西風の相談役   作:マジックテープ財布

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7話:PVPと新たな仲間

 <ススキノ>から少し離れた目立たない場所に建てられたキャンプ。倒壊した家屋に天幕を張っただけのそこでは直継がいつでも出撃できるように装備の点検をしていたり、シロエが真っ白な紙に何かを書いていたりしていたのだが、アカツキとナオキが姿を現したことで彼らの視線はアカツキ達に集中する。

 

「どうだった?」

 

「見張りは居ったんやけど、あれば外に対するの見張りじゃなくて"中に対する"見張りや」

 

 ナオキの報告にアカツキが頷く。<暗殺者>(アサシン)の特技による透明化でギリギリの距離まで接近して観察してみたが、<冒険者>の大多数は軒並み抜け殻のように町の中を歩くかその辺の壁にもたれかかって時間を潰していた。そんな中で唯一元気が良いのはやはり<ブリガンティア>の面々で、彼らはヒャッハーと暴虐の限りを尽くして暴れまわっている。

 そんなギルドメンバーの姿に暴れたいのか、ウズウズとした様子で頻りに<ススキノ>の中に居る<大地人>などに薄ら笑いを浮かべている見張り。そのような惨状をかなり厚いオブラートに包んで一言で解釈するならば、『世紀末』であろう。むしろ、それ以外の言葉は見つからなかった。

 

「大体分かったよ。そろそろ作戦を決行しようか」

 

「あ、ちょい待ち。場所教えてもらった爺ちゃんにお礼の品渡さにゃ」

 

「そんなの別に良いじゃねぇか。早く行こうぜ」

 

 <マジックバッグ>から金貨の入った袋を取り出しながら言ったナオキの発言に、直継が整備を終わらせた鎧を着込みながらおざなりに答える。にゃん太という旧友やマリエールから頼まれたセララという初心者ともいうべきレベルの子の救援を急ごうとする気概を見せる彼だったが、ナオキは<ススキノ>とは逆方向の道を進む。

 

「わざわざ<ススキノ>の様子とか、<冒険者>が入って来ないようなところを紹介してもらったんやで? そういったことは大事やん?」

 

「だけどよー。<大地人>は人間だっていうナオキのあれ。俺には未だしっくりこないんだよなぁ」

 

「そりゃ、<大地人>と深く交流してないからや。ボクやってサラ……<西風の旅団>で雇ってる子に色々聞かんかったら分からんかったわ。まぁ、直継もじきに分かるんちゃう?」

 

 投げやりなことを言うナオキに直継以外の全員が近くの農村に向かって歩き出したため、直継も納得できない様子で頭を掻きながら追いかける。そのままお礼を言いに行った一行は、まさか謝礼を渡してくるとは思わずに驚いていた<大地人>の老人の口からつい先日に<冒険者>の集団が<ススキノ>から脱出しようとする<冒険者>の馬車を襲撃したばかりという情報をもらう。

 

「あー、ならPKの味がそろそろ恋しくなってきたころやな」

 

「ここで俺達がそのセララって子と班長を連れて逃げたら……」

 

「全力で襲ってくる。間違いなく」

 

「そうだね。班長が言うには毎日班長とセララさんを捜索してるみたいだし……。追っ手を考えないで済むのは有難いよ」

 

 ≪ソウルポゼッション≫と≪キャスリング≫の偵察御用達コンボについてだが、ナオキが詳細を言わずとも<エルダー・テイル>の情報について生き字引レベルで覚えていたシロエはすぐに危険性を理解してくれた。なので、本来はアイテムを使うなどをしてそのコンボの弱点──メタを張って有利に撤退しようとしていたのだが、大戦力がかかってきてくれるならば好都合だ。

 <ギルド>のトップであるギルドマスターの討伐。戦闘パーティの全滅。後衛を潰して援護を受けれなくするなどで心をへし折ってしまえば追跡の可能性は極限まで低くなる。

 

「じゃあ、作戦開始しようか。手筈通り、僕が班長に念話かけるよ」

 

「あいよ。手筈通りにボクは街の外から動き見とくから、アカツキさんはシロエの方頼んだで」

 

「承知した」

 

「念話の割り当てはナオキのは俺、ちみっこのはシロが担当で良いんだよな?」

 

 淡々と確認していきながらもシロエ達の足は<ススキノ>の入り口へと近づいていく。

 そして、いよいよ見張りがこちらを発見するだろうというタイミングでナオキは<暗殺者>(アサシン)の特技である≪ハイディングエントリー≫で姿を消して近くの木陰に身を寄せ、アカツキは<追跡者>というサブ職業の特技である≪<隠行術>(スニーク)≫と≪<無音移動>(サイレントムーブ)≫で姿を消して見張りも居ない城壁を登り始めた。

