エックスはいまいち自治区の生徒会がどれだけの力を持っているのか理解していないフシがある。
トリニティのミカの権力も結局はチラつかされただけであり実感はしなかったからだ。
「どう?おにーさん。イブキ凄い?」
「あ、ああ……」
「むーっ!」
「ご、ごめん……俺は外から来たからいまいち理解が追いついてないんだ……」
「ふーんだ!おにーさんを絶対びっくりさせるから!」
「充分驚いてるから……」
「大変です!スカーレットアラートの襲撃です!多数のオートマタが接近!」
「なっ……!奴ら、いつの間にこんな大規模な……!迎撃準備!」
「俺も出る」
「しかし……」
「奴らは俺もターゲットにしている。引きつければいくらかここの負担も減るだろう」
「……申し訳ありません。すぐにミスターエックスのルートを定め少しでも安全に離脱出来るように手配します」
「目標は……そうだな、ゲヘナ学園にしてくれ」
「それは……構いませんが」
「この子を、送り届けないと」
エックスはイブキの頭の上に手を置く。
「……分かりました」
「おにーさん?」
「君は……関わらなくて良いことなんだ。巻き込んでしまってすまない……」
「……どうしておにーさんが謝るの?悪いのはあの人たちでしょ?」
「……どうだろうな。向こうが悪いとまだ決まった訳じゃない……カイザーも、決して潔白な企業じゃないからね」
司令が離れた後、二人は会議室に残された。
「……この世界でも……同業者で争う事になるのな……」
エックスは思わず零してしまった。
本来戦う必要のない勢力の衝突。
これは、避けられなかったのか。
「おにーさん」
「……すまない。こんな事を聞かせるつもりは……」
「大丈夫だよ」
ぎゅっ、とイブキがエックスの手を握る。
ダボダボの袖の中にある小さな両手が、エックスの手を優しく包んだ。
「絶対、悪いやつが居る」
「……『センセイ』か」
スカーレットアラートが急変した原因……それがいるのなら。
「そいつを倒せば……」
「行こう、おにーさん!」
「えっ……ちょっと、イブキ?!」
「こっち!」
イブキがエックスの手を引き、そのまま走り出した。
小柄な少女に不釣り合いな力で引っ張られ、エックスも走る。
「ミスターエックス……!?どちらへ……」
「すまない!先に出る!」
「ご武運を……!」
結局、イブキに引っ張られてノープランで走り出すことになった。
「イブキ!当てはあるのか!?」
外に出ると、カイザーPMCの兵士たちが迫りくる無数のオートマタに対処していた。
エックスはイブキに引かれていない腕をバスターに変形させる。
「こっち!」
「イブキ!」
エックスはいい加減痺れを切らして立ち止まる。
「待ってくれ」
「……おにーさん?」
「君は、俺を何処へ連れて行こうとしてるんだ」
「えっと……」
イブキは目を泳がせ、言葉に詰まる。
エックスは屈んでイブキと目を合わせる。
「……俺は、君を学校に送り届ける。それだけじゃ、君は不満か?」
「イブキ……おにーさんを……ひとりにしたくなくて……」
「俺を?」
「とってもつらそう」
「!」
子供というのは、存外大人を見ている。
「イブキも、手伝いたい」
「しかし……」
「……?こんな所に子供が何をしているでありますか」
「「!?」」
エックスはすぐさまにイブキを抱き寄せて跳ぶ。
ずん、と重い音がする。
「ム……!お前はエックス……!」
「お前は……」
その姿は、確かに巨大な二足歩行をする亀の様だった。
緑と赤のカラーに、巨体を支えるに足る太い手足。
「自分はアインヘルヤル八闘士が一人!ヒート·ゲンブレム!」
「アインヘルヤル八闘士だと……!?お前は、バイルの手下か!」
