西風の相談役   作:マジックテープ財布

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33話:合流

 クラスティを叱りつけたナオキが部屋に戻ってくると、部屋に居た全員の視線がナオキの身体を貫く。全員からとてつもない圧を受けたことで理由が分からず少々気圧されるナオキであったが、死んだ時の記憶に欠落について聞いてきたシロエに彼は『なんかヘマしたんやと思った』と胸を撫で下ろしてから自分の考えを語り始めた。

 

「記憶を失う言うてもなぁ。どこがどのぐらい削れたって証明できひんやん。忘れてもうてるんやから」

 

「ですが、ミロードは猫の名前を覚えていないと」

 

「それはほんまに居ったんか? 少なくともボクはボイスチャット中に妹さんと話したことはあるけど、猫の声は聞いたことないで」

 

「あぁ、その節は義妹がお世話になりました」

 

 かなり前だがクラスティが離席中に義妹が襲来し、『ネットリテラシー』の言葉を全く理解していなかった彼女がマイクを使ってはしゃいでいたのでナオキが軽く注意をしながらリアルのことを話さないという条件で話し相手になっていたことがあった。

 当時のことを思い出しながら『ありましたね』と呟くクラスティだったが、問題はそこではない。ナオキは猫について再度問いかけてみると、途端に彼は急に顔色を悪くしながら頭に手をやりながら思い出そうと奮起する。

 

「あれ……居たような……あれ? 高山女史……居ましたよね? 少なくとも、現実世界では猫を理由に面倒な会合を中座した記憶があるのですが」

 

「すみません、私もあまり記憶にないです」

 

「それ、もしかして架空の猫やない? イマジナリーな存在作って、面倒な用事はそれで逃げる人って前の職場にも居ったで?」

 

 推測された仮設の真実味が強いことで徐々に記憶を失った根拠について不安になってきてきたクラスティと三佐。そんな2人を一旦無視したナオキが『記憶を失うことは思うほど恐怖ではないこと』と力説するが、それでも記憶を失うことに関しては看過することが出来なかったミチタカが異議を唱えてきた。

 

「確かにどうでも良い記憶もあるが、中には家族構成とか大切な記憶はあるだろ? それを忘れたらどうする」

 

「流石に職場とか、家族構成は大事の内に入るで。でも、記憶ってボケてコロっと忘れとる場合もあるやろ? それに対してあれこれ言うのって、どうしたって悪魔の証明になるで」

 

 この場合、一番恐ろしいのは記憶を失ったことが重要なことに解釈されることだ。確かに重要なことだが、最悪なのは『早とちり』や『元々忘れていたこと』をさも死んだことで失ったと勘違いして暴走されることである。

 悪魔の証明ともいうべき『無いことを証明する』ということは想定されるすべての可能性を否定しなければならず、生半可なことで反論することは不可能だ。

 

「では、ナオキさんは別に記憶を失ってもいいと?」

 

「いや、そこまでは言っとらん。なるべく死なずに立ち回るとか、現状で思い出す限りのことを紙に書いて記録とかあるはずやろ。そういった対策を講じるべきやと言っとるんや」

 

 毒が蔓延する<ゾーン>を踏破する前に毒耐性を付与するポーション。疫病を振りまくモンスターとの交戦が予想される<ゾーン>に行く前に予防のポーション。っといった具合にリスクを覚悟で進まねばならない場合、リスクに対する対策は大事である。

 

 今回もそれと同じ。記憶を失うのなら保存すれば良いのだ。

 とりあえず今は、ノートだったり日記だったりと記録をすることぐらいしか思い浮かばないが、何もしないよりはマシだろう。

 シゲル曰く、人間がここまで種族を反映で着て来たのは、現在を記録出来る種族だったことが大きいらしい。特に日本人はそこいらから当時の内情を書いた木簡や書が発掘されているぐらい記録大好きな種族だとも言っていた。

 ならばやれないという道理はどこにもなく、上手く話を転がせば今後の憂いも断ち切れるという物だ。

 

「逆に記録出来へんような朧げな記憶なんて無くなっても問題ないっちゅーことや」

 

「そんな乱暴な……。でも、考え方としては悪くないんだよね。考え方は」

 