 

【直継。街では咳払いで頼む祭り】

 

【ッゴホン……】

 

 街中で念話に気づかれにくくするために皆で話し合って決めた合図がナオキの耳に届いたことで、彼は単眼鏡を片手に背の高い木の陰でひたすら待機する。ただ、そのまま待ちの姿勢を貫いても暇の方が勝ってしまうため、彼は暇つぶしに門番の観察を始めた。

 片方は鎧を着込んでいることから戦士系、もう片方は仰々しい杖をもっていることから魔法系であることが伺えるが、どちらも馬鹿笑いをしながら談笑しているだけで一向に見張りをしていない。ただ、門の前を陣取っているだけだ。

 

(そういえば、<ブリガンティア>って船の名前やっけ? いや、どっかの女神の別称やったっけ? 案外、伝説について詳しいインテリ……。いや、あんなのを纏めてるのが神話系のオタクとか属性過多やろ。なんにせよ、警戒はしとくか)

 

 あんなお行儀がよろしくないのを統率するような長がそんな神話に詳しいほどの知識があるのか甚だ疑問ではある。だが、神話とか伝説をついついネットの海で調べてしまうのは『あるある』寄りの考えであったナオキは、もしかしたらシロエのように<エルダー・テイル>、リアル問わず様々な知識を取り込んで糧にする参謀タイプだと考えて警戒度を上げた。

 

(ギルド名と言えば、若旦那は元気かな。暇見て会えんやろかね)

 

 ギルドメンバーの集まる時間帯が<エルダー・テイル>のホット時間である20時であるところから名前が決まったらしい<ギルド>のギルドマスターの顔をこの騒動以降見たことが無いことを頭に隅に過ぎらせたナオキが少々アキバの街に思いを馳せていると、直継から声がかかった。

 

【ナオキ、セララって子と班長を確保。<ススキノ>の裏口から出るから移動始めてくれ】

 

【了解。話して大丈夫なんか?】

 

【周囲に人が居ないから大丈夫祭り】

 

 <暗殺者>(アサシン)や<追跡者>が居た場合はその限りではないだろう。そう言いたかったナオキだが、存在がバレたらバレたでポーションがぶ飲みで暴れ散らかしてやれば相手の連携が乱れるだろうと考えながら移動を開始する。

 透明化かつ、誰も居ないことを良いことにアカツキに倣って<ススキノ>の外壁を登りきったその時だった。

 

「おら! 早く歩きやがれ、<大地人>が!」

 

「ヒャハハ、転んでやがんの。ダッセ!」

 

 下の方で嘲笑や怒号が聞こえてくる。それらの声が気になった彼はつい立ち止まって壁の下を見てみると、中高生ぐらいのヤンキーや成人式を迎えたばかりの落伍者といった人種が盛大に格好つけるために鉄パイプなどの廃材で精一杯装飾したような荷車やいくつもの防具などを天日干ししているかのような不可思議な物体が見えた。

 

(ダッッッサ!)

 

 天日干ししているような物体はPKで奪い取ってきた装備を見せびらかすためで、荷車は単に権威の主張なのは分かる。正直、分かりたくはないが『目立ちたい』という考えのもとで実行したことは分かる。

 だが、ステレオタイプのヤンキーに憧れてやってみた感というか、前時代的というか、口ぶりも三下臭がプンプンするというか……。はっきり言ってしまえば蛮族的でダサいのだ。

 仮にスクリーンショット機能が使えたのならば、ナオキは即座に激写して『<ススキノ>に居た聖帝の出来損ない』というタイトルで<アキバの街>に流布すること確実な集団を上から観察しながら彼は直継へ念話する。

 

【多分やけど、デミクァスを確認や。あと数分で裏口に到着しる見込み。足止めでもしよか?】

 

【ゴホッゴホッ】

 

【残念やな。上から<火炎びん>ぶつけたろ思たのに】

 

 咳払いが2つ。『NO』の解答にナオキは残念そうに<火炎びん>を詰め込んだ袋をマジックバックに仕舞う。

 

 <火炎びん>。投げつければ一定のダメージを相手に与える攻撃用アイテムだが、ゲームでは1個ずつ出して投げるという煩わしい制約があったためにレベル10未満の初心者が使う自衛用ぐらいにしか役に立たないほどのゴミアイテムであった。

