令和最新アレンジのワイリーステージは必聴ですよ!
――――夜。
エックスは、部室棟の屋根の上から星空を眺めていた。
明朝、エックスの帰還と……キヴォトスの未来を賭けた決戦が始まる。
銃火はあれど……エックスの居た世界より平和なこの世界に、やはり思うところはある。
(帰る、か)
帰って、どうなるのだろうか。
アクセルは未だ目覚めておらず、ゼロは引退を宣言している。
イレギュラーハンターはボロボロで……レプリフォースも等の昔に全滅している。
発展のための軌道エレベーターですら次世代レプリロイドのテロで破壊された。
……この先、あの世界に未来はあるのだろうか。
(だが……バイルが居る)
未来。
エックスが眠りについた世界から来た狂気の科学者。
(俺の引退は……まだまだ先みたいだな)
スマホに誰かからの着信。
初期設定から弄っていない無機質な音が鳴る。
『エックス、オートでんわですよ』
「ありがとう、セレナード……ところで、オートでんわって?」
『え?オートでんわですが……』
「……?」
あまり触れるべきではないかも知れない。
待たせるのも悪いので、とりあえず出る。
「もしもし」
『……もしもし?』
恐る恐る、と言った様子。
「こんばんわ、ノノミ。いい夜だね」
『こんばんわ、エックスさん』
電話の相手は、ノノミ。
何だかんだ……捜査部以外で最も交流のある生徒はノノミになるな、とエックスは微笑む。
「どうしたんだい?」
『その……声が、聞きたくなりました』
「そうか」
『……あはは、一昨日会ったばかりなんですけどね』
「こちらも暇してた所なんだ。構わないさ」
『珍しいですね』
「そうかな?……そうかも」
『……そろそろ、なんですか?』
ノノミの声は、震えていた。
「……そろそろ、と言うのは?」
『帰られるんですよね……元の世界に』
「……そうだな」
『そう……ですか……』
「ノノミ」
『は、はい』
「今まで、ありがとう。世話になった」
エックスがそう言うと、ノノミは黙ってしまった。
「……ノノミ?」
『エックスさんは……電話で、そういう事言うんですか?』
「……いや、その」
何故かちょっと怒られている気分になるエックスだった。
『ここは、会いに来てくれるパターンなんじゃないんですか』
「……夜も遅くなるだろう」
『そんなこと問題になりません』
「そうかな」
『そうですよ。だって』
「ここに居ますから」
エックスは思わず振り返る。
……部室棟の屋根にかけられたハシゴから、ノノミが顔を出していた。
「え、なん……来てたのか……?」
「……ぷっ。あはは!」
ノノミが堪えきれずに笑い出した。
「びっくりしましたか?」
「あ、ああ……そりゃもう……」
「よい、しょ……っと」
ノノミが屋根に登る。
未だにぽかんとしているエックスの隣に腰を下ろした。
「……どうして?」
エックスがなんとか捻り出した言葉は……そのひとこと。
「会いたかったので」
「もう夜だけど……」
「大丈夫です。送迎してもらいますので」
「親御さんにご迷惑を……」
「フリーになった蒼き雷霆をヘッドハントしに、と言ったら」
「……俺の負けだ」
エックスは早々に両手を挙げた。
「ふふっ、私の勝ちですね☆何かお願いごと、聞いてもらいましょうか」
「えっ、そういう話だったのかい?」
「うーん……」
「あ、本当に考えてる……」
うーんうーんとノノミが隣で唸っている。
エックスは何を言われるのかと戦々恐々していた。
「決めました」
「あ、ああ……」
「エックスさん。今から私が言うことに……ちゃんと本音で答えてくださいね?」
「本音?」
「はい。相手がどう思うとか、そういうのナシで。エックスさんの思ったことそのままを言ってください」
ノノミがそう言うと……立ち上がって少し離れる。
そして、エックスに向き合う。
エックスも、何となく立ち上がる。
「エックスさん」
「ああ」
「好きです」
「………………」
「貴方を、お慕いしています」
ノノミが、真剣な表情でエックスを見つめている。
エックスは……悩まなかった。
「すまない。それは……駄目だ」
「……っ、理由を……聞いても?」
「俺と君は……レプリロイドと人間だ」
レプリロイドと人間の恋愛。
エックスの世界では……あり得ない話だった。
そもそもこの二者間は同じ時間を歩めない。
「貴方がレプリロイドでも、構いません」
「ノノミ……駄目なんだ。俺は……君の未来を奪いたくない。永遠に姿が変わらない俺と、君は一緒になれないんだ」
「……」
「だから……」
「あーあ」
真剣な顔をしていたノノミの顔が崩れる。
くしゃっと、微笑んだ。
「分かってました。エックスさんは本心からそう言うって」
「ノノミ……」
「そもそもエックスさんは帰るんですから……引き止めたら酷ですよね」
「………………」
「この気持ちに名前を付けたかった……それだけです」
「ノノミ」
「はい……!?」
まくし立てるノノミに近付いて、エックスはノノミを抱き締めた。
「え、エックスさん……?!」
「ありがとう。こんな俺を好きになってくれて」
「……ふふ、どこでこんな事を覚えてきたんですか?」
「えっと……図書館で借りた本に」
ノノミが、エックスの肩に顎を乗せる。
二人の身長差は、ほぼゼロなのだ。
「……冷たい」
「俺は……ロボットだからな……表面は熱を持たないんだ」
「……なのに、こんなにエックスさんの心は熱くて……私の頬も熱いです」
「え、大丈夫かい……?」
ノノミの顔を離して、正面から目線を合わせようとして……。
「えいっ」
「んっ……!?」
ノノミに、唇を合わせられた。
「ぷはっ……ふふふ、奪っちゃいました」
「ノノミ……」
「最後まで、わがままでごめんなさい」
「……女の子は、多少わがままなくらいが丁度いいらしい」
「エックスさんは何の本読んだんですか……?」
エックスは、ノノミから手を離す。
ノノミも、エックスから離れた。
「フラれちゃいました」
「すまない……」
「良いんです。初恋は実らないっていうのが定番なので」
「ノノミ」
「はい」
「俺は……明日の朝、Dr.バイルに挑む」
「……そうですか。今日で……良かったです」
「今まで、ありがとう。この世界で一番最初に会えたのが……君で良かった」
「私も……エックスさんに会えて、良かったです」
「……もう、二度と会うことは無いと思う」
「……はい」
「…………………」
「……もう、そんな顔しないでくださいよ」
ノノミがふっ、と笑う。
「大丈夫です。いつか、エックスさんよりいい人を見つけますから。私をフッたこと、後悔させちゃいますから!」
「……ああ」
「私、幸せになりますから!」
「ああ……俺は、それを見ることは出来ないけど……その未来を、守りに行く」
「……頑張って、ください」
「ああ」
「それじゃあ……さよなら、エックスさん」
「……さよなら、ノノミ」
そう言うと、ノノミは駆け出して……飛び降りていった。
「……絶対に、負けられない」
負けるつもりなど毛頭ない。
だが……あの子の、ノノミや……この世界の未来のために、勝たなければならない。
「俺は、勝つんだ」
エックスは、夜空を見上げてそう呟いた。