 あまりにも力業な対策にシロエは呆れるが、他に手を考える時間もこれ以上の案が出てくる保証もないために死のデメリットを緩和するための対策はナオキの手段を講じることに決まる。

 

 そうなると後の問題は<緑小鬼>(ゴブリン)に対しての備えである。<自由都市同盟イースタル>からの要請があろうがなかろうが降りかかる火の粉を払う必要があるため、少なくとも<アキバの街>の<冒険者>を纏め上げる必要がある。

 その為に先の念話会議で<西風の旅団>に<エターナルアイスの古宮廷>の守りについてもらうよう依頼をしたので、彼らが到着次第で代表者はミチタカを除いて<アキバの街>へと帰還する手はずになっている。

 

「こっちにソウジロウが来るんか?」

 

「< D.D.D >や<黒剣騎士団>も考えたんだけど、<冒険者>が沢山来るのは<大地人>の刺激になるからさ。それに、<西風の旅団>は女の子が多いだろ? だから多少は<大地人>からの敵意も減るかなって……どうしたの?」

 

 心配事が出来たとばかりに手を頭にやったナオキにシロエは何を気にしているのかを尋ねる。戦闘面ではたしかに大型戦闘系ギルドには負けるが、<西風の旅団>も決して劣っているとはシロエも思っていない。

 それどころか、大型戦闘系ギルドでは出来ない『数の少なさに頼った機動戦』ならば<アキバの街>では<西風の旅団>が随一だ。

 他に何か問題でもあるのだろうか。シロエが不思議に思っていると、ナオキは小さく『ソウジロウをあの姫さんたちに会わせるんかぁ』と、心底心配しているかのような口調で理由を言う。その理由にナオキの気にしていたことについて一気に理解が進んだシロエは、予想される事態を即座に想像してからナオキと同じポーズで悩み始めた。

 

 たしかに戦闘面だけで見れば<西風の旅団>は最適だが、問題はギルドマスターの天然ジゴロ体質である。<冒険者>でも<フルレイド>以上の戦力をその無自覚タラシ属性で用意する男がソウジロウだ。そんな彼に免疫の少ない姫君が接触すればどうなるか分かったものではない。

 最悪を考えればキリがないが、貴族関係でパワーバランスが崩れた末に円卓が割れる事態になる可能性もあるといえばある。

 

「ナオキ、他に候補は?」

 

「<地獄の潜水士たち>は……あのテンションをこっちに持って来られると困るしなぁ。<第08ゴーレム小隊>は……人数的に少ないし。居らへんな」

 

 やたら間違った民主主義を押し付けてくるボウガン使いたちや、いつもゴーレムを3つしか呼び出さない集団がナオキの脳裏にリストアップされるが、そのどれもが定点防衛に不向きだ。シロエたちも同じような感じで結局決められないまま、<西風の旅団>以上に適任者は居ない──ということになった。

 

「ナオキ。分かってるとは思うけど、ソウジロウをちゃんと見といてね?」

 

「見ることは見るで? でも、決めたんはクラスティさんとシロエやからな。なんかあっても責任はそっちやからな?」

 

 暗に責任はシロエたちにあることをアピールするナオキ。たしかにそうなのだが、もうちょっと手心があってもいいのではなかろうか。具体的に言えば、『なんかあったらボクも謝るから』とか、『バカだなぁ。拙者が居るよ』と笑いかけてくれても罰は当たらないだろう。……半分は冗談だが。

 

「失礼します。<西風の旅団>という方がシロエ様に面会を申し出ています」

 

「失礼します。セルジアット・コーウェン様より<円卓会議>の皆様にヤマト列島北部の治安状況について協議したいと言付かっております」

 

 そうこうしていると2人の衛兵から全く別の要件が伝えられる。ダブルブッキングの形だが、一番優先したいのは<大地人>貴族との会合なのはここに居る全員分かっている。なのでシロエはナオキにソウジロウを出迎えさせ、そこから<アキバの街>の様子やシロエ側のことを情報交換しながら一室で待ってもらうように指示を出した。

 

「記憶に関しては?」

 

「ナオキの判断で開示して良いよ。僕たちはセルジアット公の方に行って、後で事情を説明するために合流するから」

 