 だが、その制約はこの世界ではかなり緩和されていた。例えば埋めて相手が踏んだ際に爆発させる罠として使用することも出来ればピンポイントで一気にダメージが稼げるし、布などで一纏めにして殴打すれば武器ダメージに加えて<火炎びん>の追加ダメージも与える1発限りのブラックジャックにも成り得るポテンシャルを秘めていたのだ。

 

【直継の尊い犠牲に報えずにすまんなぁ】

 

【ゴホッゴホッ! ゴホッゴホッ!】

 

 今回はそれの応用で、<大地人>に当たらないように袋に詰め込んだ<火炎びん>を上から落として混乱を誘う作戦を考えたのだが、たしかにこの行動で予定が乱れてしまう可能性もあるためにナオキは自制心を働かせる。実験台となった直継の尊い犠牲──余裕綽々に『来いやぁ!』と言ったものの、<火炎びん>のブラックジャックを受けてあわや大神殿送りになりかけた大惨事を思い出した当の本人は喉が潰れそうなほどの咳で必死に忘れようとしていたが、ナオキはデミクァスと思われる集団の尾行を再開する。

 

 一方その頃。<アキバの街>近くの<ゾーン>では、ソウジロウが同じく<火炎びん>を大量に詰め込んだ落とし穴にハマって同じく大神殿送りになりそうだったのは彼は知らない。

 

「≪ピーカーブー≫」

 

 荷車はゆっくりとした足取りで裏口に向かっているため、壁の上という見つかりにくいところに潜んでいたナオキはさらに敵に発見されづらくなる特技を実施する。特技の仕様で腰を落としてじりじり前進するという腰にキそうな進み方をしながら直継に逐次報告を入れていると、唐突にシロエから念話がかかって来る。

 

【ナオキ、囲まれてるから小さめの声で手短に話すよ。まずはアカツキと合流、攻撃のタイミングと対象はそっちに任せるから相談して決めて。じゃ】

 

 一方的に。かつ、いい加減に指示されたためについ文句や皮肉を言いそうにはなったが、寸でのところで腹に収めたナオキの耳に再び念話の着信音が鳴り響く──アカツキからだ。怒りを忘れたわけではないが、関係ない他人に別の人間と会話したことで生まれた怒りを持ち越すのはやってはいけないことだと考えられない程我を忘れていない彼は、<ススキノ>より遠くの雪景色を見ながら念話に出た。

 

【ほいほい、アカツキさん。お疲れさん】

 

【ナオキ殿、お疲れ様。主君からナオキ殿の指示に従うよう、命を下されたので……】

 

【了解や。じゃあ、情報共有しよか】

 

【あ、その前に主君から伝言が。"デミクァスは手出し無用"と】

 

【ちぇー、せっかくターバンのガキごっこしよ思たのに】

 

【ターバン?】

 

【いや、こっちの話】

 

 あの『どこかの拳』に出てきそうなポーズでふんぞり返っている木偶の棒の足目掛けてナイフをドスッと刺したらさぞ映えるだろう。偶然にもターバンは<マジックバッグ>に入っているために着替えることも出来るのだが、どうやらシロエに読まれたらしい。

 一頻り残念がりながら情報共有を開始すると、やはりあのクソダサ荷車で漫画の裏表紙などによくある『勝ちまくり、モテまくり』みたいな様子でふんぞり返っている<武闘家>(モンク)がデミクァスで、その横で陰気なオーラを漂わせる灰色のローブの男がロンダークというらしいことが分かった。

 

 相手が分かったところで襲撃のタイミングやそれぞれの対象などを具体的に決めようとするが、ふとアカツキが正面切っての戦闘を所望しているか気になったナオキは彼女に問いを投げかけた。

 

【ところでアカツキさん、後ろから後衛に強襲するのは嫌やったりするか? 嫌やったら正面から切り込めるタイミング考えるけど?】

 

【ナオキ殿、むしろそれが華ではないのか?】

 

 『何を当たり前なことを』と言いたそうな口調で逆に質問してくるアカツキにナオキは『違いない』と笑う。高威力の特技が使えるのが<暗殺者>(アサシン)の特徴だが、真価を発揮するのはやはり認識外からの攻撃だろう。むしろ、ボーナスがあるのに正面切ってのタイマンを張る<暗殺者>(アサシン)こそ少数と言える。

 

 そんな認識合わせを行っていると、どうやらセララやにゃん太を連れたシロエ達がデミクァスと合流したようだ。ご丁寧に名前を『わざと』間違えてイラつかせ、そのまま一騎打ちで決着をつけるように提案している。

