感想を毎回もらえているので嬉しい限りです。
二人が去った後、項垂れていた伊落マリーは直ぐ様顔を上げ走り出した。
いつものお淑やかな雰囲気しか知らない同級生や先輩は全力疾走するマリーにぎょっとして道を開けていった。
「御機嫌ようマリーさん……マリーさん!?」
上級生でシスターフッドのまとめ役でもある歌住サクラコに挨拶もそこそこに走って行った。
「い、一体マリーさんに何が……」
それは当事者しか知らない事である。
散々らしくもなく走ったマリーは息を切らせる様子もなく資料室のドアを開いた。
誰も居ないのが好都合である。
中の情報閲覧用のPCを立ち上げてマリーは一心不乱に調べた。
(……先月のアビドス基地襲撃、それからミレニアム郊外での大規模戦闘……その合間合間に……)
……なんと、カイザーコーポレーションのPMCの活動らしいものを片っ端からリストアップしていた。
(D.U.の交通整理……?銃撃戦で破壊された信号機の代わりにエックスさんが復旧まで1日中やってたんですか……?)
他にも探せば出るわ出るわ。
エックスがそこら中でやって回る人助け。
やれご老人を背負って横断歩道を渡る。
やれ崩落しかけた工事現場に駆けつけて人命救助。
暴走した車両から子供を助けるなど序の口。
巷ではカイザーのイメージ戦略だとか内部から腐敗を正そうとするメシアだの荒廃したキヴォトスに舞い降りた
メディア露出した一ヶ月と少しの間に取り上げられたエックスの活躍の数々。
「……何で、こんな人がカイザーに」
誰もがそう思っただろう。
勿論、カイザーPMCとして小競り合いにも参加している。
だが、圧倒的に善行が多いのだ。
まるで、何かに追い詰められているかのように。
そして最も称賛の声が多いのはカイザーPMCの部隊内からである。
彼と作戦を共にした兵士たちはエックスを英雄視し、素行不良が見られなくなったという。
「……知らせないと」
マリーは資料を印刷しまとめ始めた。
これを提出すれば少しは待遇は変わるだろう、と。
そこで、ふと思い留まった。
(私は……何をしようとしているのでしょう)
元々、シスターフッドはトリニティの政治に不干渉を貫いてきた。
ティーパーティーが何をしようともこちらは知らぬ存ぜぬ。
シスターフッドからもそうだ。
その中で……マリーはシスターフッド所属でありながら、ティーパーティーの決定に歯向かおうとしていた。
「……ごめんなさい……エックスさん……私は……」
彼の事を何も知らない。
知り合って1時間も経っていない。
だけど、あれだけの人がこんな不当な扱いをされるのは我慢できなかった。
「……でも」
自分に、何かできるだろうか。
――――――――――
「ただいまー……暑い……」
「あらおかえりなさいエイミ」
「うう……」
「エイミ?今しがた体感温度が下がったのですがまた冷房を……えっ」
「……どうしたの部長」
「い、いえ……なんですか、その氷の塊」
「冷たい……気持ちいい……」
「……なんですかこれは……常温で溶ける気配が無い……」
「エックスに言ったら作ってくれた。『フロストタワー!』って言って」
「えぇ……?と言うことはこれもエックスさんの特殊武器……?」
「最初は凄くトゲトゲしてたから削ったんだ」
「はぁ……?」
「部長も触る?」
「遠慮しておきます……エイミ?待ちなさいエイミ、服を脱いで何を……流石に全裸で氷柱に抱き着くのはやめなさい?」
――――――――――
「ここで良いかな」
辺りはすっかり廃墟が立ち並ぶゴーストタウンの様な場所だった。
「ここは……?」
「んー、ちょっと訳アリ」
詳しく話す気はないと。
おそらくトリニティとしてでなく、ミカの私的な話だろう。
「そうか……それで、話とは?」
「手伝って欲しいことがあるんだ」
「……俺にできる事なら」
「本当?じゃあちょっとこれを見て」
ミカが地面に触れて……床を引っ剥がした。
この少女が相当な怪力なのか、元々そういう仕掛けなのかはわからない。
「……階段……隠し通路か」
「そ。これからこの通路を使う予定があったんだけど……」
ミカがスマホを取り出して操作をする。
そして画面をエックスに向けた。
「これは……」
「中に入った子が撮ったんだって」
ピントは合っていないが、辛うじて人型と判断できるボケボケの写真だった。
それが多数。
どうやらこの通路に蔓延る人型が脅威となっているようだ。
「最近よく出るんだって。危ないから、貴方にはこの通路の安全化を図って欲しいな。そうしたらトリニティへ自由に出入りできるようにしてあげるよ」
「……秘密裏にやらなきゃいけないこと、か」
「うーん、そうだね。これは私が個人的にやってる事だから。この通路の向こうの
「通路の向こうに、友達が?」
「え?あー、うん。友達」
「そうなのか……それは大変だ。任せてくれ」
エックスはそのまま階段を降りようとした。
背後から妙に慌てたような声がする。
「え、ちょ、ちょっと待って?!信じるの?」
「ん?君が言い出したことだろう」
振り向くと、ミカはなんとも気不味そうな顔で立っていた。
「そうだけども……えっちゃん、カイザーの人だよね?何かイメージと違うっていうか……」
「カイザーには利害が一致してるから協力してるだけだ。基本的に俺はミレニアムの特異……ヴェリタスの協力者だ」
「そ、そうなんだ……」
「それに」
「え?」
「子供を信じてあげるのも……大人の義務だよ」
「……わーお」
エックスは地下通路に進入する。
「ミカ!これは非公式の依頼なんだろう!その出入り口は塞いでおいてくれ!」
「え……でも……」
「大丈夫さ。なんとかする」
「……分かった。お願いね、えっちゃん」
何か重いものを引きずる音がして、通路の光が消えた。
「さて……やるか」
エックス、お人好し極まれり。
マリーを曇らせてしまったので頑張ってエックスに晴らして貰おうと思います。