ギルドマスターたちがデザインしとるから」

 

「え、それって俺ら必要なくないですか?」

 

「本来ならな。ただ、あの中にデザイン関係の仕事しとるのが居ったらの話やけどな」

 

 待ったをかけたナオキが含みを多分に含んだ言葉を話すと、事情を知った<冒険者>たちは一様に表情を曇らせる。何を隠そう、シロエを含めたギルドマスターは完全素人な状態で制服をデザインするという苦行を行っていたのだ。

 その事実に現実世界で就いていた職業のプライドが刺激されたのか『デザイン舐めてるのか』と言い出しそうな数名を何とか宥めていると、その中の1人が手を挙げる。

 

「一体何をデザインしてるんでしょ」

 

「あ、それは気になるな。ちょっと見てみよか」

 

 彼の言葉で一気に見学気分へとシフトした全員は思い切って会議室の扉を開ける。すると、既にデザインの発表会が行われており、それぞれの目がナオキたちを射抜く。

 

「ナオキ、後ろの人たちは?」

 

「紹介は後でするわ。とりあえず、出来上がったやつ見せぇ」

 

 やや強引にそれぞれの前からデザインが書かれた紙をひったくったナオキは副官たちとデザイナーたちでデザインの確認に入る。

 

 まずはマリエール。全体的にリボンや少女趣味に尖りすぎた装飾が多く、男性が着るとアンバランス感が否めないのでNG。

 

 次にアインス。男性は和装で落ち着いたデザインだが、女性は十二単のようにやや着るのに面倒臭いデザインなのでNG。

 

 グランデールはどこかへツーリングへ行くようなピッチピチのバイクスーツ。スーツは牛型モンスターの皮。各所を防護するプロテクターは角で作って欲しいと素材のこだわりもあるらしいが、それは自分用に作って欲しいということでNG。

 

 茜屋は一番まともであったが、所々の装飾が華美過ぎて嫌に目立ってしまうだろうというデザイナーの提案でNG。

 

 クラスティは……、一番はっちゃけているらしい。『らしい』というのもいち早く彼の名前が書かれた紙を見た三佐が一瞬の内に引き裂いてクラスティに小言を言いに行ったのだ。

 向こうから『面白いだろう?』という言葉が聞こえてくるので、かなり碌でもないデザインだったのだと推測するしかない。

 

 アイザックは制服を作業用と勘違いしているのだろう。そうでもなければ工事現場の兄ちゃんが着ているようなタンクトップに作業ズボンというデザインを考えないはずだ。

 レザリックの抗議に『良いだろ、動きやすいぞ』や『マジおすすめ』と言っているところを見るにアイザック自身は本気の提案っぽいが……制服の使い所がフォーマルな場なので論外だ。

 

 カラシンとシロエは良くも悪くも『一般的』であった。片やスーツ、片や学校の制服調でリアルでは冠婚葬祭に身につける備品に気を付けて着て行けば概ね間違いがない選択ともいえる。

 ただ、この世界にはそういった習慣はないだろうし、黒や紺一色の制服を着た集団はちょっと薄気味が悪いだろうという指摘で没が決まる。

 

 他にも様々なNGがあったが、ナオキはソウジロウの書いていたデザインを見て『うわぁ』と言うや否や、その紙を丸めて彼の元へと向かう。

 

「ソウジロウ」

 

「あ、ナオキ。どうですか? ボクのデザイン」

 

「それ、男はどうするんや?」

 

「え、それはもちろん着ますよ」

 

「お前だけこれ着とけや、ボケェ!」

 

 怒髪天を突いたような叫びと共に丸められた紙がソウジロウの頭部に炸裂する。

 彼の書いた制服のデザイン。それは白いブラウスとスカートにエプロンがついたクレセントムーンスタイルであった。

 さらに言えばまさかのユニバーサルデザイン。ナオキが怒るのも当たり前だとシロエは遠い目をするが、収拾がつかなくなってきたので近くに居たヘンリエッタに先ほど副官たちと入って来た<冒険者>について尋ねる。

 すると、彼女はシロエの他にカラシンやミチタカ、ロデリックといった生産系ギルドのギルドマスターを見やりながらため息をつくと、副官たちで決めたことを語り出した。

 