 その間にナオキはアカツキと合流しようと<ブリガンティア>の後衛のさらに後ろで特徴的な木を目印になんとか集まり、そのまま小さ目の声量ながらも会話が始めた。

 

【いかにも<武闘家>(モンク)って感じやけど、内面の意地汚さが顔に出て三枚目になっとるなぁ。……ボクもやけど】

 

【ナオキ殿は格好良いと思うぞ、特に額の傷とか良い。主君の次の次に格好良いぞ】

 

【ちなみにシロエの次は?】

 

【あの<猫人族>の剣士だ。あの佇まい、只者ではない】

 

【さよか……】

 

 地味ににゃん太に追い抜かされた自分自身に若干落ち込むが、『圏内にも入っていない直継よりマシ』と気を取り直した彼は戦闘をまるでスポーツ観戦するかのように楽しみだした。

 

 デミクァスの豪拳が地面を割りながらにゃん太を攻撃することで戦いの火蓋が切られる。筋骨隆々の大男の拳はただの徒手空拳でもボッボッと音を奏でるほど鋭く、なおかつ<武闘家>(モンク)特有の切れ間のない特技の連打と移動にも使える特技にて超接近戦に持ち込むというプレイスタイルにナオキは舌を巻く。

 

【ナオキ殿、助けに行かなくて良いのか?】

 

【アカツキさん、あんまローブ引っ張らんといて。ええんやない? シロエ何もしとらんし……っていうか、ありゃ何かを待っとるな】

 

 伸びるかどうか知らないが、アカツキが結構な力でローブを引っ張って来るためにそれを制しながらナオキは機を伺う。未だ戦闘は始まったばかりで、後にデミクァスがどういった行動を起こしてくるか分からないからだ。戦力を切るには不確定要素が多すぎる。

 

 それに、多対1ならまだしも1対1であるならばにゃん太の勝算の方が高い。

 デミクァスが一番得意な距離ながらもにゃん太の武器は『ツイン・レイピア』という種類で、手数や攻撃速度は<武闘家>(モンク)をもしのぐ速さだ。そこから<盗剣士>(スワッシュバックラー)特有の様々なデバフ効果を付与する剣戟を繰り出すために最初こそ景気よくにゃん太のHPを減らしていたデミクァスだったが、今となってはまだまだHPに余裕はあってもそれが逆転するのは時間の問題であった。

 

【あの御仁はすごいな。このまま勝ってしまうのではないか?】

 

【まぁ、その時はその時で襲ってきた奴を片っ端から狩るで。でもなぁ……】

 

 なにやら言い淀むナオキ。しかし、その胸中に合った懸念が遂行されることとなる。

 

「しゃらくせぇっ! ヒーラー! 俺を回復しやがれ! 他の奴らはあの猫野郎をぶっ殺せ!」

 

 まさかの──いや、予想は出来た横紙破りだ。デミクァスの叫びは周囲の<ブリガンティア>を戸惑わせたものの、ロンダークの一声によってデミクァスへの回復が開始される。

 見る見るうちに彼のHPバーが緑に染まっていく先で、<ブリガンティア>の前衛職達によるにゃん太への攻撃が始まろうとしていた。如何に歴戦の<冒険者>であるにゃん太でもこの数を退けることは不可能に近い。それを見越したデミクァスが残虐な笑いをしながら勝利を確信する最中──。

 

 にゃん太と前衛職達の間に『壁』が姿を現した。

 

「≪アンカー・ハウル!≫」

 

 地面を突き刺し、剣を掲げる直継。告げられた特技の名前に高レベルの<冒険者>達は身を引こうとするが、もう遅かった。逆に何も分かっていない低レベルの<冒険者>達は自身が何のダメージもないのでにゃん太を狙おうと視線を向けるが──。

 

「くそっ! なんであの<守護戦士>(ガーディアン)を見ちまうんだ!」

 

「どうなってんだこれ!」

 

「落ち着け! まずはあの<守護戦士>(ガーディアン)を仕留めるぞ!」

 

 直継から視線を切ろうにも全く目を離せない状況に対して徐々に混乱が増す中、高レベルの<冒険者>の一括で全員が直継を狙う。

 しかし、盾や剣での牽制。そして、絶妙な足さばきで相手からの攻撃の数を減らす動きといった『この世界ならでは』の戦い方により、鉄壁の護りを有する<守護戦士>(ガーディアン)はさらに堅牢となった。

 

 そんな戦いの最中。すっかり観戦気分だったナオキが重い腰を上げる。

 

【横紙破りしたようやし、ボクらも後衛の奴らの後ろ行こか】

 