「分かったわ。じゃあ、ちょい行ってくる」

 

 シロエの指示に従って<円卓会議>の借りている部屋から抜け出したナオキ。内心でソウジロウが失態をやらかしていないことを祈りながら<エターナルアイスの古宮廷>の出入り口付近まで進んでいると、入り口の方から兵士の声や女の子から発せられたと思われる黄色い声が聞こえてきた。

 

「あー、手遅れやったか。しーらねっと」

 

 悪いのは自分じゃない。悪いのはシロエとクラスティさんだ。だから、何を言われてもそう反論すればいい。

 理論武装を完璧にしたナオキが曲がり角を曲がると、そこにはべたな言い方をすると興奮で鼻血を出した1人の姫と彼女を抱き起して声を掛ける別の姫。そして、剣に手を掛けながら『なにをした』と怒号を発する兵士にそれらの反応から首を左右に振って何もしていないことを必死にアピールするソウジロウの姿であった。

 

「あ、ナオキ! 助けてください!」

 

「貴殿は<円卓会議>の……。一体、どういうおつもりですか!」

 

「たしかクラスティ様と戦っていた方ですわよね! ぜひともお話をお聞かせいただきたいですわ!」

 

 もはや話題が膨大過ぎてカオスになりつつある現場。これからこの状況を収拾しなければならないことに、ナオキは元来た道を戻りたい衝動に駆られる。

 だが、このまま放置するのも問題が大きくなってシロエに迷惑がかかるのは明白だ。そのため、序列的に最優先で対処しなければならないもう1人の姫君──フェヴェルに向き直って膝を付いたナオキは彼女の手を壊れ物を持つような手で触りながら目を見ながら口を開く。

 

「お戯れを 自分はクラスティ殿と違って従者。そのような下賤な者との会話など、姫の品位に係わります」

 

「は……、はい」

 

 誠心誠意の謝罪のつもりだったが、フェヴェルの頬が赤くなっている。

 もしかしたら謝ったことで『恥をかかされた』と怒っているのだろうか。彼女の表情は読み取れないが、顔色からそう思ったナオキが何とか穏便に断ろうと言葉を模索していると、その前に兵士の1人が剣に手を掛けながらソウジロウとナオキに威嚇する。

 

「な……、フェヴェル様も顔が赤く……! 貴様ら、何を!」

 

「あー、悪気はないんだよ。ただ、あまり近づかない方が良いよ? あいつらの"気"に充てられちまうからさ」

 

「気……だと!」

 

「そうさ。一流の<冒険者>が放つ独特の圧ってやつさね。お嬢ちゃんたちにはちぃっと早すぎたみたいだね」

 

 もはや収集つかないレベルにまで至った現場にナズナの説明が入る。

 しかし、なにが『気』なのだろうか。いつからこの<エルダー・テイル>と似た世界に怒りで金髪になったりする世界の概念が取り入れられたのだろう。そう突っ込みたいのも山々だったが、<冒険者>のことについて知らない兵士やフェヴェルがナズナの説明で納得しだしたのでナオキはそれ以上は何も言うことなく<西風の旅団>を<円卓会議>が借りているスペースに案内しようとする。

 

 だが、思いのほか復活が早かったアプレッタとフェヴェルによってその計画が潰された。

 

「あの、私たちこれからちょっとしたパーティに参加しますの! ソウジロウ様たちも是非ご出席くださいな」

 

「いや……あの……」

 

 はやくも『様付け』なことに恐怖するナオキの横で何とか断ろうとソウジロウが四苦八苦している。だが、女性ファーストの精神を持つソウジロウがそういった申し出を断るのには向いていないし、ここでナズナがしゃしゃり出て下手に強い口調で断ると貴族の顔に泥を塗るような行為と言われかねない。

 

 結局、自分が出張る羽目になってしまうことにナオキは内心で貧乏籤を引かされたと嘆く。

 

「一旦、準備のために部屋をお貸しいただけないでしょうか?」

 

「そうですわね! 皆さんのドレスもご用意して差し上げないといけませんわよね!」

 