「シロエ様はともかく、皆様は大勢のギルドメンバーがいらっしゃるのに自分で何でもできると勘違いされているのではないでしょうか? "餅は餅屋"ということわざがありますわよ?」

 

『……あっ!』

 

 話しかけられたそれぞれは一様に叫んだ後、すかさずこの場には参加していない自らの右腕に念話。即座にギルド内や傘下の服飾系ギルドから人を寄越すように指示をするとヘンリエッタに対して腰を折った謝罪をした。

 

「いやぁ、すまない。確かにそうだ」

 

「えぇ、別に私たちがそんなことをする必要も無かったんです」

 

「なんで気付かなかったんでしょうね」

 

 それぞれ謝罪してくるが、最初に声を上げたのはデザインが書かれた紙をハリセンにしていつまでもソウジロウの頭に叩きつけているナオキである。他人の手柄を奪って居るようでちょっと居心地が悪かったヘンリエッタだったが、気を取り直して呼ばれたデザイン関係の<冒険者>たちの紹介を始めていく。

 結局、生産系ギルドが呼んだ服飾系ギルドの<冒険者>たちとナオキたちが呼んだ知り合いで1つのチームが発足し、<円卓会議>はそこにデザインと現物の作成を依頼するという形となった。

 

***

 

 <シンジュク御苑>。シンジュクの街の近郊にある<ゾーン>で、<アキバの街>に近い割には<ポイゾナス・トレント>や<フクロウ熊>(オウルベア)といった中型から大型でレベル70代といった高レベルモンスターが跋扈している危険地帯である。

 <大災害>以降は各<ゾーン>へ侵入する際のアナウンスや情報が勝手に表示されないために迷い込んでしまって全滅するという<冒険者>がチラホラ居たため、<円卓会議>は注意喚起の看板や定期的な巡回といった対策を取っている危険地帯だ。

 しかし、そんな看板を無視し、時折遭遇する巡回の<冒険者>に挨拶をしながら通り過ぎる一団が居た。

 

「やはり、たまにはいつもと違うメンバーも良いですね」

 

「うちもそろそろ本格的な連携の練習にこっちに来るべきかな」

 

「おや、いつも我々と先陣争いをしているのに些か足が遅いのでは?」

 

「死ぬ感覚なんて進んで味わいたくありませんからね。だから練習するんです」

 

 弓を担ぎながら歩くクラスティが意外そうな顔でソウジロウを見る。<西風の旅団>ならば<シンジュク御苑>どころかもう少し足を延ばして強いモンスターや軽い<大規模戦闘>(レイド)を日常的にやっていると思っていたからだ。

 しかし、洗濯物を干すのに使う棒──正真正銘の物干し竿を担いでいたソウジロウの言葉にいくらか死んだ覚えのある彼は『それはそうだね』と肩をすくめる。

 そんな彼らが<ゾーン>の中心部へ向かって移動をしていると、大きな影が彼らの前に立ちはだかった。

 

「リアルの熊ってこんな感じなんですかね」

 

「何食ったらこんなデカくなるんかね」

 

 <フクロウ熊>(オウルベア)。熊の胴体にフクロウの頭がくっついたモンスターだ。レベル74とクラスティたちには取るに足らない存在ではあるが、目の前の個体は凡そではあるが2メートル弱。その圧倒的な大きさを前に<大災害>以降初めて見る『生<フクロウ熊>(オウルベア)』をナオキとソウジロウが『はえ~』という表情で見上げていた。

 

 ただ、そんなほのぼのとした雰囲気は<フクロウ熊>(オウルベア)の威嚇ともとれる叫びによって霧散する。クラスティの指示で即座に前衛と後衛を構成。戦闘を開始する。

 

「せいっ!」

 

 気合の入った声と共にクラスティが<フクロウ熊>(オウルベア)に矢を射掛けるが、その軌跡は2メートル弱あるモンスターの頭部よりもはるか上を飛んでいく。そのノーコン振りに戦場は<フクロウ熊>(オウルベア)含めて一気に静かになるが、そのなんとも言えない空気をぶち壊したのはソウジロウだった。