【承知した】

 

【あ、まずはあのロンダークとかいう陰キャ始末して。回復役は軒並みレベル低いし、あれが一番レベル高い後方火力やしな】

 

 ロンダークに指差して最優先目標だと伝えながら、念のためにもう一度隠遁系の特技を自らにかけるとナオキとアカツキは<妖術師>(ソーサラー)などの後方要員の後ろで息を潜める。ロンダーク含めた後方要員達は、慌てて回復しているためか、そんな彼らの接近に一向に気づかない。

 これ幸いとナオキ達は彼らの職業を見ていくのだが、ほとんどは回復職で<妖術師>(ソーサラー)といった後方火力職はロンダーク含めて数人しか居なかった。この場に居ないだけか、もしくはほとんどの略奪行為はデミクァスを主軸とした<暗殺者>(アサシン)などの高火力で押し切るパワープレイで一気に片付けてそういった智謀は全てロンダークに任せていただけなのだろう。

 その証拠に今もレイピアを『玩具のような武器』と馬鹿にしているデミクァスを見るに、脳味噌まで筋肉と形容出来そうな性格であることが伺い知れるというものだ。

 

【ナオキ殿。そろそろ奇襲を仕掛ける頃合では?】

 

【まだや。多分やけど、シロエは時間稼ぎしとるんちゃうかな】

 

 アカツキが飛び出そうとするが、ナオキはまだ早いと制する。ここで『何故』と問われればうまく説明できる気がしないのだが、<放蕩者の茶会>(デボーチェリー・ティーパーティ)で数多の高難易度<大規模戦闘>(レイド)やダンジョンなどを踏破して来た経験がそう囁くのだ。

 例えば、にゃん太が本気になればデミクァスは回復されずに神殿送りにされているだろうし、直継も本気になればこの間にも1人か2人ぐらい数を減らしていてもおかしくはない。

 それなのに、未だにゃん太とデミクァスとの戦いが続き、直継も自身ヘイトを向けさせたままHPが削れるのも気にせず適当にあしらっている。明らかに『待っている』といった様子だ。

 

 そんな時、直継からの『合図』が来る。

 

「そろそろ行くぜっ! ≪キャッスル・オブ・ストーン≫!」

 

 直継の大声と共に、装備品を含めた直継の全身は光沢を帯びる。そこから一向に動かなくなった彼に対し、しめたとばかりに<ブリガンティア>の前衛職達がそれぞれが持つ最大火力の特技を使って襲い掛かる──が、それらの攻撃は硬質な響きと共に跳ね返された。

 

 ≪キャッスル・オブ・ストーン≫。10秒間だけ無敵になる防御系の特技だ。

 その特技の効果はすさまじく、如何に<大規模戦闘>(レイド)級モンスターが繰り出す即死クラスの威力を誇る特技やHPが1の状態で複数の敵に襲い掛かられても、10秒間だけ耐えることが出来る<守護戦士>(ガーディアン)の象徴ともいえる特技である。

 

 ただ、直継と戦っている<ブリガンティア>の前衛職達はダメージが与えられなかったことに多少動揺している様子だった。

 

【≪キャッスル・オブ・ストーン≫なんて<守護戦士>(ガーディアン)の専売特許やのに……。自分以外の職業は興味なしか? まぁ、行ってくるわ。ロンダークが攻撃しようとしてきたら攻撃してもろて】

 

【ご武運を】

 

「何をしている! 10秒間の……っ! 何か来るぞ!」

 

 襲撃タイミングをアカツキに伝えたナオキが前屈姿勢で前へ出る。

 その時、最大火力をノーダメージで防がれてつい足が止まってしまった前衛職達に指示を出そうとしていたロンダークとすれ違ったため、何かの接近を感知した彼は指示を撤回して注意を促すのだが、その抽象的な接近警告に誰1人として備える者は居なかった。

 

(まずは高火力の<暗殺者>(アサシン)

 

 景色が川のように流れていく中、ナオキは直継の一番近くに居た<暗殺者>(アサシン)に目を付ける。レベルは76とそろそろ上位に潜り込める猛者だが、≪キャッスル・オブ・ストーン≫の効果を知らないところを見るに<大規模戦闘>(レイド)などのパーティを組むといった集団戦闘の経験が薄いのだろう。

 

 だが、手加減はしない。する余裕も理由もない。

 いや──もとより理由があろうとも斬り捨てるのみだ。

 

「≪アサシネイト≫」

 

「なんっ! いきnぐぎゃっ!」

 