 ナオキの提案に乗り気だと勘違いしたアプレッタが近くに待機していた侍女に2~3言申しつけると、侍女は『こちらへ』とソウジロウたちを誘導する。ここで頑として断ればまた状況は変わったのだろうが、ナオキもソウジロウもナズナも『NOと言えない日本人気質』なので、そのまま流れに流れていつの間にかとある一室に集まってしまった。

 

「困りましたね」

 

「困ったねぇ……」

 

「なんでこっちが悪いみたいになっとるん? どう考えてもそっちのせいやろが」

 

 イサミたちが部屋の広さに騒ぐ中、ソウジロウたちは固まってそれぞれに責任を負わせようと躍起になっていた。

 無自覚なジゴロを振りまいたり、監督不行き届き的にはソウジロウやそれを制御するナズナの方が悪い。しかし、<円卓会議>に付き添って<エターナルアイスの古宮廷>の中で起こったあれこれを経験しているナオキが断れば丸く収まった可能性もあるので一概にソウジロウたちを糾弾できないのもまた事実。結局はシロエに待機する部屋が変わった点と会議終了を伝えてもらうように兵士に頼むことで何とかなったのだが、そこに本題であるパーティに着るためのドレスが届いた。

 

「あ、あああの! アプレッタ様とフェヴェル様がお貸しくださった。ド、ドドドレスですぅ!」

 

「あら、嬉しい。あ り が と♡」

 

「こらー、ドルチェ。あまり威嚇すりゅなよー。可愛そうらろー」

 

 応対していたドルチェの圧にすっかり委縮した兵士を見たナズナは、酒の入ったグラスを傾けつつろれつが少々怪しい口調で注意する。部屋に通されてさほど時間が経っていないのにも拘らず、既に『完全体』への成長を残すのみの彼女に早々に見切りをつけたナオキは『せっかくやから着付けてもらい』と歓待のために呼ばれたメイドや着付け方を心得ているドルチェ含めてイサミたちを別室へ誘導する。

 

「随分と荒っぽい誘導ですね」

 

「しゃあないやろ、今後に関することや。そういうわけですので、兵士の皆さんも少々席を外していただけるとありがたいです」

 

「いや、しかし我々も職務なので」

 

「こちらは<円卓会議>が招集したギルドですので、何か不手際がありましたら責任は<円卓会議>が負います。なので、ここは何卒……」

 

 <大地人>側の事情もあるのだろう。退出してもらえるように頼んでも兵士たちは狼狽えながら拒否をする。だが、<冒険者>が死んだら記憶を失うかもしれないという特級の情報を貴族たちに知らせるわけにもいかないのでナオキは<円卓会議>の責任だということを強調させて無理やり退出させる。

 

 そして、そんな強硬策といつもはしない標準語での会話にこれから話すことの『ガチさ』を感じ取ったソウジロウは表情を強張らせ、ナズナも飲んでいたグラスをテーブルに置いて酔いから冷めるために頭を振る。

 こうして部屋の中が3人のみになったところで改めてナオキはシロエ経由で話された死のリスクについての話をした。

 話し始めこそ突拍子のないことで『またまた御冗談を』と笑い飛ばしていたソウジロウとナズナだが、クラスティという根拠やシロエが聞いて来た魂魄理論の話を交えて説明すると徐々に真顔になってくる。

 

「ゲームの仕様が今では世界の理。微妙に理解しづらいですね」

 

「そだね。HPだのMPだのは理解できるけど、それらが人間を形作るってどこの新興宗教だよ」

 

「ボクも理解は出来んけど、話としては合ってるんやないかと思っとる」

 

 いきなりの特大情報をぶつけられて混乱気味の2人にナオキは自分が理解したような説明も追加する。散らばったものをすべて集めて再構築するよりも、多少欠落した内容を再構築する方が信憑性が高いと思うのが自然だとナオキは考えている。

 そして、<エルダー・テイル>時代は死からの復活に『経験値』が必要となってくる。読んで字のごとく、『経験した値』なため、ちょっと乱暴だが『経験した記憶』と読み替えればわかりやすいのではなかろうか。

 

 さらにいえば、1度死んだ際にナオキは『なにか』を手放している。それがなにでどういったものなのかは残念ながら分からないが、それがシロエのいう『記憶』だとすればどうにもしっくり来る気がしたのだ。