「何故それを……!」
「お前がそれを自分から言ったからだ!」
「しまった!」
……なんともやり辛い相手だ。
エックスは抱えていたイブキを降ろして、背を押した。
「お、おにーさん……」
「行くんだ」
「でも……」
「大丈夫。俺は強いから」
「………………」
「行くんだ!」
「わっ……!?」
エックスはイブキの足元にチャージしたショットガンアイスを作り出す。
そして、氷の足場を蹴り飛ばし……イブキを戦場から離脱させた。
「わ、わぁぁぁぁ!?おにーさーーーーん!!」
イブキの叫び声が聞こえる。
それを尻目に、エックスはヒート·ゲンブレムに向き直る。
「お前を倒せば隊長を復活させるとバイル様は約束してくれたであります!だから、お前はここで倒すであります!」
「隊長……?」
「自分が敬愛するクラフト隊長であります!かつてゼロに敗れた我々にもう一度与えられたチャンスを、クラフト隊長に捧げるであります!」
「………………ゼロ?」
ゲンブレムの出した名前に思考を引っ張られた。
「状況開始!」
「前進!」
掛け声と共に、ヒート·ゲンブレムは歩き出す。
その歩みはとても遅い。
「ならば……!」
エックスは先手を取る。
バスターをチャージし、撃ち出す。
「回避ィッ!」
「何ッ……!?」
ゲンブレムが突如背を向ける。
……必然的に背負う甲羅がチャージショットに向けられる。
チャージショットは、当然の様に弾かれた。
「硬い……!」
レイニー·タートロイドもそうだったが、背中の甲羅は特に硬く様々な攻撃が一つも通らなかった。
恐らくこのヒート·ゲンブレムもそのレベルの防御力を誇るだろう。
エックスは後ろに大きく飛び退る。
撃ち合った所で勝機は薄い。
接近戦で回避する暇を与えずトドメを刺す必要がある。
だが……。
(俺の武器で、接近戦に強い特殊武器は……!)
エックスは諸々の事情があり……武器をひとつ
それが無いため一部の特殊武器とアーマーは使用できないのだ。
(どうする……?)
速攻で勝負をつけなければカイザーPMC達が壊滅してしまうかも知れない。
それだけは避けたかった。
……あの武器があれば。
エックスはついそう考えてしまう。
友から借り受けた、光る剣。
『俺は……そろそろ引退を考えている』
別れ際の言葉を思い出す。
「駄目だ……!」
「!なんでありますか……!?」
「それは、
エックスは吠えた。
(ゼロが居なくなる分……俺が、俺だけの力で頑張らなきゃいけないんだ……!)
「話に聞くよりもよくわからない男でありますな!」
「……!」
エックスはゲンブレムへ駆け出す。
「無謀であります!」
「スピンホイール!」
刃の付いた車輪を2つ発射する。
この武器は壁を削り新たな道を切り拓く事もできるほどの威力を持つ。
「無駄無駄ァ゙!であります!」
「はっ!」
「何ッ……!」
背を向けたゲンブレムにスピンホイールが弾かれる。
そのままエックスはゲンブレムの甲羅を蹴り上がり頭上へ跳んだ。
「喰らえっ……!」
「甘いであります!チェストーッ!!」
「なっ……ぐあっ!?」
ゲンブレムの拳が炎に包まれ、上空に向けて突き出された。
それをエックスは腹に受けてしまう。
「対空防御ッ!」
「ごはっ……!」
そのままゲンブレムの拳から炎が飛び出し、エックス諸共吹き飛んだ。
背後にあった廃屋に突っ込み、瓦礫が降り注ぐ。
「ごほっ……!くそっ……」
思っていた以上に焦りがエックスを包んでいた。
「どうしたでありますか!英雄の名が泣くであります!」
「自分から名乗った覚えは……無い……!」
(どうする……奴の防御はかなり硬い……!)