 相手の眼前で姿を現したナオキは、タックルの要領で相手に体当たりをしながら≪アサシネイト≫にて喉元に漆黒の刃が突き立てる。前からいきなり攻撃が飛んできたことに相手の<暗殺者>(アサシン)は目を丸くするが、碌な防御も講じれぬままモロにタックルを受けてしまい、首から血液を漏らしながら地に伏せる。

 

 突然の奇襲に一気に周囲は慌ただしくなる。ただ、ナオキの方も先ほどから《アサシネイト》の感触に疑問を抱いていた。

 レベル76。ナオキとのレベル差は14と決して弱過ぎる相手ではない。それにそんなレベル帯であれば幻想級とまではいかなくとも、高品質な防具や装備品で身を守っているのが普通だ。

 いくら≪アサシネイト≫を中東サーバーの<大規模戦闘>(レイド)で手に入れた<暗殺者の血脈>(ブラザーフッド)という幻想級装備の性能によって強化した状態で不意打ち気味に繰り出したとしても、即死判定ではなくダメージによってHPが一気に0になるのは不可解なことであった。

 

 しかし、今は戦闘中なのもまた事実。高レベルの<暗殺者>(アサシン)を下したナオキは次にレベルの高い<盗剣士>(スワッシュバックラー)へと意識を向けるが──。

 

「ぶ、《武士の挑戦》!」

 

「よくやった! お前ら、やっちまえ!」

 

 レベル30の<武士>(サムライ)が≪武士の挑戦≫というヘイトを自身に向ける特技を仕掛けたことで、ナオキの視線はその<武士>(サムライ)に固定される。一方で周囲もようやく<暗殺者>(アサシン)の戦闘不能を飲み下したのか、ナオキに向けて武器を振るう。

 そんな彼らの攻撃に、ナオキは武器での迎撃や回避をする傍らで《<鬼門変幻>(トリックステップ)》という特技を使用する。これは相手を幻惑させて回避率を上げるための特技だが、別の特技のトリガーにもなっている。

 

「き、消えた!」

 

「落ち着け、相手は<暗殺者>(アサシン)だ! 囲んで潰すぞ!」

 

 何度目かの《<鬼門変幻>(トリックステップ)》の後、霞のようにその場から居無くなったナオキに周囲は再び騒然となる。ただ、既に彼の職業は<暗殺者>(アサシン)だと把握した<冒険者>が一計を投じる。

 

「武士の挑戦をかけろ!」

 

「分かった! 武士の……っ!?」

 

 ヘイトを<武士>(サムライ)に向けさせ、ナオキが攻撃する瞬間に全員でタコ殴りにしようと先ほどの<武士>(サムライ)に《武士の挑戦》を掛けるように叫んだ。指示を聞いた侍がさっそく特技の準備をしようとするが、刀の柄と籠手を打ち鳴らそうとした手が突如として止まる。

 

「仲間思いやなぁ、嫌いやないで」

 

「で、出たぁ!」

 

 うんともすんとも言わない両手を不思議そうに見つめていた<武士>(サムライ)の目の前にナオキが姿を現す。その手には先ほど倒れた高レベルの<暗殺者>(アサシン)が握っていた赤黒い短剣が握られており、ホラー映画を思わせるその出で立ちに<武士>(サムライ)が泣き叫ぶ。

 しかし、その後ろでは<武士>(サムライ)を囮にした<冒険者>達が武器を手にナオキを屠らんと走り寄っており、その距離はあと数mも無かった。『くたばれ』という大声と共に双斧を振り被った<盗剣士>(スワッシュバックラー)。その瞬間──。

 

「あ、その辺注意やで」

 

「へ? ぎゃあああ!」

 

「なんだ、突然火が!」

 

 パリンというガラスを踏みつけたような音と共に火達磨へと変貌した。<火炎びん>の炎にのたうち回りながらじわじわHPが減っていく仲間の姿に誰もが混乱する最中、<武士>(サムライ)を始末したナオキは<武士>(サムライ)が持っていた刀を分捕ると棒立ちになった<守護戦士>(ガーディアン)の足元に投擲する。

 

「≪シャドウバインド≫」

 

「うわっ!」

 

 武器の投擲に驚いた<守護戦士>(ガーディアン)。しかし、寸でのところで回避に成功してほっと一息ついたのも束の間。気が付けば影に刺さった刀から自身目掛けて黒い影が絡みつき、まともに動けなくなっていた。

 眼前にはこちらを屠らんとする高レベルの<暗殺者>(アサシン)。その姿に恐怖した<守護戦士>(ガーディアン)は、咄嗟に直継と同じ≪キャッスル・オブ・ストーン≫で身を護る。

