「まさか、潰しかねんと言った矢先本当にラウンズを崩壊させるとはな……」
「………………何のことやら」
「聞いたぞ。ラウンズのアーサーを美術品の窃盗罪を立証させトップの首を文字通り切り落とした処刑人だとな」
「依頼には失敗したさ」
「ククク……いや、珍しい事もあると思ってはいたが……敵に回すには恐怖を覚えるほどだ」
「なら、大人しくしていてくれ」
「そうはいかん」
理事長がカードを投げてよこしたので、エックスはそれを受け取った。
「……これは?」
「セントネフティスからの謝礼だ」
「……不仲だったんじゃ?」
「ご令嬢を危険を冒して救い出した男がたまたまカイザーに所属していた……向こうも苦虫を噛み潰す思いだろうな」
「そうか……」
「金額はラウンズ提示の2倍。よくもまぁこれほど稼ぐ」
「あって困るものではないけど……いずれ不要になる」
「目処は立ったのか?」
「今のところは……無い」
「フン……なら、まだ俺の下に居てもらうぞ」
「分かってる……失礼する」
「……今日ゲヘナ入りすると聞いたが」
「ああ」
「向こうにもカイザーPMCは展開している。何かあれば好きに使え」
「……良いのか?」
「稼ぎ頭へのちょっとしたサービスだと思え。費用は報酬から天引きさせてもらうがな」
「構わない。それじゃあ」
「……はぁ。もう少し欲があれば御し易いものを……善性の塊の様な男だ」
――――――――――
あれから数日。
ラウンズは崩壊しトップを巡り血で血を洗う闘争を繰り広げているらしい。
セントネフティスから謝礼……ノノミ救出によっても向こうからも認知されてしまった。
先日も
そして、今日はようやくゲヘナへ向かう日だった。
『何だかここ数日で数ヶ月分の事件や騒動が起きてる気がしますね……』
『エックス、トラブル気質だね』
「……笑えない冗談だ」
エックスは頭を抱える。
現在地はD.U.の……駅の改札前。
今回は鉄道を使ってゲヘナに向かう事になった。
バイクをメンテナンスでカイザーに預ける都合上、足がなくなってしまったのだ。
ライドチェイサーを使いたかったがリコに尋ねたところ1回で始末書が3枚出るからできれば緊急時以外は勘弁して欲しいと泣かれてしまった。
『そろそろですね』
「……しかし、鉄道の管理運営も学校がやってるんだな」
駅のホームに居た駅員も清掃の作業員も10代半ばの少女ばかり。
ハイランダー鉄道学園がキヴォトスの鉄道全てを管理している。
『各自治区に容易く向かえるようになるため、何処にも属さない中立の立場の機関が必要でしたので』
「なるほど……」
『そろそろ切ります。良い旅を』
「ああ。到着したら連絡を……おや?」
電話が切れると共に、エックスは蹲る少女を発見した。
「君……大丈夫かい?」
何の躊躇いもなくエックスは少女に近付き声をかけた。
蹲る少女は顔を上げる。
……目を腫らし、涙を流していた。
「ぐすっ……うえぇ……」
片膝を着き、少女と視線を合わせる。
ぶかぶかの上着を着て、学生帽のような物を被り……そして、銃を持っている。
どこかの学校の生徒だろう。
金の髪を黒いリボンで一房結われているのが印象的だ。
「わーん!!」
少女は泣き止まない。
これでは事情を聞くことすらままならない。
どうしたものかと思案し……思いつく。
「ちょっと見てくれるかな……?ドリームマジック!」
「ふぇ……?」
特殊武器を選択。
エックスが両の手を勢い良く叩いて閉じ……開いた瞬間、勢い良く数羽のハトが飛び出した。
「わっ!」
「まだまだ!」
エックスが手を握る。
親指の隙間から紐が1本伸びる。
それを少女に引くように促す。
「な、何……?わぁ……!」
恐る恐る少女が紐を引くと、どんどん紐が伸び色とりどりの国旗が引っ張り出された。
「凄い凄ーい!お兄さんはマジシャンなの!?」
「さて、どうだろうね……?」
「他には?!他にはなにか出来ないの?」
「大丈夫、まだエネルギーはあるから」
しばらく、エックスは武器エネルギーが尽きるまで少女の為にマジックを披露し続けた。
……スランピアの彼らから手に入れた力は、悲しむ少女を笑わせる為に使われたのだった。
「君は何処から来たんだい?」
少女の機嫌が治ったので、ベンチに腰掛けてエックスは身元調査を始める。
「ゲヘナ!」
「ゲヘナの子なのか……なるほど。名前は?」
「イブキっていうの!おにーさんは?」
「俺はエックスっていうんだ」
「えっくす……?かっこいいね」
「ありがとう。君の保護者……家族は何処に?」
「ひとりなの!」
「一人でここまで来たのかい?すごいね」
「えへへ……でも……マコト先輩と喧嘩しちゃったの」
「マコト……」
何処かで聞いた名前だ。
「喧嘩、か……」
「うん……でも、イブキはマコト先輩が大好きだからここまで来たら悲しくなっちゃって……」