 

「せいやぁ!」

 

「ゴゲェー!」

 

 <冒険者>の人間離れした跳躍力で飛び上がったソウジロウは手に持った物干し竿で<フクロウ熊>(オウルベア)の頭部を強打。レベル90の腕力というとんでもないバフによって凶器と化した物干し竿の一撃によって、既に<フクロウ熊>(オウルベア)のHPが風前の灯火であった。

 正直に言えばこのまま見逃してあげても良いぐらいの惨状であったが、モンスターの脳内辞書には『逃走』という2文字はないのだろうか。弱弱しく立ち上がりながらもこちらに立ち向かってくる。

 

「やれやれ、戦力差も分からないんですか……ねっ!」

 

 動物としての本能すら捨て去った行動にクラスティは呆れつつも2射目を放つ……が、その矢は<フクロウ熊>(オウルベア)に命中することなく遠くの地面に突き刺さる。

 明らかに射撃が苦手そうなクラスティに業を煮やしたナオキが『別の武器にしろ、ノーコン』と言いだそうかとしたその時であった。後衛のはずのクラスティが<フクロウ熊>(オウルベア)の攻撃を弓でいなしながら近づき、あろうことか無防備となった腹にぴったりと弓を突きつけたのである。

 

「この距離なら流石に外しませんよね」

 

 言うが早いか、素早く矢を番えたクラスティは何度も何度も弦を引きのばしては撃つを繰り返す。

 ちなみに1射ごとに矢を変えているのではなく、突き刺さった矢を弦で引き抜いてからさらに撃つという鬼畜の所業をやってのけているため、1射ごとに<フクロウ熊>(オウルベア)は苦悶の叫びを上げる。

 

 そんな拷問……失礼、戦闘を繰り広げていると<フクロウ熊>(オウルベア)のHPもミリ残り──確殺圏内に入ってくる。それを見たクラスティは射撃を止め、今度は弓自体を大きく振りかぶる。

 

「はっ!」

 

「ギャァァス!」

 

 様々な秘宝級素材で制作された無駄に高価で強固な弓でぶっ叩かれた<フクロウ熊>(オウルベア)はそのまま息絶え、ドロップ品を落しながら光の粒子となる。後に残されたやり遂げたような表情のクラスティにナオキは一言。

 

「それ、弓の使い方やないやろ」

 

 率直かつ正論を言い放った。

 しかし、クラスティはその正論を『つまらない』と一蹴。そうやって再び近くに寄ってきた<フクロウ熊>(オウルベア)を同じような手法で屠ろうと近づいて行った。

 

「凸砂やのうて凸弓かいな。新ジャンル過ぎるで」

 

「ではあちらは凸魔法使いになるんでしょうか?」

 

 高笑いをしながら矢を接射するクラスティに対してモニョっていたナオキに三佐が近づいて来る。時折、首から下げたサンボホイッスルを口に当てて短い音を奏でるその姿は軍隊における鼓笛隊の指揮者に見えるが……、彼女の職業を知っているナオキの目には保母さんのように見えた。

 ──絶対、口に出さないが。

 

 そんな彼女が指を指す方向にはリーゼとソウジロウが<ポイゾナス・トレント>という歩く樹木に攻撃を加えていた。

 顔が浮かんだ樹木の根に向けてソウジロウは物干し竿をフルスイング。長い1本の棒で出して良い音ではない破壊音を伴って<ポイゾナス・トレント>の根を壊していく。

 

「リーゼさん!」

 

「はい!」

 

 根を壊したことでバランスを崩した<ポイゾナス・トレント>に後衛からリーゼが躍り出る。<ブリガンティア>に所属していたロンダーグのように、リーゼのような<妖術師>(ソーサラー)はモンスターの動き合わせた位置転換以外は後衛に立つべき職業である。

 ただ、今の彼女は杖を持っておらず、代わりに魔導書を携えていた。

 

 バランスを崩した<ポイゾナス・トレント>にダッシュで駆け寄った彼女はその魔導書を振り被り──。

 

「やぁっ!」

 