 10秒間のみではあるが、これで一時的にはしのげると安堵した<守護戦士>(ガーディアン)。しかし、ナオキは特技によって全く動けなくなった彼の肩に手を置くと、短く《ポイズンフォッグ》と囁いた。

 

 その瞬間、緑の霧が<守護戦士>(ガーディアン)を包み込む。明らかに身体に悪そうな色の霧だが、≪キャッスル・オブ・ストーン≫による効果で難のダメージもないことに安堵するのも束の間。よくよく考えてみると、『<暗殺者>(アサシン)の特技で行動が制限されている』ことに加えて『自身の特技で霧の範囲が広がる間は全く動けない状況』という詰んでいる状態に<守護戦士>(ガーディアン)は叫んだ。

 

「う、うわぁ! 誰か! 誰か俺を移動させtゴホッゲホッゴか"っ"!」

 

「≪シェイクオフ≫」

 

 毒の煙に巻かれた<守護戦士>(ガーディアン)を余所にナオキは地面に何かを投げつけると、これも真っ白い煙を周囲に漂わせ始める。次第に周囲が完全に見えなくなっていき、視界不良に見舞われた<冒険者>達が互いに声を上げながら状況を確認し出すが、その中でいくつもの悲鳴が聞こえた。

 

「≪ステルスブレイド≫」

 

「ギャッ」

 

「≪フェイタルアンブッシュ≫」

 

「こコ"ッ」

 

 赤黒く光るエフェクトと共に聞こえてきたのは数人から成る断末魔の叫び。視界不良の中で聞くには最悪な部類の声に、瞬く間に恐慌状態になったそれぞれは自衛のため空か闇雲に武器を振り回し始めた。

 だが、お互いの位置や状況も把握できないまま武器を振るうとどうなるか。同士討ちである。

 

「くそっ、そこか!」

 

「攻撃を食らった!」

 

「待て! 同士討ちになる……むぐっ!」

 

 そんな同士討ちにリスクを真っ先に心配した<武闘家>(モンク)が声を上げて制止を呼びかけるが、言い終わる前に後ろから謎の手が伸びる。口元をいきなり覆われたことで暴れた拍子にその謎の存在──ナオキの顔が見えた。

 その感情すらもどこかに置き忘れたような無表情に目を大きく見開いたのも束の間。首筋に衝撃が走り、HPが急速に0へと近づいていく。

 ただ、そこで<武闘家>(モンク)のHPが0になれば良かったのだが、ここでナオキは<武闘家>(モンク)の身体を前に押し出しながら前進。数人が叫んでいる所に向かって突貫する。

 

「き、来たぁ!」

 

「やっちまえ!」

 

「ん"ー! ん”ー!」

 

「仲間やのに酷いことするなぁ」

 

 未だ濃い煙が周囲に立ち込める中、残り4人となった<冒険者>達は向かってくる人影にそれぞれ特技を放つ。しかし、確かな手応えがありながらも返ってきたのはくぐもった悲鳴と余裕綽々と言った様子のナオキの声。

 そこでようやく煙が晴れたため、それぞれは自身が攻撃した相手がギルドメンバーの<武闘家>(モンク)だったことに愕然とした。既にHPは0となっており、やられた原因も明白なことに全員は微動だに出来なかった。

 

 だが、そんな隙を見逃すナオキではない。即座に死体を放り投げた彼は、4人の中で一番レベルが高い<暗殺者>(アサシン)に向けて飛び掛かった。

 

「≪アサシネイト≫」

 

 刃を脳天に突き立てられた<暗殺者>(アサシン)は瞬く間に影絵のごとく全身が漆黒に染まり、力なく地面に倒れ伏す。≪アサシネイト≫による即死演出が決まったのだ。

 かなり居た戦闘部隊が瞬く間に残り3人。しかも、≪武士の挑戦≫でヘイトを自身に向けさせた<武士>(サムライ)という例外を除いてレベルが高い順から討ち取られたため、低レベルしか残されていない現状に3人はついに地面にへたり込んだ。

 

「周囲見てみ。もう勝負はついたで」

 

 一息ついたナオキが武器を下ろしたことでようやく周囲を見る余裕が出来た3人が左右に首を振る。

 すると、デミクァスを回復していたはずの回復職は全員もれなく地面に倒れ込んでおり、先ほどまで偉そうに命令をしていたロンダークは忍び装束の女の子に短刀の刃を首に当てられて拘束されている。当のデミクァスは白いローブを着たヒョロイ男に攻撃を加えようとするも、捕獲対象であったセララの一撃によって彼の身体に巻き付いたイバラが千切れて3人の目の前で事切れた。