「そうか……」
「イブキ……悪い子になっちゃったかな……」
にぱっと元気に笑っていた少女……イブキの表情がどんどん暗くなる。
エックスは慌ててフォローした。
「大丈夫。自分がやった事を悪いと思うなら……君は、悪い子じゃない」
「ホント……?」
「ああ。謝りに行こう」
「うん……でも」
「一人が心細いなら、俺も一緒に行くよ」
「え、おにーさんが?」
「俺も、今からゲヘナに行くんだ」
「そうなの?」
「ああ。だから……ついて行ってあげるよ。それで、ちゃんと謝ろう?」
「……うん」
「良い子だ。じゃあ行こう」
ちょうど、ホームにゲヘナ行きの列車が停車する。
「うんっ!」
ふと、イブキがここまで来た切符しか持っていないのなら問題なのでは……と思考したが、
(向こうに着いてから精算すれば良いか)
特に気にしなかった。
――――――――――
列車の中は適度に掃除され、清潔さを保っていた。
……決して、乗客が少ないからではないと思いたい。
そもそも好き好んでゲヘナへ向かう人間がそれほど多くないのだ。
それほどまでに治安の悪い場所だとエックスは事前に聞いていた。
「駅から君のおうちまでの場所は分かるかい?」
「うん!だいじょーぶ!」
「なら安心だな」
適当な席に腰掛ける。
イブキが並んで座った。
思えば、エックスにはこうして他人の運転でのんびり移動するなんて経験は無かった。
転送による現場への急行や、ライドチェイサーでの移動が主だった為……新鮮に思える。
ゆっくりと、列車が動き始めた。
「動いたよ!」
「ああ」
流れる風景を眺める。
確か20分ほどで着くはずだ。
……隣でイブキがうとうとし始めた。
喧嘩したと言うのなら、精神的な疲労がかさんでいるのだろう。
「いいよ、着いたら起こしてあげるから」
「ほんと……?」
「ああ、おやすみ」
「うん……」
すぐに、すぅ、と小さな寝息が聞こえる。
列車が揺れるたびに首が揺れるので、そっと横にしてやる。
「乗車券を確認します」
白髪の乗務員がいつの間にかやってきていた。
エックスはイブキを起こさないようそっとポーチを開き渡した。
「そちらの方の分は?」
「それなんだけど……」
「……まさか、無いと?」
「いや、説明すると……」
「出せないんだな?」
「待ってくれ、話を……」
「無いんだな?」
全くこちらの話……というか口を開く暇を与えてくれない。
しかも、ヒートアップしているのか口調がどんどん荒くなっている。
「だから……」
「ふざけてるのか?」
「えっ?」
「話?そんなもの言い訳だろうが!それともアレか?ゲヘナ行きだから、どうせ無法地帯だから」
「そうじゃない、落ち着いてくれ……小さな子の前なんだぞ」
「知るか!しかもその制服……ゲヘナの制服じゃないか!無賃乗車は許すわけ無いだろ!!何があってもな!!」
乗務員が腰に吊るされたホルスターから拳銃を抜く。
咄嗟にイブキを退かし立ち上がって銃口を手で塞いだ。
「このっ……あっ」
「頼むから、話を聞いてくれ」
「貴方は……エックス、さん……!?」
「えっ?」
乗務員は銃を降ろして、エメラルド色の瞳を見開いた。
「あ、あの……あーし……あっ、えっと……わ、わた……私!スランピアで助けて貰った……貰いました!」
「あの時の……!」
「は、はい……その説はありがとうございました……すみません、恩人の貴方にこんな振る舞いを……」
先ほどの荒い言葉が嘘だったかのように、しどろもどろだが丁寧な謝罪だった。
「いや、悪いのはこっちだし……君はそれだけ真剣に自分の職務を全うしようとしただけだ。気にしないで」
「あ、ありがとうございます……」
このやり取りの最中でもイブキは起きなかった。
よっぽど疲れていたのだろう。
「この子、友人と喧嘩してそのまま出てきたみたいなんだけど……ホームで会って、俺が送る事になったんだ。向こうで精算しようと思ったけど……出来るかな?」
「は、はい……それなら大丈夫です……」
「ごめん、疑われる様な事をして」
「い、いえ……!そんな……!」
「それより、君はあれから特に異常とか無かったかい?」
スランピアから病院に運ばれたと聞いていたが。
「は、はい……異常はありませんでした」
「そうか……なら良かった」
救出した生徒の中に、ハイランダーの生徒が居るとは知っていたが……まさかこんなタイミングで会うことになるとは。
「元気そうで何よりだ」
「う、うぅ……よりによってこんな姿……」
「あはは」
「笑い事じゃないですよ……」
「元気があるのが一番だよ」
「う、うぅ……」
申し訳ないがなんとか便宜を図って貰い、なんとかゲヘナに向かう事が出来た。
(……頼むから、これ以上トラブルは起きないでくれよ……?)
