ゲヘナ編終わるまでお預けです……。
暫く歩くと、公園のベンチにノノミが寝かされていた。
「どうして……」
ノノミに近付いて脈を測る。
……眠っているだけの様だ。
「良かった……けど……」
『トラックは何処へ……?』
ここには、ノノミしか居ない。
トラックは何処へ。
……すると、エックスのスマホが着信を知らせるアラームを鳴らした。
番号は……非通知。
「……もしもし?」
『お疲れ様です。エックスさん』
「……アキラ?」
電話をしてきたのは、恐らくアキラ。
「どうして俺の番号を……いや、それより……」
『トラックは……まぁ今は運転中です』
「どうしてノノミを降ろした」
『中の美術品に傷でも付いたら大変です。あ、ご安心を……全て、美品ですよ』
「だが、」
『貴方は美術品よりお姫様を優先した……それで良いじゃないですか』
「それは、そうだが……」
ここで、ふと違和感を覚える。
「……君は、ちゃんと依頼人の下へ向かっているのか?」
『ええ、勿論』
「嘘だな」
『は?』
「俺の発信機が別の方向へ向かっている」
『まさか、貴方にそんな事分かるはずが……ハッ!?』
「……そうだろうな。俺はそんなもの仕掛けてないんだから」
エックスが貼ったブラフに掛かった。
そう確信する。
「君が、慈愛の怪盗だろう」
『………………いつから?』
気付いていたのか。
エックスは告げる。
「勘だ」
『は?』
「何となくそんな気がした」
『……フフフ、なんですかそれ』
「返す気は……無いんだろうな」
『ええ、勿論。それにこれは盗品……相応しい持ち主が現れるまで、私が管理します』
「だとしても、それを盗むのなら君がしていることも罪だ」
『ふふ、ではエックスさんは私をどうするつもりですか?』
電話の先の相手が挑発的に笑う。
「絶対に捕まえて、借りを返させて貰う」
『まぁ怖い……ですが、今回は私も貴方に手伝って貰ったので……ちょっとしたお返しを致しましょう』
「何……?」
ぴろん、とエックスのスマホにメールが届く。
「何の……」
『では、ごきげんよう』
「待て、アキラ!」
『……あら、まだ私のことをその名前で呼ぶのですか?』
「……次は逃さないぞ、慈愛の怪盗」
『ええ、そうでなくては。では、
電話が切れる。
「リコ、トラックを追ってたりは……」
『ごめんなさい……フェンリールナエッジを撃破した時に反応はもうそちらに移っていて……』
「いや、良いんだ。ありがとう」
『そういやアイツの送ってきたデータってなんだよ?』
「確認してみよう……これは……!?」
メールに添付されていたのは、ラウンズが今回の美術品を手に入れるために行ってきた悪行の数々がまとめられていた。
犯行の詳細、そして動画。
『……罪は立証できそうだな』
「彼女は……一体何者なんだ……?』
――――――――――
「また、ですか……随分とらしくない事を言ってしまったものですね」
慈愛の怪盗……清澄アキラは、スマホをしまって自嘲気味に呟いた。
あの真っ直ぐな眼。
ロボットと聞いてはいたがそれを疑問に思うほど人間らしい感性。
そして、アキラに対して賞賛も批判もせずにただ……『それは罪だ』と言い切った。
面白い。
「良いですね、エックスさん。貴方に捕まるのなら素直に負けを認められそうです……無論、捕まるつもりは毛頭ありませんが」
マスクを外し、赤い瞳が爛々と輝いていた。
――――――――――
ノノミが目覚めるまで、移動するのは控えるべきだろうか。
とは言え流石にまだ寒い時期ではないがそれなりに薄手の格好の少女を寝かせておくのもどうなのだろうか。
「……どうするべきだと思う?」
流石に時間も時間でヒマリもエイミも就寝しているだろう。
助けを求めてヴィアとリコに尋ねる。
『一番手っ取り早いのはライドチェイサーで帰ることだが……』
「二人乗りする作りではないし何より意識の無いノノミが吹き飛ばされてしまう」
『かと言ってノノミさんを運ぼうとすると間違いなく通報ものですよ?』
「たしかにな……」
辺り一面開けた場所で、ノノミを担いでビルからビルへ飛び移るといった事も出来ない。
先ほどからサイレンの音とヴァルキューレの生徒たちがあちこち移動しているのが見える。
『少し大人しくしておいたほうが良いかも知れません』
「そうだな……」
『そこのベンチに寝かせておこう』
「分かった。俺は……」
『……一緒に居てやれ。この子も丸腰で拐われて心細かったろうに』
「……ああ」
『あ、勿論膝枕してやれよ?』
「そんな事をしたら何かあった時に対応出来なくなるだろ。それに、俺はレプリロイドだ……寝心地は良くないだろ」
『こういうのは気持ちですよ、気持ち。エックスさん、分かってますよね?そうです、エックスさんがやるのです!』
何だかリコが妙に気合が入っている気がする。
結局二人に言い包められて、エックスがベンチに腰掛けその膝にノノミの頭が置かれた。
「………………」
寝顔は、実に穏やかだった。
寝ている少女の顔をまじまじと見るのはマナー違反も甚だしいが、エックスは視線を奪われていた。
(……俺は、この表情を守らなければならないんだ)
Dr.バイルがキヴォトスの生徒を狙い始めた。