 <ポイゾナス・トレント>の眉間に勢いよく振り下ろした。レベル90の<冒険者>が持つ腕力の賜物か、それとも秘宝級の素材で作り上げられた魔導書の背表紙がとてつもなく硬かったからだろうか。魔導書を叩きこまれた<ポイゾナス・トレント>の眉間から亀裂が走ったかと思いきや、あっという間に光の粒子へとなって虚空へ消えて行った。

 

「やりましたわー!」

 

「<ギルドホール>から持ってきたんですが、ただの棒も面白いですね」

 

 嬉しそうに飛び跳ねるリーゼの横でソウジロウが嬉しそうに物干し竿をブンブン振っているが、あの棒も実はナオキやナズナが<マジックバッグ>にあったゴミ。もとい、自分では使い道のない秘宝級の素材をふんだんに使って<海洋機構>のギルドマスターであるミチタカの手で昔に作ってもらった趣味武器である。

 今ではもっぱらサラやナオキ、ひさこなどといった拠点班に洗濯物を掛けられる存在に成り下がってはいるが元々は結構すごい武器なのだ。……多分! 

 

「なんやろう……。すっごい違和感しかないんやけど」

 

「ミロードの発案ですからね。想定通りにいかないのも致し方ないかと。それよりもナオキさんはなにを持ってきたのですか?」

 

「ボク? ボクは……これやな」

 

 ナオキが<マジックバッグ>から取り出したのは、鎌と分銅を長い鎖で繋いだ武器──つまるところの鎖鎌であった。見慣れぬ武器に三佐がそれを見ていると、都合よく少し遠くから<フクロウ熊>(オウルベア)が1匹だけでこちらに向かって来る。

 敵を認識したナオキが意気揚々と鎖鎌を構えるが、見るからに扱い辛そうな種類の武器に三佐は心配そうに彼に問いかけた。

 

「大丈夫ですか? 扱えるんですか?」

 

「ふっふっふ。何を隠そう、ボクは町内鎖鎌大会5位の実力が……あったら良いなぁ」

 

「どこにそんな奇怪な大会があるんですか」

 

「分からんで。半狂乱になりながら坂から丸太転がす祭りもあるんやから」

 

 微妙に自慢なのか分からないラインのネタを披露しながら鎌の方を振り回すナオキ。ビュンビュンと風切り音を伴わせつつも<フクロウ熊>(オウルベア)との距離を見計らった彼は、唐突に握っていた鎖から手を離した。

 回転させたことで速度が上乗せされた鎌は横薙ぎの形で<フクロウ熊>(オウルベア)の腹部を切り裂き、弧を描くようにナオキの手に──。

 

「あぶなっ!」

 

「あの、何をしてるんですか?」

 

「いや、刃の部分掴んだら怖いやん?」

 

 ナオキが鎌を掴もうとした手を引っ込めたことで、鎌は近くの木に深々と突き刺さる。ようやく止まった鎌をいそいそと回収する彼の情けない姿と言動に三佐は呆れながらもピューピューとサンボホイッスルを奏でることで支援を行う。

 その後も何度か投げ飛ばした構や分銅を掴もうとしたがすべて失敗。最終的には分銅が彼の頭部にめり込んで『前が見えん』となってしまったことが引き金で『なんやねん、この扱いにくい武器! 鍬で稲〇殺法しとった方が良かったわ!』と謎の逆ギレをしていると、クラスティたちが普段使いの斧を担いで戻ってきた。

 

「飽きました。それに私には弓の才能があまり無いみたいです」

 

 聞けば遠距離では絶えず外し、その都度接近して接射をしてモンスターを討伐していたらしい。その都度回復してもらう中でふと、『あれ、これはつまらないな』という自覚が芽生えたのだとか。

 たしかに遠距離武器をクソ外しすると萎えるのは分かるため、突如として『飽きた』と宣言する彼に対して似たような感想を頭に浮かべていたナオキは何も言わずに『帰ろか』と告げる。

 

 なお、リーゼの魔導書は背表紙でぶっ叩きすぎてページがバラバラになった後に風に飛ばされて回収不能。ソウジロウの持ってきた物干し竿は所々凹んではいたが無事に生還したため、<西風の旅団>の<ギルドホール>にある洗濯場に無事に納められたとかなんとか。

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