「あ、あの……エックスさん……これ……わた、わ……」
「良いよ、無理しなくても」
「……あーしの、連絡先。鉄道関係で困ったら相談に乗るから」
「本当かい?助かるよ」
「え、へへ……あーしは元町つばめって言います」
列車は、まだ揺れている。
――――――――――
ゲヘナ学園自治区に到着した。
……駅の周辺はまだ綺麗ではあったが、一度外に出ればシャッター街が広がっていた。
降ろされたシャッターにはスプレーで様々な落書きが施されている。
「……本当にここに住んでいるのかい?」
「うん!」
「道はわかるかい?」
「だいじょーぶ!着いてきて!」
「あっ、イブキ……!」
ドヤ顔で胸を張るイブキが走り出したので慌てて追いかけた。
慣れた足取りなので特に心配は無かったが……。
「ちょっと連絡させてくれないか……!」
モモトークは送ったがヒマリにまだきちんと連絡していないのである。
「なーにー!」
気がつけば数十メートル先にイブキが居る。
ちょっと止まるとすぐに置いていかれそうだ。
「……ごめん!すぐに行く!」
エックスは足のダッシュ機能をアクティブにして駆け出した。
モモトークは送ったからまぁ大丈夫だろう……。
――――――――――
「……なんて、思っているのでしょうね。どうしてエックスさんは行く先々でトラブルに巻き込まれるのでしょうか」
「やはり、未知数は不要なのよヒマリ」
「そうは思いません。いい加減その凝り固まった思考回路を作り替えたらどうです?リオ」
「部長、私はどうする?」
「まだ待機でお願いします。今回も当たりを引くとは限りませんので……まぁ」
ヒマリはスマホに送られてきたエックスからのモモトークを見て苦笑する。
「この調子ならいずれ引き当てるでしょう。エックスさんは……そういう人です」
「同感」
「……分からないわね。何故貴女達はアレをそれほど信頼しているのか」
「実績なら出していますよ?それに、予測不可能な行動……面白いではありませんか」
「その好奇心に喰い殺されないよう、せいぜい気を付けることね」
「ご忠告ありがとうございます……そちらも、コソコソやってる事がバレないことを願いますわ」
「……それじゃあ、私はこれで」
「……部長。流石に露骨すぎたんじゃない」
「彼女の認識を変えるには……まだ弱いみたいですね。エックスさんに感化されるかと思ったのですが……」
「人誑しだもんね」
「いかんせんファーストコンタクトが最低最悪過ぎましたし……何より、リオはエックスさんを意図的に避けています」
「だよね。ここに顔出さなくなったし」
「まだ実力行使に出てこないだけマシ……と見るべきでしょうか」
――――――――――
「うわぁっ!?」
「わぁーっ!!」
エックスは吹っ飛びながらイブキを抱え直す。
もう何度目か分からない爆発。
「居たぞ!」
「あの青いやつだ!」
「カイザーの青い悪魔!」
「奴の首を狩れ!俺達の沽券に関わる!」
「全力をもって討伐しろ!!」
背後から飛ぶロボット達の怒声。
間違いなくターゲットは……エックスだ。
「お友達がいっぱいだね!おにーさん!」
「全員初対面だ……!」
どうしてこうなってしまったのか……。
ドリームマジック:スランピアのシロ&クロから手に入れた特殊武器。
バスターから様々なマジックを発射する。
バスターだけでなく、任意でエックスの身体から花火や鳩を打ち出せる。
攻撃力は皆無で出した物もすぐに消える。
この特殊武器を考えたときからどう使うかは考えていました。
やっとお披露目出来て良かったです。
と言うわけでゲヘナ編、始まります。