 

 勝てない。

 そんな思いに頭が占拠され、ひたすら身体を震わせる3人にナオキは武器を鞘に納めてから<マジックバッグ>から瓶詰のジャムとパンを取り出した。目の前でパンにジャムを塗り、一切れだけ自分の口に放り込んで咀嚼しながら3切れを彼らに渡す。

 

「自分ら、こんなことするためにそのキャラ育てたわけやないやろ? ほれ、食いな」

 

「甘い……っ甘い!」

 

「ごめ……ごめんなさい! ごめんなさい!」

 

 恐らくこの世界に来てから初めてのまともな甘い食事。何の疑問も無く一口食べた3人は涙交じりで謝罪しながらパンを貪っていると、ナオキは笑いながら3人の前で胡坐を組んで座り込んだ。

 

「その謝罪はボクじゃなくて<大地人>含めた襲った奴らに言いな。最初は許されへんやろうし、謝るのは勇気がいることやけど……。90レベルに立ち向かった自分らなら大丈夫やろ」

 

『は"い"!』

 

「えぇ返事や、頑張りや」

 

 彼らは純粋にゲームをしたくて<エルダー・テイル>に来たのだろう。それがこんな事態になり、混乱し、なんやかんやあってここに流れ着いたのだろう。罪は罪だが、デミクァスやロンダークのように瀬戸際に立っているわけではないということで、元気の良い返事にナオキは3人の頭を順番に撫でていく。

 筋骨隆々の大男が混ざっているために傍から見たらおかしなことになっていたのだが、それはそれとして──。

 

「だけど、覚えとき? また同じようなことしたら……」

 

「しません! しません!」

 

「ならええわ。話が付いたみたいやし、ボクらはこれで失礼するわ」

 

 頭を鷲掴みにされながら凄まれた大男が泣きながら『しません』と連呼し、残りの2人は首を会津の民芸品のように首を上下に振る。

 これにて雨とムチが終わったわけだが、後ろを振り向けば既にロンダークが地面に倒れていたので全てが終わったと悟ったナオキは立ち上がってからそそくさとシロエ達に合流する。

 

「なぁ。あいつら、礼してるぞ?」

 

「改心しただろうし、アキバに連れて帰れば?」

 

「や、やっぱナオキさんは、お、お父さんみたいで……す」

 

「いや、あの物言いは先生だな」

 

「懐かれたにゃぁ」

 

「いや、知らんて。ほら、行くんやろ?」

 

 戦闘時とのギャップに風邪でもひかれるかと思いきや、ここでも保護者染みた感想を口々に言われたナオキは不貞腐れながら<グリフォン>を呼ぶ。それに倣って全員も<グリフォン>を呼ぶと、一斉に空への階段を駆け上がる。一気に<ススキノ>の城壁あたりの高度まで飛び上がった<グリフォン>の雄大な羽音と嘶きは<ススキノ>中を駆け巡り、その<ブリガンティア>からの解放を告げる合図に<大地人>や<冒険者>は呆然と酷く澄み切った青空を見上げていた。

 

(後はウィニングランや。手の込んだ料理とか、料理出来る条件とかワクテカが止まらんわ)

 

 これから1週間。今度はアキバに戻る旅が始まるのだが、峠を越えた旅ほど気楽なものはない。<グリフォン>の背中に乗りながら風を感じていたナオキの顔はダラしなく見えた。




<暗殺者の血脈>(ブラザーフッド)
フレーバーテキスト:
 1国を容易く滅ぼすであろうと称された暗殺教団の歴代の長たちが、闇の中から光ある者たちに奉仕するために集った同胞たちを守るために振るわれ続けた短刀。
 威光のみによって手に入れることは叶わず、実力と人望がある者の手にいつの間にか収まっている。

効果:
 《アサシネイト》の再使用時間の大幅短縮。威力と即死確率の大幅増加。
 背後からの奇襲を行った場合、威力の大幅増加。

入手:
 ナオキが中東サーバーの大規模戦闘にて入手した幻想級の短剣。クエストのストーリーは暗殺教団の長が密かに敵に寝返り、守るべき存在である同胞たちを人身御供として差し出して力を蓄えていたことを知ったアサシンやその仲間と共に長を打倒するというもの。
 一応幻想級なのだが、効果も幻想級としては下の方。

はい、お察しの通り。彼の装備のほとんどは某暗殺ゲーです。
だってアサシンって言ったら忍者かフードですもの
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