 

「なるほどねぇ。だけど、これが<アキバの街>に流れたら……<冒険者>は危ないよ」

 

「そうですね。今まで死はリスクではないといった空気でバンバン<大規模戦闘>(レイド)とかに突っ込んでいったわけですからね」

 

 <大災害>以降、積極的に街の外に出て狩りなどを実施していた<冒険者>が今の<アキバの街>をここまで活気づかせたと言っても過言ではない。彼らからしてみれば、死など多少狩りをして経験値を集める手間が増えるだけで特に恐れることもなく突っ込むことが出来たのだ。

 

 だが、今回のこの情報は少なくとも彼らの足を鈍らせるには十分な破壊力があるだろうとナオキは勝手に思っている。記憶というふんわりした内容だが、その人物を確定付ける最も重要な部分。それを担保に取られるという恐怖は何大抵のことでなければ跳ね返すことは叶わない。

 中には<大災害>以降に散見された『リアル過ぎる戦闘』に怯えた<冒険者>と同じで一線から退く者も出て来るだろう。さらにそういった者が増えれば狩りに行く人員も減るのは当然で、そこから物資の供給が滞るのは火を見るより明らかだ。

 

「なるほどね。それでシロエの指示がちょっとモヤってたのかい」

 

「そんなに不自然やったか?」

 

「はい。いつものシロ先輩ならこう……。スパァーっと恰好良く決断するんですけど、今回はそうじゃなかったんで」

 

 シロエほど頭は回らないと自負しているナオキやナズナ。そして前衛バカのソウジロウでさえもここまで考えられるのだ。もしかしたらもっと大変なことになるかもしれない。シロエの煮え切らない念話にソウジロウとナズナが納得していると、着替えていたイサミたちがノックした音が聞こえてきた。

 

「お、準備できたみたいだね」

 

「この話はここで終わりにしましょうか。ナオキ、くれぐれも」

 

「分かっとるわ。とりあえず、兵士の皆さんも呼ぶで」

 

 秘密の話が済んだことで兵士含めて同じような顔ぶれが再び集合する。案内された時と違うのはアプレッタやフェヴェルと歳や体形が近いイサミ、キョウコ、ひさこがそれぞれ貸し与えられたドレスを着ていることぐらいだろうか。

 ドレスを纏った淑女3人をソウジロウが褒め、オリーブの『ドレスはソウ様との結婚式で着れれば良い』というぶっ飛んだ発言に誰も反応せずにいると、メイドがパーティ会場への案内を買って出てくれる。

 

「ナオキ、パーティってどんな感じなんです?」

 

「従者扱いやったからクラスティさんの体験になるんやけど、まずは軽い食事をしながら交流。次に気になった相手をダンスに誘ってそこから2人きりの交流に繋がるみたいやで。食事は参加する対象年齢や立場で立食や座っての食事会で別れるみたいやけど……。たしか、今回も若手騎士とか若い領主候補が対象やんな?」

 

「あ、はい。なので、立食形式のちょっとしたお見合いの場になると予想されます」

 

 ペラペラと事前情報を兵士に確認するナオキ。その中で『お見合い』という言葉にソウジロウとナオキ以外の<西風の旅団>メンバーが姦しく反応する。彼女たちはすぐさまソウジロウの方に顔を向けると、彼はナオキと『楽しそうですねー』や、『堅苦しなかったら現地の話聞けるから楽しいで』と気楽に会話していた。

 

「じゃあ、参加しようかなぁ」

 

『ダメ!』

 

「まぁ、今回はお見合いみたいやしなぁ。ソウジロウ行ったらすごいことになりそうやな」

 

『そう! だから、駄目っっ!』

 

 力強く拒否するナズナたちにナオキは納得する。

 年若い姫君たちにとって最高峰の<冒険者>の1人であるソウジロウは劇薬と同じだ。彼と少しでも話せばその魅力に取り付かれ、ソウジロウが会場内を歩き回るのを後ろからついて来る『某引っこ抜かれて~』なゲームの主人公と不思議生物の構図のようになってしまうだろう。

 