これは、エックスの心に焦りを生み出す。
(キヴォトスは、広い。俺が守り切ることは……不可能だ)
だが、バイルの魔の手に少女たちを晒す訳にはいかない。
(一刻も早くバイルを見つけ出せないと……)
そのために、残り3つのオメガの反応を突き止め対処しなければならない。
だと言うのに……エックスは今、ここに居る。
たった一人の少女を放っておけずに。
(甘いな……俺は)
「ん……うぅ……」
「!」
ノノミの唇が動く。
続いて、身じろぎをする。
段々と閉じられていた瞳が開かれる。
「ん……ん?……エックス、さん……?」
「良かった……」
ひとまずは安堵。
すると、ノノミが手を伸ばして……ペタペタとエックスの顔を触る。
「……ノノミ?」
「……エックスさんですね」
「……?」
「……え?え?どうして私……膝枕?を、エックスさん、に???」
「それは……まぁ、やれと言われて」
「は、はぁ……?そうなんですか」
「ああ……」
「……助けてくれたんですね」
「ああ」
「エックスさんなら……絶対に来てくれると思ってました」
「大事な……友だちだからな」
「……友だち」
この世界に来て、初めて出来た友人。
エックスにとって、大事な友人だ。
……ただし、ノノミは若干機嫌が悪くなっているが。
「……ノノミ?」
「まぁ……今は、別にそれでも良いです」
「え?」
「何でもありません!」
ノノミが体を起こし、立ち上がる。
ふらつきも起こさずにしっかりと立てている辺り、キヴォトスの生徒の頑丈さは筋金入りだと感じさせる。
「……ふふ、パーティー……めちゃくちゃですね」
「そうだな……依頼も失敗したし、俺は大目玉だ」
「失敗……?」
「君を救出する時に手を組んだ賞金稼ぎが……慈愛の怪盗だったんだ」
「えっ……それじゃあ……」
「まんまと美術品を全て盗まれたよ」
「そんな……」
「全く……強かな子だったよ」
「……あら?」
ノノミが、エックスの背中に手を伸ばす。
べり、と何かが剥がれる音がした。
「えっ」
「背中に紙が貼られていましたよ」
「何か書いてあるな……『この度エックス様には私の心を盗まれた為、近々取り返しに参ります。慈愛の怪盗、清澄アキラより愛を込めて』……」
「………………誰ですか、その女」
ノノミがエックスの手を取り……エックスの手にしていた用紙をぐしゃりと握り潰した。
「……彼女、やっぱりアキラが本名だったんだ」
「エックスさん?」
「ああ……慈愛の怪盗……アキラが君を助けるのに協力してくれたんだ。まんまとしてやられたけどね。しかし……心を盗まれた?何かの暗喩か……?それとも他に何か俺に仕込んだのか……?」
取りあえずポーチを開くが財布とスマホ、バイクのキーしか入れられていない。
腕をバスターに変形させたり戻したり、隙間という隙間をチェックしだした。
「ノノミ、他に……背中に何かないかい?」
「……はぁ……」
ノノミが盛大に溜息を吐く。
「貴方は……そういう人でしたね」
「?」
「じっとしててくださいね」
「ああ」
背中に、何か湿った感触がした。
「の、ノノミ?」
「はい、もう大丈夫ですよ」
振り向くと、ノノミがいつものようににぱっと笑っていた。
「そうか……じゃあ、帰ろうか」
「そうですね……あーあ、せっかくエックスさんと一緒なのに……ドレスもボロボロ、髪もめちゃくちゃです」
「すまない……俺が」
「えいっ」
こつん、とエックスの額にノノミの拳が軽く当てられた。
「駄目ですよ、エックスさんの悪いクセです」
「え……?」
「私は助かりました。それで、良いんです」
「……ありがとう」
「ふふ、お礼を言うのはこっちの方ですよ」
「君には、敵わないな……」
「そんな事ありません。エックスさんには私も敵いませんから」
「そうかな?」
「そうですよ」
「「……ふふ、ははは」」
二人して笑い合った。
その後、リコにライドチェイサーを用意してもらい……ノノミを後ろに乗せて帰還した。
――――――――――
翌日。
「おはよう」
「あら、おはようございますエックスさん。昨夜は大変だったみたいですね」
「知ってるのか?」
得意現象捜査部に顔を出し、ヒマリに挨拶する。
「私は即応性の高い才色兼備の美少女明星ヒマリですよ?この程度の情報の仕入れなんて朝飯前です」
「そうか」
「おはよー……あれ、エックス。背中に何か書いてあるよ」
「おはよう、エイミ。背中……?」
「えっと……『十六夜ノノミ』?」
「……え?何でノノミが……」
「わ、これ油性マジックで書いてある……しばらく落ちないよ」
エイミに写真を撮ってもらって見せてもらう。
背中に結構大きめ……目立つように書かれていた。
「……これは」
「ほー……へぇ……?うふふ、可愛い独占欲ですね」
「明日から噂されそうだね」
「噂……?」
エックスは、マジックが落ちる最後まで名前を書かれていた事の真意に気付けなかった。
――――――――――
「……私は、なんてことを……!」
翌日、朝起きて正気に戻ったノノミはベッドの中で羞恥で赤く染まった顔を抑えてゴロゴロと転がるのだった。
ちょっとアキラが好戦的すぎたかな……?
敵対フラグと言うかライバル関係に据えてみたつもりでした。