「オイ!ゲンブレム!撤退だ!」
「スカーレット……!」
ゲンブレムの前に、スカーレットが飛び込んできた。
「撤退……?何故でありますか」
「俺達の被害が大きいんだよ!何遊んでんだ!せっかくセンセイからの紹介だってのに……!」
「ふむ……そうでありますか」
「何……?」
「あん?エックス……!なるほど、お前が相手なら……」
スカーレットが銃を構えた。
レッドアラートのレッドと違い、武器は鎌では無いようだ。
「俺がトドメを刺してやる」
「くっ……!」
瓦礫に埋もれ、身動きが取れないエックスにスカーレットが歩み寄る。
「これで、懸念が減る」
「うっ……」
「む……!何か来るであります!」
キャリキャリと何かが回る音がする。
「戦車……!?」
スカーレットが言葉を発した瞬間、砲塔がこちらを向いた。
「えっ……!?」
エックスが思わず声を上げる。
次の瞬間、戦車がゲンブレムに砲弾を撃ち込んだ。
凄まじい衝撃と爆風がエックスを襲う。
「うわぁっ!?」
「おや……意外と無事そうですね」
戦車から顔を出したのは……ワインレッドのボリューミーな髪をした小柄な少女だった。
身に付けている衣服がイブキの物に似ている。
「げほっ……君は?」
「パンデモニウム·ソサエティー、棗イロハです」
「俺は……」
「おにーさん!」
「えっ……イブキ!?どうしてここに!?」
イロハと名乗った少女の下から、にゅっとイブキが現れたかと思うと……一気にエックスの元へと飛び降りてきた。
「心配したんだから!」
「これは……どういう……?」
「泣きながら帰ってきたイブキに泣き付かれたんですよ……『おにーさんを助けて』と」
「それで……」
「……まぁ、マコト先輩がそれはもう煩くて……こうして駆け付けて来た次第です」
「あ、ありがとう……助かったよ」
瓦礫を押し退けて立ち上がる。
イブキを抱き上げて、戦車の上のイロハに渡す。
「や、やー!おにーさんまた一人で行っちゃう!」
「大丈夫だ……もう行かないよ……それに」
……煙が晴れると、そこには誰も居なかった。
「……逃げましたね」
「恐らくな……」
エックスはバスターを腕に戻して通信を繋げる。
『あれ、エックスさんから繋ぐなんて珍しいでますね』
「すまないリコ。緊急事態だ……イレギュラーと思しきレプリロイドが現れた。データを送る」
『受け取りました、確認します……これは!』
『ようエックス。また随分とボロボロだな』
「今回は派手にやられたよ」
『イレギュラーをヒート·ゲンブレムと認定しました。間違いなく……アインヘルヤル八闘士が復活しています』
「アインヘルヤル八闘士か……」
名前の通りであるなら……ヤツ以外に残り6体のレプリロイドが居ることになる。
「貴方は……これからどうするんですか?」
これからについて思案していると……イロハな声をかけてきた。
「これから……まだカイザーに居るつもりだ」
「何故です?貴方が狙われたのですから、早くゲヘナを出れば……」
「倒さなければならない敵がいる」
カイザーに身を置いていれば向こうも一網打尽するために仕掛けてくるはず。
「はぁ……?ひどくやられていた様ですが、勝ち目はあるのですか?」
「それは……これから考える」
「行き当たりばったりですね」
「情報が少ないんだ。そうだ、パンデモニウム·ソサエティーはスカーレットアラートの件をどこまで認識しているんだ?」
「現状、様子見です」
「悠長な……」
「仕方ないじゃないですか。ついこの前まで自警団として市民の為に戦ってた人たちが急に謀反を起こしたなんて信じると思いますか?」
「………………」
今でこそ略奪、暴力沙汰を起こしているが……元々彼らは町の自警団だったのだ。
「恐らく……裏で手引きした黒幕が居る」
「証拠は?」
「さっき君達が吹き飛ばしたレプリロイド……ロボットが、その協力者の可能性が高かった」
「でも、貴方そのままやられそうでしたよ?」
「「………………」」
「おにーさん、万魔殿に来ない?」
「え?」
イブキからの突然の提案にエックスは口を開けてしまった。
「イブキ、おにーさんの力になりたい!」
「……ありがとう。気持ちだけで十分だよ」
「むー!」
「イロハ、イブキを頼む」
「貴方に言われるまでもありません……この子は多分抜け出してでも貴方の所に戻るでしょう」
イロハがエックスに指をさして宣言した。
「もし、危険な目に遭わせでもしたら……この砲身、何処を向くか分かりませんよ」
「ならせめて、大人しくさせていてくれ」
「今日は帰りますよ、イブキ」
「えー!」
「ごめんな、イブキ。一緒に謝りに行けなくて」
「ふん!おにーさんなんか大っきらい!」
そっぽを向かれて、そのままイブキは戦車の中に引っ込んでしまった。
「嫌われましたね」
「……今は、このほうが安全だ」
「意外とドライですね」
「彼女の為だ」
「そうですか……では、私たちはこれで」
キャリキャリと履帯が回る音がする。
「……はぁ」
どうすれば、良いのだろうか。
回天の死聖、ヒート·ゲンブレム!
2体目の八闘士はこいつになりました。
エックス、総力戦+こいつらの相手するのあまりにもハード過ぎへんか……?