 ただ、そんなソウジロウがやりそうなことについて全く分かっていないのもソウジロウであるがゆえに、ナオキやナズナたちの言葉にソウジロウは少々ムッとする。

 ただ、続けてイサミたちもパーティについて拒否感を露にしたので<西風の旅団>のパーティへの出席はキャンセルされる。

 

 そうしているとパーティが始まったらしく、待機していた部屋にも<エルダー・テイル>のメイン曲が流れてくる。

 

「あ、これ」

 

「ニクい選曲だねぇ」

 

「ふふ、やっぱり良い曲ね」

 

「このままゆったりするのも良いわねぇ」

 

 まるで懐かしい曲を聞いたように目を閉じて在りし日のことを思い出す一向であったが、初日からずっと聞いていたナオキの『これに合わせて踊るんやで』という発言にくわっと目を大きく見開いた。彼がその発言のまずさに気付いて慌てて訂正するも、既に耳に入ってしまったようでソウジロウに殺到した一部のメンバーはマシンガンにも似た誘い文句を連発する。

 

「ソージ! 踊ろ踊ろ踊ろ踊ろ! うひゃひゃひゃ」

 

「ソウ様ソウ様ソウ様ソウ様!」

 

「あ、あの……試しにダンスとか……シテミチャッタリ……トカヤッテミタリ……シテ……。ウン、コレデイケル。ヤルゾー……ヤルゾー」

 

「ソーシャミャ! でゃ、ぢゃんすしてみましぇんけ!」

 

「あ、はい。でゃいじょうぶれす……。でゃいじょうぶ」

 

 端的に言って『打つ手なし』であった。

 <神祇官>(カンナギ)は久方ぶりの上等な酒をラッパ飲みしながらヘベレケ気味にお高そうな花瓶に話しかけ、<森呪遣い>(ドルイド)は『ソウジロウとダンス』というワードだけで妄想力がオーバーフローしたのかその場に倒れ込む。

 連れてきていた<守護戦士>(ガーディアン)<召喚術師>(サモナー)<武士>(サムライ)は顔を真っ赤にしながら誘い文句を呟いては白紙に戻して遂行しているので、今はソウジロウの周りに誰も居なかった。

 

「なぁ、ソウジロウ。ほんまはあっちに行きたかったんやないんか?」

 

「ハハッ、ナオキにはお見通しですか。ただ、こっちも楽しみにしてるんですよ」

 

「女の子にちやほやされやすいからか?」

 

「そんなわけないじゃないですか。ただ──こういう所に敵は来やすいですからね」

 

 <緑小鬼>(ゴブリン)軍の相手というバトルジャンキーにはたまらない戦場へ行けないことに不満がないのかとナオキが問うと、ソウジロウは笑っていた顔を一気に崩す。まるで悪鬼のごとく笑う彼にナオキは『娘っ子が怖がるやろ』と注意をしながらもソウジロウの言うことには全くの的外れではないと頭の中に<エターナルアイスの古宮廷>を上から見た図形を思い浮かべる。

 

 古に建築されたというだけあってこの宮廷は守りやすい。だが、それは人間の騎士を率いた騎士団を念頭においた場合である。

 戦力差が数えるのも億劫なぐらい開いている場合かつ、生身の攻城兵器ともいえる大型モンスターが相手ではそうはいかない。どれだけ<緑小鬼>(ゴブリン)が流れてくるか分からないが、初手から籠城戦を決め込むのは悪手。迎え撃つなら宮廷前に広がる広い平原を戦場にした野戦しかありえない。

 ただ、それには人手──特に<冒険者>の中でも中堅ぐらい強い人間の協力が不可欠だ。本来であるならば<大地人>を刺激しないようにという理由で<西風の旅団>が呼ばれたが、いざという時に駆けつけてもらえるよう手配するのも重要だと感じたナオキはソウジロウに何かあった場合は野戦で戦うことを提案する。

 

「なるほど、野戦か。なら、うちのギルドとファンクラブの皆を近くでキャンプさせましょう」

 

「キャンプ?」

 

「はい。宮廷に入れると<大地人>が面倒なんですよね? じゃあ、馬で数十分ぐらいの場所に陣を張れば良いじゃないですか。何も無ければそれで良いし、ついでに皆でキャンプや訓練して帰りましょうよ」

