促されるまま、あれよあれよとエックスはいつの間にかトリニティ総合学園の塀を越え中の教会まで通されてしまった。
(良いのだろうか……)
一応、関係者に通されたと言い張れる状況は生起したが……。
これ以上考えても結論は出ない。
「どうぞ、お座りください」
マリーに言われ、腰を落ち着ける。
礼拝堂、だろうか。
エックスはこういった建築物……特に宗教に関する事はあまり知識を持ち合わせていない。
長椅子がずらりと並べられた一角に二人は座った。
「今日はもうお祈りが終わった後ですのでここでも良いでしょうか。懺悔室は残念ながら使用中でして」
「お気遣いなく」
「それでは……ええと」
改めて、伊落マリーはエックスをまじまじと見た。
そこで、エックスは察する。
「エックス。そう呼んでくれ」
「分かりました。大丈夫です、偽名でも構いませんよ」
「本名なんだ」
「えっ……申し訳ありません」
「気にしないでくれ。此処に来たときからずっと言われてるんだ」
「そうなんですね……ええと、今日はどちらから?」
「ミレニアムからだ」
「遠路はるばるトリニティを訪ねに来たんですね……この出会いが、エックスさんに実りある時間をもたらす事を祈ります」
「ありがとう」
宗教を知らないが、エックスは否定するつもりはなかった。
人間もレプリロイドも、信じる物の為に戦える存在だからだ。
それが、偶像か、信念か、友かの違いでしかない。
「実は……今俺はトリニティから追い出されてしまって」
「ええっ!?」
マリーが驚いた様に声を上げて、慌てて口を抑えた。
「すまない、驚かせてしまったね」
「い、いえ……どうぞ……」
「トリニティの上の人からは了承は得ていたんだが……何かの手違いか、黒いセーラー服の子達に囲まれてしまって……」
「正義実現委員会の方たちですね……」
「そういうわけで途方に暮れていたんだ」
「そうだったんですね……」
マリーはエックスの言葉一つ一つに大なり小なり反応を示してくれた。
聞き上手な子だな、とエックスは感じる。
こういった役職はまさしく天職なのかもしれない。
「大したことは出来ませんが……ゆっくりして行ってください」
「ありがとう、えーと……伊落、さん」
「マリーで構いませんよ」
「すまない、マリー」
「あ、もしかしたらエックスさんがお探しの人と連絡が取れるかも知れません。その人のお名前をお伺いしても?」
「本当かい?」
それが出来るのならばエックスの調査も大部進展するだろう。
「名前は……」
「あっ、見付けた!」
「えっ?」
礼拝堂のドアがバン!と勢い良く開かれた。
「ごめんねぇー、遅くなっちゃった☆」
「君は……?」
礼拝堂とに入ってきた少女は、あまりにも現実感の無い見た目をしていた。
ピンクの髪、とても大きなヘイロー、そして天使のような羽根。
「いやー、私が知らせるのが遅れちゃって正実の子達にボコボコにされたんだよね?ごめんね!」
「もしかして……君が」
「うん、私が貴方のトリニティ面会許可を出した聖園ミカです☆よろしくね、エックスさん」
「……面会?」
エックスは現れた人物ではなく、その言葉に反応する。
「学園に立ち入る許可を貰っていたと聞いているが……」
「え?そうなの?取り敢えず私に会いに来てもらおうと思って」
いまいち話が噛み合っていない。
エックスは耳元に手を当てる。
「リコ」
『はい!お繋ぎします!』
『エックスさん?どうかされましたか?』
「返事はどうなった?」
『……特に来ておりませんが』
「そうか……今目の前に例の……聖園ミカがいる」
「そんな固い呼び方じゃなくて、ミカって呼んでよ。えっと……あ、そうだ!えっちゃん!」
「えっ……ちゃん……!?」
今まで呼ばれたことの無い呼称で固まる。
「あれ、嫌だった?」
「……今までそんな風に呼ばれた事は無かったかな……」
そもそもレプリロイドにあだ名の慣習は無かった。
「そうなんだ!でも親しみやすさが上がるんじゃない?えっちゃんちょっとイメージ悪いしね」
「み、ミカ様……そんな言い方……」
「あれ貴方は知らないの?」
「え……?」
マリーがエックスのフォローをしようとしてくれている。
だが、エックスのイメージはトリニティでは間違いなく悪い。
「この人、あの悪ーいカイザーコーポレーションの人だよ?」
「そんな……!?」
マリーがショックを受けた様にこちらを見る。
「……事実だ」
エックスは、そう答えるしか出来なかった。
「エックスさんが、そんな人だとは思えません」
「ふーん?」
興味なさそうにミカは相槌を打つだけだった。
「それで、えっちゃん。トリニティには何しに来たの?」
「……その辺りは、うちの部長から連絡は無かったのか?」
「ごめーん、忘れちゃった」
『……エックスさん、気を付けてくださいね。その人、そんなノリですけどトリニティのトップの一人……何をしてくるか分かりません』
「……?誰か他にも居るのかな?声が」
「……!?聞こえているのか……」
エックスに内蔵されている通信の音声を聞き取れる。
尋常じゃない聴力だ。
「あ、えっちゃんもしかして誰かと繋げてる?こんにちはー、聖園ミカでーす」
「……ミカ、君は俺に何をさせたいんだ」
エックスは、これ以上ここで話していても不利になるだけだと感じ本題に入る事にした。
「……話が早くて良いね。えっちゃんには調査をお願いしたいの」
「調査……?」
「うん。でもそこの子には聞かせられないから移動しよっか?着いてきて」
ミカはエックスが移動するのも待たずに、開けっ放しのドアから礼拝堂を出て行った。
エックスは後を追おうとして……振り向いた。
「あ……」
マリーと目が合う。
「……すまない……君の好意を利用した」
「……行ってください」
「………………」
自分が選んだ事だ。
だが、その答えをこんな形で見せられると来るものがある。
(……まだまだ未熟だな、俺は)
反省前のミカってこんな感じだったかな……。
あまりにも悪く書きすぎてる気がする……。