 

 確かに上手い案だ。

 有事の際にはすぐに駆け付けられ、何も無ければ遊んで帰る。そして、動員する者たちも基本的にソウジロウLOVEで、彼が『困ってる』と言えばすぐに行動を開始する猛者たちだ。

 極めつけは何かあれば『打ち上げ』、何事も無かったら『ただの遊び』としてソウジロウと共にキャンプというご褒美の存在である。これだけでも<西風の旅団>どころか下部組織である<そうきゅんファンクラブ>が全員来ても何らおかしくはないので、仮に<緑小鬼>(ゴブリン)が<エターナルアイスの古宮廷>に押しかけても少なく見積もって拮抗状態には持っていけるだろう。

 

「なぁ、それ誰に教えてもらったん?」

 

「? シロ先輩がこの前、"ソウジロウの所は<大規模戦闘>(レイド)に十分な人手をすぐに集めれて羨ましいね"って具体的に人を集める方法を教えられながら羨ましがられたから。それに僕もこっちでキャンプってやってみたかったし」

 

「あぁ、さいでっか」

 

 ここはシロエの腹ぐろさに怯えるべきなのか、それともソウジロウの純粋さやお気楽さに呆れるべきなのか……。おそらくは両方だろうが、今回の件で一番欲しい人手が確保できる伝手であるソウジロウがかなりワクワクした様子だったのでナオキはそれ以上何も言えなかった。

 そして、早速ソウジロウは<ギルドホール>に居るメンバーと<そうきゅんファンクラブ>の代表に自ら念話をし、経緯を話してから改めて援軍を要請。すると、流石は<冒険者>というべきだろうか。念話という便利なシステムのおかげで既に<緑小鬼>(ゴブリン)〈水棲緑鬼〉(サファギン)のことが噂話レベルで聞いているのだそうだ。

 そういった事前情報を持っており、かつソウジロウという彼女たちにとって特効が刺さる人選のおかげで彼が考えたキャンプによる人員補充計画は二つ返事レベルの速度で可決されることとなった。

 

「【では、お願いします】……ふぅ」

 

「お疲れ」

 

「今から編成らしいです。数時間もすれば近くに陣が出来ると思うので、そのタイミングでちょっと向こうに行ってきます」

 

 快諾を得られたことでニヘラと笑うソウジロウ。人懐っこい子犬を思わせるその表情はたしかに女性にとっては庇護欲を掻き立てられ、男でもその純粋さに敵対心を薄めるだろう。

 

 しかし、彼はその純粋さゆえに危なっかしい。特にレベルが関係ない戦闘センスに関しては<西風の旅団>随一であろう彼はそれだけでは飽き足らず、さらなる強さを求めて『<エルダー・テイル>における仕様の外』という新たな力の情報を聞いて模索しているのだとか。

 例を言えば漫画やゲームの中で良くある話だが、『力が欲しいか』と問われればソウジロウは即座に『はい!』と力強く即答する光景が安易に想像できるため、<円卓会議>系列であまり<西風の旅団>のことに目が行かなくなることが多くなる自分よりもナズナや他の年長組に引き締めてもらう必要があるのだが──。

 

「そこはかとなく不安やわぁ」

 

「大丈夫ですって。仮に<緑小鬼>(ゴブリン)がここを襲撃して来たら……根切りしてしまえば良いんですから」

 

 監視役と思われた兵士が上半身を露にしながらダブルバイセップスを決め、ナズナはヘベレケ状態で絡み酒をし、オリーブは未だ脳のオーバーフローから復活できないでいた。そこからさらに部屋の隅に視線をやると、3人娘が既に3曲目まで音楽が進んでいるのに気づかぬまま、未だにダンスを誘う言葉を推敲している。

 

 そういった頼りない光景に『不安だ』と言ったのだが、ソウジロウは泣く子もさらにギャン泣きするような暗い表情と声色で物騒なことを囁きだすので、ナオキは万感の思いで再び言葉を紡いだ。

 

「…………めっちゃ不安やわぁ」




今年もよろしくお願いいたします
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